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1.プロローグ
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「アンタ、……女かァ」
オオカミが漏らした呟きに、肩を揺らしてしまった。動揺のあまり言葉が出てこない。私を見ているオオカミの顔がだんだんと笑いに変わる。
「っは、ハハ、……そうか、あぁ、わかった」
一人で笑って一人で納得したらしい。長い鼻面の大きな口に笑いを残したまま私の目を覗き込む。
「さっきの話なァ、ナシだ。金はいらねぇ。代わりにアンタを抱かせろよ」
黄色の目が私を見てる。どこか野蛮な気配をさせて。
***
街道脇の空き地に荷馬車が止まった。今日はここに泊まるらしい。主人である商人に怒鳴られる前に、馬車を降りて野営の準備に取り掛かる。焚きつけに使う枝を探しに行くと使用人に伝えてから木立に入った。
魔獣があまり出ないと言われてる街道とはいえ、戦えもしない奴隷が1人で離れるなんてありえない。普通なら。最低限の護衛しか雇わないせいだ。燃料の薪だって、持ってきてるのに使うのを嫌がる。ここは滅多に魔獣が出ないんだから拾ってこいと。何もかもケチな商人のせいだと心の中で毒づいた。
枝を探す木立の中は心細い。木の影から今にも何かが飛び出してくるんじゃないかと、ビクビクしてしまう。あちこちから狙われていると思えて、いつも恐ろしさに鳥肌が立っていた。急いでやればそれだけ魔獣から逃げられるような気がして、息を詰めて枝を拾う。やっと集めた枝を持って戻ると商人が顔を歪めた。
「たったそれだけか。手抜きしやがって」
「申し訳ありません」
いつもの小言に謝まると舌打ちを返された。
温かい食事を作り、食事を終える頃には真っ暗で焚火だけが明るい。商人のためにお湯を沸かし、沸けたら桶に入れて持っていく。
荷馬車の外から中にいる商人に声を掛けた。
「失礼します。お湯を用意しました。入ってよろしいでしょうか」
「入れ」
目隠しの布を開けて中へ乗り込み、きちんと閉める。ろうそくの灯りが揺れる床に桶を置き、手ぬぐいと商人の着替えを用意した。
「体をお拭きしてよろしいですか」
頷きを確認してから、失礼しますと声を掛けて服に手を掛ける。上の服を脱がしてから、頭、顔、首、体と上から順に拭き、替えの下着を着せた。次はズボンと下着を脱がし同じように拭く。
「今日はいかがいたしますか」
「ふん、……しゃぶれ」
「はい」
胡坐をかいて座っている商人の股に手を伸ばし、弛んだお腹の下にあるもしゃもしゃした下生えから垂れさがった陰茎を手に持った。指で皮を剥いて先端に舌をつける。
奴隷になって買われた当初は嫌で嫌で仕方なかった。今も嫌なのは変わらないが、慣れてしまえば咥える前に自分で綺麗に拭けるのはありがたいとまで思う。
頭で別のことを考えながら口の中で硬くなった陰茎をしゃぶる。口での奉仕を早く終わらせるために必死で覚えた喉奥の締め付けで、商人が射精して終わりがきた。吐き出すことは許されていないので、味わわなくて済むようにそのまま飲み込む。
途中で挿入に変わるときと最後まで口のときがある。今日は口で終わりのため、陰茎を拭き直してズボンをはかせた。
商人の脱いだ服と桶を持って荷馬車の中から出る。 粘ついた喉に水を流し込んで、ホッと息をついた。
だいぶぬるくなったお湯で商人の服を洗い、荷馬車に洗濯紐を引っ掛けて服を干す。 これで今日の仕事は終わりだ。
御者や使用人が寝転んでる火のそばに行って同じように布にくるまった。
「今日は鳴いてねぇな。物足りねぇなら可愛がってやるぞ」
柄の悪い護衛がニヤニヤと私を見ている。 クククと抑えた笑い声が他の護衛たちから聞こえたけど、無視して横になった。
昨日の夜、商人にやられたあとで花摘みに行ったときに襲ってきた奴。旅に出てからずっと粘っこく絡まれてたから予想はしてたけど。商人に告げると言えば、悪態ついて太ももに射精して逃げた。その腹いせだろう。味方はいない。寝たふりしてる使用人も護衛と同じ。最後まではされないってだけ。絡んでくるのを拒否してるからいい気味だと思ってるのかもしれない。
