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【17 避難所になる】
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・【17 避難所になる】
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あれからショタヌキは一段と頼もしくなった。
そう、誰かが相談事を話していると、前よりももっと率先してショタヌキが関わってくるようになった。周りの機微に気付くようになってきたのだ。
これなら食い逃げもついに分かるのでは、と思っている。ただ相談事の解決案は相変わらず明後日の方向なことが多いけども、それでも何か考えようという気概が可愛い。
そう、有難いじゃなくて可愛い。ショタヌキはやっぱり可愛いのだ。というか、あの事件以来、私がショタヌキのことを可愛がるようになってしまって、私が困っている。
ショタヌキがもう少し嫌がる素振りというか”そんなお子じゃないやい!”みたいなリアクションをしてくれれば、私の寵愛も減るのに、ショタヌキはめっちゃ喜ぶ。撫でて喜び、ハグして喜び、もうショタ過ぎる。それか元夫の理想じゃん。
まあ今日もいつも通り、コーヒーをお客さんに出してはこれでも喰らえと思っていたその時だった。
急に寒くなってきて、まだ秋口の九月上旬だぞ、と思っていると、怜那が「キャッ!」と急なおなごアピールしたと思ったら、その場で滑るように転んで、足腰弱い教室かよ、と思っていると、何かキッチンの台が凍るように冷たくなってきていて、否、マジで凍ってきているようで、
「なんじゃこりゃぁぁぁあああああああああああああああああああああ!」
と私は松田優作の時代じゃないのに、そう叫んでしまった。マジなんじゃこりゃぁだ(松田優作は嘘ドラマなので)。
「お尻冷たい!」
と言いながらショタヌキはイスからおりたところで私は即座に、
「皆さんも一回立ってください!」
と叫ぶと、お客さんも全員立ち上がったんだけども、和装のお客さんだけはイスが後ろにさがらなかったみたいで、脇からズルリと倒れ込んで、ちょっとだけ面白かった。
和装のお客さんが何事も無かったように立ち上がりながら、
「これは! 竜神の氷結ですね!」
と言って怜那のほうを見ると、怜那は慌てて、
「アタシじゃないです! こんなカフェの内部だけ凍らせることなんてできないです! もっと雑に中の人間も凍らせちゃうとかになると思う! 妖力も足りないだし!」
何かいっぱい喋って怪しいなぁ、と思ったんだけども、どうやら違ったらしい。
どこからともなく、というかカフェの裏口のドアから煙が出てきたと思ったら、そこが開き、外から緑色の和装おじいさんが入ってきた。
それを見た怜那が矢継ぎ早に、
「おじいちゃん!」
と叫んだ。テメェの親族かよ、と思っていると、その緑色の和装おじいさんがこう言った。
「怜那、もう帰ってきなさい。ここのカフェは機能不全になりました。人間と仲良くする必要なんてありません」
うわぁ、あやかしと人間が仲良くするヤツのアンチだぁ、だるぅー。
怜那はムッとしながら、
「アタシが好きでしてるんだからいいでしょ! ホント竜神ってみんなそういうとこあるよね!」
みんなそうなんだ、嫌だなぁ、でも怜那も最初はそんな感じだったかもしれない。
緑色の和装おじいさんはハハッと鼻で一笑してから、
「それにこのカフェの人間、調子に乗っているみたいじゃないか。トラップマニアを解決したって言いふらしているみたいだな」
私は即座に、
「そんなんしていません」
と語気を強めて主張すると、緑色の和装おじさんが、
「人間ごときがワシと会話しようとするな。ワシは高貴な存在だぞ」
キモっ、というか、
「高貴な存在なら人間界におりてくるなよ。私は普通に人間界で住んでいるだけなんですけども。勝手に侵入してんのそっちじゃない? 高貴って暇って意味?」
