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彷徨える……
しおりを挟む※カニバリズム。
――――――――
彷徨える……というと、なにが想像できる?
これまた唐突だな? ん~……亡霊とか? 幽霊船、犬、猫……家の無い人達とか?
彷徨える日本兵、はどう?
お~、夏の怪談の定番だな。なんだっけ? 血塗れだったり、手足が欠けてたりする、旧日本軍の軍服を来た幽霊っての? 夏休みに海外旅行で南の島行ったときに、観光客の部屋に出たとか、憑いて来た、日本に憑れて帰って来たとか言う話があったりするやつ。
南の島の戦線は過酷……というか地獄だったって話だよね。熱帯雨林の暑さ。マラリアやデング熱、蚊やその他の害虫が媒介する、当時の日本では見られなかった感染症に、寄生虫。火を熾せなくて、河川や湧き水などの生水を飲んでの細菌感染に胃腸炎。思うように水分補給ができないことでの熱中症、脱水症。それなのに、ワクチンなどの医薬品や医療器具の圧倒的不足。加えて、地上戦でいつ敵と遭遇するか判らない恐怖。爆撃されるかもしれない恐怖。仲間が死んで行く中、自分がいつ病気や寄生虫にやられて死ぬかも判らないという恐怖。
ああ、ガチで阿鼻叫喚の地獄……正気でいられる人の方が少なかったらしいな。
で、さ。やっぱ南の島でもあったらしいよ。
あった、って? なにが?
食料問題。
ぅっわ……この前振りだとアレか。
まあ、アレだね。食料が簡単には手に入らない地獄。病気で体力が落ちて、食事も思うようにできずに弱って行き、次々と死んで行く仲間。当時の衛生兵や、仲間の看護をしていた一般兵は……病で朦朧としながら、助かる見込みのある兵士へ食事をさせました。
食事、なぁ……
仲間に看病され、助かった人は感謝をしました。しかし、彼を助けた恩人は「感謝をされる謂われはない」と、頑なに感謝を拒みます。そして、「食料が不足している中、よくぞあの状況で食べ物が手に入ったものだ。あれはなんだったんだ?」と、自分に与えてくれた食べ物に関して質問をしても、彼はそれがなんだったのかは絶対に明かしてくれませんでした。
ぁ~……うん。知らない方が幸せってこともあるよなぁ……
まあ、ここまでなら仕方なかった、と言えなくもないんだけどね?
……まあ、なんだ。厭な予感しかしねぇなっ!?
薄々は勘付いて、自分が食べさせられた……食べてしまったモノに対して懺悔しながら生きて行く人もいるらしいけどさ……
けどさ、がマジで厭な感じだな!
うん。あのとき極限状態で食べたモノの味が忘れられず、『あのときの肉』を求めちゃった人もいるらしいんだよね。
ぅっわ……
それでさ、あらゆる肉を求めて、牛、豚、鶏、馬、魚から始まって……近所の犬猫やヤモリ、イモリ、野鳥、山に生息する獣、更にはゲテモノと称されるものなどなど、食べられるモノを片っ端から口に入れて試しては、「ああ、これも違う。また違った」「あのときの味が忘れられない」「あの味が恋しい」「アレをもう一度食べたい」って、段々と狂気を帯びて行き――――やがて、彼は『あのときの肉』がなんであるか気付いてしまった。
とんだ彷徨い方だなっ!? もうスプラッタまっしぐらじゃねぇかよっ!?
そう……もう、戦後で、普通に食料を入手するのが難しくなくなっていたというのに。自分の追い求める食べ物を知ってしまった彼は、食料調達で足が付くことを恐れ、あちこちを放浪することにしたのです。見知らぬ日本兵が町へ来た途端、殺人事件が起きた。そして遺体の一部は切り取られており、その部分は発見されておらず……という事件が、戦後には全国各地で見られたそうだよ?
全国各地って、そういうのが複数いたってことにならないか?
極限状態で食べたモノが好物になったって人が、何名もいたのかもしれない。人間を辞めてまで、その味を追い求めた鬼が……
……それ、犯人は逮捕されてんだよな?
逮捕されてたり、されてなかったり? または、誤認逮捕で関係無い人が捕まって、犯人自体は逃げ続けている可能性もあるんじゃない? 裁かれないまま、被疑者死亡……とか? もしくは、狂人として当時の癲狂院。今で言うところの精神病棟で死ぬまで過ごす、的な? ある意味では、これも戦争の被害者。まあ、人間辞めた時点で加害者というか……ガチの人喰い鬼に成ったワケだけど。
もう、本当あれだよな。カニバリズム系の事件や話って、胸糞悪い話ばっかなのな!
まあ、他に食べ物が手に入るのに、それでも人を殺してその肉を食べてしまうという倫理観ぶっ壊れちゃってる殺人鬼とか……倫理観や人間としての尊厳が壊される程の飢餓や地獄が広がってる極限状態の話ばかりだからね。とは言え、そういう地獄でさえ、たとえ自分が死ぬことになったとしても、最期まで人間のままでいた人はいたワケだし。
人間が鬼になるのか、鬼が人間の振りをしていたのか……鬼に成るくらいならと、人間のままで死んで逝った人もいる、か。
結局のところ、本人の資質もあるんだろうね。元から人間の振りをしている鬼ならともかく。ナニを食べてでも……鬼に成ってでも生き残ろうとする気概。または、ソレを食べるくらいなら人間として死んだ方がマシだって言う、せめぎあい。鬼に成ったとしても、その後は死ぬまで人間の振りをし続けて、人間として死んで行った人もいるだろうし。
どっちにしろ、その凄惨な地獄にいなかった自分達がどうこう言えることでもないけどな。
そうだねぇ。でも、そういう酸鼻で凄惨極まりない地獄が在ったこと、人の手で作り出されてしまったってこと自体は、知っておかないといけないんじゃない?
知らないと、また似たような地獄を作り出してしまうから、か?
人間ってのは忘れる生き物で、たとえ知っていたとしても、同じような悲劇を何度も繰り返す程に業が深いからね。
確かになぁ……
――――――――
こんなエグい話を最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
実際に起こった出来事をベースにしている話です。人が鬼に成ってしまわないよう、悲惨なことがあったのだと、こういう忌まわしいことがあったのだと、覚えていてくれる誰かがいることを願います。
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