私の国宝と巡る二十五日間の旅

青西瓜

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【07 友達】

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・【07 友達】


 夕方になると、どかどかという足音が二階へ上がってきて、お客さんが入ってきたのかなと思ったら、私の部屋がノックされて、誰だろうと思っていると鱗マンさんだった。
「ほな、夕飯まだやろ、近くの鉄火巻き食いに行こかー」
 まさか私をサシで食事に誘うなんて、これは絶対説教だと思っていると、鱗マンさんは私の部屋を開けたまま、スッといなくなって、ヨータの部屋もノックした音が聞こえた。
 良かった、まあそんな説教にはならないな、と思っていると、ヨータと鱗マンさんが会話する声が聞こえて、時折大きくなる鱗マンさんの声だけ聞こえた。
「大丈夫や!」
「俺がついとるから!」
「近間やし!」
 そんな鱗マンさんの食い下がる声が終わったのち、鱗マンさんとヨータが私の部屋に顔を出し、
「ほら! ヨータくん行くからゆにちゃんも早せな!」
 ヨータ行くんだと少し心が踊りつつ、私は一緒に外へ出た。
 というか近間の鉄火巻きってあれだ、まるで別の世界線の裏メニューがある店だ、どうせなら食べたいって自分の食い意地に自己嫌悪。まずはヨータのことが一番なのに。
 とにかく鱗マンさんはヨータを外に出して、慣れさせる気なのかもしれない、と思っていると、すぐに店に着いた。道中はずっと鱗マンさんが小話していた。まさか缶コーヒーの空き缶踏んだだけでそこまでの不幸が起きるなんて。しかも笑える程度の。
 店に入るなら鱗マンさんが、
「はい賭けは俺の勝ちや! みんな来たで!」
 そう手を挙げた先にはなんとウェイラさんがいた。
「OH! 遅いからノーカンでしょ!」
「それは俺が忙しかっただけや! 誘う時間は数秒や! 音速や!」
 そんな会話をしながら普通にウェイラさんのいる席に座ったので、私もヨータもその座敷に座った。
 鱗マンさんはガハハと笑いながら、
「やっぱ若者チーム全員おらんとアカンやん、ハブるのはアカンで、ホンマにー」
 と言うとウェイラさんが少し不機嫌そうに、
「アタシは別にどっちでもいいんだけどね」
「んな思ってもないこと言うて。実際ウェイラもめっちゃ心配してるやん! LINEうるさいくらいやで! ホンマ!」
「OH! LINEのことは言わないで!」
 というかちゃんとLINEで繋がっていたんだ、しかも私用のメッセージ送るくらいの仲だったんだ。
 あれなの? 喧嘩するほど仲が良いパターンなの?
 鱗マンさんはウェイラさんのことを指差しながら、
「結局コイツ、ツンデレやねん。だから悪く言われても気にせんでええねんて」
「OH! キモイ二次元の言い方しないで!」
 と言いつつも本気で怒っている感じじゃないことに、やっと気付けてきたような気がする。
 そっか、ウェイラさんのキツイ言い方って別にそういう人間なだけで、マジじゃないんだ。
 正直こういう言い方の人、苦手で、あんま分かんなかったけども、いつもそういう言い方なだけでマジじゃないのかもしれない。
 相変わらずヨータは黙って俯いているけども、私は何かノリに慣れてきた感じだ、何かちゃんと笑うこともできそう、と思ったところで鱗マンさんが、
「ほな、鉄火巻き、抹茶で!」
 と店員さんに注文した時、とっさに私は、
「抹茶!」
 と声を出してしまい、ハッとした。
 キョトンとしているウェイラさん、鱗マンさんは「おっ」という顔をしてから、
「もしかすると知っとるん? 鶴子お姉さんから聞いとったか?」
「いやあの、私、旅行用に各食事処の裏メニューを調べてきていて、ここがその、宇治の抹茶塩で食べる鉄火巻きだったのでっ」
 すると鱗マンさんが豪快に笑い、
「なんやそれ! 裏メニュー調べるて! ホンマすごいなぁ!」
 ウェイラさんも笑いながら、
「OH、本当に純粋に旅行が楽しみだったんだっ」
「そりゃ元からそうやろ、いやでも待てよ、国宝ってどこ行く気なんや」
 と鱗マンさんがたずねてきたので、私はスマホを取り出して、これから行く予定の美術館や寺院をべらべら喋ると、鱗マンさんとウェイラさんがそれぞれ、
「めっちゃ調べてるやん、すごっ、計画性すごっ、二十五日分全部やん」
「ふ~ん、本当に旅行なんだねぇ」
 と感心してくれた。ちょっと照れてしまうと、鱗マンさんが、
「で、何で国宝やねん」
 私は何だか褒められている感じがして、スラスラ喋り出した。
「ヨータは頭が良いし、知識欲もあるほうなので、国宝とか好きかなって。なんというか国宝のパワーとかもあったらもらいたいですし」
 するとヨータが、
「別に国宝が好きという感情は無いけども、昨日見た弥勒菩薩像は確かにすごかったね。あれは見て良かった。だからありがとう、ゆに」
 と優しい笑顔を向けてくれた時、これだ、これを私は見たかったんだと思って、何だか心の奥からじんわりとした温かいモノが込み上げてきた。
 ヨータの笑顔を確認したウェイラさんが、
「まあ好きモン同士、楽しく旅行すればいいんじゃないの? 部屋で引きこもってないで」
 即座に鱗マンさんが、
「何か良くない単語二つ言うたな!」
 と水差すなみたいな顔で言うと、ウェイラさんはヘラッと笑ってから、
「いや別に何もおかしなこと言ってなくない? アタシは真実しか言わないし」
