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しおりを挟むあと数週間後には、ここにわたしが通う。
と、なんだかちょっとした感動? を味わっているうちに卒業式が終了した。
「卒業おめでとう、セディー」
わたしが一人で来たのを見て、
「来てくれてありがとう、ネイト」
そう言って微笑んだセディーは、母が来なくてどこかほっとしているようにも見えた。
そして、卒業パーティーではセディーの後輩や友達に、今度入学する弟だと紹介されて挨拶をしたりした。
にこやかな微笑みで卒なく社交をこなすセディーは、少しおばあ様に似ている気がした。わたしが騎士学校に通っている間に仕込まれたのかもしれない。
そんな風にして和やかにパーティーが終わって、祖父母の家に向かう馬車の中。
二人きりになったので、口を開く。
「・・・ごめんね、セディー」
「? どうしたの? なにが僕にごめんなの? ネイト?」
謝ったわたしを不思議そうに覗き込むブラウンの瞳を見詰め返し、
「・・・父を、追い落としてほしい」
お願いをする。
「ああ、そのこと。うん、いいよ。任せて」
セディーはあっさりと頷いた。穏やかな笑顔で。
「え? いい、の? セディー」
セディーは、父と家族として暮らして来ただろうから、もう少し躊躇うかと思ったのに。
「ネイト。ネイトがそんな顔しなくていいんだよ? ・・・それとも、あの人を追い落とすことに対して、罪悪感でもある?」
母のと似た色味の、けれどあの人とは全く違うブラウンの瞳が、少し困ったように優しくわたしを見詰める。穏やかに話すセディーがあの人と似ているのは本当に、色味だけなのだと思う。
セディーの言うそんな顔、がどんな顔なのかはわからない。でも、ううんと首を振る。
それは、違うから。
「あの人のことは、どうでもいい」
本当に、心から。
家族としての意識どころか、父としての印象、まともに話をしたという記憶すらも薄い。
花畑に置き去りにされて家に帰った後、怒鳴られて殴られたことは覚えているが……その後にまともな会話をした覚えがとんと無い。
理不尽なことを言っていきなり殴るとは、『なんて迷惑なおじさんなんだ』と思ったものだ。いや、まぁ……父なんだけど。
花畑に置き去り以前にも、父はセディーのことで泣き喚く母を慰めてはいたが、話し掛けられた覚えは無い。話し掛けても、取り合ってもらえなかったり、無視された覚えはあるが。
幾ら肉親とは言え、そんな人に親しみを感じられる筈がない。わたしは、そこまで優しくない。
父親というのなら、お祖父様やトルナードさんの方が余程父親らしいことをしてくれた。
あぁ・・・もしかしたら、怒りを通り越した呆れ混じりの感情と、その頭の悪さに若干の憐れみさすら抱いてしまった母よりも、わたしにとって父はどうでもいい存在なのかもしれない。
邪魔だから退けたい、程度にしか思っていない。
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