ヴァンパイアハーフだが、血統に問題アリっ!?

月白ヤトヒコ

文字の大きさ
73 / 179
ヴァンパイア編。

66.身の程を知れよ。犬が。

しおりを挟む
 匂いを覚える。獲物を追う為に。

 どこか知っているような気がする…
 けれど、知らない匂いを。

「なあ、親父。この匂い・・・」
「そりゃあ、似てて当然だ。奴は、ローレルの先祖だぜ? 似てねぇ方がおかしいだろ」
「そう、か・・・」

 ローレルさんやアルと、似た匂い・・・
 これを、追って狩る。

※※※※※※※※※※※※※※※

 やっぱり、高い場所に行くべきか・・・
 一応、飛んでないからセーフ…かな?

 まあ、歩いて行けばOKだろう。

 とはいえ、僕もどこに行きたいのか自分でもわかってないんだけどね?

 けど、さすがに原野は飽きた。
 ただっ広いだけでなにも無いしさ。

 と、移動しようと思ったら・・・

 なにかが、こちらへ向かって来る気配がする。
 高速で移動するそれに気付いた瞬間、

「全く・・・」

 ブォンっ! と空気を斬り裂く音と共に、横合いから刃が通ろうとする。僕の首を刈るような軌道で。その肉厚な二振りの刃を、指先で摘まんで止める。

「チッ…」

 回転しながら左右で長さの違う曲刀シミターを振るい、それを僕に止められて舌打ちをしたのは、二メートル近くある巨躯きょくの男。

「またか? 犬が」

 掴んで止めた刃。その刃越しに、

「ハッ、久しいな? 真祖の」

 僕を見下ろしてニヤリと笑う大きな男。その口元から覗くのは鋭い犬歯。
 この狼は、ローレルの相棒だ。

「ホント、しつこいな? 弱いクセに」

 僕が起きる度に追って来る。
 そして、愚かにも僕を狩ろうとしているらしい。
 形勢が不利になると直ぐに逃げ出し、体勢が整えばまた追って来る。
 それを、何度繰り返したかわからない程だ。

「尻尾巻いて逃げ出せば、追わないでやるよ」

 随分と昔に・・・アークが「他の種族ヒトたちをなるべくは殺さないでよ、イリヤ」そう、言ったから。

「そう言うなって。もう少し遊んでくれよ? 手前ぇが死ねば、追い回すのは終わるんだ」
「身の程を知れよ。犬が」
「ハッ、手前ぇこそ、とっととくたばりやがれ」

 ぐっと上から剣を押す狼。
 瞬間、背中にトンと走った衝撃…

「っ…」

 とろりと熱い熱が流れ出る感触。
 背中に刺されたのは、三角錐の形状。その刃からして、刺突に特化した短剣。スティレットのようだ。
 背後のもう一人が、スティレットを更に奥まで捩じ込もうと力を籠めて押す。おそらくは、僕の心臓を貫く為に。

「…痛いな」

 しかし、それを止めた。胎内の血液を硬化して、浅い位置の、皮膚の下で。
 そして、流れ出た血液を操る。

「レオンっ!?」

 スティレットにまとわり付かせた真紅の液体で、その剣を持つ手を、刻む。

「っ!?」

 慌ててスティレットを手放し、退さがるもう一人。

「ふぅん…挟み撃ちってやつ。子供いたんだ君」

 匂い的に、親族の若い狼。共に大きな身体。色味は少し違うが、顔や雰囲気も似ている。

「まあ、なっ!」

 狼の長い足が、僕の腹を狙って動く。仕方ないので、両手に掴んだ剣を放して横合いへ跳ぶ。と、

「手前ぇ相手に油断するような、愚息でなっ!」

 軽口と共に長さの違う剣が振るわれる。

「僕に向かって来るような愚かな犬を親に持つからね? 仕方ないんじゃない?」

 避けながら背中に浅く刺さったスティレットを引き抜き、

「ハハッ、そりゃあ耳が痛ぇ」

 若い狼に投げ付け、牽制けんせい。弾かれたスティレットが明後日あさっての方向へ飛んで行った。

「だが、手前ぇに歯向かう勇気はなかなかだろ?」

 確かに。僕を攻撃するモノはなかなかいない。ほぼ、ローレルとこの狼だけだ。

「なら、その蛮勇に死ね」

 両手の人差指、中指、薬指の爪を三本ぐっと伸ばし、硬化。片手で狼の剣を受け止める。そして、反対の手を狼に向かって突き刺そうとした…ら、

「っ! …へぇ、いい剣だね」

 狼の短い方の剣に、爪が斬られた。

「鍛冶師の腕が良くて、なっ?」

 ピキリ、と剣を受け止めた方の爪にヒビが入る。もう一度、斬られた方の爪を伸ばしながら、親指で人差指を軽く切り、血を流して爪に纏わせて硬化。カキン! と、狼の剣を弾く。

「ったく、狡くねぇか? それ」

 両手の爪に血を纏わせ、硬く血晶化。

「二対一は、どうなんだ?」

 背後からの若い狼の剣をいなす。こちらは、片刃の双剣。

「そんなの、ハンデにもなりやしねぇだろ?」
「弱い奴らにたかられてウザいだけだね」
「いやぁ、悪ぃな? 寄って集って、ようやく手前ぇと斬り結べる程度でよぉ?」
「弱い奴はさっさと消え失せろ」
「いやいや、消えンな手前ぇの方で頼むぜ」

 軽口を叩きながらも、常に狼の両手はフル稼働。斬撃が一切止まらない。それに、無言で剣を振るう若い狼。合わせて四振りの斬撃が続く。
 その剣が、腕や頬を徐々に掠めて来ている。
 直ぐに治るけど、細かい痛みが鬱陶うっとうしい。

 ああもう、コイツら…燃やそうかな?