「こやつ、自分の立場が分かっておらんぞ」
すると(常連の)和装のお客さんがこう言った。
「結局あれですよね、トラップマニアを解決した卯愛さんを負かせば自分の名があげられるということですよね」
それに対して緑色の和装のおじいさんは明らかに図星のような顔をして、頬を赤らめて俯いた。キンモォ。
おじいの赤らめキモ過ぎるし、理由もクソ過ぎるし、でもまあ大体分かったからいいや。
「じゃあこれでカフェが機能不全にならなければ私の勝ちってことね、やってやろうじゃん、カス」
ハッキリついカスと言ってしまうと、怜那が吹き出したので、身内が笑ったんだからこれはOKなんだ、と思った。
緑色の和装のおじいさんがイライラしている早口な口調で、
「でももう何もできないだろバーカバーカ、全部凍って何もできない何もできない、あぁ、何もできない」
「語彙少なっ、キモっ」
は、ちゃんと声に出して読みたい日本語でいくと、怜那がなおも笑っていい感じだった。
さて、と思っているとショタヌキが、
「怜那の術で全部温めて溶かしましょうか」
と言ったんだけども、私は即、
「いや、急に温めると機械が故障するかもしれないし、そもそも水滴のせいで何かなるかもしれないから、まずは氷をとってから自然解凍かな」
と答えるとショタヌキはまたダメだったと、しょんぼりした。
「でも温めることは合ってるよ」
と私がショタヌキに声を掛けてから、吉四六へ、
「一緒に清水を汲みにいこう。あと祥太くんは家から毛布を持ってきて。怜那はカスじいが何か別のことをしないか監視していて」
カスじいという言葉にピクンとアゴをあげたカスじいと、吹き出した怜那。
私たちはカフェから出ようとすると、凍っていて開かなくて、
「おいカスじい、入口温めて外に出るのはアリだろ、それぐらいルールとしてアリだろ、それナシだと怜那が帰る出口が無いもんな」
と言うとカスじいは苦虫を噛み潰したような顔をするだけだったので、怜那が入口を温めて、ドアが開いた。
さっきの裏口の白い煙って、ドアだけを温めた蒸気だったんだと思いながら、私たちは外に出た。
私と一緒に清水を汲んでいる吉四六が申し訳無さそうに、
「すみません。あやかしがしょうもなくて……」
「主語がデカいよ、吉四六も祥太くんも怜那もしょうもなくないじゃん。卑下する必要全然無い。三人は私の大切なパートナーだから!」
とできるだけ明るく言うことにした。
相当吉四六が心を痛めているようだったから。
別に本当、吉四六がそんなに悩む必要無いのに。自分たちがカフェにいることを責任感じているような言いっぷり。
黙った吉四六にもう一声掛けておくかと思って、
「私は吉四六がいてくれて助かっているよ、私が好きと言うだけじゃダメかな? 私は吉四六も祥太くんも怜那も大好きだよ!」
すると吉四六が小声で、
「助かります」
と答えて、まだ何だか意味深なんだけども、それ以降はいつもの顔で清水汲みをしてくれたので良かった。
カフェに戻って店の前に清水を置いて、すぐに家へ行こうとするとショタヌキが、
「カセットボンベですよね! 持ってきています!」
とカフェの中から聞こえて、カフェに戻ると、ショタヌキがテーブルに置いてあるカセットボンベを両手でこちらとやっていた。
「祥太くん! ナイス!」
とサムズアップしてから、早速清水をカセットボンベで沸騰させ始めた。
それにしても、カフェはこんな状況なのに、一人も家に帰ったりしていない。
ずっとカフェで私たちのことを待っている。私だったら帰るけどな。野次馬根性? それとも信頼されている? 後者だったらいいなぁ、まあ私はでも帰るけども。
うちのコーヒーメーカーは機械でやる、カセットのヤツなんだけども、その入れ替え分のコーヒーの粉カセットをハサミで開けて、キッチンペーパーをこすモノの代わりにして、それでコーヒーを入れていく。
