歳時記カフェ

青西瓜

文字の大きさ
39 / 46

【39 2月7日 春一番】

しおりを挟む

・【39 2月7日 春一番】


「今日の歳時記はどんな日?」
 そうテイが一緒にカフェの洗い物を洗っている時にふと聞いてきたので、答えることにした。
「日って訳じゃないけども、春一番かな? 今日っていつもより暖かかったでしょ? それを春一番って言うの」
「もう春なの?」
 と目を丸くしたテイ。私は頷きながら、
「そもそも暦の上では前から春だし、立春から春分までの間に吹く暖かい風のことで、その年初めての強い南風のことを春一番って言うんだ」
 と言ったところでクラがこっちへ駆け寄って来て、
「じゃあクラ一番! 吹かせるよ!」
 と言うと、すぐさまクラから暖かい風が吹いてきた。
 テイは嬉しそうに、
「いやぁ、心地良いなぁ」
 と笑顔になったんだけども、私は正直少し懐疑的というか、危うさもあるなと思っていて。
 それはクラだから、とかじゃなくて、なんというか、と思ったところで、今度はクラがどこからともなくカイロを出現させて、それをクラ一番の風と共に、テイと私に飛ばしてきた。
 カイロは私の頬とテイのおでこに張り付いて、テイは笑いながら、
「ちょっとぉ! もはや風邪になっちゃうよ!」
 と少しズレてる返しをしていた。
 私はすぐにポケットに入れたんだけども、何か、いよいよって感じで、私は背筋が震えてきた。
 洗い物が終わったところで、私とテイは居間へ移動すると、その間もずっとクラからは暖かい風が吹いていて。
「もっともっと! クラ一番だよ!」
 そうクラが言うと、こたつのテーブルに湯気の出ているコーンポタージュの入ったカップが出現して、テイがそのカップに手を当てながら、
「とっても暖かいし、この優しい香り、食べるかっ! 寧!」
 と満面の笑みになったんだけども、私はこれはもう、と思ってしまった。
 そんな不安な表情をしてしまったんだと思う。
 テイは小首を傾げながら、
「どうしたの? 寧。せっかくだから頂こうよ」
「うん、でも、春一番ってね」
 と言いかけたところで、
「いや! もう俺は飲む!」
 そう言って腹ペコそうにコーンポタージュを飲み始めたテイ。
 私はなんとなく手を付けずにしていると、テイが、
「ちゃんとコーンの甘みがあって美味しいよ、でも不安なら俺が飲んであげるよ!」
「ううん、私はあとで飲むから大丈夫だよ、ほら、今、クラ一番であったかいし」
「そうだよねぇ、俺もう体がアツアツでこたつから出てもいいくらいだし」
 と言って立ち上がろうとしたので、私はテイの腕を掴んで、
「いや、体が暖かいならそれに越したことないよ、無駄に体温を下げにいくことはないよ」
「それもそうか、やっぱり寧のアドバイスは的確だね!」
 そう言って笑ったテイ。
 うん、やっぱりこれ、言ったほうがいいよね、と思って、テイにもう一つ助言をしようとしたところで、クラが急にくしゃみをした時に『あっ』と思ってしまった。
 クラが鼻をすすってから、こう言った。
「何だか……クラ一番……寒くなってきたぁ」
 そう言ってクラから冷風が吹き始めて、テイが目を丸くしてから、
「クラ大丈夫か! カイロ! おでこのカイロあげるから!」
 と言ってテイがおでこにずっと貼っていたカイロを渡そうと、掴むとテイが叫んだ。
「冷たっ! カイロが妙に冷たくなってる! もう!」
 私はやっぱりそうだ、と思って喋ることにした。
「春一番のあとってね、大体寒さが元に戻るんだってさ、だからきっとクラ一番もその後に冷たくなると思っていたんだ」
「そうだったのかぁ! 暖かいコーンポタージュ……無い! もう飲み干していた!」
「私はまあ自分の分、ゆっくり飲むね」
「言ってよぉ!」
「言いかけたんだけども遮ったじゃん」
 肩を落としたテイの手を掴んで私は、私のコーンポタージュのカップに触れさせて、
「まあ一気には飲まずに、こうやって暖を取りながらね」
 と私が言うとテイは瞳を潤ませながら、
「有難う! 寧! 寧の心は本当に暖かいよ!」
 と言ってくれて、オーバーだなぁ、とは思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あやかし家族 〜五人の兄と愛され末妹〜

南 鈴紀
キャラ文芸
 妖狩りにより両親を奪われ、囚われの身となった半妖の少女・鈴音は浄化の狐火を利用するだけの道具のように扱われていた。呪いにより成長は止まり、容姿も思考も幼いまま、感情が消え失せてもなおただ生かされるままに生きていた。  しかし妖保護部隊本部第一部隊との出会いにより、鈴音の止まっていた時間が動き出す。  掴みどころはないが頼れる氏神・雅仁、兄には厳しいが弟妹には優しい狼の妖・千里、人間嫌いだが人当たりの良い振りが得意な人間・遥杜、可愛いもの好きで元気いっぱいの猫又・鴇羽、大人しいが思いやりに溢れる猫又・瑠璃。  五人の兄と過ごす時間の中で、無いものだらけだった鈴音にもやがて大切なものが増えていく。  妖×家族の心温まる和風ファンタジー。

【完結】非モテアラサーですが、あやかしには溺愛されるようです

  *  ゆるゆ
キャラ文芸
疲れ果てた非モテアラサーが、あやかしたちに癒されて、甘やかされて、溺愛されるお話です。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...