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赤い瞳の姫君

ああ…よかった。

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「ヴァンさんっ!? ご無事でしたか? 怪我はありませんか? ああ…よかった」

 心配そうな表情でヴァンを迎えたのは、城の主であるサファイアだった。

「サファイア様…どうかされましたか?」
「ヴァンさんが心配で・・・そうですわ。お食事は済まされましたか?」
「サファイア様。どうか私のことはお気になさらず。もう夜も遅いですし、お休みになられた方が」
「わたくしに心配されるのは、お嫌でしたか?」

 ヴァンの言葉に悲しげに眉を寄せるサファイア。

「いえ、そのようなことはありません。ですが、サファイア様が使用人である私にまで、わざわざ気を使う必要はないかと・・・」
「ヴァンさんもフィンさん同様、わたくしの大切なお客様です。ですから、そんな風に悲しいことは、仰らないでください」
「ご心配をお掛けしてしまい、申し訳ありませんでした。サファイア様」
「いえ、謝らないでください。わたくしが勝手に心配していただけですし・・・」

 そっと目を伏せるサファイアにふっと考え込んだヴァンは、

「・・・では、ありがとうございます」

 にっこりと柔らかく微笑み、礼を言う。

「・・・え?」

 礼を言われたサファイアは、一瞬意味がわからないという風にきょとんとし、

「そ、そ、そんな、お礼を言われるようなことはしていませんわ」

 サッとその頬を赤らめた。

「いいえ。サファイア様のお陰で野宿をせずに済みました。それに、わざわざこんなに遅くまで起きて待っていてくれたのでしょう? 誰かに迎えて頂けるというのは、嬉しいものなのですよ? 特に、宿無しの身といたしましては」
「そう、ですか・・・」
「ええ。では、サファイア様。私はこれで失礼致します」

 そう言って一礼するヴァンを、

「はい…」

 どこか寂しげに見詰めるサファイア。

「また明日。ゆっくりとお休みになられてくださいませ」
「! ええ! また明日っ…」

※※※※※※※※※※※※※※※

 びっくりです!

 お、お礼を言われてしまいましたっ!?

 それに、また明日…だなんて、そんなことを言われたのは、初めてですわっ!!!

 どうしましょう? どうしましょう・・・

 すごく、すごく嬉しいですわっ!!!

 まだ胸がドキドキしています・・・

 ああ…この感動を、誰かに話したい!

 誰か、誰かいないかしら?

 ああ…いえ、誰かじゃなかったわね。

 いつも、わたくしの話を穏やかに聞いてくれる彼。わたくしの我が儘を、なんでも聞いてくれる・・・彼へ話したいわ。

 今の時間、彼はどこにいたかしら?

 アウィス。わたくしの執事は・・・

 もう、寝てしまったかしら?
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