 鱗マンさんだけは小声で、
「好きモン同士と部屋で引きこもるのヤツやっ」
「OH、今そうやって粒立てるほうが野暮じゃない?」
「ウェイラが言わせたんやろっ」
 と言っているんだけども、普通に聞こえるし、四人で座っているわけだから。
 好きモン同士、という言葉、まあ友達として、とか思っていると、ウェイラさんが、
「さっさと恋人になってしまえば愛のチカラで何でもできるようになるよ、ヨータ」
 鱗マンさんは机を叩きながら、
「ちょ! マジでこういう時期、繊細やねんから!」
「もう相思相愛確定の笑顔していたじゃない、後押しすればいいのよ、ホント日本人ってだらだらし過ぎ」
「ウェイラも日本にしかいたことないやん!」
 と目を見開いてツッコむように言った鱗マンさん。
 いや恋愛とか、そういうつもりじゃ、って言わなきゃと思って、
「ウェイラさん、私とヨータはただの友達で」
「OH、ウェイラお姉……まあいいわ、こんな親密で本当にただの友達? WHAT?」
「はい、友達なんです。ただ友達の笑顔が見たいだけなんです。私」
 何か納得いっていない顔をしているウェイラさん。
 別にウェイラさんに納得してほしいとも思わないんだけども、ここは本心をしっかり言いたいと思って、ちゃんとヨータにも伝えたいと思って言うことにした。
「私はヨータの笑顔が見たいんです。でもヨータが一人でラジオを聴いて笑顔になればいいとかじゃないんです。私のいる空間で、私の傍で笑顔になってほしいんです。分かってます、私のエゴだって。でも私はヨータの笑顔を一番見たいんです。ダメですか、恋愛とか無いと。そんなに恋愛感情が無いとダメですか」
 私の圧に押されて黙ったウェイラさん。
 でも今度はう~んと唸って鱗マンさんが喋り出した。
「まあ、言うの野暮やけども、もう恋愛なんてレベル越えとるやん。もっと上の、高貴な感情やん。だからそのままでええんちゃう? 最高の友達でええやん」
 するとヨータが、
「ありがとうございます」
 と言った時、何か胸に突っかかるもんがあって。
 あれ? 何で? ヨータが友達であることを正式に認めたら急にちょっとだけ不安になってきた。どういうこと? いいんじゃないの? ヨータも私のことを友達を改めて認めたからいいんじゃないの? 何でヨータには恋愛感情ちょっとあってほしかったみたいな気持ちになっているの? あれ、あれれ、これ何かおかしいよ、これすごくおかしい、私って友達としてヨータのことが好きだったんじゃないの? 私ってやっぱり……あっ”やっぱり”って言ってる……脳内でやっぱりって言っちゃってる、そっか、私ってヨータのことが好きだったんだ、そりゃそうだ、そりゃそうだよね、こんな行動力、ウェイラさんが正しいよね、愛しかありえないよね、でも何か、友達ってことで正式確定しちゃった、でも、うん。
 今はそれでいい。
 ヨータに改めて友達と言えたから、それはそれで良い、良い機会をもらえて良かった、良かった、良かったはず、きっと良かったはず。
 相変わらずウェイラさんはあんまり納得していない顔をしているけども、それは合っています、ええ、合っています。
 鱗マンさんは笑顔で良かったなぁみたいな顔をしているけども、それはちょっと違います、申し訳御座いませんが、ちょっと違います。男性ってやっぱり鈍感なのかな、いや額面通りちゃんと受け取ってくれている真面目な人ってことだよね、この二人が。
 その後、鉄火巻きを宇治の抹茶塩で食べた。
 元々まぐろには臭みが無いのに、抹茶の香りがほんのり香って、本当に爽やかだった。
 というかお寿司を塩で食べるって美味しいかも。でも鉄火巻きの海苔があるからこそ、また塩が立った感じもする。
 そろそろお開きとなったところで、鱗マンさんがこう言った。
「とは言えヨータくん、ちょっとは外に慣れなアカンで。だから俺が暇な時、散歩に付き合ったるわ!」
 矢継ぎ早にウェイラさんが、
「OH、鱗マンが一緒に遊ぶ相手ほしいだけじゃない!」
「それの何がアカンねん! やっと俺にできた弟分や! いっぱい遊ばせてくれやぁ! 二十五日間しかなくて、もう二十四日間や! 明日からは二十三日間やで!」
 するとヨータがしっかり言葉を咀嚼してから、
「鱗マンさん、僕のためにありがとうございます。鱗マンさんがいれば安心ですし、ちょっとずつまた慣れていきたいと思っています。ただゆに、もう少しだけ整理する時間がほしいんだ。近間で慣れて、きっとちゃんとまた一緒に旅行するから。国宝、今は楽しみだよ」
 ウェイラさんがちょっとだけ柔らかい顔で、
「まあ慎重なところはいいんじゃないの? イケイケな男子高校生ほどキモイもんはないし」
「後半の文章いらんやろ!」
 というマンキンのツッコミに私は笑ってしまった。
 そっか、ウェイラさんもそういう人なだけなんだ。
 私は幼稚園の頃、ヨータに話し掛けてもらうまでイジメられていたことにより、誰かの悪口っぽい台詞も自分が言われていなくてもつらい気持ちになっていたけども、ウェイラさんはそういう言い方をする人だと分かれば、もう大丈夫かもしれない。かもしれない、だけども。
 ちゃんと人を見れば良かった、本当にちゃんと人を見れば良かったのかもしれない、昨日のことも。
 手を出しそうな人だと判断できていれば、なんてまた反省、いやこの反省はずっとしていこうと思う。
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