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1※挿し絵入り。
しおりを挟む「どうか、俺と結婚してください!」
婚約者に自分のデザインした渾身の指輪を渡して、正式にプロポーズをした。
俺と彼女との婚約は政略ではあったが仲は良好で、婚約者も喜んでくれると俺は思っていた。
しかし、彼女は悲しそうな顔をして――――
「とても、素敵な指輪だと思います、が……ごめん、なさい……わたくしは……が……生理的に無理、なんですっ……」
そう絞り出すような泣きそうな声で言った。
「え?」
「わたくし達のこの婚約が、政略だということは十二分に判っております。つきましては、親族の中よりこの婚約に相応しい女性を複数名お選び致しますので、あなた様がお決めになってください。この数年間、とても楽しく過ごさせて頂きました。あなた様のご健勝を、心よりお祈り致しております。それでは」
「は?」
ぽかんとする俺を置いて、
「失礼、致します……」
慇懃に挨拶をして、悲壮な顔で彼女は去って行った。
俺は、真っ白になった。
あぁ・・・泣きたい・・・
✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰
俺と彼女との婚約は政略だった。
我が領の名産は時計やアクセサリー、装飾品などの細工物。そして近年、彼女の実家が治める領内から宝石の鉱脈が発見された。
領主同士である父親達が知り合いで、それなら互いの身内を婚約させようと、とんとん拍子に話が進み、俺と彼女との顔合わせが決まった。
初めて会ったとき、彼女の肌の白さにハッとして、それからアクセサリーが映えそうだと思ったことを覚えている。この子を、着飾らせたい! と、俺はそう思った。
彼女は顔立ち自体は派手とは言えないけれど、色が白くて綺麗な肌をしていた。線が細くて、華奢な首筋や手足。ほっそりとした指先。
ブレスレット、アンクル、指輪、イヤリング、ネックレス……どんな宝石が彼女に似合うのだろうか? そう考えると胸が高鳴った。
彼女に、俺のデザインしたアクセサリーを身に付けてほしい、と思った。
緊張しながら、婚約したら俺のデザインしたアクセサリーを贈ってもいいかと聞くと、彼女は頬を染めて嬉しそうに「はい、楽しみにしていますね!」と答えてくれた。
そうして、俺と彼女は婚約した。
暫くして、約束通りに彼女に俺のデザインをしたアクセサリーを贈った。彼女はとても喜んで、嬉しそうに笑顔を見せてくれた。
可愛かったっ! 悩んだ甲斐があったぜ! と、喜んだのも束の間。
その後、彼女は体調を崩してしまったとのことで、非常に心配した。
お見舞いにも行こうとしたけど、面会はできないから遠慮してほしいという返事が来て、更に彼女が心配になった。
身体にいいという食べ物を送ったり、花やメッセージカードを贈ったりして、やきもきしながら過ごし――――
数週間後に彼女が回復したと連絡があって、とても安堵したことを覚えている。
その後、久々に会った彼女が少し痩せていたことに気付いて、胸が痛んだ。
それから、彼女に無理をさせないよう気を付けながら、ゆったりとしたデートをした。少し痩せてしまってはいたが、思ったよりも元気そうでほっとした。
そんな風にして彼女とは絆を育んで行った。
それからも折に触れ、彼女に幾つかアクセサリーを贈って――――
彼女は喜んで受け取ってくれていた、と思う。
ただ、彼女はあまり俺の贈ったアクセサリーを着けてはくれなかった。
思い切って俺のデザインしたアクセサリーが気に入らないのかと聞いてみると、
「どれも素敵なので、付けるのが勿体なくて」
と、俯いて答えた。そして、
「実は、お恥ずかしいのですがサイズの方がちょっと……」
と続けられて、俺の方が慌てることになった。
彼女のサイズに合わせて作ってもらった筈なのに、サイズの合わない物を贈ってしまい、しかも身に着けてくれない理由を尋ねて彼女に恥を掻かせてしまった。
そのお詫びにと、俺は彼女へ贈ったアクセサリーのサイズを直して、もう一度彼女へ贈ると約束した。
そして、彼女の申告したサイズに直したアクセサリーはというと・・・
女性にこう言ってはいけないのかもしれないが・・・彼女のアクセサリーの着こなしというか、身に着け方が、なんというか独特だった。
なぜそういう着け方をするっ!? と、思わずツッコミたくなってしまうくらいには。
まぁ、彼女へツッコミを入れるのは我慢しているが・・・
ブローチなどの付け方は普通。けど、それ以外は微妙だ。ブレスレットを長袖や手袋の上から付けたり、ネックレスを襟の詰まった服の上から付けたりと、長いネックレスやサイズの大きいブレスレットを好む。もっといい感じの付け方があるのに。
アクセサリーや宝石は肌の上に乗せてこそ映えると思うんだがな・・・?
そして、ピアスやイヤリングなどの耳飾りは、贈っても一切着けてくれなかった。
なんでも、耳飾りをどこかに引っ掛けて耳たぶが千切れてしまったという人の話を聞いてしまったとかで、それ以来怖くて耳飾りの類は着けられないのだそうだ。
残念だが、そこまで怖がるなら仕方ない。
それから・・・やんわりとだが、アクセサリーの着け方をそれとなくアドバイスをしてみた。しかし彼女は気付いていないのか、微妙なアクセサリーの着け方は一向に直らない。
それ以外には、彼女は普通に可愛いし、感じもいい。俺の両親とも、相性は悪くなさそうだ。
そういう風にして、数年間。俺なりに仲良く過ごして来たつもり・・・だった。
俺は、自分が段々と彼女に惹かれて行っていることに気付いた。
だから、気合を入れて婚約指輪をデザインした。
俺がデザインしたアクセサリーを、彼女に身に付けてもらって、彼女の家と俺の家が提携して作ったアクセサリーなのだと、彼女を広告塔にして自慢するのが今から楽しみで堪らない。
そして、漸く仕上がったという連絡を受けて、指輪が手許に来るのを待って彼女に約束を取り付け、正式にプロポーズをしたというのに・・・どうしてこうなったっ!?!?!?
✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰
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