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【僕たちのトーク】
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・【僕たちのトーク】
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僕はまだ薄暗い朝四時半から歩いて公園へ行った。
するとナッツさんはもうベンチに座って待っていた。
僕を見るなりナッツさんは指を差しながら、
「遅い!」
と言って笑った。
いや
「全然早いよ、僕もナッツさんも」
早速僕もベンチに座った。
ナッツさんは今か今かといった感じに、
「じゃ! 早くこの世界の話を教えて!」
「まずナッツさんの家にはテレビはあるの?」
「すごいいっぱい見た! ずっと見てたよ! あれ面白いね!」
「魔法使いを管理する組織の人からテレビは見たほうがいいとか言われたの?」
「それは言われた! とにかくこの世界を知るにはテレビだってさ!」
まあ確かに教材としてはネットほどには尖っていない、テレビが最適だろうなぁ。
ある程度向こう側から情報を選んでくれているし。
「魔法使いを管理する組織の人からこうするべきみたいな話を教えてもらった?」
「うん! 基本的に普通の人間より早く動くモノに当たるなって言われた! 私は当たっても大丈夫なんだけども普通の人は当たるとアウトらしいから!」
酷くザックリとした”しちゃダメなこと”だけども、何か納得できる。
この世界の法則に触れてしまうところは事前にいけないという話が渡っているみたいだ。
「じゃあ横断歩道とか、信号機とか教えてもらった?」
「それも教えてもらったよ! でも石じゃないモノが光って面白いね!」
「僕としたら石から火が出るほうが変だったよ」
「言ってくれれば良かったのに!」
まあ言っても何にもならないだろうから言わなかったけども、こういう常識の違いというモノはいっぱいあるだろうな。
でもいざ常識を教えないといけないってなった時、何を言えばいいか分からないなぁ。
なんせ常識というモノはもう体に染みついたモノなので、何を言えばいいのかが分からない。
う~んと唸って考えていると、
「早く! 早く! いろいろ教えてよ! 呼吸の仕方とか!」
「呼吸はもうしているはずだよ」
何だろう、やっぱり法律とかマナー・モラルになるのかな。
「まず人を無闇に攻撃してはいけない、とか」
「それは私の世界でもそうだったじゃない! 基本中の基本チュウ! チュウチュウ!」
「チュウはいらないよ、そんなネズミの真似をされても困るよ」
「もっとこの世界ならではの話をしてよ!」
ならでは、の話。
ならば、
「お金という概念は向こうの世界にもあったけども、お金の使い方は知っている?」
「それも教えてもらったよ! 結構金額がいっぱいあって覚えるの大変だったよ!」
じゃあ結構教えてもらっているんだなぁ。
ナッツさんは物覚えがいいほうなので、もう教えることとかないのかな?
えっと
「お店にあるモノは絶対お金を出して買わないといけないことは分かる?」
「うん、分かるよ。でも物々交換もいいんでしょ?」
「それはダメだよっ、物々交換がありの買い物屋さんは無いと思って大丈夫だよ」
「いやでも宝石とかならいいでしょー?」
そう言ってニッコリしたナッツさん。
いや
「宝石も一旦お金に換えないとダメだよ」
「えー、それは面倒だよ! こっちは宝石だよ! 水が出る石だよ!」
「あと多分違う世界間の道具の持ち込みもダメだと思うよ」
「それはダメだって言われた、服以外」
まあ服はいいだろうなぁ、いちいち着替えるのは変だから。
あとはそうだなぁ、
「あんまり他の世界から来たことは言わないほうがいいかもしれない」
「それは教えてもらった! 魔法使いを管理する組織共々言っちゃいけないって!」
「あと何だろう、マナーとしてはあんまりモノや人にベタベタ触っちゃいけないというのはあるかもしれない」
「えっ? じゃあタケルの手を握ったりしちゃダメなのっ!」