何かちょっと雑だけども、これでコーヒーはみんなに行き渡った。ちなみに値段のことは今日、度外視。多分請求しないと思う。カスじいにお金とか難し過ぎて分からないと思うので。
次はちょっとした料理に挑戦だ。野菜も凍っていて、包丁で切るのは難しいので、ピーラー人参、ピーラー大根で薄くカットしていく。
そこで冷蔵庫に入っていない調味料で味付けていくわけだけども、醤油とかめんつゆは普通に凍っていて、溶けたあとの品質とかもう最悪じゃんと思いながら、凍っていても削り取ることができた味噌を使って、カセットボンベで炒めていく。
冷暗所に置いていた一味唐辛子は凍っていなかったので、それを振りかけて、栄養面がこのままだとイマイチなのでスキムミルクを大匙1入れてみた。
最近のスキムミルクは昔のただの脱脂粉乳と違い、味が調節されているので、随分美味しくなっている。
最後に水と片栗粉を少し入れて、とろみをつけさせて完成だ。
「大根麺の味噌ぬめり、おあがりよ!」
こんな料理は基本無いので、クソ料理名になってしまった。
味噌と牛乳は合うことが証明されているので、まあかなり保守的な料理なんだけども、それなりに美味しそうな香りがしている。
一味唐辛子が入っているので、辛みによって体が芯から温まるだろう。
それをみんなで分け合って食べて、コーヒーも飲んでいるわけだから当然カフェなわけで。
カスじいのほうを見ると、黙って俯いているだけ。
私は小声で怜那へ、
「負け認めた感じかな?」
「う~ん、どうだろう、カスじいは駄々こねるほうだからまだかも」
怜那発のカスじいはダメだろ、と思いつつ、
「じゃあもう一丁やるかぁ」
と今度は長ネギを切らずにそのままカセットボンベの火で焼き始める。
そもそも長ネギは凍っていても包丁で切れるもんだけども、ここはあえて直火で焼く。
この焼けていく様もエンターテインメントになるから。
焦げがついてきたところで、味噌を塗って、さらに焼く。
すると焦げた味噌の美味しい香りがふぁ~と広がり、全員の鼻孔を突く。
こうなったところでまな板に置いて、包丁で切ってみんなに配る。
結局こういうのが旨いんだよ、みたいな、こういうのが旨いんだよおじさんと化した私たちは、味噌焼きネギにがっついた。
「とろとろして甘い!」
「味噌の香り最高!」
口々に感想を言ってくれる常連さんたち。ノリが良くて助かる。
するとカスじいが急に叫んだ。
「いやワシにも配らんかい! どんなカフェだよ! 失格です!」
すると怜那が一瞥するような感じでこう言った。
「いやカスじいは人間界のお金持ってないだろ」
やっぱりカスじいにとってはお金ということが難しかったようだ。
すると和装のお客さんがこう言った。
「こんな状況でもカフェできるんですから、ここはもはや何かあった時の避難先で決定ですね」
カスじいはぐうの音も出ないといった顔をしてから、無言で立ち去った。敗北宣言とかしないで。
「カスがっ」
と呟いたのは私ではなくて怜那だった。私だと思ったじゃん。
まあ今回も撃退できたってわけだけども、この凍ったことにより品質が落ちる調味料とか、これから氷を落としていく作業とかどうする? みたいな顔を私はしてしまったのだろう。
怜那が本当に心苦しいという面持ちで、
「すみません! ここからは竜神の尻ぬぐいをしてください!」
と言うと、私はすぐに、
「いや! そんなんはカフェの店主として当然というか!」
と声をあげると同時に常連さんたちが、
「俺たちも手伝っていいか!」
「そうそう! 卯愛さんのちゃんとした料理も食べたいし!」
「私たちもガンバっちゃうよ」
と次々と言ってくださって、本当に有難かった。
でも何よりも怜那が胸をなでおろしていた。
ショタヌキもやる気満々でまあ当然だけど嬉しいし、でも、吉四六だけはまだ心が晴れていない顔をしていたので、私は優しく背中を叩いて、
「大丈夫だよ」
と声を掛けておいた。
でも何で吉四六がこんなに?