 けど…ピンポイントで燃やせる程、コイツら遅くないんだよなぁ。この狼共を確実に仕留めようと思ったら、この原野ごとの広範囲になるだろう。

 無闇に火災を発生させるなって、昔アークが言ってたしなぁ・・・火災って、延焼させるのは簡単だけど、消すのは案外難しいんだよね。
 気温低下か、無酸素状態にするか・・・けど、それも無関係な動植物を全滅させるし・・・

 昔、環境破壊はするなって怒られたんだ。

 環境を壊さずにコイツらを壊す方法・・・

「っと、本当にいい剣だな」

 何合も剣を受け止めているうちに、硬化させた血液にピシッと小さなヒビが入って来た。

「応。鍛冶師に言っておく、さっ!」

 狼の気合いと共にパキっ! と、爪が折られる。その跳ねた血晶けっしょうの欠片を、ごうと一瞬の高温で燃やし尽くす。この方法なら、延焼はしない。

「くっ!?」

 業火に怯んだ若い狼がバッと退る。

「馬鹿っ、退るなっ!?」

 狼の警告。そして、

「ふっ…」

 退った若い狼に追撃。風の刃で全身を刻む。

「ぐっ!?」

 パッと飛び散る鮮血。けど、耐刃装備なのか、あまり斬れていない。狼はこの程度じゃ死なないからなぁ。もっと、徹底的に刻まないと。

「あんまり、虐めてくれるな、よっ!」

 狼が、僕へ仕掛ける。
 片手の爪は折れたままだ。
 纏わせていた血晶を、手の甲へ。
 ガギン! と、片方は爪で。もう片方は、手の甲で受け止める。手が痺れた。が、それも直ぐに治る。

「ハッ、一対多数の場合、弱い奴から潰して行くのはセオリーだろ?」
「ったく、手前ぇとり合ってると、自信喪失するぜ。全くよぉ・・・」

 そう言う狼の口元には、獰猛どうもうな笑みが浮かぶ。

「なら、尻尾巻けよ。追わないでやるからさ」
「そうも行かなくてな?」

 この狼は本っ当に、しつこいんだ。
 さっさと追っ払わないと、数日間に渡って斬り合う羽目になる。しかも、不眠不休で、だ。
 ローレルと二人になると、連携が心底ウザい。

 だから・・・弱い方を狙おう。
 さっき、飛んで行った物を使う。

 斬り飛ばされた爪を引き寄せ、若い狼の足へと飛ばして、その太腿ふとももへと突き刺す。

「くっ…」
「止まるなっ!?」

 再び狼の警告。だが、遅い。

「っ!?!?」

 ガクンと崩れ落ちる若い狼。その背骨には、彼の得物だったスティレットが深々と突き刺さる。僕の血が付いた物だ。当然、動かせる。

 脊椎せきついを狙ったからね。
 剣を抜かない限り、足は動かない筈。

「さて、刻もうか。どうする? 犬」

 足の動かない若い狼を、彼自身が流した血液を刃にしてザクザクと刻んで行く。

 狼は、自己治癒力が高い。だけど、その自己再生を上回る程のダメージを与えるか、造血の速度以上に失血させ続ければいずれは死ぬ。
 殺すのなんて、簡単だ。

「クソっ・・・」

 狼が血の刃の中へと飛び込み、その身を刻まれながらも、若い狼を担いで撤退して行った。

 逃げるなら追うつもりはない。

 これでしばらくは追って来ないだろう。

※※※※※※※※※※※※※※※

「・・・ぅ…」

 身体が、重い。

「起きたか、愚息」

 低い声がした。親父の声が、遠い。

「…だりぃ」

 フラフラするが、どうにか身を起す。

「そりゃ当然だろ。あンだけ派手に血ぃ流しゃあな? 貧血。ンで、脊椎損傷」

 貧血・・・は、初めてだな。

 アルは、いつもこんなに怠い思いをしていたのか・・・今度から、もう少し労るとしよう。

 トン、と地面にスティレットが突き刺さる。

「エグいぜ。おそらくピンポイントで脊柱せきちゅうを潰しやがった。刺さってる間は、神経が再生しねぇからな? 下半身が動かなくなるってぇワケだ」
「・・・奴、は?」
「ああ、奴ぁヴァンパイアや吸血鬼以外にゃ案外寛容でな? 向かって来る奴は叩き潰すが、逃げる奴を追ってまでは殺さねぇンだよ」
「そう、か・・・」

 くらりと目眩めまいがする。

「おら、さっさと食え」

 ぽんと、脚を縛られた兎が三匹放られた。

「動けるようンなったら、また行くぞ」
「わかった」

 次はもう少し、足手まといにならないようにしなくては・・・奴を、狩る為に。

 あんな奴に、アルを殺させて堪るか。
 絶対に、そんなことはさせない。
 死んでも・・・アルを守る。

 兎へと牙を突き立て、その肉を喰らう。
 さっさと回復して、少しでも早く、奴を追わなくては・・・
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

こうしてある日、村は滅んだ

東稔 雨紗霧
ファンタジー
地図の上からある村が一夜にして滅んだ。 これは如何にして村が滅ぶに至ったのかを語る話だ。

心が折れた日に神の声を聞く

木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。 どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。 何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。 絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。 没ネタ供養、第二弾の短編です。

勇者辞めます

緑川
ファンタジー
俺勇者だけど、今日で辞めるわ。幼馴染から手紙も来たし、せっかくなんで懐かしの故郷に必ず帰省します。探さないでください。 追伸、路銀の仕送りは忘れずに。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

処理中です...