と言いながら僕の手を握ってきたナッツさん。
いや
「親しい仲なら大丈夫だけども、急に人の肩を叩いたり、売っているモノをただただ触るとかはダメかな?」
「なるほど、そうだったのかぁ……あっ、タケルには触っていいのね!」
「いやまあ一応大丈夫だけども」
手を離したナッツさんは拳を握りながら、
「珍しいモノはつい触っちゃうけども、それは止めたほうがいいみたいだね!」
「そうだね、あんまり触っていると変に思われるかもしれない」
「決して触りすぎて龍に変化するからとかじゃないよね?」
「全然そんな変化とかはないよ、というか龍って突拍子が無さすぎるよ」
それにうんうん頷きながらナッツさんは、
「じゃあ水は? 触りすぎて水に変化する、は?」
「液体もある意味龍より突拍子が無いよ、まあ氷は触りすぎて水になることがあるけども」
「熱くなったりとかはしないかな」
「熱くなったりは意外とするよ、熱がこもるが理由だけども」
「いろいろあるなぁ」
と言って天を眺めたナッツさん。
でもそうだ、
「こうやってマナーやモラルの話を説明していく漫才っていいかもしれないね、ナッツさんも覚えることができるし」
「それすごくいいね! じゃあどんどんそのマナーやモラルという話をしてよ!」
そこから僕はいろんなそういう話をしていった。
ナッツさんんは頷きながら、そして時にメモをしながら僕の話を聞き、またナッツさんは要所要所でボケていった。
時間はいつの間にか登校する時間になり、僕は自分で作ってきていたおにぎりを食べてから、一緒に学校へ登校した。
教室に入るなりナッツさんは叫んだ。
「みんな覚えたっ? ナッツだよ!」
僕はすぐさま
「スタートが荒すぎるよ!」
とツッコむと、クラスメイトたちがウケて良かった。
クラスメイトたちは口々に「仲良いね」と言い、それに対してナッツさんは「勿論だよ!」というツッコミのような返答をした。
そんなやり取りにクラスメイトの一人が、
「何だか漫才みたいだね」
と言うとすぐさまナッツさんはこう言った。
「そうそう! 私とタケルで漫才コンビをすることにしたんだ!」
その言葉に沸くクラスメイトたちはこんなことを言い出した。
「今すぐ漫才してみて!」
「見たい見たい!」
「どんな漫才か楽しみ!」
いや漫才はまだ全然できていないけども、と言おうと思ったらナッツさんが、
「じゃあ早速やってみようか!」
と目を輝かせながら、こっちを見てきた。
いや
「まだネタもできていないじゃない」
「でも朝のやり取りは私結構覚えてるよ!」
「いやまあツッコミはボケの台詞に合わせて言うだけだから、ナッツさんができるのならば、だけども」
「できる!」
そう言って拳を強く天に掲げたナッツさん。
ナッツさんはもうやる気満々だ。
いやそれ以上にクラスメイトたちが見る気満々だ。
正直後には引けないような状況。
あとは僕が大丈夫か、だ……なんて悠長なことは言ってられないような状況。
僕は人に注目された状態で喋れるかどうか不安だったけども、ナッツさんが今朝僕が教えたように喋り出した。
「はいどうも! よろしくお願いします! ナッツです! 前世はタケルです!」
「いや時系列どうなっているんだ、タケルは相方の僕です。よろしくお願いします」
もうナッツさんが喋り出してしまったから止まらない。
ナッツさんは楽しそうに続ける。
「私、マナーやモラルが無いほうでやらせてもらっているから、いろいろ教えてほしいんだっ」
「無いほうなんて無いけども、まあ僕が教えられることならば」
一応僕も言葉がスラスラ出てくる。
でもよくよく考えたら当たり前だ。
僕はナッツさんの世界で、大人と対等に会話してきたんだから。
「じゃあまず交通マナーというヤツを教えてほしいなぁ、あの、自動車がぷるぷる動くところ」
「何かゼリーの擬音みたいだけども、自動車がビュンビュン走るところね。まず信号機、赤は止まるで青は進む」
「そして虹色は浮く、ね」
「虹色なんてないし、浮く動作は人間に不可能だよ!」
ナッツさんはイキイキと喋っている。
本当にボケることが楽しいみたいだ。いやまあ知っているけども。
