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【漫才】
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・【漫才】
・
「なるほど、自分たちの面白さでイジメをかき消すか。それができれば理想だろうな」
職員室にいた、とある先生は顎に手を当てながら、そう言った。
ナッツさんは力強い瞳で、
「お願いします! 私とタケルが漫才をするステージを用意して下さい!」
先生はう~んと唸ってから、
「でもそうすることにより、君たちがイジメのターゲットになるかもしれないよ」
それに対してはすぐさまナッツさんがこう言った。
「大丈夫です! 私は強いし、私はタケルの用心棒でもあるので!」
いや急にそんなこと言っても分かりづらいでしょ、と思いつつ、僕は、
「ナッツさんは確かに体も強いですし、僕も護身術程度には習っていましたから、イジメには負けません……って、暴力で、じゃなくて心も負けないつもりです。というか全部笑いに変えます」
そう、僕も向こうの世界でクラッチさんから護身術は習わせてもらっていた。
勿論そんな闘う前提じゃなくて、ちゃんと笑いに変えてやる自信はある。
というかこんな学校程度で潰れていちゃお笑い芸人になんてなれないだろう。
修行の場だと思って。
僕はもう心に決めていた。
僕とナッツさんをじっと見る先生は深呼吸をしてから、こう言った。
「よしっ、じゃあ一応校長先生に伝えておくから。もし校長先生がOKを出さなければ、今度は俺と一緒に校長先生に直談判しよう」
ナッツさんは嬉しそうに飛び跳ねた。
僕はあえて喜びを前面に出さず、静かに頷いた。
なんせこれは遊びじゃない、勝負だから。
その日はもう下校して、次の日の昼休みの時間。
僕とナッツさんは職員室に呼び出された。
するとあの先生と校長先生がいて、校長先生が、
「今度の金曜日の全校集会の時、タケルさんと夏さんで漫才をすることを認めます。というより、よろしくお願いします」
許可も得て、ニコニコしながら僕の手を握ってきたナッツさん。
僕はナッツさんにこう言った。
「やるからには全力で、イジメよりも僕たちのほうが面白いということを分かってもらおう」
「勿論! 絶対頑張るんだから!」
それから全校集会の金曜日までの3日間、昼休みと放課後は勿論、中休みも漫才の練習をした。
クラスメイトたちが話しかけてくることもあったけども、それも漫才の練習になるので率先してボケツッコミをした。
そして当日の全校集会の舞台袖で、僕は少し震えていた。
やっぱりいつもとは違う緊張感。
これが成功しなければきっと次も無いだろう。
その一発勝負感がなおさら自分を緊張させていた。
するとナッツさんが僕の背中を優しく叩きながら、
「大丈夫! タケルはいつも最高だから! いつも通りよろしくね!」
と言って笑った。
そうだ、このナッツさんの笑顔があれば僕はいくらでも頑張れるんだ。
ナッツさんがいてくれるだけで気分は百人力だ。
よしっ、
「ありがとう、ナッツさん。漫才頑張りましょう!」
「その意気! 一緒に最高の漫才をしよう!」
司会をしていた放送委員から僕たちのコンビ名”魔法”が呼び込まれた。
僕とナッツさんは走って舞台上にあるセンターマイクへ向かって走っていった。
「「はいどうも! よろしくお願いします! 魔法です!」」
「いつも元気で肩が外れているナッツです!」
「肩が外れていたら元気じゃないよっ、僕はタケルです。よろしくお願いします」
掴みはそこそこのウケ。
悪くないスタートだ。
「私ってマナーに詳しくないからタケルに教えてもらいたいんだよね、手話で」
「僕は手話に詳しくないから、そこは普通に口頭で教えるね」
「データで脳内に送ってくれてもいいよっ」
「ナッツさんはコンピュータじゃないから、普通に言葉でいきましょう」
さてここから漫才の本題だ。
ちゃんとウケるかどうかドキドキしてきたけども、それはもう止めよう。
