シンデレラは落とせない

流風

文字の大きさ
5 / 13

代金はきちんと払いましょう。

しおりを挟む
 

「あらあら、今日までに代金支払いなさいねって言っておいたのに、ダメな大人達ねぇ」

「すみません。お詫びにもならないかもしれませんが、お茶だけでも飲んでいきませんか?今ならあの人達もいないので、家の中に入っても大丈夫です。いつもの食事や勉強のお礼をさせてください」

 シンデレラは薬師のお婆さんを家の中へと招きました。そして、継母達に見つからないよう副店長がこっそりくれたお菓子とサンドイッチとお茶を出し、お婆さんと朝食兼ティータイムを楽しむことにしました。

「イライザ達は第三王子の誕生日パーティに行ったのでしょ?随分と早い出発ねぇ」

「はい。なんでも王城には近衛騎士や貴族の方も多く、獲物を狩るのに絶好の機会だー!って騒ぎながら出て行きましたよ」

「獲物ねぇ……それなら尚の事、代金を払えば良かったのに」

 残念だというセリフを吐きながら、お婆さんは凄く良い笑顔で笑っています。

 シンデレラは不思議に思いながらお婆さんに尋ねました。

「お婆さん、惚れ薬とか人心を操るようなものは禁止薬物扱いになるんじゃないんですか?」

 シンデレラは素朴な疑問を口に出します。
 そんなシンデレラをお婆さんは、すこぶる嬉しそうに見つめ真実を教えてくれました。

「ふふっ、あなたはお利口さんね。そう、惚れ薬の製作・販売は法律で禁止されているわね。イライザ達も元男爵令嬢だから教育は受けているはずなのに……しつこく惚れ薬を作れって騒ぐのよ。作った時点で私が犯罪者になるってわかってるだろうに……。はぁ……。だから、香水をあげたのよ」

 シンデレラはそれを聞いて安心しました。継母達の我儘で、お世話になっているお婆さんが犯罪者にならなくて良かったと。

「香水なんだけどね、最初の三時間は男が好きそうな、ほんのり甘い香りなんだけど、三時間すぎると、汗と香水の成分が混ざり合い反応して、人間の排泄物のような香りに変わるの。半径1メートル以内にいる人にその匂いが届くのよ。二十四時間は絶対に消えない頑固な匂いにしたから、男漁りは大変ね。代金払う誠意を見せたら真実を教えてあげようかと思ったけど、支払う意思がないなら仕方ないわね。ふふっ、パーティで周りから避けられ続けながら結婚相手を探せばいいわ」

(それって……ウ○コヘアでウ○コの匂いさせてるって事だろ?絶対にパーティ会場でウ○コって渾名をつけられる事確定だな)

 シンデレラは遠い目をしながら継母達がパーティ会場でどんな渾名がつけられて帰ってくるのかとゲンナリしました。継母達が不幸な目に遭うのは良い。自業自得だとシンデレラは思います。でも、パーティ会場で散々な目に遭った継母達がどれだけヒステリックに騒ぎまくるか……シンデレラは逃走計画を練ろうかと真剣に考えてしまいました。

 それにしても……

「あの人達、甘い匂いがキツすぎるくらい香水吹きかけまくってたけど……」

「あらあら、それはとっても強烈な香りになるでしょうね」

 お婆さんはシンデレラの言葉に何でもない事のように答えながら、優雅に紅茶を口に含みました。

 色々、問題をおこしてきた継母達。今回は王族や貴族出身の近衛騎士、平民も集まる場での醜聞となると、継母達の人生は詰みだなとシンデレラは思いました。でも、それを可哀想だと言う気はありません。そこまで親しい相手じゃないし、虐げられてきた今までの時間を考えると情も何も湧きません。そもそも、シンデレラを毛嫌いして蹴落とし利用しようとした奴らにまで、憐みを抱く程シンデレラは博愛主義ではありません。