ナッツさんは何かを思い出そうとするポーズをしながら、
「でも他にもう一色あったような? 何色だっけ? ジュース?」
「ジュースは素材によってそれぞれの色でしょ! 黄色だよっ」
「あぁ、オナラのジュースねっ」
「ジュースは関係無い上にオナラをジュースにする技術は無いよ! 黄色は注意しろ、だね」
「えっ? 命令形なのっ? 断る!」
「断らないで! とにかく注意しないといけないってことだから!」
クラスメイトたちは結構笑ってくれている。
そのおかげで僕も必要以上に緊張しないで済んでいる。
でもそれもナッツさんの明るさがあってのことだと思う。
ナッツさんが喋るだけで空気が整うというか、天性の陽気さがあると思う。
「じゃあ赤色止まる、青色進む、黄色は注意して下さい、本当によろしくお願いします、あっ、これ粗品です……だね!」
「いや粗品までいくともう違う! へりくだり想像はしていいけども粗品はもらえない!」
「止まってる時に使って下さい。タバコです」
「粗品がタバコの時なんてないよ! というかタバコは二十歳にならないとダメだから!」
ここでナッツさんがうまいことテーマを変えてくれた。
やっぱりナッツさんは頭の回転が早いと思う。
「タバコって二十歳にならないとダメだなんて知らなかった。じゃあ私が飼っていたタバコは逃がすね」
「そんなペットみたいに言われても! というかペットも動物だったら逃がしちゃダメだからね!」
「いやでも私よりも良い人に飼われてね、って、山に吸っていたタバコを逃がすよ」
「いろんなダメなヤツがごっちゃになっているよ! 吸っていたタバコは本当にダメ! 火を消してゴミ箱に捨てて!」
ナッツさんは小首を傾げている演技をしながら、
「結局どこからどこまでがダメだったの?」
「全部だよ! 粗品がタバコもアウトだよ!」
「それだけは認めない!」
「マナーに認めるとかないんだよ! 全部了承するもんなんだよ! マナーって!」
「じゃあアンチ・マナーになります」
「それは絶対ダメ! もういいよ!」
「「どうもありがとうございました!」」
最後は2人でちゃんとユニゾンして挨拶することができた。
クラスメイトたちにも大ウケで大成功のまま終わった。
そこから僕たちは漫才キャラになって、いつでもボケツッコミをするようになっていった。
そんなある日、事件が起きた。
それは僕たちのクラスではないんだけども、他のクラスで漫才を模倣したイジメが起きたのだ。
学校の先生がこう注意喚起した。
「今、無理やり生徒同士に漫才をさせて笑い物にするイジメが起きています。うちのクラスはまだ流行っていませんが、他のクラスではそういったイジメがあると聞きます。皆さん、当事者にならないようにして下さい」
放課後、僕とナッツさんは校庭の隅で話した。
「こういう時こそ魔法の使いどころだと思う! 私が懲らしめてやるんだから!」
「ちょっとナッツさん、暴力で解決は良くないと思うよ」
「でも体で分からせるのも方法の1つだと思う!」
「それだとずっとナッツさんが誰かを傷つけ続けるようなことになると思うよ」
「じゃあどうすればいいんだ!」
頭を抱えてしまったナッツさん。
ここはまず
「正攻法でやってみることがいいと思います」
「……正攻法って? タケル! また何か良い案が浮かんだのっ?」
そう言いながら抱きついてきたナッツさんにドギマギしてしまった僕。
僕は一旦ナッツさんから離れてから、こう言った。
「そんなイジメよりも絶対に僕たちのほうが面白い、と言い張るんだ。結局イジメはイジメている側からしたら暇つぶしなんだ。だから僕らがそれ以上に暇つぶしになればいい」
「なるほど……でも具体的にどうするの?」
「今まで僕たちはクラスの中だけで漫才をしていたけども、定期的に全校生徒の前で漫才をして、面白がってもらえばいいんじゃないかなと思っている」
分かっている。
これは僕に負担が掛かることだって。
きっとナッツさんは度胸も据わっているし、全校生徒の前で漫才することになっても、いつも通りボケることができるだろう。
でも僕はどうだろうか。
果たして今まで通り上手くいくだろうか?