今は考えてきたこと、練習してきたことを間違わずにやるだけの時間だ。
「横断歩道というシステムがイマイチまだ理解できないんだ、あんなにアスファルトを白く塗って大丈夫なのっ?」
「言うほど塗っていないから大丈夫だよ、横断歩道はまず信号に準ずること」
「信号ってあの、赤進む・青注意・黄止まるのヤツ?」
「全部違う! 赤止まる・青進む・黄注意ですね。あと横断歩道には黄ないです」
ナッツさんは相変わらず緊張ゼロの自然体。
やっぱりナッツさんはすごいと思う。
まああんな魔法のある世界でモンスターと闘っていたんだからこれくらい訳ないか。
さて、僕は。
まだ心臓の高鳴りが止まらない。
いやいっそのこと止まらなくていい。この緊張感を楽しまなければ。
ナッツさんは大げさに驚きながら、
「横断歩道には黄無いのっ? そういう仲間外れって楽しいよね!」
「いやその考え方一番ダメだ! 仲間外れよりみんな友達のほうが楽しいじゃないですか!」
「じゃあみんなで一緒にビールかけでもしちゃおう!」
「ビールは二十歳になってからだし、ビールかけという文化も元々微妙だ! もったいない!」
ナッツさんは小首を傾げる演技をしながら、
「ビールって本当に二十歳からなのかなぁ?」
「いや疑わないでよ! 疑う余地は無いですから!」
ここからマナー・モラル・法律違反の畳みかけに入る。
「信号機の黄って実はビールで、黄はビールを飲んで休むとかじゃないよねっ?」
「絶対違います! 二十歳以下の人も、運転している全年齢も絶対アウトだよ!」
「じゃあビールは諦めます。でもタバコは良いよねっ! 煙が出て面白いから!」
「煙が出て危ないという考え方を子供は持って下さい!」
「というか信号機どうこうよりも、渡りたい時に、手持ち花火を道路に放てば渡れるんじゃないのかな?」
「やり口が荒い! 花火は特定の場所でしかしちゃダメだし!」
もしかしたら物々しい漫才なのかもしれないけども、ナッツさんの明るさが雰囲気を柔らかくしている。それはナッツさんの才能だ。
じゃあ僕は、と思えば、まだ何も無いから、今は必死に食らいつくだけだ。
ナッツさんは快活な声で、
「というか信号機の色って花火の色では! 信号機を打ち上げ花火にしちゃおう!」
「信号機は設置のままにして! 信号機無いと大渋滞が起きますから!」
「でも大渋滞になれば逆に道を渡り放題かも、よしっ、大渋滞、起こします!」
「ダメだよ! 方法は問わず大渋滞を起こした時点で全てダメだよ!」
ナッツさんは可愛く舌を出してから、
「マナーって難しいね! もう脳内も大渋滞だよ!」
「そりゃナッツさんが勝手に難しくしているんですよ! 横断歩道は信号機を見て、最後は手を挙げて渡るんです!」
「手をあげるって、暴力ということ?」
「いやその手をあげるじゃないです! 普通にこうやって手を挙げるんです!」
そう言って僕は横断歩道を渡るように手を挙げる。
その僕の腕をナッツさんは掴み、
「捕まえました! コイツがイノシシ逃がしまくり事件の犯人です!」
「いや勝手に犯人に仕立て上げないで下さい! そういうのもモラル違反ですよ!」
そう言って手を下げる僕。
「タケル、逆に何していいの?」
「マナーとモラルと法律を違反しないこと全部OKです!」
「じゃあここでダンスすることは?」
「いいけども漫才のルールからは外れますね」
と言った瞬間からすぐさまダンスをし始めたナッツさん。
ナッツさんは運動神経抜群なのでアクロバットな、ヒップホップダンスを披露。
ただ漫才してもウケない可能性があるので、こういった動きがメインの保険も入れておいた。
案の定、今まで笑いに対しては少し鈍かった層が大きな反応を見せた。
その大きな反応を測れるのが僕の魔法だ。
僕はずっと全校生徒のハートマークを見ていた。
本当はもうちょっとローテンポと抑えたツッコミで漫才をする予定だったんだけども、周りのウケを見て、ちょっとテンポを上げて、かつ、ツッコミの声を大きくしていた。
