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青西瓜(伊藤テル)

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【かまどを作ろう】

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・【かまどを作ろう】


「あっ、だいぶ家ができていますね!」
 師匠と舞衣子さんは結構家をたくさん作り出していた。
 それを見て僕は驚いたんだけども、それよりも、一緒に来ていたお姉さんが驚愕した。
「木の……家……ですかっ?」
「そうです! 樫の木で作った丈夫な家です!」
 僕がそう答えると、お姉さんは目を輝かせながら、
「これで家が風で飛ばされるなんてこと無いですねっ!」
「多分そうだと思いますよ」
 僕とお姉さんの声に気付いた舞衣子さんが近付いてきた。
「あっ、村の人も来たんだ、で、調理はするの? しないの?」
 そう言って、舞衣子さんはお姉さんの肩をポンポン叩きながら聞いてきたので、よく初対面の人にそんな言い方するなぁ、とは思った。
「私、調理してみたいです。そのお願いに来ました」
 そうお姉さんが言うと、
「じゃあ師匠も呼んでくるから」
 そして僕と師匠と舞衣子さんとお姉さんの四人で話し始めた。
 お姉さんは切々と語り出した。
「私の村でも、ちゃんとした調理をする、施設がほしいです」
 師匠は頷きながら、
「そうか、そうか、それはいいことだと思う。じゃあ早速、その見本となるモノを作るかな」
 僕は喜びながら、
「師匠、やっぱりそういうものあるんですね!」
 舞衣子さんはふとこんなことを言った。
「ガスみたいなヤツ?」
 僕は頭上にハテナマークを浮かべながら、
「ガスって何ですか、舞衣子さん」
 と聞くと、舞衣子さんは鼻で笑いながら、
「えっ、アンタのもといた街ってガス無いのっ? うわっ、文化レベル低っ!」
 と言ったので、少しムッとしながら、
「いやIHヒーターというモノだけども」
 それに対して舞衣子さんも疑問符を頭の上に付けながら、
「アイエイチ・ヒーター? 何それ?」
 と言うと、師匠が少々困った顔をしながら、
「あー、舞衣子、正直舞衣子のガスのほうが古いヤツだ。理人のIHヒーターが一番新しいヤツだよ」
 舞衣子さんは顔を少し赤くしながら、
「えっ! ヤだ! アイエイチ・ヒーターってヤツのほうが新しいんだ!」
 と言ったところで、お姉さんが聞いた。
「……あのっ、この村にもその、ガスというモノとか、アイエイチ・ヒーターというモノを、作ってくれるんですか?」
 師匠は首を横に振ってからこう言った。
「いやもっと原始的なモノになるが、人によっては最高の調理設備と言う人もいる、かまどを作ろう」
「「「かまど?」」」
 三人の声がユニゾンして、みんな顔を見合わせた。
 師匠は続ける。
「かまどというモノは直火で鍋を温めるから、一番美味しく料理が作れるんだ」
 僕は元気に、
「じゃっ! じゃあ! 早速そのかまどというモノを作りましょうよ!」
 と言うと、師匠は頷いた。
 そして早速舞衣子さんが聞く。
「師匠、かまどってどういう字を書くの?」
「かまどという漢字は【竈】だ」
 舞衣子さんと僕はそれぞれおののきながら、
「えっ……この漢字……初めて見る部分がある……」
「こんなの作れないじゃないですか……」
 と言うと師匠は落ち着いた声で、
「いや、実は作れるんだ」
「あのっ、さっきから、その、何が始まるんですか?」
 お姉さんが不思議そうに聞いてきたので、師匠は語変換の術を説明し始めた。
 最初、そんな簡単に説明していいのかなとも思ったけども、師匠が人を見て説明しているのだからいいのだろう。
 そしてお姉さんは理解をした。
 ……昔の僕よりも、相当早く。
「そんな術が使えるんですね! すごいです!」
