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赤い瞳の姫君

あぁ、夜が待ち遠しいわ。

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 朝食が終わり、そして昼食の時間が来ても、案の定サファイアが顔を出すことはなかった。
 具合いが悪く、床に臥せっているとのこと。

 その代わり、フィンとヴァンの二人には、城内を勝手に散策してもいいという許可が出された。

「散歩~、散歩~♪お城を散歩っ♪」

 早速城内を彷徨うろつき回るフィン。
 ヴァンは、そのフィンの後ろに付いて歩く。

「うわー!」

 中庭には、薔薇が咲いていた。

「すご~い! 黄色ー!」
「これはまた・・・珍しいですね」

 薔薇は、その咲いている全てが黄色かった。

 黄色の薔薇の花言葉は「薄れた愛情」や「嫉妬」という意味の方が広く知られている為、あまり好まれない。なので、黄色の薔薇のみが植えられている光景を、二人は初めて見た。

「黄色が濃い緑に映えるねー♪サファイア様は、黄色が好きなのかなー?」

 それは、どうだろうか?と、ヴァンは思う。口には出さないが・・・

※※※※※※※※※※※※※※※

「はぁ・・・」

 日の出ているうちは、地下へこもらなくてはいけないのよね・・・

 太陽の光は、わたくしにとっては天敵。

 日を浴びると・・・さすがに灰になることはないが、皮膚が火傷をしてしまう。
 火脹ひぶくれはとても痛く、治り難い。

「それにしても、つまらないわ」

 地下の暗い部屋には、蝋燭ろうそくの灯りがともる。
 ゆらゆらと優しく照らすオレンジ色の暖かい輝き。部屋には、溶けた蜜蝋みつろうが香る。

 今頃、お客様達・・・フィンさんとヴァンさんはなにをしているのかしら?

 朝食と昼食をご一緒できないことを、怒っていないといいのだけれど・・・

 あぁ、夜が待ち遠しいわ。

 早く時間が経てばいいのに・・・

 こんなにつまらないと感じる時間は久々ね。

「はぁ・・・」

 溜息ばかり吐いていてもしょうがないわね。一眠りでもしようかしら?
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