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初めてのクエストにチャレンジです
しおりを挟む朝、窓から差し込む日差しを合図とし、日の出とともに目を覚ます。
元の世界では、一人暮らしで仕事もあったため、それなりの時間に自力で起きていた。出勤時間も決められており、目覚まし時計もあったため否応なしに起きなくてはならなかったが、この世界では決められた出勤時間も目覚まし時計もない。日の出とともに活動し始め、夕方には帰宅するという生活スタイルだ。
師匠と暮らす間に、その生活リズムを身に付けていたレイも、日の出とともに目覚めた。目覚めたというよりも、遮光カーテンなどないため、朝日が昇ると眩しくて目が覚めてしまうのだ。
(……数日野宿だったから、ベッドから離れ難いな。でも、冒険者としての初めての依頼も受けてみたいし)
冒険者としての収入がいくらになるのかが、まだわからない。一度依頼を受け、生活がしていけそうかどうかを確認しておく必要がある。それはわかっているが、最近、朝の冷え込みが厳しくなってきたため、布団から出たくない。しばらくベッドの上でゴロゴロしていたが、二度寝してしまう前にと意を決して起き上がった。水魔法で出した水で顔を洗い、昨日買ったばかりの服と防具を身につけ一階に降りていくと、
「あ、おはようございます!レイさん。遅かったですね。朝食持ってくるのでそこに座っててください」
宿屋の看板娘のマリーちゃんは朝から元気いっぱいだ。食堂には1人しか客がいなかった。どうやら、他の客はすでに朝食を済ませ出発したようだ。商人も冒険者も朝はとても早い。
冒険者は活動日じゃなければそうでも無いが、依頼を受けに行く日は通常夜明けと共に動きだす。朝一で良い依頼を狙うのは勿論のこと、街から離れた場所へと向かう場合は早くに出なければ、その日の内に帰って来れなくなってしまう。誰も好き好んで野宿をしようとは思わない。
「お待たせしました!」
どうやら朝食はパンと肉入り具沢山スープだ。量がすごい。スープはトマトベースなのか赤い色をしている。
「お母さんが、たくさん食べて大きくなれって」
そう言われて調理場の方を見ると、満面の笑みでサムズアップしている女将さんが見えた。
……これ、残したら絶対に怒られるやつだ。
ありがたくいただきます。
やはり、年齢の割に小柄なレイの事が気になるようだ。まだまだ成長期に期待はできるが、日本人のレイに高身長は望めないだろう。元々、大人の段階で153cmしかなかったのだ。こっちの世界で食事や運動量を変えたとしても、あまり期待はできないだろう。
施設育ちで、自由気ままに好きなだけ食べ物が食べれるような環境ではなかったため、レイは少食だ。女将さんの食事を食べ切ってやると意気込んでいたが、気合いは最初のみ。途中で無理だと判断し、バレないようにパンをアイテムボックスに収納してしまった。
◇◇◇
朝食を済ませ、腰にショートソードを携え、赤いローブを身に纏い冒険者ギルドへと向かう。
朝の第一陣はすでに冒険へと出発したのだろう。掲示板に貼られている依頼は歯抜けになっていた。
その中で銅ランクのクエストをチェックする。やっぱり、初クエストは定番のコレかな。
ー 薬草採取クエストー
ギセル草とサボン草の採取。
それぞれ5本1束での買取だ。本来なら依頼の用紙を取って受付に行かないといけないが、常設依頼らしく、受付で伝えれば良いらしい。採取後での申請でも良いみたいだから、他にもう一つ…。
ーハクビシンの討伐ー
ハクビシンを3体討伐し、証明として尻尾を持ち帰る事。
ハクビシンって、元の世界でも害獣指定されてたな。この依頼にしてみようか。
紙を取り、受付へ持って行く。森での半年間で、食料調達のため狩りもしていたので、弱い魔物なら恐らく大丈夫だろう。
依頼受付をしてもらい、ギルドの図鑑でハクビシンを確認し、オススメの討伐場所と採取場所を教わり、東門からギルドタグを見せ草原をてくてく歩いて行く。30分程歩いた所で薬草採取だ。
ハクビシンもこの辺に出るらしいから、薬草を摘みながら気長に待とう。