 しかし師匠は冷静に切り返す。
「すごいかどうかは、ちゃんと完成した時に言ってほしい。今はまずこの【竈】の説明からだな。竈は穴、土、細長いヘビという意味の漢字が集まってできた漢字だ」
「何で細長いヘビという意味の漢字が付いているんですか?」
「諸説あるが、竈は細長い煙の穴を通すところからその細長いヘビという言葉が使われるようになったらしい」
 そう聞いた舞衣子さんはテンションを上げながら、
「じゃあ細長いヘビを捕まえればいいのね!」
 と言ったけども、それを制止したのはお姉さんだった。
「でも、この地域のヘビは皆、毒を持っているので危険、ですよ」
 そう言われた舞衣子さんは固まった。
 お姉さんは続ける。
「それに細長いヘビの品種はそこまでいませんし」
 と言ったところで僕はその”品種”に反応して、
「あっ、お姉さん、品種という言葉知ってるんですね。僕は昨日師匠から教えてもらったんですよ!」
「私は本を読むことが好きで、多少の言葉は知っているんですっ」
 そう言って優しく微笑んだお姉さん。
 舞衣子さんとは大違いだ。
「毒あるだとか、細長いヘビはいないだとか、否定ばっかしててもしょうがないんじゃないのっ?」
 舞衣子さんがお姉さんに突っかかる。
 お姉さんは困った表情を浮かべている。
 お姉さんと舞衣子さんは本当に大違いだ。
 そして舞衣子さんはもっとおしとやかになったほうがいいと思う。
 さて、師匠はどんな言葉を言うか。
 みんなで師匠の顔を見ると、喋り出した。
「まあ、細長いヘビは作ればいいかな」
「語変換の術で動物も作れるんですかっ!」
 お姉さんが驚きながらそう言うと、師匠は頷きながら、
「そう、動物は作れる。ただし動物を無くすことはできないがな」
「どういうことでしょうか……」
「動物を作るには技術が必要で、そして気力をたくさん消費する。しかし作ることは可能だ。それに比べて動物を無くすことはできないが、動物から漢字を出すことはできる」
「動物とか人間から漢字を出すと、出された人は眠くなる! 合ってるよね! 師匠!」
 舞衣子さんがまた得意げに言った。
 それに対して、ゆっくりと答える師匠。
「そう、動物の気力を奪って漢字を出すから眠くなるんだ」
「そうなるんですね! また一つ賢くなりました!」
 僕は新しいことを知れたことが嬉しくなって、ちょっと大きな声でそう喋ると、
「でも良かったです……動物が無くなったら、かわいそうですもんね……」
 そう言ってお姉さんは安堵の表情を浮かべた。
 優しい人だなぁ、と思っていると、
「でもヘビはいなくなったほうがいいじゃん」
 と舞衣子さんがぶっきらぼうに言い放ったので、本当大違いだと完全に思った。
「まあ竈を何ヶ所も作るとしたら、その度にヘビを作って消してしないといけなくなるよりも、ヘビを作って、そのヘビから漢字をもらって作っていったほうがいいだろう」
 師匠が冷静にそう言った。
「そうですよね!」
 と僕は相槌を打つと、早速師匠が動き出し、
「じゃあ早速、ヘビを作るところからスタートするか。理人、昨日の話によると、穴はもうあるんだろ?」
「火を使う穴ですね、ありました」
 と返事をしたところで、お姉さんが
「あのっ、でもっ、改めて作る時は、もっと村の外れのほうがいいかもしれません。火を怖がる人たちも多いので……」
 それに対して師匠はう~んと悩みながら、
「そうか、じゃあ……」
 と言ったところでお姉さんが大きな声で、
「私! 長老の声などを聞いて、穴を掘ります! 手伝ってくれる人も探しますし!」
 師匠はうんうん頷きながら、
「じゃあ穴のことは君に任せた。俺たちはヘビを作るための作業をするか」
 そして僕と師匠と舞衣子さん、そしてお姉さんでそれぞれ動き始めた。
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