そしてここのナッツさんのダンスで一気に鈍かった層も掴めた。
ここでプランはそのままのAからBに移行するツッコミに変えた。
「いや漫才のルールから躊躇無く外れた!」
プランAは僕が手で制止のポーズを出して、すぐさま止めるんだけども、ここからはプランB。
ナッツさんの動きで笑わせることをメインにした漫才だ。
ナッツさんは頭を床につけて、頭を軸に回転、いわゆるヘッドスピンをした。
それに対して僕はツッコむ。
「いやもう、ちょっとダンスするノリのルール越えてる! やりすぎのダンス!」
ナッツさんはここでバック宙をして、
「もう漫才じゃない! これが漫才じゃないというヤツだ! ダンスだよ! ただのダンスだよ!」
ナッツさんは膝に手を当ててゼェゼェ言う演技。
「やっぱり疲れた! めちゃくちゃ疲れてる! 無理しないで下さい!」
さらにナッツさんはしゃがんで、タバコを吸っているようなマイム。
「いやだからタバコはダメですから! そういう休み方は三十歳越えてからにして下さい!」
ナッツさんはそこからノーモーションで、床に一瞬手をついて跳ね起きをした。
「急に無理しないで下さい! その休み方からすることじゃない!」
ナッツさんは完全に立ち上がってからカカトを軸にクルクルと回転しまくり。
「いやここにきてシンプルなクルクル! バック宙とかの後では見劣りするよ!」
ナッツさんが回転を止めてから、
「こういうシンプルなクルクルはシンプルに目が回るから最後じゃないとダメなんだよ!」
と言いながら、あからさまに目が回っているような演技。
ふらふら舞台上を大きく使って動く姿に、会場は大ウケ。
逆に学校の先生方が心配のハートマークになってるけども、実際ナッツさんは大丈夫なので、そこは気にしなくていい。
僕は言う。
「もうナッツさん! 舞台袖に戻りましょう!」
僕がナッツさんに近寄って、そう言う。
もうセンターマイクという概念は無視だ。
ナッツさんは僕のほうを見ながら、一言。
「そうだね、このままだと漫才が落ちちゃう前に私が舞台上から落ちちゃう」
と言いながらステージ上から落ちて、ここで一番のウケ。
勿論、危なくない落ち方なので先生方もホッとしている。
僕はステージの上からナッツさんへ向かってこう言う。
「いや先に落ちちゃったから、もう終わりだよ!」
「そりゃそうだ!」
「「ありがとうございました!」」
と全校生徒の前で、その場で一礼してからナッツさんはヒョイとジャンプで、ステージ上にあがり、会場はちょっとした「おぉっ」という歓声。
僕とナッツさんは舞台袖に下がり、すぐにナッツさんはこう言った。
「これ上手くいったんじゃないのっ!」
「ナッツさん、ハートマークを確認していましたが、漫才自体は成功しました」
「やったぁ! タケルのおかげだね!」
「いえ、ナッツさんが明るくてアクロバットも最高だったおかげです」
それぞれ称え合い、僕たちの全校集会は終了した。
それからちょっとしたら、僕たちの小学校はそういう笑い物にするイジメが無くなった、と、先生から教えてもらった。
その分というかなんというか、僕とナッツさんは全校生徒からボケやツッコミを振られるようになった。
でもそのやり取り自体、僕もナッツさんも楽しんでいるし、こうやって人気者になれて、すごく嬉しい。
全てナッツさんのおかげだ。
今日もナッツさんと放課後一緒にいる。
そんな時、ナッツさんがこう言った。
「今度は私の世界にも漫才という形を伝えたいなぁ」
「じゃあ一緒に行きましょう、シューカさんにも会いたいですし」
「シューカさんはいいとしてっ、まあとにかく! また私の世界にも一緒に来てね! というか行こう!」
僕とナッツさんはしっかりと手を繋いだ。
この手は離したくない。
いや絶対離さない。
僕はナッツさんとずっと一緒にいたいから。
(了)
・【漫才】
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「なるほど、自分たちの面白さでイジメをかき消すか。それができれば理想だろうな」
