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代金はきちんと払いましょう。
しおりを挟む「あらあら、今日までに代金支払いなさいねって言っておいたのに、ダメな大人達ねぇ」
「すみません。お詫びにもならないかもしれませんが、お茶だけでも飲んでいきませんか?今ならあの人達もいないので、家の中に入っても大丈夫です。いつもの食事や勉強のお礼をさせてください」
シンデレラは薬師のお婆さんを家の中へと招きました。そして、継母達に見つからないよう副店長がこっそりくれたお菓子とサンドイッチとお茶を出し、お婆さんと朝食兼ティータイムを楽しむことにしました。
「イライザ達は第三王子の誕生日パーティに行ったのでしょ?随分と早い出発ねぇ」
「はい。なんでも王城には近衛騎士や貴族の方も多く、獲物を狩るのに絶好の機会だー!って騒ぎながら出て行きましたよ」
「獲物ねぇ……それなら尚の事、代金を払えば良かったのに」
残念だというセリフを吐きながら、お婆さんは凄く良い笑顔で笑っています。
シンデレラは不思議に思いながらお婆さんに尋ねました。
「お婆さん、惚れ薬とか人心を操るようなものは禁止薬物扱いになるんじゃないんですか?」
シンデレラは素朴な疑問を口に出します。
そんなシンデレラをお婆さんは、すこぶる嬉しそうに見つめ真実を教えてくれました。
「ふふっ、あなたはお利口さんね。そう、惚れ薬の製作・販売は法律で禁止されているわね。イライザ達も元男爵令嬢だから教育は受けているはずなのに……しつこく惚れ薬を作れって騒ぐのよ。作った時点で私が犯罪者になるってわかってるだろうに……。はぁ……。だから、香水をあげたのよ」
シンデレラはそれを聞いて安心しました。継母達の我儘で、お世話になっているお婆さんが犯罪者にならなくて良かったと。
「香水なんだけどね、最初の三時間は男が好きそうな、ほんのり甘い香りなんだけど、三時間すぎると、汗と香水の成分が混ざり合い反応して、人間の排泄物のような香りに変わるの。半径1メートル以内にいる人にその匂いが届くのよ。二十四時間は絶対に消えない頑固な匂いにしたから、男漁りは大変ね。代金払う誠意を見せたら真実を教えてあげようかと思ったけど、支払う意思がないなら仕方ないわね。ふふっ、パーティで周りから避けられ続けながら結婚相手を探せばいいわ」
(それって……ウ○コヘアでウ○コの匂いさせてるって事だろ?絶対にパーティ会場でウ○コって渾名をつけられる事確定だな)
シンデレラは遠い目をしながら継母達がパーティ会場でどんな渾名がつけられて帰ってくるのかとゲンナリしました。継母達が不幸な目に遭うのは良い。自業自得だとシンデレラは思います。でも、パーティ会場で散々な目に遭った継母達がどれだけヒステリックに騒ぎまくるか……シンデレラは逃走計画を練ろうかと真剣に考えてしまいました。
それにしても……
「あの人達、甘い匂いがキツすぎるくらい香水吹きかけまくってたけど……」
「あらあら、それはとっても強烈な香りになるでしょうね」
お婆さんはシンデレラの言葉に何でもない事のように答えながら、優雅に紅茶を口に含みました。
色々、問題をおこしてきた継母達。今回は王族や貴族出身の近衛騎士、平民も集まる場での醜聞となると、継母達の人生は詰みだなとシンデレラは思いました。でも、それを可哀想だと言う気はありません。そこまで親しい相手じゃないし、虐げられてきた今までの時間を考えると情も何も湧きません。そもそも、シンデレラを毛嫌いして蹴落とし利用しようとした奴らにまで、憐みを抱く程シンデレラは博愛主義ではありません。
「ま、自業自得かぁ」
ヒステリックになった継母達は放置するしかないと結論付け、シンデレラは自分にまで被害が及びませんようにと願いながら、温くなった紅茶を飲みました。
「イライザ達の事は置いといて…… ねぇ、一緒にパーティ行かない?」
「え?パーティですか?いやぁ…パーティの参加資格がないですし、それにそもそも参加資格があったとしても、着ていく服がありませんから」
苦笑気味にシンデレラは答えました。今着ている服も義姉のお下がりを何度も繕い直したもので、掃除や洗濯と家事の時にも着用しているため、落ちきらないシミが沢山あります。
いくら平民の参加可能だからといって、パーティにこの服で参加するのは礼節にかける。シンデレラは考えました。
「そう。でも、継母達がパーティ参加者から遠巻きにされてる姿、見たくない?」
「それは……みたいかも」
継母達が言い寄ろうと男に近づくたびに逃げられる。まさに『ざまぁ』な状況です。日頃、虐げられてきたシンデレラは継母達のそんな姿を見たら多少溜飲が下がるというもの。
しかし……
「でも、やっぱり無理ですよ」
参加資格もないし、着て行く服もない。万が一パーティに参加できたとしても、こんなワンピースでは……。シンデレラの羞恥心が耐えられません。
「王城のパーティよ。美味しい料理がたくさんあるわよ」
美味しい料理。シンデレラは食べる事は大好きです。パーティがあると知った時から、夜更けなど1人の時間になるたびにシンデレラは王城のパーティに出てくる料理がどんなものか、妄想していました。