でもやらなければ。
僕はお笑い芸人になって司会者をやりたいんだ。
こんなところで躓いてられない。
というかこれをチャンスに変える。
「ナッツさん、先生方に直談判へ行きましょう」
「さすが! タケル! それでいこう!」
僕たちは、善は急げといった感じに職員室へ行った。
まだ残っている先生もいるはずだから。
・【僕たちのトーク】
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僕はまだ薄暗い朝四時半から歩いて公園へ行った。
するとナッツさんはもうベンチに座って待っていた。
僕を見るなりナッツさんは指を差しながら、
「遅い!」
と言って笑った。
いや
「全然早いよ、僕もナッツさんも」
早速僕もベンチに座った。
ナッツさんは今か今かといった感じに、
「じゃ! 早くこの世界の話を教えて!」
「まずナッツさんの家にはテレビはあるの?」
「すごいいっぱい見た! ずっと見てたよ! あれ面白いね!」
「魔法使いを管理する組織の人からテレビは見たほうがいいとか言われたの?」
「それは言われた! とにかくこの世界を知るにはテレビだってさ!」
まあ確かに教材としてはネットほどには尖っていない、テレビが最適だろうなぁ。
ある程度向こう側から情報を選んでくれているし。
「魔法使いを管理する組織の人からこうするべきみたいな話を教えてもらった?」
「うん! 基本的に普通の人間より早く動くモノに当たるなって言われた! 私は当たっても大丈夫なんだけども普通の人は当たるとアウトらしいから!」
酷くザックリとした”しちゃダメなこと”だけども、何か納得できる。
この世界の法則に触れてしまうところは事前にいけないという話が渡っているみたいだ。
「じゃあ横断歩道とか、信号機とか教えてもらった?」
「それも教えてもらったよ! でも石じゃないモノが光って面白いね!」
「僕としたら石から火が出るほうが変だったよ」
「言ってくれれば良かったのに!」
まあ言っても何にもならないだろうから言わなかったけども、こういう常識の違いというモノはいっぱいあるだろうな。
でもいざ常識を教えないといけないってなった時、何を言えばいいか分からないなぁ。
なんせ常識というモノはもう体に染みついたモノなので、何を言えばいいのかが分からない。
う~んと唸って考えていると、
「早く! 早く! いろいろ教えてよ! 呼吸の仕方とか!」
「呼吸はもうしているはずだよ」
何だろう、やっぱり法律とかマナー・モラルになるのかな。
「まず人を無闇に攻撃してはいけない、とか」
「それは私の世界でもそうだったじゃない! 基本中の基本チュウ! チュウチュウ!」
「チュウはいらないよ、そんなネズミの真似をされても困るよ」
「もっとこの世界ならではの話をしてよ!」
ならでは、の話。
ならば、
「お金という概念は向こうの世界にもあったけども、お金の使い方は知っている?」
「それも教えてもらったよ! 結構金額がいっぱいあって覚えるの大変だったよ!」
じゃあ結構教えてもらっているんだなぁ。
ナッツさんは物覚えがいいほうなので、もう教えることとかないのかな?
えっと
「お店にあるモノは絶対お金を出して買わないといけないことは分かる?」
「うん、分かるよ。でも物々交換もいいんでしょ?」
「それはダメだよっ、物々交換がありの買い物屋さんは無いと思って大丈夫だよ」
「いやでも宝石とかならいいでしょー?」
そう言ってニッコリしたナッツさん。
いや
「宝石も一旦お金に換えないとダメだよ」
「えー、それは面倒だよ! こっちは宝石だよ! 水が出る石だよ!」
「あと多分違う世界間の道具の持ち込みもダメだと思うよ」
「それはダメだって言われた、服以外」
まあ服はいいだろうなぁ、いちいち着替えるのは変だから。
あとはそうだなぁ、
「あんまり他の世界から来たことは言わないほうがいいかもしれない」
「それは教えてもらった! 魔法使いを管理する組織共々言っちゃいけないって!」
「あと何だろう、マナーとしてはあんまりモノや人にベタベタ触っちゃいけないというのはあるかもしれない」
「えっ? じゃあタケルの手を握ったりしちゃダメなのっ!」
と言いながら僕の手を握ってきたナッツさん。
いや
「親しい仲なら大丈夫だけども、急に人の肩を叩いたり、売っているモノをただただ触るとかはダメかな?」