職員室にいた、とある先生は顎に手を当てながら、そう言った。
ナッツさんは力強い瞳で、
「お願いします! 私とタケルが漫才をするステージを用意して下さい!」
先生はう~んと唸ってから、
「でもそうすることにより、君たちがイジメのターゲットになるかもしれないよ」
それに対してはすぐさまナッツさんがこう言った。
「大丈夫です! 私は強いし、私はタケルの用心棒でもあるので!」
いや急にそんなこと言っても分かりづらいでしょ、と思いつつ、僕は、
「ナッツさんは確かに体も強いですし、僕も護身術程度には習っていましたから、イジメには負けません……って、暴力で、じゃなくて心も負けないつもりです。というか全部笑いに変えます」
そう、僕も向こうの世界でクラッチさんから護身術は習わせてもらっていた。
勿論そんな闘う前提じゃなくて、ちゃんと笑いに変えてやる自信はある。
というかこんな学校程度で潰れていちゃお笑い芸人になんてなれないだろう。
修行の場だと思って。
僕はもう心に決めていた。
僕とナッツさんをじっと見る先生は深呼吸をしてから、こう言った。
「よしっ、じゃあ一応校長先生に伝えておくから。もし校長先生がOKを出さなければ、今度は俺と一緒に校長先生に直談判しよう」
ナッツさんは嬉しそうに飛び跳ねた。
僕はあえて喜びを前面に出さず、静かに頷いた。
なんせこれは遊びじゃない、勝負だから。
その日はもう下校して、次の日の昼休みの時間。
僕とナッツさんは職員室に呼び出された。
するとあの先生と校長先生がいて、校長先生が、
「今度の金曜日の全校集会の時、タケルさんと夏さんで漫才をすることを認めます。というより、よろしくお願いします」
許可も得て、ニコニコしながら僕の手を握ってきたナッツさん。
僕はナッツさんにこう言った。
「やるからには全力で、イジメよりも僕たちのほうが面白いということを分かってもらおう」
「勿論! 絶対頑張るんだから!」
それから全校集会の金曜日までの3日間、昼休みと放課後は勿論、中休みも漫才の練習をした。
クラスメイトたちが話しかけてくることもあったけども、それも漫才の練習になるので率先してボケツッコミをした。
そして当日の全校集会の舞台袖で、僕は少し震えていた。
やっぱりいつもとは違う緊張感。
これが成功しなければきっと次も無いだろう。
その一発勝負感がなおさら自分を緊張させていた。
するとナッツさんが僕の背中を優しく叩きながら、
「大丈夫! タケルはいつも最高だから! いつも通りよろしくね!」
と言って笑った。
そうだ、このナッツさんの笑顔があれば僕はいくらでも頑張れるんだ。
ナッツさんがいてくれるだけで気分は百人力だ。
よしっ、
「ありがとう、ナッツさん。漫才頑張りましょう!」
「その意気! 一緒に最高の漫才をしよう!」
司会をしていた放送委員から僕たちのコンビ名”魔法”が呼び込まれた。
僕とナッツさんは走って舞台上にあるセンターマイクへ向かって走っていった。
「「はいどうも! よろしくお願いします! 魔法です!」」
「いつも元気で肩が外れているナッツです!」
「肩が外れていたら元気じゃないよっ、僕はタケルです。よろしくお願いします」
掴みはそこそこのウケ。
悪くないスタートだ。
「私ってマナーに詳しくないからタケルに教えてもらいたいんだよね、手話で」
「僕は手話に詳しくないから、そこは普通に口頭で教えるね」
「データで脳内に送ってくれてもいいよっ」
「ナッツさんはコンピュータじゃないから、普通に言葉でいきましょう」
さてここから漫才の本題だ。
ちゃんとウケるかどうかドキドキしてきたけども、それはもう止めよう。
今は考えてきたこと、練習してきたことを間違わずにやるだけの時間だ。
「横断歩道というシステムがイマイチまだ理解できないんだ、あんなにアスファルトを白く塗って大丈夫なのっ?」
「言うほど塗っていないから大丈夫だよ、横断歩道はまず信号に準ずること」
