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ヴァンパイア編。

76.手前ぇとの因縁を、ここで終わらせてやる。

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 雷を、作り出してはイリヤへ向ける。
 ナイフが蒸発させられては補充し、電撃をまとわせてイリヤを追尾する。
 どれだけ消されようと、代わりは幾らでもある。シーフに創らせた刃物をありったけ持って来た。

 長い時間を準備に費やして来た。

 イリヤを殺す。ただその為に。

 千年前に俺の家族を全て奪い、二百年前にはアレクを連れ去り、手酷く傷付けた糞爺クソジジイ
 もう絶対、手前ぇに家族は奪わせない。

 あのヒトには悪いが・・・

 手前ぇとの因縁を、ここで終わらせてやる。
 狂ったお前を、俺が終わらせる。

 緩い癖のある漆黒の髪。瞳孔が縦に長い金色の瞳。どこか高貴さを匂わせる白皙のおもての少年姿。

 イリヤは、あのヒトと全く同じ容姿、同じ瞳、同じ声をしている。そっくりな双子。

 けれど、イリヤはあのヒトとは全く違う表情かお、違う眼差し、違う響きの声をしている。

 あのヒトの柔らかい表情。
 イリヤの酷薄な表情。

 あのヒトの優しい眼差し。
 イリヤの冷ややかな眼差し。

 あのヒトのあたたかい声。
 イリヤの薄氷のような刺々しく鋭い声。

 中身がまるで違う。

 あのヒトと同じなのに、全てが違うイリヤ。

 家族を奪われる痛みを、嘆きを、悔しさを、怒りを、やるせなさを、苦しさを、恨みを、虚しさを、絶望を、俺は知っている。

 イリヤに与えられたその全ての感情を、俺は・・・恩人である貴方へと、俺をイリヤから助けてくれた貴方へと、あだで返します。

 もう一人の始祖で、イリヤの双子の兄アーク。

 ゆるしてくれとは言いません。
 恨んでくれて結構です。
 俺は、貴方の家族であるイリヤを殺します。

 俺は貴方に、謝らない。

※※※※※※※※※※※※※※※

 何時間経ったか・・・

 黄昏だった空は、日が沈み切ってもう暗い。
 何百回、何千回と雷を喚び、造り出す。
 空が一瞬だけ真昼のような光をまばたかせ、明滅する。

 ナイフを、剣を補充し、イリヤへ向け続ける。

 耳はとっくに馬鹿になっている。
 なにも聴こえない。
 光にくらんだ目が痛む。

 絶縁体の装備を纏っているが、それにも限界がある。帯電であちこち皮膚が裂け、血が吹き出す。
 焼けて黒くなった手から煙が上がる。

 火傷は、切傷や裂傷よりも再生の速度が遅い。

 それでも、攻撃の手を止めない。
 何度も何度も。間断かんだん無く。
 同じことを、繰り返す。

「ハァ、ハァ・・・」

 呼吸が荒くなる。耳は聴こえないが、自分の鼓動がドクドクと五月蝿うるさくて…身体が熱い。

 奴も、似たような有り様の荒い呼吸。

 俺も奴も、ぼろぼろだな。

 おそらく奴は、俺の自滅か魔力切れを狙っているのだろう。防御に専念している。
 全く仕掛けて来ない。逃げるつもりなのだろう。

 しかし、ここまで来て逃がして堪るか。

 魔力が枯渇しそうになったら、血晶けっしょうで補う。自分の血液に魔力を溜めて、長年ストックしていた物を惜しみ無く消費して行く。

 場所は空。
 周囲は分厚い雲が取り囲む。

 俺の攻撃、そしてそれを防ぐべく奴が動くだけで、雲は厚くなり、どんどん帯電して行く。

 俺に有利な状況。
 周囲には、誰もいない。

 スティングかクレアが、奴の胎内へと金属を仕込んだ筈だ。さぞやよく、通電することだろう。

 イリヤを殺す為の舞台は整えた。
 最期まで付き合ってもらう。

 電極には、プラスとマイナスの性質がある。
 そして、プラスとマイナスは惹かれ合う。

 イリヤを攻撃する為に、俺がずっと作り続け、放出させている雷は、マイナスの電極だ。

 そこに、プラスの電極を放出するとどうなるか?

 地面に溜まりに溜まった膨大なプラスの電極が、爆発的なエネルギーを放出させる。

 赤い稲妻。正極性落雷が発生する。

 炎で電気の通り道を作ろうと、無駄だ。全てを貫く赤い稲妻は、イリヤの胎内に仕込んだ金属目掛けて突き進み、その身体を焼き尽くすだろう。

 さあ、終わらせようっ!

「イリヤーーっ!!!」
「―――――っ!?!?!?」

 強い光と衝撃で、なにもわからなくなった・・・

※※※※※※※※※※※※※※※

 肉を採って来て、クレアと意識を取り戻したレオンハルトへ与えてからしばらくして・・・

 まばゆく光る赤い樹が、地上と天空を繋いだ。

 遠くで爆音がとどろき、衝撃が空気を伝って大気を強く震わせる。

 赤い雷が落ちた場所へ向かうと、地面にぽっかりと深い穴が空いていた。

 その近くで、全身が焼け焦げて手足を片方ずつ失った意識の無いローレルを回収した。

 かろうじて、息はある。

 あの真祖の行方は不明。

 殺した……そう、思いたい。
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