翌日も同じ街道を進んだ。昼の休憩時、枝を探すために木立に入り、また少ないと文句を言われた。
「もっと探してこい。魔獣なんぞぜんぜん出てこないだろうが。ったく無駄金ばっかりかかる。だいたい、魔獣もぜんぜん出ないだろう。こんなに出ないなら護衛はもっと少なくてもよかった」
苛立ちの矛先を向けられた護衛は一瞬私を睨んで、商人に向き直った。
「いや、いつもはもっと出るんですよ」
「余計な金を使わせるために言ったんじゃないだろうな」
「森の様子がおかしいってギルドでも言ってたでしょう。用心は必要です」
傲慢で横柄な商人に護衛の男たちがへらへらと答える。私はため息を飲み込んで拾ってきた枝を置き、木立に引き返した。
隊商から少し離れた奥のほうで拾っていたら叫び声が聞こえた。振り向くと隊商のほうからまた聞こえる。騒がしいけど、遠くて何を言ってるかはわからない。木々に遮られていて見えないのに、恐怖がひたひたと足下を浸す。全身に立った鳥肌で頭がチクチクした。
空気が揺れている気がする。何かが地面に落ちたような重い音。馬のいななき。大きな破裂音。地を這うような唸り声。
冷や汗をかきながら隊商が見えるところまで戻る。木に隠れて覗いたそこには、見たこともない獣がいた。荷馬車より大きな獣が足下の何かに噛みつき、甲高い叫び声が上がった。嫌な予感がするのに目を反らせない。獣が引きちぎって口から何かがぶら下がってる。それは人間の腕だった。
吸った息で喉が小さく鳴り、咄嗟に手で口を押さえた。ダメダメダメダメ。喉の奥から湧き上がる悲鳴を抑えたいのに口が閉じられない。力任せに押さえた口と手のあいだからヨダレが垂れる。自分の息が荒くやけに大きく耳に響いた。
動けず、目も反らせないまま獣の姿を眺め続ける。1人を食べ終わると、もう1人に齧りつく。齧りつかれた護衛から悲鳴があがった。まぶたを閉じられず冷や汗が止まらない。長い長い食事が終わった獣は、食べきれなかった相手を集めていっぺんに頭を咥え、泣き声を引きつれて反対側の森の奥へ歩き去った。
オオカミが漏らした呟きに、肩を揺らしてしまった。動揺のあまり言葉が出てこない。私を見ているオオカミの顔がだんだんと笑いに変わる。
「っは、ハハ、……そうか、あぁ、わかった」
一人で笑って一人で納得したらしい。長い鼻面の大きな口に笑いを残したまま私の目を覗き込む。
「さっきの話なァ、ナシだ。金はいらねぇ。代わりにアンタを抱かせろよ」
黄色の目が私を見てる。どこか野蛮な気配をさせて。
***
街道脇の空き地に荷馬車が止まった。今日はここに泊まるらしい。主人である商人に怒鳴られる前に、馬車を降りて野営の準備に取り掛かる。焚きつけに使う枝を探しに行くと使用人に伝えてから木立に入った。
魔獣があまり出ないと言われてる街道とはいえ、戦えもしない奴隷が1人で離れるなんてありえない。普通なら。最低限の護衛しか雇わないせいだ。燃料の薪だって、持ってきてるのに使うのを嫌がる。ここは滅多に魔獣が出ないんだから拾ってこいと。何もかもケチな商人のせいだと心の中で毒づいた。
枝を探す木立の中は心細い。木の影から今にも何かが飛び出してくるんじゃないかと、ビクビクしてしまう。あちこちから狙われていると思えて、いつも恐ろしさに鳥肌が立っていた。急いでやればそれだけ魔獣から逃げられるような気がして、息を詰めて枝を拾う。やっと集めた枝を持って戻ると商人が顔を歪めた。
「たったそれだけか。手抜きしやがって」
「申し訳ありません」
いつもの小言に謝まると舌打ちを返された。
温かい食事を作り、食事を終える頃には真っ暗で焚火だけが明るい。商人のためにお湯を沸かし、沸けたら桶に入れて持っていく。
荷馬車の外から中にいる商人に声を掛けた。
「失礼します。お湯を用意しました。入ってよろしいでしょうか」
「入れ」
目隠しの布を開けて中へ乗り込み、きちんと閉める。ろうそくの灯りが揺れる床に桶を置き、手ぬぐいと商人の着替えを用意した。
「体をお拭きしてよろしいですか」