鑑定とかの魔法があったら、すぐにわかるんだろうけど、この雑草が生い茂る中、特定の薬草を探すのは大変だ。ほぼ雑草。
「ん~…… あ、あった!」
ギセル草とサボン草、依頼分と自分の調合分を取っておきたい。師匠と一緒に取った物もアイテムボックスに入れてるけど、冬に調合を沢山できるよう、予備は持っていた方が良いだろう。
依頼分は手に入れて、自分の予備分を取っていると、昼の時間になった。朝食に出たパンと、スープの作り置きで簡単に昼食を済ませて再び採取をする。
ぷちっぷちっ
地味に静かに薬草採取をしていると、ガサっと背後で音がした。
振り返ると、一匹のハクビシンがいた。ただし、ゴールデンレトリバーサイズの。
「え?デカくない?」
師匠の森にはいなかったから、今回初めましてになるんだけど、私の知ってるハクビシンではなかった。タヌキサイズかと思ってた。
まぁ、やるしかないんだけど。
ショートソードを構え、間合いを詰める。お互い静かに見つめ合っていると、「グヮッ」と吠えたと同時に、駆け寄ってきた。
ハクビシンは、ウルフ系魔物と違い、俊敏性もなく飛びかかる事もない。だから、新人冒険者向け魔物とされている。ただし、毒があるので、肉は食べられない。
向かってきたハクビシンの前方に土魔法で小さな土手を作り減速させ、横に飛びのきながら剣振るった。
剣はハクビシンの首を斬りつけ絶命した。
「ふぅ。これで雑魚なんだよね。やっぱり私、魔法込みじゃないと戦えないなぁ」
剣でバッサバッサ魔物を倒していける力が欲しいと心から思う。初心者クエスト以外は受けないようにしようと決意を新たにしたレイだった。
倒したハクビシンの尻尾を切っていると、仲間なのか奥から2体のハクビシンが現れた。
「周りに誰もいないよね?」
人気のない事を確認し、
「ウインドカッター」
風魔法で一気に倒す。攻撃魔法は苦手で、弱い魔法しか使えない。師匠との特訓の時に強い魔法を使ってみたが、魔力量が制御できず強大になり過ぎてしまったのだ。イメージしやすいように「ウインドカッター」なんて言っているが、本来は呪文は不要。イメージと魔力操作で魔法は発動するのだ。レイは自分の保有魔力に振り回され、中級程度に抑えたいと思っても、強大になってしまうのだ。
だからといって、まだ剣術で複数相手にする自信がない。尻尾を切り取り、依頼達成した所で、
「帰ろかな」
自分の至らなさに気づいた。なんか、疲れたな。
◇◇◇
冒険者ギルドまで帰ってきた。受付へ行こうとすると、依頼が終わったばかりなのか一組の冒険者がテーブルにつき、楽しげに会話をしていた。その冒険者の背後に睨みつけるように佇む10歳くらいの男の子が立っていた。
(関わり合いにならない方が良さそうね)
何か恨みを買ったんだろうな。あれは呪われるレベルだ。霊が会話できる状態なら助けてあげられるかもしれないが、こんな場合、良かれと思って行動しても仇となって返ってくる。レイは経験上、そう学んでいた。だから、無視だ無視。自業自得と思おう。
ギルドの受付に行き、ギセル草とサボン草を5本ずつ、ハクビシンの尻尾を3つ渡して依頼終了。
帰ろうと受付に背を向けると、10歳未満だろう子供達が入ってくるのが目に入った。
「草引きの依頼、終わったよ」
受付で依頼終了の手続きを行っていた。
あんな小さな子が仕事をしないと生きていけない世界なんだよね。なかなか世知辛い世の中だな。
前々から思ってたけど、元の世界とこの世界、似てないようで共通点がある。元々の世界の始まりは全く同じ条件・同じ世界だったのではないか。ただ、片方の世界にだけ、『魔力』を与えてみたのではないだろうか。
魔力を与えた世界は魔法に頼り、魔力を与えられなかった世界は人類が自力で文明を発展させていった。生態系は似たものが多いからそうなのかと考えたが……。
(ま、そんな事判明してもどうしようもないか)
とりあえず、初めての依頼も無事に終わったし、良かった良かった。レイは早々に宿へと戻って行った。
応援ありがとうございます!
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