社会科漫才師

青西瓜

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漫才初披露

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 午後の授業の頭。
 僕と豪太くんは廊下で最後のチェックを行っていた。
 こっちから合図を送って、教室の扉を担任の咲山先生に開けてもらったら、入り込んで漫才スタート。
 ……なんだけども、もう震えが止まらなくて仕方ない。こんな状態でできるのか。
 いややりたいという気持ちはある。自分を変えたいという気持ちはずっとある。
 そう、ずっとあった。
本当は無口じゃないのに、いろんなことが怖くなって無口になった僕。
 その扉を豪太くんが開けてくれた。
 僕も変わりたいし、うまく漫才をやって豪太くんに恩返しをしたい。
「よしっ! できる! 俺たちはできる! やってやろう! 琢磨!」
 そう言って僕の背中を、この声の大きさとは裏腹に優しく叩いた豪太くん。
 そうだ、できるんだ。
 やれば、できるんだ。
 僕もOKサインを出して、豪太くんは教室の扉をトントンと叩いて、咲山先生に合図を送った。
 咲山先生の声が聞こえる。
「5年B組から生まれた漫才コンビ! ゴウタクだ!」
 そう言って保健室の先生に怒られるくらいの勢いで扉を開けた咲山先生。
「「はいどうも、よろしくお願いします!」」
 僕と豪太くんはプロの漫才師のように手を叩きながら教室に入ってきた。
 まあプロの漫才師はランドセルなんて背負っていないけども。
 最初の一言目は僕からだ。
「さて、真面目に漫才をしていきましょうか」
 うん、ちゃんと出た。声も震えず、ちゃんとした発声で一言目を出せた。
 それに豪太くんが続く。
「俺はさ、社会科漫才師になりたいんだよね」
「いや社会派漫才師なら知っていますけども、社会科漫才師ってなんですか」
 ちなみに漫才中、僕は敬語になる。
 そっちのほうが周りに思われている僕のキャラに近いからだ。
「社会科の勉強を教える漫才師になりたいんだ、今日のテーマはなわふみ時代」
「多分縄文時代ですねっ、あの、はい、えっと、はい……」
 ……どうしよう、後ろのツッコミの台詞が出なくなった。
 ここで漫才のテンポが一気に悪くなった。
 でも豪太くんは大きな声で誤魔化して次のボケに移る。
「というわけで! 教科書を読みながら漫才をしましょうか!」
 と言いながらスムーズにランドセルからリコーダーを取り出した豪太くん。
 そこに僕がツッコむ。
「いやそれリコーダー! 持ちやすいからかっ!」
 と言ったところで、豪太くんが『んっ?』となる。当たり前だ。
 豪太くんのボケを先に言ってしまったからだ。
 しかし豪太くんはそこをアドリブで対処する。
「そうそうウナギくらい持ちやすくてっ」
 ……真っ白になった。ついに真っ白になった。
 その兆候はあった。気付かないようにしていた。
 でももうダメだ。何も出なくなって、その場で俯いてしまった僕。
 そんな僕を見て豪太くんはこう言った。
「まあ、ウナギはニョロニョロして持ちづらいんだけどな!」
 自分でボケて、自分でツッコむ豪太くん。
 ……が、ずっと続いた。これはもうただの漫談だ。漫才を漫談にした状態。
 間に違和感が無いように『なんつって』みたいな言葉を入れるから、めちゃくちゃテンポが悪い。
 漫才用にネタを作ってきたので、ボケとツッコミの繋ぎ目が粗くなって、本当に間が悪い。でも僕は何もできなかった。
 ネタが終了するまで僕は隣で立っていることしかできなかった。
 当然、評判は最悪で。僕は野次を飛ばされた。
「何してんだよ」
「ツッコめよ」
「やっぱりつまんない」
「オレのほうが面白い」
「何でそこにいるの?」
「豪太の邪魔をするな」
 散々だった。もう散々だ。
 そんな散々に追い打ちをかけるような言葉が、豪太くんから出た。
「よしっ! 次はちゃんと漫才になるから! カミングスーン!」
 いやもう辞めたいよ……。
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