「信号ってあの、赤進む・青注意・黄止まるのヤツ?」
「全部違う! 赤止まる・青進む・黄注意ですね。あと横断歩道には黄ないです」
ナッツさんは相変わらず緊張ゼロの自然体。
やっぱりナッツさんはすごいと思う。
まああんな魔法のある世界でモンスターと闘っていたんだからこれくらい訳ないか。
さて、僕は。
まだ心臓の高鳴りが止まらない。
いやいっそのこと止まらなくていい。この緊張感を楽しまなければ。
ナッツさんは大げさに驚きながら、
「横断歩道には黄無いのっ? そういう仲間外れって楽しいよね!」
「いやその考え方一番ダメだ! 仲間外れよりみんな友達のほうが楽しいじゃないですか!」
「じゃあみんなで一緒にビールかけでもしちゃおう!」
「ビールは二十歳になってからだし、ビールかけという文化も元々微妙だ! もったいない!」
ナッツさんは小首を傾げる演技をしながら、
「ビールって本当に二十歳からなのかなぁ?」
「いや疑わないでよ! 疑う余地は無いですから!」
ここからマナー・モラル・法律違反の畳みかけに入る。
「信号機の黄って実はビールで、黄はビールを飲んで休むとかじゃないよねっ?」
「絶対違います! 二十歳以下の人も、運転している全年齢も絶対アウトだよ!」
「じゃあビールは諦めます。でもタバコは良いよねっ! 煙が出て面白いから!」
「煙が出て危ないという考え方を子供は持って下さい!」
「というか信号機どうこうよりも、渡りたい時に、手持ち花火を道路に放てば渡れるんじゃないのかな?」
「やり口が荒い! 花火は特定の場所でしかしちゃダメだし!」
もしかしたら物々しい漫才なのかもしれないけども、ナッツさんの明るさが雰囲気を柔らかくしている。それはナッツさんの才能だ。
じゃあ僕は、と思えば、まだ何も無いから、今は必死に食らいつくだけだ。
ナッツさんは快活な声で、
「というか信号機の色って花火の色では! 信号機を打ち上げ花火にしちゃおう!」
「信号機は設置のままにして! 信号機無いと大渋滞が起きますから!」
「でも大渋滞になれば逆に道を渡り放題かも、よしっ、大渋滞、起こします!」
「ダメだよ! 方法は問わず大渋滞を起こした時点で全てダメだよ!」
ナッツさんは可愛く舌を出してから、
「マナーって難しいね! もう脳内も大渋滞だよ!」
「そりゃナッツさんが勝手に難しくしているんですよ! 横断歩道は信号機を見て、最後は手を挙げて渡るんです!」
「手をあげるって、暴力ということ?」
「いやその手をあげるじゃないです! 普通にこうやって手を挙げるんです!」
そう言って僕は横断歩道を渡るように手を挙げる。
その僕の腕をナッツさんは掴み、
「捕まえました! コイツがイノシシ逃がしまくり事件の犯人です!」
「いや勝手に犯人に仕立て上げないで下さい! そういうのもモラル違反ですよ!」
そう言って手を下げる僕。
「タケル、逆に何していいの?」
「マナーとモラルと法律を違反しないこと全部OKです!」
「じゃあここでダンスすることは?」
「いいけども漫才のルールからは外れますね」
と言った瞬間からすぐさまダンスをし始めたナッツさん。
ナッツさんは運動神経抜群なのでアクロバットな、ヒップホップダンスを披露。
ただ漫才してもウケない可能性があるので、こういった動きがメインの保険も入れておいた。
案の定、今まで笑いに対しては少し鈍かった層が大きな反応を見せた。
その大きな反応を測れるのが僕の魔法だ。
僕はずっと全校生徒のハートマークを見ていた。
本当はもうちょっとローテンポと抑えたツッコミで漫才をする予定だったんだけども、周りのウケを見て、ちょっとテンポを上げて、かつ、ツッコミの声を大きくしていた。
そしてここのナッツさんのダンスで一気に鈍かった層も掴めた。
ここでプランはそのままのAからBに移行するツッコミに変えた。
「いや漫才のルールから躊躇無く外れた!」
プランAは僕が手で制止のポーズを出して、すぐさま止めるんだけども、ここからはプランB。
