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【ここは海沿いの原の村】
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・【ここは海沿いの草原の村】
・
「いやいや、ようこそ、ようこそ、ここは海沿いの草原の村、ソウシじゃ、ソウシ。海沿いの草原の村じゃ」
村の長老さんが僕たちに挨拶をした。
「この草原の村の隣の海沿いの草原にのぅ、隣の海沿いの草原にのぅ、一回り大きな村を作ってほしいのじゃ、大きな村を作ってほしいのじゃ」
同じことを二回繰り返すことが癖みたいだ。
分かりやすくていいなぁ、と思っていると、舞衣子さんが少しイライラしながらこう言い始めた。
「ゆったり喋るのはいいので、さっさと依頼を詳しく教えて下さいっ」
言い方は丁寧だが、明らかに殺気立っているので、そんな言い方しなくてもいいのに、と思った。
「ほほっ、そうじゃのぅ、そうじゃのぅ、では早速依頼に移るんじゃ、依頼に。やはりまず立派な立派な家を建ててほしい、できれば立派な家がいいのぅ」
師匠が優しく頷きながら話を聞いている。
「あとは自給自足じゃな、そう、自給自足するための施設がほしいのぅ」
と長老さんが言ったので、僕は詳しく聞こうと、
「施設ということは工場ですか? それとも田んぼや畑、果樹園などでもいいんですか?」
「そういうことを言っているんじゃ、そういうことをのぅ」
訳の分からない返答に、すぐ声を出してしまうのが舞衣子さんだ。
「ちょっと、言葉はちゃんと正確に言ってくれませんか?」
「いやいやいやいや、だからそういうことでいいのぅ、と、そういうことでいいと言ってるんじゃ」
舞衣子さんの厳しい雰囲気に、ちょっと焦った感じになった長老さん。
しかしやっぱり要領を得ないので、舞衣子さんは少し目元をキツく吊り上がらせながら、
「いやだから工場なのか農業なのか、どっちなの?」
舞衣子さんは年上の人にも物怖じをせず、ズバズバ聞いていく。
その圧にだいぶ焦ってきた長老さん。
「だから自給自足する施設じゃ、自給自足する施設がほしいんじゃ、自給自足をする施設をのぅ」
でも確かに本当に、的を得ない会話だ。
何か工業製品を作る場所なのか、土から植物を育てるのか、いやそもそも畜産をするのかハッキリしない。
「……ほしいモノは何ですか?」
師匠が改まって質問をすると、驚きの答えが返ってきた。
「果物がほしいと言っとるんじゃ、果物、分からんかのぅ」
僕はてっきり工業製品を作る場所がほしいほうだと思っていた。
でも確かにそれだと自給自足にはならない。
自給自足という言葉を主として考えるのならば、確かに農林系だ。
師匠は落ち着いた喋り方で、
「はい、分かりました。果物を育てる場所を作ってほしいということですね」
「そうじゃ、そうじゃ、そういう施設を作ってほしいんじゃ、施設を」
施設と何故言うのか僕には分からなかった。
いやまあビニールハウスを施設と呼んでいるのかもしれないけども、何が何でもビニールハウスは必要というわけでもない。
むしろ語変換の術では、こういったカタカナの言葉が苦手だ。
世界にはアナグラムの術や、アルファベットの術、というモノがあるらしいが、僕たちが使う術は漢字を変換する語変換の術。
まあその違いが分からないだけなのかなぁ、うん。
師匠は優しくこう言った。
「では、家と農作物だけでいいということでしょうか」
「のうさくぶつ、のうさくぶつ、まあ施設ならいいんじゃ、施設なら」
この発言を聞いて、よりいっそうイライラを募らせる舞衣子さんに、師匠は手で制止のポーズを出しながら、
「ではまずそのへんのモノを作って、それからもし別のモノがほしい場合、また仰って下さい。では早速製作に移ります」
「おぉ! 有難いのぅ! 有難いのぅ!」
僕たちは話を聞き終わり、この村の隣にある広大な草原に行った。
この隣の草原に村を作るという話だ。
師匠は早速、準備に取り掛かろうと、肩をまわしていると、舞衣子さんが僕も気になっていることを言った。
「あの長老、ずっと何言ってるか分かんないんですけども」
「正直、僕も訳分からなくて、正しい言葉を知らないんですかね?」
師匠は僕のほうを見て頷きながら、
「多分理人の言う通り、正しい言葉を知らないんだろう」
と答えたことに、驚愕したのは舞衣子さん。
「えっ! ホントにそんなことってあるのっ! だって何か偉そうな人だったから言葉くらい知ってるでしょ!」
しかし師匠は至って冷静に、
「言葉という文明も退化し、必要な言葉以外はきちんと理解して喋れなくなっているんだ。田舎に行くと、学校も無くなってきているからなぁ」
「そんなことあるんだ……」
そう言いながら僕を見た舞衣子さん。
「何ですか?」
「いや、理人もマシなほうなんだなって」
「そりゃ言葉くらい分かりますよ!」
