歳時記カフェ

青西瓜

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【41 2月9日 治虫忌】

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・【41 2月9日 治虫忌】


 朝起きると、テイが嬉しそうに廊下で小躍りしていた。
 歯磨きの邪魔だなぁ、と思いつつ、声を掛けることにした。
「どうしたの? テイ」
「俺は既に歳時記マスターだから、今日が何の日か分かるぞ!」
 自信満々にサムズアップしたテイ。
 私は歯ブラシの用意をしながら、
「まあ2月9日は語呂合わせのし甲斐があるよね」
「そう! まずは福の神の福! これあるでしょ!」
 歯を磨き始めた私はテイのほうを見ながら頷く。
 テイは饒舌に、
「あとは多分着るモノの、服装の、服もあると思うんだよね!」
 私がまたコクンと首を縦に振ると、より一層楽しそうに喋り出した。
「俺は目ざといからな! まだあると思っている! そう! ハンカチで口を拭くなどの拭く日だ!」
 それは良く知らないので、適当に頷きながら自分の部屋へ戻って、歯をしっかり磨いた。
 途中でテイが一階へ降りて行く音がしたので、多分勝手に満足したみたいだ。
 さて、ここからは私の知識の出番だ、そう思いながら一階へ降りると、テイが鼻唄をしながら、台所で朝ご飯の準備をしてくれていた。
「テイ、語呂合わせ以外にも今日は意味のある日があるんだよ」
 そう私が後ろから話し掛けると、目玉焼きを焼いていたテイは目を丸くしながら振り向いて、
「まだあるのか! 寧の知識は底知れないね!」
 と言って笑った。
 そんな話でもないけども、と思いつつ、言おうとしたその時だった。
「あっ、そもそもテイ、この人のこと知らないかも」
「ん? 俺は日本に憧れて来たから大体のことは知ってるよ!」
 そう余裕あるような顔で言ったので、
「じゃあ言うね。今日は手塚治虫の命日、つまり治虫忌なんだ」
 さて、知ってるかなと思っていると、テイがぷるぷると震えだし、何だろうと思っていると、
「逆に寧がそんな古い漫画家のこと知ってるのっ?」
「それは知っているよ、今読んでも普通に面白いじゃん、手塚治虫のマンガは」
「手塚治虫先生ね!」
 そう念を押すように声を上げたテイ。
 というか、
「テイは手塚治虫……先生のこと好きなの?」
「勿論! 俺は手塚治虫先生のマンガはほとんど全部読みたいと思っているよ!」
「読みたいと思っているって、読んでいないんじゃん」
「読んだヤツもあるよ! ジャングル大帝とか! 火の鳥とか!」
「火の鳥は未完なんだよ」
「えぇぇぇえええ! そうなのぉぉおおっ! どうりで何かちょっと変な終わりと思ったら!」
 なんだ、本当に結構知っている感じなんだな、と、思っていると、クラがこたつから出て駆け寄ってきて、こう言った。
「今日はなんとかフェアとかなくて時間がちょっとくらいはあるんでしょ! じゃあ僕が手塚治虫先生を口寄せしてあげるよ!」
 私はう~んと腕を組んでから、
「それは恐れ多いから止めたほうがいいんじゃない?」
 するとテイは唸り声を上げてから、
「でも! 一度でいいからお話してみたい!」
 クラが勢いでやっちゃうことはあるけども、テイが悩んでこういう結果を出すことは珍しいなと思った。
 それほど好きということか、それならば、
「まあ私も興味があるし、朝ご飯の準備が終わる前にやってみようかっ」
「うん! そうしたい!」
 そうハツラツと声を上げたテイ。
 目玉焼きは焼き終えたけども、キッチンに置いたまま、私とテイはこたつに移動して、クラはこたつの前で座禅を組んで、呪文を唱えだした。
 果たして、どうなるのか、胸がドキドキしていると、クラではない人間の声がクラから聞こえてきた。クラは目を強めに瞑っている以外はクラのままだけども。目を強めに瞑ってる。
「催促の電話? 今描いてる! もうちょっとだ!」
 ……ん? どういうことだ? 電話とか言ってるけども。
 テイは妙にハキハキと、大きな声でクラに話し掛けた。
「手塚治虫先生! 俺は手塚治虫先生のファンです! 現世から口寄せしています!」
「現世? 口寄せっ? 今忙しいんだけどもなぁ!」
 私は何が忙しいんだろうと思いながら、
「手塚治虫先生、何が忙しいんですか?」
 と素直に聞いてみると、
「マンガに決まっているだろ! まあ去年まではアニメで忙しかったけどね!」
「えっ、もしかすると手塚治虫先生って、天国でもマンガ描いてるんですか?」
「当たり前だろ! 火の鳥もいよいよ大詰めだ!」
 火の鳥が、2024年に大詰め……? 長期連載過ぎる。
 テイはやけに力強く頷いている。相当好きなヤツの話の聞き方だ。
 まあ忙しいみたいだし、これでおしまいかなと思っていると、テイが咳払いして、喉を整えてからこう言った。
「すみません! 現世に来れますか!」
「来年は現世に取材へ行こうと思っているけども、今は無理だね!」
 と答えてくれた手塚治虫先生。
 来年の予定ももう決まってるくらい忙しいんだ、と思っていると、テイが食い下がるように、
「そんなぁ! えっと! あのぉ! もしかしたら異世界! 異世界の取材の手配ができます!」
 またしてもハッキリ異世界って言ったし、取材の手配ができるって、もう完全にオフィシャル異世界じゃん、と思っていると、手塚治虫先生は間髪入れずに、
「そういうのはいい! 想像で書くから面白いんだよ!」
「でも本当の異世界も面白いですよ!」
「だからいいって! 想像したいと思う限り、わたしは想像していきたいんだ! じゃあね! 忙しいから!」
 ”チン!”という、何か黒電話を置くような音が聞こえてきた。
 そこは旧式の電話なんだと思った。
 テイは拳で床を叩いて、悔しそうにしている。
 でも、私はもういよいよ聞きたいところがあって。
「テイ、テイってやっぱり異世界から来たの?」
 テイは泣きそうな顔になりながら、こっちを見て、
「……そうかもしれない……」
「いや言いたくないならいいんだけども、その場合はちゃんと隠してほしいかなって」
「そうだね、確かにその通りだよね、でも俺も必死でつい……」
「じゃあ今回のことは目を瞑るからっ」
 と言ったところで、ずっと目を瞑っていたクラが目を開けて、
「異世界の話もしてあげればいいのに。あのしつこいお姫様とか今なら笑い話でしょ!」
 即座にテイが、
「それはいい! しなくていい!」
 と声を荒らげて、クラはプイッとそっぽ向いて、二階へ走っていってしまった。
「クラ!」
 と私がクラのほうを追いかけようとすると、
「いい、いい、それより朝ご飯にしよう。支度もあるんだから」
 とテイが言ったんだけども、ちょっとだけ怖い表情で一体何があったんだろうと気になった。
 でもテイが嫌がっているようだから、言うことは止めようと思った。
 ただ、ただ、テイにはテイで何か理由があるみたいで。
 本当はクラから聞きたい気持ちもあったけども、それは押し殺して、テイと一緒にいることにした。
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