「ま、自業自得かぁ」

 ヒステリックになった継母達は放置するしかないと結論付け、シンデレラは自分にまで被害が及びませんようにと願いながら、温くなった紅茶を飲みました。

「イライザ達の事は置いといて…… ねぇ、一緒にパーティ行かない?」

「え?パーティですか?いやぁ…パーティの参加資格がないですし、それにそもそも参加資格があったとしても、着ていく服がありませんから」

 苦笑気味にシンデレラは答えました。今着ている服も義姉のお下がりを何度も繕い直したもので、掃除や洗濯と家事の時にも着用しているため、落ちきらないシミが沢山あります。
 いくら平民の参加可能だからといって、パーティにこの服で参加するのは礼節にかける。シンデレラは考えました。

「そう。でも、継母達がパーティ参加者から遠巻きにされてる姿、見たくない?」

「それは……みたいかも」

 継母達が言い寄ろうと男に近づくたびに逃げられる。まさに『ざまぁ』な状況です。日頃、虐げられてきたシンデレラは継母達のそんな姿を見たら多少溜飲が下がるというもの。
 しかし……

「でも、やっぱり無理ですよ」

 参加資格もないし、着て行く服もない。万が一パーティに参加できたとしても、こんなワンピースでは……。シンデレラの羞恥心が耐えられません。

「王城のパーティよ。美味しい料理がたくさんあるわよ」

 美味しい料理。シンデレラは食べる事は大好きです。パーティがあると知った時から、夜更けなど1人の時間になるたびにシンデレラは王城のパーティに出てくる料理がどんなものか、妄想していました。
 彩よく飾られたカナッペ、美味しい肉料理、美しいスイーツ。妄想するたびに父親が連れて行ってくれた料理店の料理を思い出し、懐かしさが込み上げてきて、悲しい気持ちになっていました。

 カップを握る手に少し力が篭ります。そんなシンデレラの表情を見ながら、お婆さんはシンデレラの手にそっと触れてこう言います。

「今日はね、代金の請求と、あなたをパーティに誘う事を目的に訪ねさせてもらったの。衣装の事は抜きにして、美味しい料理食べながら、継母達の姿を見に行きたくない?」

「……パーティの料理に興味はありますね。継母達の姿は、どうしても見たいってほどじゃないです。勝手に不幸になればいいと思ってます。正直いって、そこまで興味はないではないですね」

 興味がないわけではありませんが、パーティ衣装を揃える経費を考えると、見に行きたいとは言えません。

「そう、あなたは根っからの悪い子にはなれそうにないわね。人の不幸に興味ないなんて。じゃ仕方ないわね。とりあえず美味しいものを食べに行きましょうか」

 シンデレラの返答に気を悪くした風もなく、お婆さんはニコニコしながら両手を叩きました。

 すると、玄関から従者が現れます。

「え?」

「この子を美しく着飾らせて。王城でのパーティに間に合うようにね」

「かしこまりました」

 驚き狼狽えるシンデレラを他所に、お婆さんと従者は話を進めます。すると、新たな従者達が箱をたくさん運び入れて来ます。

「こちらへ。入浴とお召替えをお願いします」

「え?ちょっとまって!誰ですか?不法侵入……イヤァァァァァ!」

 狼狽えるシンデレラ。シンデレラを引きずるように連れて行く従者。良い笑顔で手を振るお婆さん。
 訳もわからないまま、シンデレラは風呂で全身を磨かれ、風呂の後は香油を付けてしっかり髪を乾かして、まさかのエステコース。口に入れても平気な香油だとか、甘めな香りの香油だとか説明されるも、シンデレラには要らん知識なので、説明されても右から左に流れます。口に入れたら毒ですっていうならしっかり聞くのですが。
 手足の爪を丹念に磨かれ、肌触りの良いガウンを身に纏い立ち上がったシンデレラへとうやうやしくドレスが差出されます。

「次はこちらに袖を通して下さい」

「……はい?」

 拒絶してもダメ。ならせめて自分で着ると訴えたが、補助なく着れるドレスではありませんと、これまた却下。
 確かに用意された衣装は明るい赤色の細かい装飾が施された質の良い生地のドレス。父親の商売上、ドレスもたくさん見てきましたが、こんな質の良いドレスをシンデレラは見た事がありませんでした。

(凄い……!これ、絶対に高いやつ!)