「いやでも言葉も分からんオジサンがいたから……何か不安なんだけども」
その舞衣子さんの不安が的中しないように祈った。
・【ここは海沿いの草原の村】
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「いやいや、ようこそ、ようこそ、ここは海沿いの草原の村、ソウシじゃ、ソウシ。海沿いの草原の村じゃ」
村の長老さんが僕たちに挨拶をした。
「この草原の村の隣の海沿いの草原にのぅ、隣の海沿いの草原にのぅ、一回り大きな村を作ってほしいのじゃ、大きな村を作ってほしいのじゃ」
同じことを二回繰り返すことが癖みたいだ。
分かりやすくていいなぁ、と思っていると、舞衣子さんが少しイライラしながらこう言い始めた。
「ゆったり喋るのはいいので、さっさと依頼を詳しく教えて下さいっ」
言い方は丁寧だが、明らかに殺気立っているので、そんな言い方しなくてもいいのに、と思った。
「ほほっ、そうじゃのぅ、そうじゃのぅ、では早速依頼に移るんじゃ、依頼に。やはりまず立派な立派な家を建ててほしい、できれば立派な家がいいのぅ」
師匠が優しく頷きながら話を聞いている。
「あとは自給自足じゃな、そう、自給自足するための施設がほしいのぅ」
と長老さんが言ったので、僕は詳しく聞こうと、
「施設ということは工場ですか? それとも田んぼや畑、果樹園などでもいいんですか?」
「そういうことを言っているんじゃ、そういうことをのぅ」
訳の分からない返答に、すぐ声を出してしまうのが舞衣子さんだ。
「ちょっと、言葉はちゃんと正確に言ってくれませんか?」
「いやいやいやいや、だからそういうことでいいのぅ、と、そういうことでいいと言ってるんじゃ」
舞衣子さんの厳しい雰囲気に、ちょっと焦った感じになった長老さん。
しかしやっぱり要領を得ないので、舞衣子さんは少し目元をキツく吊り上がらせながら、
「いやだから工場なのか農業なのか、どっちなの?」
舞衣子さんは年上の人にも物怖じをせず、ズバズバ聞いていく。
その圧にだいぶ焦ってきた長老さん。
「だから自給自足する施設じゃ、自給自足する施設がほしいんじゃ、自給自足をする施設をのぅ」
でも確かに本当に、的を得ない会話だ。
何か工業製品を作る場所なのか、土から植物を育てるのか、いやそもそも畜産をするのかハッキリしない。
「……ほしいモノは何ですか?」
師匠が改まって質問をすると、驚きの答えが返ってきた。
「果物がほしいと言っとるんじゃ、果物、分からんかのぅ」
僕はてっきり工業製品を作る場所がほしいほうだと思っていた。
でも確かにそれだと自給自足にはならない。
自給自足という言葉を主として考えるのならば、確かに農林系だ。
師匠は落ち着いた喋り方で、
「はい、分かりました。果物を育てる場所を作ってほしいということですね」
「そうじゃ、そうじゃ、そういう施設を作ってほしいんじゃ、施設を」
施設と何故言うのか僕には分からなかった。
いやまあビニールハウスを施設と呼んでいるのかもしれないけども、何が何でもビニールハウスは必要というわけでもない。
むしろ語変換の術では、こういったカタカナの言葉が苦手だ。
世界にはアナグラムの術や、アルファベットの術、というモノがあるらしいが、僕たちが使う術は漢字を変換する語変換の術。
まあその違いが分からないだけなのかなぁ、うん。
師匠は優しくこう言った。
「では、家と農作物だけでいいということでしょうか」
「のうさくぶつ、のうさくぶつ、まあ施設ならいいんじゃ、施設なら」
この発言を聞いて、よりいっそうイライラを募らせる舞衣子さんに、師匠は手で制止のポーズを出しながら、
「ではまずそのへんのモノを作って、それからもし別のモノがほしい場合、また仰って下さい。では早速製作に移ります」
「おぉ! 有難いのぅ! 有難いのぅ!」
僕たちは話を聞き終わり、この村の隣にある広大な草原に行った。
この隣の草原に村を作るという話だ。
師匠は早速、準備に取り掛かろうと、肩をまわしていると、舞衣子さんが僕も気になっていることを言った。
「あの長老、ずっと何言ってるか分かんないんですけども」
「正直、僕も訳分からなくて、正しい言葉を知らないんですかね?」
師匠は僕のほうを見て頷きながら、
「多分理人の言う通り、正しい言葉を知らないんだろう」
と答えたことに、驚愕したのは舞衣子さん。
「えっ! ホントにそんなことってあるのっ! だって何か偉そうな人だったから言葉くらい知ってるでしょ!」
しかし師匠は至って冷静に、
「言葉という文明も退化し、必要な言葉以外はきちんと理解して喋れなくなっているんだ。田舎に行くと、学校も無くなってきているからなぁ」
「そんなことあるんだ……」
そう言いながら僕を見た舞衣子さん。
「何ですか?」
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