「なるほど、そうだったのかぁ……あっ、タケルには触っていいのね!」
「いやまあ一応大丈夫だけども」
手を離したナッツさんは拳を握りながら、
「珍しいモノはつい触っちゃうけども、それは止めたほうがいいみたいだね!」
「そうだね、あんまり触っていると変に思われるかもしれない」
「決して触りすぎて龍に変化するからとかじゃないよね?」
「全然そんな変化とかはないよ、というか龍って突拍子が無さすぎるよ」
それにうんうん頷きながらナッツさんは、
「じゃあ水は? 触りすぎて水に変化する、は?」
「液体もある意味龍より突拍子が無いよ、まあ氷は触りすぎて水になることがあるけども」
「熱くなったりとかはしないかな」
「熱くなったりは意外とするよ、熱がこもるが理由だけども」
「いろいろあるなぁ」
と言って天を眺めたナッツさん。
でもそうだ、
「こうやってマナーやモラルの話を説明していく漫才っていいかもしれないね、ナッツさんも覚えることができるし」
「それすごくいいね! じゃあどんどんそのマナーやモラルという話をしてよ!」
そこから僕はいろんなそういう話をしていった。
ナッツさんんは頷きながら、そして時にメモをしながら僕の話を聞き、またナッツさんは要所要所でボケていった。
時間はいつの間にか登校する時間になり、僕は自分で作ってきていたおにぎりを食べてから、一緒に学校へ登校した。
教室に入るなりナッツさんは叫んだ。
「みんな覚えたっ? ナッツだよ!」
僕はすぐさま
「スタートが荒すぎるよ!」
とツッコむと、クラスメイトたちがウケて良かった。
クラスメイトたちは口々に「仲良いね」と言い、それに対してナッツさんは「勿論だよ!」というツッコミのような返答をした。
そんなやり取りにクラスメイトの一人が、
「何だか漫才みたいだね」
と言うとすぐさまナッツさんはこう言った。
「そうそう! 私とタケルで漫才コンビをすることにしたんだ!」
その言葉に沸くクラスメイトたちはこんなことを言い出した。
「今すぐ漫才してみて!」
「見たい見たい!」
「どんな漫才か楽しみ!」
いや漫才はまだ全然できていないけども、と言おうと思ったらナッツさんが、
「じゃあ早速やってみようか!」
と目を輝かせながら、こっちを見てきた。
いや
「まだネタもできていないじゃない」
「でも朝のやり取りは私結構覚えてるよ!」
「いやまあツッコミはボケの台詞に合わせて言うだけだから、ナッツさんができるのならば、だけども」
「できる!」
そう言って拳を強く天に掲げたナッツさん。
ナッツさんはもうやる気満々だ。
いやそれ以上にクラスメイトたちが見る気満々だ。
正直後には引けないような状況。
あとは僕が大丈夫か、だ……なんて悠長なことは言ってられないような状況。
僕は人に注目された状態で喋れるかどうか不安だったけども、ナッツさんが今朝僕が教えたように喋り出した。
「はいどうも! よろしくお願いします! ナッツです! 前世はタケルです!」
「いや時系列どうなっているんだ、タケルは相方の僕です。よろしくお願いします」
もうナッツさんが喋り出してしまったから止まらない。
ナッツさんは楽しそうに続ける。
「私、マナーやモラルが無いほうでやらせてもらっているから、いろいろ教えてほしいんだっ」
「無いほうなんて無いけども、まあ僕が教えられることならば」
一応僕も言葉がスラスラ出てくる。
でもよくよく考えたら当たり前だ。
僕はナッツさんの世界で、大人と対等に会話してきたんだから。
「じゃあまず交通マナーというヤツを教えてほしいなぁ、あの、自動車がぷるぷる動くところ」
「何かゼリーの擬音みたいだけども、自動車がビュンビュン走るところね。まず信号機、赤は止まるで青は進む」
「そして虹色は浮く、ね」
「虹色なんてないし、浮く動作は人間に不可能だよ!」
ナッツさんはイキイキと喋っている。
本当にボケることが楽しいみたいだ。いやまあ知っているけども。
ナッツさんは何かを思い出そうとするポーズをしながら、
「でも他にもう一色あったような? 何色だっけ? ジュース?」
「ジュースは素材によってそれぞれの色でしょ! 黄色だよっ」
「あぁ、オナラのジュースねっ」
「ジュースは関係無い上にオナラをジュースにする技術は無いよ! 黄色は注意しろ、だね」
「えっ? 命令形なのっ? 断る!」
「断らないで! とにかく注意しないといけないってことだから!」
クラスメイトたちは結構笑ってくれている。