 着方すらわからない高級そうなドレス。やはり身分不相応だと訴えるも、「ご主人様がお待ちですので」とテキパキとシンデレラに着付けしていきます。下手に抵抗して衣装を傷つけたら最悪だと、シンデレラは着せ替え人形よろしく衣装を身につけていきます。
 髪も綺麗に結い上げられましたが、化粧に関してはほぼすっぴんです。家事による指先の荒れはありますが、生まれながらのきめの細かい美しく白い肌に薄っすら口紅を引く程度でシンデレラは美しく花開くのでした。

 さらに最後の締めと言わんばかりに髪へも高級そうな装飾品を飾っていきます。

(これ、一個でも落としたらヤバいやつ)

 父の店はアクセサリー類も取り扱っており、シンデレラも物を見る目は養われています。冷や汗すらかいてはダメだ。シンデレラはガチガチに緊張した体でお婆さんの元へと戻ります。

「お待たせしました、ご主人様」

 従者に促され、シンデレラはお婆さんが待つサロンへと足を踏み入れます。するとそこには、椅子に座るドレス姿の女性が見えます。
 シルバーグレーの髪の活発で意志の強そうな印象の女性。今でこそ皺が目立ちます。ですが、釣り目がちな目鼻立ちがはっきしりた、若い頃はかなりモテただろうと思わせる老婆。しかし、なんとなく見覚えがある老婆でした。
 立ち上がり、手にした扇子をパシリと片手に打ちつけ、目の前の老婆はシンデレラに向かって言います。

「やはり、私の見立てどおりね。美しいわよ、シンデレラ」

 美しく、妖艶さも含んだ笑顔で目の前に立つ老婆。

「…………お婆さん?」

 目の前の着飾った老婆を見て、思わずポカーンとした顔のままシンデレラは固まってしまいました。
 それも仕方ありません。目の前に立つ老婆は、どう見ても高貴な身分の女性です。シンデレラの衣装も老婆の衣装も素材が最上級。従者もきっちりと躾けられている事がわかる見のこなしです。
 どう考えても、この家にいるような人物ではありません。

「ふふっ、脅かしてしまったわね。でも、呆けている時間はないわ。私の事は馬車の中で説明するから、早く馬車に乗って王城へ向かいましょう」

 そう言って玄関へ向かって歩き始めたお婆さん。固まったまま動けないシンデレラに従者の一人がそっと手を差し出します。

「さぁ、向かいましょう」

 現実を受け入れられないまま、シンデレラは従者の手を取り、馬車へと向かいました。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

元婚約者のあなたへ どうか幸せに

石里 唯
恋愛
 公爵令嬢ローラは王太子ケネスの婚約者だったが、家が困窮したことから、婚約破棄をされることになる。破棄だけでなく、相愛と信じていたケネスの冷酷な態度に傷つき、最後の挨拶もできず別れる。失意を抱いたローラは、国を出て隣国の大学の奨学生となることを決意する。  隣国は3年前、疫病が広がり大打撃を受け、国全体が復興への熱意に満ち、ローラもその熱意に染まり勉学に勤しむ日々を送っていたところ、ある日、一人の「学生」がローラに声をかけてきて―――。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

真実の愛は水晶の中に

立木
恋愛
学園の卒業を祝うパーティーの最中、レイシア・マレーニ侯爵令嬢は第三王子とピンク髪の女、その取り巻きたちによって断罪されようとしていた。 しかし断罪劇は思わぬ方向へ進んでいく。 ※AIイラスト使用 ※「なろう」にも重複投稿しています。

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

砕けた愛

篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。 あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...