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あれからショタヌキは一段と頼もしくなった。
そう、誰かが相談事を話していると、前よりももっと率先してショタヌキが関わってくるようになった。周りの機微に気付くようになってきたのだ。
これなら食い逃げもついに分かるのでは、と思っている。ただ相談事の解決案は相変わらず明後日の方向なことが多いけども、それでも何か考えようという気概が可愛い。
そう、有難いじゃなくて可愛い。ショタヌキはやっぱり可愛いのだ。というか、あの事件以来、私がショタヌキのことを可愛がるようになってしまって、私が困っている。
ショタヌキがもう少し嫌がる素振りというか”そんなお子じゃないやい!”みたいなリアクションをしてくれれば、私の寵愛も減るのに、ショタヌキはめっちゃ喜ぶ。撫でて喜び、ハグして喜び、もうショタ過ぎる。それか元夫の理想じゃん。
まあ今日もいつも通り、コーヒーをお客さんに出してはこれでも喰らえと思っていたその時だった。
急に寒くなってきて、まだ秋口の九月上旬だぞ、と思っていると、怜那が「キャッ!」と急なおなごアピールしたと思ったら、その場で滑るように転んで、足腰弱い教室かよ、と思っていると、何かキッチンの台が凍るように冷たくなってきていて、否、マジで凍ってきているようで、
「なんじゃこりゃぁぁぁあああああああああああああああああああああ!」
と私は松田優作の時代じゃないのに、そう叫んでしまった。マジなんじゃこりゃぁだ(松田優作は嘘ドラマなので)。
「お尻冷たい!」
と言いながらショタヌキはイスからおりたところで私は即座に、
「皆さんも一回立ってください!」
と叫ぶと、お客さんも全員立ち上がったんだけども、和装のお客さんだけはイスが後ろにさがらなかったみたいで、脇からズルリと倒れ込んで、ちょっとだけ面白かった。
和装のお客さんが何事も無かったように立ち上がりながら、
「これは! 竜神の氷結ですね!」
と言って怜那のほうを見ると、怜那は慌てて、
「アタシじゃないです! こんなカフェの内部だけ凍らせることなんてできないです! もっと雑に中の人間も凍らせちゃうとかになると思う! 妖力も足りないだし!」
何かいっぱい喋って怪しいなぁ、と思ったんだけども、どうやら違ったらしい。
どこからともなく、というかカフェの裏口のドアから煙が出てきたと思ったら、そこが開き、外から緑色の和装おじいさんが入ってきた。
それを見た怜那が矢継ぎ早に、
「おじいちゃん!」
と叫んだ。テメェの親族かよ、と思っていると、その緑色の和装おじいさんがこう言った。
「怜那、もう帰ってきなさい。ここのカフェは機能不全になりました。人間と仲良くする必要なんてありません」
うわぁ、あやかしと人間が仲良くするヤツのアンチだぁ、だるぅー。
怜那はムッとしながら、
「アタシが好きでしてるんだからいいでしょ! ホント竜神ってみんなそういうとこあるよね!」
みんなそうなんだ、嫌だなぁ、でも怜那も最初はそんな感じだったかもしれない。
緑色の和装おじいさんはハハッと鼻で一笑してから、
「それにこのカフェの人間、調子に乗っているみたいじゃないか。トラップマニアを解決したって言いふらしているみたいだな」
私は即座に、
「そんなんしていません」
と語気を強めて主張すると、緑色の和装おじさんが、
「人間ごときがワシと会話しようとするな。ワシは高貴な存在だぞ」
キモっ、というか、
「高貴な存在なら人間界におりてくるなよ。私は普通に人間界で住んでいるだけなんですけども。勝手に侵入してんのそっちじゃない? 高貴って暇って意味?」
「こやつ、自分の立場が分かっておらんぞ」
すると(常連の)和装のお客さんがこう言った。
「結局あれですよね、トラップマニアを解決した卯愛さんを負かせば自分の名があげられるということですよね」