そのおかげで僕も必要以上に緊張しないで済んでいる。
でもそれもナッツさんの明るさがあってのことだと思う。
ナッツさんが喋るだけで空気が整うというか、天性の陽気さがあると思う。
「じゃあ赤色止まる、青色進む、黄色は注意して下さい、本当によろしくお願いします、あっ、これ粗品です……だね!」
「いや粗品までいくともう違う! へりくだり想像はしていいけども粗品はもらえない!」
「止まってる時に使って下さい。タバコです」
「粗品がタバコの時なんてないよ! というかタバコは二十歳にならないとダメだから!」
ここでナッツさんがうまいことテーマを変えてくれた。
やっぱりナッツさんは頭の回転が早いと思う。
「タバコって二十歳にならないとダメだなんて知らなかった。じゃあ私が飼っていたタバコは逃がすね」
「そんなペットみたいに言われても! というかペットも動物だったら逃がしちゃダメだからね!」
「いやでも私よりも良い人に飼われてね、って、山に吸っていたタバコを逃がすよ」
「いろんなダメなヤツがごっちゃになっているよ! 吸っていたタバコは本当にダメ! 火を消してゴミ箱に捨てて!」
ナッツさんは小首を傾げている演技をしながら、
「結局どこからどこまでがダメだったの?」
「全部だよ! 粗品がタバコもアウトだよ!」
「それだけは認めない!」
「マナーに認めるとかないんだよ! 全部了承するもんなんだよ! マナーって!」
「じゃあアンチ・マナーになります」
「それは絶対ダメ! もういいよ!」
「「どうもありがとうございました!」」
最後は2人でちゃんとユニゾンして挨拶することができた。
クラスメイトたちにも大ウケで大成功のまま終わった。
そこから僕たちは漫才キャラになって、いつでもボケツッコミをするようになっていった。
そんなある日、事件が起きた。
それは僕たちのクラスではないんだけども、他のクラスで漫才を模倣したイジメが起きたのだ。
学校の先生がこう注意喚起した。
「今、無理やり生徒同士に漫才をさせて笑い物にするイジメが起きています。うちのクラスはまだ流行っていませんが、他のクラスではそういったイジメがあると聞きます。皆さん、当事者にならないようにして下さい」
放課後、僕とナッツさんは校庭の隅で話した。
「こういう時こそ魔法の使いどころだと思う! 私が懲らしめてやるんだから!」
「ちょっとナッツさん、暴力で解決は良くないと思うよ」
「でも体で分からせるのも方法の1つだと思う!」
「それだとずっとナッツさんが誰かを傷つけ続けるようなことになると思うよ」
「じゃあどうすればいいんだ!」
頭を抱えてしまったナッツさん。
ここはまず
「正攻法でやってみることがいいと思います」
「……正攻法って? タケル! また何か良い案が浮かんだのっ?」
そう言いながら抱きついてきたナッツさんにドギマギしてしまった僕。
僕は一旦ナッツさんから離れてから、こう言った。
「そんなイジメよりも絶対に僕たちのほうが面白い、と言い張るんだ。結局イジメはイジメている側からしたら暇つぶしなんだ。だから僕らがそれ以上に暇つぶしになればいい」
「なるほど……でも具体的にどうするの?」
「今まで僕たちはクラスの中だけで漫才をしていたけども、定期的に全校生徒の前で漫才をして、面白がってもらえばいいんじゃないかなと思っている」
分かっている。
これは僕に負担が掛かることだって。
きっとナッツさんは度胸も据わっているし、全校生徒の前で漫才することになっても、いつも通りボケることができるだろう。
でも僕はどうだろうか。
果たして今まで通り上手くいくだろうか?
でもやらなければ。
僕はお笑い芸人になって司会者をやりたいんだ。
こんなところで躓いてられない。
というかこれをチャンスに変える。
「ナッツさん、先生方に直談判へ行きましょう」
「さすが! タケル! それでいこう!」
僕たちは、善は急げといった感じに職員室へ行った。
まだ残っている先生もいるはずだから。
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表紙イラストは今市阿寒様です。
絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。
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