ヴァンパイアハーフだが、血統に問題アリっ!?

月白ヤトヒコ

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ヴァンパイア編。

115.なんて羨ましいっ…そして、妬ましい!

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 ロゼットがこの船へ来たそうです。
 しかし、馬車が船へ入った瞬間、乗っていた座席から忽然と姿を消した……との報告を受けました。
 十中八九、リリアナイトの仕業でしょう。

 ロゼットへ逢うのを、先を越されましたっ…

 なんてうらやましいっ…そして、妬ましい!

 僕だってロゼットへ逢いたいというのにっ!?

 バキッ! と、音がしました。

「?」

 音のした手元を見ると、握っていたペンが折れてしまっています。つい、力が入ってしまいました。

「・・・落ち着かなくてはいけませんね」

 深呼吸をして、手から垂れようとするインクが書類や机を汚してしまう前に浮かせて圧縮し、結晶へ。折れたペンを片付けて新しいペンを用意します。

 他の方々を呼んだのは僕ですからね。

 ロゼットへ逢うのは、苦渋の、そして断腸の思いでっ……後回しにせざるを得ないのです。

 全く、ロゼットに逢いたいが為に企画したというのに、肝心のロゼットを後回しにせざるを得ないとは、本末転倒ではありませんか。

 本当は、ロゼット以外の招待客など心の底からどうでもいいのですけどね?

 ですが、アダマスの当主代理としては、そうも行きませんからね。全く、立場と名目というのは本当に厄介なものですよ。

 優しい貴女ならきっと、「オレよりも仕事の方を優先させてよ。兄さん」と言うのでしょうが・・・ああ、貴女はなんて奥床しく愛らしいのでしょうかっ!

 早く逢いたい! ですが、我慢ですっ…

「はぁぁ・・・」

 まあ、一応今回の招待客・・・は、貴女を呼ぶ為に必要な名目ではありますからね。

 誠実に対応しますよ。

 ええ、誠実に対応しますとも・・・

 少々、僕と縁のある方々も呼びましたし。

 この街へ入って来ているヴァンパイアや吸血鬼を、招待客のリストと照合。そして彼らの動向の調査報告書をさっさと読んで、把握します。

 いえ、調査自体はある程度済んでいるのです。
 しかし、パーティー直前で人数が増えたのです。
 面倒ではありますが、既存情報の確認と増えた人数の分の報告書を読み込んでいるというワケです。

 あと、三十人分程・・・

 しかし、つまらないですね。苦痛で堪りません。

 ロゼットの喜んでくれるお茶会のメニューを考えている方が、どれだけ有意義なことか・・・

 あの子は紅茶が好きですからね。

 古今東西のお茶を集め、お茶を美味しく淹れる専用の使用人を育て上げました。そして、お菓子作りの得意なモノには、美味しいスコーンやお茶菓子の研究をさせているのです。

 無論、収集と研究の費用は惜しみません。
 素材は全て最高品質。農家や酪農家と契約して、優先的に入手しています。

 いつ貴女が来てもいいように、僕の使用人達は日夜腕を磨いているのです。

 そして、それに合う厳選したクロステッドクリームとジャムを取り寄せたのです。
 完璧な筈ですが…どうでしょうか? ロゼットが喜んでくれると、僕も嬉しいのですが・・・

 と、思考をしながら、丸っきり興味の無い文字の羅列が連なった書類を目で追って行きます。

 見るヒトが見れば、この報告書の束は価千金以上の価値がある情報なのですがね・・・

「・・・・・・・・・」

 よし、読み終えました! 招待客、そしてその関係者達の人数、嗜好、動向、拠点場所を全て記憶。

 この、つまらなくも取るに足らない連中の情報把握を、貴女よりも優先させなくてはいけないという多大なる苦行が、ようやく終わりました!

 さあ、ロゼットへ逢いに行きましょう!!!

※※※※※※※※※※※※※※※

「・・・申し訳御座いません、アレク様」

 小さな声で俯くリリ。

「みっともない姿をお見せしてしまいました」

 恥ずかしそうな顔の赤くなった目元に手を伸ばし、涙をそっと拭う。

 すると、コンコンとノックの音が響いた。

「リリアナイト、重大な話があります。いるのでしょう。開けて頂けませんか?」

 冷たさをはらむテノールの声がした。

 この、声はっ…

「…兄さん…」
「大丈夫です、アレク様。リリが居りますわ」

 アクアマリンがゆっくりまばたくと、目元の涙の跡と赤みが失せ、いつものリリの顔に戻る。

 多分、体内の水分と血流をコントロールして強制的に赤みを消したんだろうな。

 にこりと微笑んだリリがオレの手を握って、

「フェンネル様からお守り致します」

 そっと唇に触れたひんやりと柔らかい感触。

「…リリ、ありがと」

 お返しに、なめらかな頬へキス。

「大好き」
「アレク様♥️」

 嬉しそうなアクアマリンの瞳を見詰めると、

「リリアナイト、早く開けて頂けませんか?」

 苛立たしげな兄さんの声がした。

「・・・仕方ありませんわね」

 残念そうな溜息を吐いたリリがそっとオレの膝から立ち上がり、スカートの裾を直してオレの隣に座り直す。そして、ドアの方へ顔を向けた。

「どうぞ、お入りください。フェンネル様」

 カチャリと、ドアが開いた。

「失礼しますよ。リリアナイト」

 と、バタンと急いでドアの閉まる音。

「ロゼットっ! 逢いたかったですよっ!」

 ミルクティー色の髪。灰色の瞳孔が浮かぶセピア色の瞳にノンフームの眼鏡。少し神経質そうな、どこか冷たさを感じる貴公子然とした容姿の青年。その冷然とした白皙はくせきおもてが、オレを認めるなり、パァッと一瞬でとろけるような笑顔へと変貌した。

「あら、フェンネル様は、わたくしにご用がお有りだったのではありませんでしたか?」

 にっこりと、けれどもチクリとしたとげを持って兄さんを挑発的に見上げるアクアマリンの瞳。

「ええ。そうでしたね。あなたには、少々言いたいことがありますとも。リリアナイト」

 またもや、兄さんの表情が一変。冷たさを滲ませるテノールの声とセピアの瞳が、アクアマリンと交錯してバチッと火花を散らせた気がした。

「とりあえず、リリアナイト。はしたないとは思わないのですか? ロゼットの隣に座って、あまつさえ密着してロゼットの腕に抱き付くなど…羨ま…ではなく、はしたないので、非常に不快です。見苦しい。さっさとロゼットから離れてください」

 低い温度の声が言う。

「あら? わたくしは、アレク様へお逢いできた感激を表しているだけですわ。殿方へ抱き付いているワケではありませんもの。女性同士で、仲良くしているだけですわ。フェンネル様ったら、相変わらず心が狭いのですね?」

 刺を持つ甘やかなソプラノが冷笑を含んで返す。

「っ…ロゼット。嫌なら、貴女からちゃんと断った方がリリアナイトの為ですよ? 幾ら貴女が、女性全般・・・・に優しいとはいえ、迷惑ならちゃんとそう主張しないと、貴女の優しさを勘違いして、わかってくれないような鈍い方もいますからね?」

 労るようなセピアの視線が向けられた。

「ええ。そうですわね? 愛しい方が、なにを思っていらっしゃるのかを察知できない殿方というのは、本当に迷惑なものですわね? そう思われませんこと? フェンネル様も」
「・・・」

 スッと、セピアの瞳の温度が急降下した。

 う~ん…相変わらずのバチバチだ。
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