それに対して緑色の和装のおじいさんは明らかに図星のような顔をして、頬を赤らめて俯いた。キンモォ。
おじいの赤らめキモ過ぎるし、理由もクソ過ぎるし、でもまあ大体分かったからいいや。
「じゃあこれでカフェが機能不全にならなければ私の勝ちってことね、やってやろうじゃん、カス」
ハッキリついカスと言ってしまうと、怜那が吹き出したので、身内が笑ったんだからこれはOKなんだ、と思った。
緑色の和装のおじいさんがイライラしている早口な口調で、
「でももう何もできないだろバーカバーカ、全部凍って何もできない何もできない、あぁ、何もできない」
「語彙少なっ、キモっ」
は、ちゃんと声に出して読みたい日本語でいくと、怜那がなおも笑っていい感じだった。
さて、と思っているとショタヌキが、
「怜那の術で全部温めて溶かしましょうか」
と言ったんだけども、私は即、
「いや、急に温めると機械が故障するかもしれないし、そもそも水滴のせいで何かなるかもしれないから、まずは氷をとってから自然解凍かな」
と答えるとショタヌキはまたダメだったと、しょんぼりした。
「でも温めることは合ってるよ」
と私がショタヌキに声を掛けてから、吉四六へ、
「一緒に清水を汲みにいこう。あと祥太くんは家から毛布を持ってきて。怜那はカスじいが何か別のことをしないか監視していて」
カスじいという言葉にピクンとアゴをあげたカスじいと、吹き出した怜那。
私たちはカフェから出ようとすると、凍っていて開かなくて、
「おいカスじい、入口温めて外に出るのはアリだろ、それぐらいルールとしてアリだろ、それナシだと怜那が帰る出口が無いもんな」
と言うとカスじいは苦虫を噛み潰したような顔をするだけだったので、怜那が入口を温めて、ドアが開いた。
さっきの裏口の白い煙って、ドアだけを温めた蒸気だったんだと思いながら、私たちは外に出た。
私と一緒に清水を汲んでいる吉四六が申し訳無さそうに、
「すみません。あやかしがしょうもなくて……」
「主語がデカいよ、吉四六も祥太くんも怜那もしょうもなくないじゃん。卑下する必要全然無い。三人は私の大切なパートナーだから!」
とできるだけ明るく言うことにした。
相当吉四六が心を痛めているようだったから。
別に本当、吉四六がそんなに悩む必要無いのに。自分たちがカフェにいることを責任感じているような言いっぷり。
黙った吉四六にもう一声掛けておくかと思って、
「私は吉四六がいてくれて助かっているよ、私が好きと言うだけじゃダメかな? 私は吉四六も祥太くんも怜那も大好きだよ!」
すると吉四六が小声で、
「助かります」
と答えて、まだ何だか意味深なんだけども、それ以降はいつもの顔で清水汲みをしてくれたので良かった。
カフェに戻って店の前に清水を置いて、すぐに家へ行こうとするとショタヌキが、
「カセットボンベですよね! 持ってきています!」
とカフェの中から聞こえて、カフェに戻ると、ショタヌキがテーブルに置いてあるカセットボンベを両手でこちらとやっていた。
「祥太くん! ナイス!」
とサムズアップしてから、早速清水をカセットボンベで沸騰させ始めた。
それにしても、カフェはこんな状況なのに、一人も家に帰ったりしていない。
ずっとカフェで私たちのことを待っている。私だったら帰るけどな。野次馬根性? それとも信頼されている? 後者だったらいいなぁ、まあ私はでも帰るけども。
うちのコーヒーメーカーは機械でやる、カセットのヤツなんだけども、その入れ替え分のコーヒーの粉カセットをハサミで開けて、キッチンペーパーをこすモノの代わりにして、それでコーヒーを入れていく。
何かちょっと雑だけども、これでコーヒーはみんなに行き渡った。ちなみに値段のことは今日、度外視。多分請求しないと思う。カスじいにお金とか難し過ぎて分からないと思うので。
