異世界ツッコミファンタジー

青西瓜

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【夢の話】

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・【夢の話】


 お笑い芸人になって司会者をして、テレビ番組で活躍したい。
 僕は夜、ベッドの中に入るといつもこのことを考える。
 でも今の現状を考えれば、そんなことは夢のまた夢で。
 小学校ですら喋ることのできない僕がテレビ番組で喋るなんて不可能だ。
 僕は引っ込み思案だ。
 大きな声も出せない。
 いや、小さな声だって出せない。
 何か言わないとダメなことは分かっているけども、何も言い出せないんだ。
 もし僕の一言で誰か傷ついてしまったら、どうしよう。
 そんな重いことじゃなくても、空気を乱してしまったら、どうしよう。
 おかしいね。
 何も言い出さないことが一番空気を乱しているのに。
 司会者をしているお笑い芸人が羨ましい。
 僕の持っていないモノを全部持っていて、そして僕のしたいことを全てしている。
 話したい人がいたらそっちに話題を振って、誰かボケたら思い切りツッコんで。
 だから僕は空想をする。
 僕が司会者をやる空想だ。
 僕の左右にお笑い芸人やタレント、番宣の俳優がいて、話題のテーマに合った話をどんどん振っていく。
 困っていたら助け舟を出して、場合によっては僕だってボケるんだ。
 それを他のお笑い芸人にツッコんでもらって、他のお笑い芸人がボケたらツッコんで。
 そうやって1時間の番組を作り上げるんだ。
 時に出てきた料理に食リポして、時に出てきた罰ゲームに良いリアクションして、VTRに映った情報に良い顔で頷いて。
 何でもできる司会者になる夢。
 でもまずはツッコミからだと思う。
 僕はツッコミをやりたい。
 心の中ではいろんな言葉が浮かぶ。
 でもそれを表に出すことができない。
 もしそのツッコミが声に出せたら、きっと僕だってヒーローになれるはずなんだ。
 そんなことを考えながら、僕は夢を見た。
 不思議な夢だ。
 そこは多分異世界ってヤツで、毛むくじゃらの一つの目の熊のようなモンスターと剣を使って闘おうとしている女の子が目の前にいた。
「どこから来たのっ! 君は! 私の後ろで座っていて! 私がこのモンスターを倒すから!」
 僕より少し年上のお姉さんといった女の子は、僕をかばった。
「大丈夫! 私は魔王の生まれ変わりだから強いの! ほら魔王の生まれ変わりだから肌が紫色!」
 ……全然普通に僕と同じ肌の色だった。
 あれ、これ、ボケているのかな、こんな非常事態なのにボケているのかな、余裕な人だ。
 僕はツッコもうと思ったけども、何だか声が出なかった。
 夢の中なら僕はいくらでも声が出せるのに、おかしいなぁ。
 ……って、あれ? 今、僕、夢の中とか言ってる? 夢の中で。
 夢の中にいる時は夢の中がどうとかこうとか言わないはずなのに。
 女の子は僕のほうをチラッと見て、何も言わない感じを察したのだろう。
「おっと! 紫色という色は野菜に多い色で肌ではなかった! 紫色というのは何だか変わった味のする野菜にこそ相応しい色だった! 私は普通の人で紫色じゃない! 否! 普通の人ではない! 普通の人より強いから安心して!」
 自分で長々とツッコんだ。
 本当は僕がツッコんであげられれば良かったのになぁ。
「じゃあそろそろ闘っちゃうよ! 何故ならモンスターがずっとこっちの様子を爪立てて伺っているからね! ハッ!」
 そう言って剣を振りかざし、モンスターに直進していった女の子。
 モンスターが動くよりも早く剣を振り下ろし、ビシッとモンスターを斬った女の子。
 斬られたモンスターはみるみると小さくなっていき、シマリスほどのサイズになった。
「興奮状態で大きくなっていただけだもんね! ゴメン! ゴメン! 私が貴方の縄張りに不用意に入っちゃったばっかりに!」
 不用意に縄張りに入っちゃダメでしょ、と普通のツッコミが浮かんだけども、それも言えない。
 何故なら僕がそんなことを言ったら女の子が逆上するかもしれないから。
 とにかくこの女の子がどういう性格か分からないので、不用意に発言できない。
「さてと、君! 何か見たこと無い服と顔とズボンだね! オシャレでカッコイイけど誰なんだいっ?」
 そう言って僕を指差してきた女の子。
 服と顔とズボン……服と言っているわけだから、ズボンと改めて1つだけ言う必要は無い。
 何だろう、ボケているのかな、それともマジなのかな。
 と思っていると、女の子がハッとした表情をしてから、
「って! 服を言えばズボンは言わなくていいよね! 下半身のこと気になっている女の子みたいで怖かったよね! 私はナッツ! 君の名前は何て言うのっ?」
 どうやらまたわざとボケたらしい。
 何でボケるんだろう。
 あっ、これが僕の夢だから?
 でも夢の時に夢と思えないし、夢なら喋れるはずなのに、まるで現実のように言葉が出てこない。
 ナッツという女の子は続ける。
「あれ? 聞こえなかったかな? 私はナッツ! あっつい夏、略してナッツ! いつも気持ちはアツアツ・ハートだぜ!」
 そう言ってピースを目のあたりに持ってきて、可愛いポーズをとったナッツという女の子、というかナッツさん。
 いや気持ちはアツアツ・ハートって何、なんとなく言わんとしていることは分かるけども。
 しかし言葉が出せない、と思っていると、急に背中がチクッと痛くなって、つい僕は
「痛い!」
 と叫びながら振り返ると、その刹那、ナッツさんはすぐさま僕の後ろに回り込むと、
「デカ蜂だ!」
 と言いながらすぐさま剣を振り下ろして、そのデカ蜂と呼ばれたモノを斬った。
 すると、そのデカ蜂というまんま、デカい蜂のようなモンスターはまたさっきのモンスターのように小さくなった。
 これに刺されたんだ、と思っていると、ナッツさんは座っている僕の腕を引っ張り上げ、僕を立たせ、
「デカ蜂に刺されたら早く薬を塗らないと痕になっちゃうよ! 村に戻ろう!」
 と言って腕を引っ張って走り出した。
 別に死ぬわけではないんだと思ってホッとしているんだけども、背中はじんじん痛い。
 まるで本当に、現実に刺されたような痛さ。
 ナッツさんの走る速度は割と速く、僕は足がもつれそうだ。
 多分僕に合わせて、ゆっくり走ってくれていると思うんだけども、それでも正直足首が痛くなってくる。
 その痛みは本当に現実のような鈍痛で、何だか僕は徐々に嫌な予感を抱いていた。
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