彩よく飾られたカナッペ、美味しい肉料理、美しいスイーツ。妄想するたびに父親が連れて行ってくれた料理店の料理を思い出し、懐かしさが込み上げてきて、悲しい気持ちになっていました。
カップを握る手に少し力が篭ります。そんなシンデレラの表情を見ながら、お婆さんはシンデレラの手にそっと触れてこう言います。
「今日はね、代金の請求と、あなたをパーティに誘う事を目的に訪ねさせてもらったの。衣装の事は抜きにして、美味しい料理食べながら、継母達の姿を見に行きたくない?」
「……パーティの料理に興味はありますね。継母達の姿は、どうしても見たいってほどじゃないです。勝手に不幸になればいいと思ってます。正直いって、そこまで興味はないではないですね」
興味がないわけではありませんが、パーティ衣装を揃える経費を考えると、見に行きたいとは言えません。
「そう、あなたは根っからの悪い子にはなれそうにないわね。人の不幸に興味ないなんて。じゃ仕方ないわね。とりあえず美味しいものを食べに行きましょうか」
シンデレラの返答に気を悪くした風もなく、お婆さんはニコニコしながら両手を叩きました。
すると、玄関から従者が現れます。
「え?」
「この子を美しく着飾らせて。王城でのパーティに間に合うようにね」
「かしこまりました」
驚き狼狽えるシンデレラを他所に、お婆さんと従者は話を進めます。すると、新たな従者達が箱をたくさん運び入れて来ます。
「こちらへ。入浴とお召替えをお願いします」
「え?ちょっとまって!誰ですか?不法侵入……イヤァァァァァ!」
狼狽えるシンデレラ。シンデレラを引きずるように連れて行く従者。良い笑顔で手を振るお婆さん。
訳もわからないまま、シンデレラは風呂で全身を磨かれ、風呂の後は香油を付けてしっかり髪を乾かして、まさかのエステコース。口に入れても平気な香油だとか、甘めな香りの香油だとか説明されるも、シンデレラには要らん知識なので、説明されても右から左に流れます。口に入れたら毒ですっていうならしっかり聞くのですが。
手足の爪を丹念に磨かれ、肌触りの良いガウンを身に纏い立ち上がったシンデレラへとうやうやしくドレスが差出されます。
「次はこちらに袖を通して下さい」
「……はい?」
拒絶してもダメ。ならせめて自分で着ると訴えたが、補助なく着れるドレスではありませんと、これまた却下。
確かに用意された衣装は明るい赤色の細かい装飾が施された質の良い生地のドレス。父親の商売上、ドレスもたくさん見てきましたが、こんな質の良いドレスをシンデレラは見た事がありませんでした。
(凄い……!これ、絶対に高いやつ!)
着方すらわからない高級そうなドレス。やはり身分不相応だと訴えるも、「ご主人様がお待ちですので」とテキパキとシンデレラに着付けしていきます。下手に抵抗して衣装を傷つけたら最悪だと、シンデレラは着せ替え人形よろしく衣装を身につけていきます。
髪も綺麗に結い上げられましたが、化粧に関してはほぼすっぴんです。家事による指先の荒れはありますが、生まれながらのきめの細かい美しく白い肌に薄っすら口紅を引く程度でシンデレラは美しく花開くのでした。
さらに最後の締めと言わんばかりに髪へも高級そうな装飾品を飾っていきます。
(これ、一個でも落としたらヤバいやつ)
父の店はアクセサリー類も取り扱っており、シンデレラも物を見る目は養われています。冷や汗すらかいてはダメだ。シンデレラはガチガチに緊張した体でお婆さんの元へと戻ります。
「お待たせしました、ご主人様」
従者に促され、シンデレラはお婆さんが待つサロンへと足を踏み入れます。するとそこには、椅子に座るドレス姿の女性が見えます。
シルバーグレーの髪の活発で意志の強そうな印象の女性。今でこそ皺が目立ちます。ですが、釣り目がちな目鼻立ちがはっきしりた、若い頃はかなりモテただろうと思わせる老婆。しかし、なんとなく見覚えがある老婆でした。
立ち上がり、手にした扇子をパシリと片手に打ちつけ、目の前の老婆はシンデレラに向かって言います。
「やはり、私の見立てどおりね。美しいわよ、シンデレラ」
美しく、妖艶さも含んだ笑顔で目の前に立つ老婆。
「…………お婆さん?」
目の前の着飾った老婆を見て、思わずポカーンとした顔のままシンデレラは固まってしまいました。
それも仕方ありません。目の前に立つ老婆は、どう見ても高貴な身分の女性です。シンデレラの衣装も老婆の衣装も素材が最上級。従者もきっちりと躾けられている事がわかる見のこなしです。
どう考えても、この家にいるような人物ではありません。
「ふふっ、脅かしてしまったわね。でも、呆けている時間はないわ。私の事は馬車の中で説明するから、早く馬車に乗って王城へ向かいましょう」
そう言って玄関へ向かって歩き始めたお婆さん。固まったまま動けないシンデレラに従者の一人がそっと手を差し出します。
「さぁ、向かいましょう」
現実を受け入れられないまま、シンデレラは従者の手を取り、馬車へと向かいました。
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