次はちょっとした料理に挑戦だ。野菜も凍っていて、包丁で切るのは難しいので、ピーラー人参、ピーラー大根で薄くカットしていく。
そこで冷蔵庫に入っていない調味料で味付けていくわけだけども、醤油とかめんつゆは普通に凍っていて、溶けたあとの品質とかもう最悪じゃんと思いながら、凍っていても削り取ることができた味噌を使って、カセットボンベで炒めていく。
冷暗所に置いていた一味唐辛子は凍っていなかったので、それを振りかけて、栄養面がこのままだとイマイチなのでスキムミルクを大匙1入れてみた。
最近のスキムミルクは昔のただの脱脂粉乳と違い、味が調節されているので、随分美味しくなっている。
最後に水と片栗粉を少し入れて、とろみをつけさせて完成だ。
「大根麺の味噌ぬめり、おあがりよ!」
こんな料理は基本無いので、クソ料理名になってしまった。
味噌と牛乳は合うことが証明されているので、まあかなり保守的な料理なんだけども、それなりに美味しそうな香りがしている。
一味唐辛子が入っているので、辛みによって体が芯から温まるだろう。
それをみんなで分け合って食べて、コーヒーも飲んでいるわけだから当然カフェなわけで。
カスじいのほうを見ると、黙って俯いているだけ。
私は小声で怜那へ、
「負け認めた感じかな?」
「う~ん、どうだろう、カスじいは駄々こねるほうだからまだかも」
怜那発のカスじいはダメだろ、と思いつつ、
「じゃあもう一丁やるかぁ」
と今度は長ネギを切らずにそのままカセットボンベの火で焼き始める。
そもそも長ネギは凍っていても包丁で切れるもんだけども、ここはあえて直火で焼く。
この焼けていく様もエンターテインメントになるから。
焦げがついてきたところで、味噌を塗って、さらに焼く。
すると焦げた味噌の美味しい香りがふぁ~と広がり、全員の鼻孔を突く。
こうなったところでまな板に置いて、包丁で切ってみんなに配る。
結局こういうのが旨いんだよ、みたいな、こういうのが旨いんだよおじさんと化した私たちは、味噌焼きネギにがっついた。
「とろとろして甘い!」
「味噌の香り最高!」
口々に感想を言ってくれる常連さんたち。ノリが良くて助かる。
するとカスじいが急に叫んだ。
「いやワシにも配らんかい! どんなカフェだよ! 失格です!」
すると怜那が一瞥するような感じでこう言った。
「いやカスじいは人間界のお金持ってないだろ」
やっぱりカスじいにとってはお金ということが難しかったようだ。
すると和装のお客さんがこう言った。
「こんな状況でもカフェできるんですから、ここはもはや何かあった時の避難先で決定ですね」
カスじいはぐうの音も出ないといった顔をしてから、無言で立ち去った。敗北宣言とかしないで。
「カスがっ」
と呟いたのは私ではなくて怜那だった。私だと思ったじゃん。
まあ今回も撃退できたってわけだけども、この凍ったことにより品質が落ちる調味料とか、これから氷を落としていく作業とかどうする? みたいな顔を私はしてしまったのだろう。
怜那が本当に心苦しいという面持ちで、
「すみません! ここからは竜神の尻ぬぐいをしてください!」
と言うと、私はすぐに、
「いや! そんなんはカフェの店主として当然というか!」
と声をあげると同時に常連さんたちが、
「俺たちも手伝っていいか!」
「そうそう! 卯愛さんのちゃんとした料理も食べたいし!」
「私たちもガンバっちゃうよ」
と次々と言ってくださって、本当に有難かった。
でも何よりも怜那が胸をなでおろしていた。
ショタヌキもやる気満々でまあ当然だけど嬉しいし、でも、吉四六だけはまだ心が晴れていない顔をしていたので、私は優しく背中を叩いて、
「大丈夫だよ」
と声を掛けておいた。
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