ナッツさんの動きで笑わせることをメインにした漫才だ。
ナッツさんは頭を床につけて、頭を軸に回転、いわゆるヘッドスピンをした。
それに対して僕はツッコむ。
「いやもう、ちょっとダンスするノリのルール越えてる! やりすぎのダンス!」
ナッツさんはここでバック宙をして、
「もう漫才じゃない! これが漫才じゃないというヤツだ! ダンスだよ! ただのダンスだよ!」
ナッツさんは膝に手を当ててゼェゼェ言う演技。
「やっぱり疲れた! めちゃくちゃ疲れてる! 無理しないで下さい!」
さらにナッツさんはしゃがんで、タバコを吸っているようなマイム。
「いやだからタバコはダメですから! そういう休み方は三十歳越えてからにして下さい!」
ナッツさんはそこからノーモーションで、床に一瞬手をついて跳ね起きをした。
「急に無理しないで下さい! その休み方からすることじゃない!」
ナッツさんは完全に立ち上がってからカカトを軸にクルクルと回転しまくり。
「いやここにきてシンプルなクルクル! バック宙とかの後では見劣りするよ!」
ナッツさんが回転を止めてから、
「こういうシンプルなクルクルはシンプルに目が回るから最後じゃないとダメなんだよ!」
と言いながら、あからさまに目が回っているような演技。
ふらふら舞台上を大きく使って動く姿に、会場は大ウケ。
逆に学校の先生方が心配のハートマークになってるけども、実際ナッツさんは大丈夫なので、そこは気にしなくていい。
僕は言う。
「もうナッツさん! 舞台袖に戻りましょう!」
僕がナッツさんに近寄って、そう言う。
もうセンターマイクという概念は無視だ。
ナッツさんは僕のほうを見ながら、一言。
「そうだね、このままだと漫才が落ちちゃう前に私が舞台上から落ちちゃう」
と言いながらステージ上から落ちて、ここで一番のウケ。
勿論、危なくない落ち方なので先生方もホッとしている。
僕はステージの上からナッツさんへ向かってこう言う。
「いや先に落ちちゃったから、もう終わりだよ!」
「そりゃそうだ!」
「「ありがとうございました!」」
と全校生徒の前で、その場で一礼してからナッツさんはヒョイとジャンプで、ステージ上にあがり、会場はちょっとした「おぉっ」という歓声。
僕とナッツさんは舞台袖に下がり、すぐにナッツさんはこう言った。
「これ上手くいったんじゃないのっ!」
「ナッツさん、ハートマークを確認していましたが、漫才自体は成功しました」
「やったぁ! タケルのおかげだね!」
「いえ、ナッツさんが明るくてアクロバットも最高だったおかげです」
それぞれ称え合い、僕たちの全校集会は終了した。
それからちょっとしたら、僕たちの小学校はそういう笑い物にするイジメが無くなった、と、先生から教えてもらった。
その分というかなんというか、僕とナッツさんは全校生徒からボケやツッコミを振られるようになった。
でもそのやり取り自体、僕もナッツさんも楽しんでいるし、こうやって人気者になれて、すごく嬉しい。
全てナッツさんのおかげだ。
今日もナッツさんと放課後一緒にいる。
そんな時、ナッツさんがこう言った。
「今度は私の世界にも漫才という形を伝えたいなぁ」
「じゃあ一緒に行きましょう、シューカさんにも会いたいですし」
「シューカさんはいいとしてっ、まあとにかく! また私の世界にも一緒に来てね! というか行こう!」
僕とナッツさんはしっかりと手を繋いだ。
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そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。
小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり!
他のサイトにも掲載しています。
表紙イラストは今市阿寒様です。
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