頷きを確認してから、失礼しますと声を掛けて服に手を掛ける。上の服を脱がしてから、頭、顔、首、体と上から順に拭き、替えの下着を着せた。次はズボンと下着を脱がし同じように拭く。
「今日はいかがいたしますか」
「ふん、……しゃぶれ」
「はい」
胡坐をかいて座っている商人の股に手を伸ばし、弛んだお腹の下にあるもしゃもしゃした下生えから垂れさがった陰茎を手に持った。指で皮を剥いて先端に舌をつける。
奴隷になって買われた当初は嫌で嫌で仕方なかった。今も嫌なのは変わらないが、慣れてしまえば咥える前に自分で綺麗に拭けるのはありがたいとまで思う。
頭で別のことを考えながら口の中で硬くなった陰茎をしゃぶる。口での奉仕を早く終わらせるために必死で覚えた喉奥の締め付けで、商人が射精して終わりがきた。吐き出すことは許されていないので、味わわなくて済むようにそのまま飲み込む。
途中で挿入に変わるときと最後まで口のときがある。今日は口で終わりのため、陰茎を拭き直してズボンをはかせた。
商人の脱いだ服と桶を持って荷馬車の中から出る。 粘ついた喉に水を流し込んで、ホッと息をついた。
だいぶぬるくなったお湯で商人の服を洗い、荷馬車に洗濯紐を引っ掛けて服を干す。 これで今日の仕事は終わりだ。
御者や使用人が寝転んでる火のそばに行って同じように布にくるまった。
「今日は鳴いてねぇな。物足りねぇなら可愛がってやるぞ」
柄の悪い護衛がニヤニヤと私を見ている。 クククと抑えた笑い声が他の護衛たちから聞こえたけど、無視して横になった。
昨日の夜、商人にやられたあとで花摘みに行ったときに襲ってきた奴。旅に出てからずっと粘っこく絡まれてたから予想はしてたけど。商人に告げると言えば、悪態ついて太ももに射精して逃げた。その腹いせだろう。味方はいない。寝たふりしてる使用人も護衛と同じ。最後まではされないってだけ。絡んでくるのを拒否してるからいい気味だと思ってるのかもしれない。
翌日も同じ街道を進んだ。昼の休憩時、枝を探すために木立に入り、また少ないと文句を言われた。
「もっと探してこい。魔獣なんぞぜんぜん出てこないだろうが。ったく無駄金ばっかりかかる。だいたい、魔獣もぜんぜん出ないだろう。こんなに出ないなら護衛はもっと少なくてもよかった」
苛立ちの矛先を向けられた護衛は一瞬私を睨んで、商人に向き直った。
「いや、いつもはもっと出るんですよ」
「余計な金を使わせるために言ったんじゃないだろうな」
「森の様子がおかしいってギルドでも言ってたでしょう。用心は必要です」
傲慢で横柄な商人に護衛の男たちがへらへらと答える。私はため息を飲み込んで拾ってきた枝を置き、木立に引き返した。
隊商から少し離れた奥のほうで拾っていたら叫び声が聞こえた。振り向くと隊商のほうからまた聞こえる。騒がしいけど、遠くて何を言ってるかはわからない。木々に遮られていて見えないのに、恐怖がひたひたと足下を浸す。全身に立った鳥肌で頭がチクチクした。
空気が揺れている気がする。何かが地面に落ちたような重い音。馬のいななき。大きな破裂音。地を這うような唸り声。
冷や汗をかきながら隊商が見えるところまで戻る。木に隠れて覗いたそこには、見たこともない獣がいた。荷馬車より大きな獣が足下の何かに噛みつき、甲高い叫び声が上がった。嫌な予感がするのに目を反らせない。獣が引きちぎって口から何かがぶら下がってる。それは人間の腕だった。
吸った息で喉が小さく鳴り、咄嗟に手で口を押さえた。ダメダメダメダメ。喉の奥から湧き上がる悲鳴を抑えたいのに口が閉じられない。力任せに押さえた口と手のあいだからヨダレが垂れる。自分の息が荒くやけに大きく耳に響いた。
動けず、目も反らせないまま獣の姿を眺め続ける。1人を食べ終わると、もう1人に齧りつく。齧りつかれた護衛から悲鳴があがった。まぶたを閉じられず冷や汗が止まらない。長い長い食事が終わった獣は、食べきれなかった相手を集めていっぺんに頭を咥え、泣き声を引きつれて反対側の森の奥へ歩き去った。
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