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23.仕切り直し
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「どうしたんだ?何を怒鳴っている?」
「あ、ヘルブラオ様、いえ、おかしなことをしでかすので、儀式を断ろうと思いまして」
「おかしなこと?なんだ?」
「・・・魔力紋が浮かばず・・祝福されない双子の所為でしょう」
「そっちの子でも誓ったのか?」
「・・・はい。そちらも浮かんではおりませんが、女がおかしいのでしょう。この国の人間ではない顔をしています」
顔面差別かよ。そうかよ。確かに平たい顔族は見かけないわ。水色はヘルブラオ様だってさー、様付き。偉い人なんか。フードとったら濃顔だな。しっかし、言いたい放題だな、神官。婚姻の儀式台無し感ハンパない。
「そうか。では、私達が対応しよう。お前は退室しなさい」
「しかしっ」
「このことは黙っておいてやろう。私達が儀式を行い、代金も受け取る。お前は何も知らない。ほら、これ以外の代金を持って行け」
「・・・承知致しました」
わーオウリョウチャクフクだー。権力の横暴だー。
ヘルブラオ様は悪い笑顔で神官を追い出し、もう一人の魔法使いを部屋へ連れてきた。もう一人の魔法使いもフードを外していて、顔が見え、そして、私は息を飲んだ。
思わず両手で口塞ぐ。灰色の魔法使いから目が離せない。
!!!っtぅっえお、ぅぅぅぅ!!!
某俳優に激似の人がいた。
え、待って待って待って、え、待って、まさかまさか、いやいやいやいやあわわわ、ええええ?
口を押さえて魔法使いを凝視し、動悸息切れに耐えていたら、ヘルブラオ様から声が掛かる。
「どうした?グラウのことを知っているのか?」
「ググ、グ、ラグラ、グラウ様?あの、ええと、」
某俳優の名前で本人確認してみると否定された。迷惑そうに。
「私はそんな名ではない」
「なんだ?前の夫の名か?」
「いえいえいえ、まさかまさかまさか。ええと、私の国でも有名な人で、みんな名を知っています。えーと、お芝居をやっていて有名なんですが、その方に似ていたので、ええ、驚きまして、はい、すみません」
「名を大勢に知られて大丈夫なのか?」
「あー、私の国では名を隠すことはあんまりないですね」
ですよねー違いますよねーそうですよねー。魔法使い役やったからって、違いますよねー、まず髪が違うし、白くないし、声も違うし。・・・・でもでもでも、激似なのっ!だって、DVD買っちゃったし!映画館だって行ったし!
俯いてモダモダしてたら、強く手を握られて、びっくりして見上げたら、心配そうなアルと目が合った。
「大丈夫か?」
「・・・大丈夫」
スーハースーハー深呼吸する。よし、アルだけ見よう。あの人は関係ない人だ。そう、まったく、全然関係ない。手を握り返して、笑いかけた。あーアルに抱きしめられたい。スリスリしたい。もうすっかり、甘やかされに慣れてしまった。アルの肩で額をグリグリすると、握る手にいっそう力が入った。
「婚姻の儀式が失敗したんだな?どうやったんだ?」
アルが簡潔に説明する。
「儀式は問題ないな。命名の紋はあるか?」
「命名の紋?」
「子供の名を決めたら、神殿で名を足裏に刻む」
「へー、私はない。皆は?あ、あるんだ。それが問題?」
「命名の紋があれば婚姻の儀式はし易くなるが、神官の魔力が足りていれば無くても問題ない。あいつは問題無いほうの神官だ」
ヘルブラオ様が丁寧に説明してくれる。
「婚姻の儀式は、要は魔力交換なんだ。血は魔力の源で、名を誓うのは相手の魔力を受け入れる為。受け入れた相手の魔力を指に固定することにも魔力が必要で、そこを神官が補う。
相手の指に魔力紋が浮かばないのは、血に魔力が含まれない為、自分の指に魔力紋が浮かばないのは、魔力の受け入れができない、と考えられる。見たことも聞いたこともないがな。これは仮説だ。検証してみよう」
私の目の前まで来ると、ヘルブラオ様が手袋を外して私の指先に触れ、すぐ離した。
「ヘルブラオっ!」
グラウ様が叫び、慌ててヘルブラオ様の腕を掴んだ。ヘルブラオ様は構わず、にこやかに聞いてくる。
「どうだ?痛みはあるか?」
「何も?」
「ッハ、ハハハッ、ハハハハ、見ろ、グラウ、何ともないぞ。ハハハッ」
笑いながら私の手首を掴んで自分の頬に当てた。
「ほら、グラウ、全然平気だ、ハハハハ、おもしろい、面白いな」
え、何、怖い。何なの。いきなりマッドサイエンティストっぽくなってんですけど。
戸惑っていると、掴んだままの私の手を動かしグラウ様の頬に付けた。グラウ様はギョッとして跳び退る。
「何ともないだろう。グラウ、触れただろう?でも何ともない。ハハハハッハハッ」
振り回されている私に、アルが手を伸ばそうとしたら、グラウ様の大音声が響いた。
「触るなっ!死ぬぞ!」
ビクッとしてアルの手が止まる。
「魔力量が違い過ぎると、触れただけで血の通り道が壊れるんだ」
ヘルブラオ様が爽やかな笑顔で教えてくれた。
えっ、つまり、私は、死の危険がある実験台にされたんですか。ヘルブラオ様、まさにマッド。名前にもヘル。この人何、サイコパスかなんか?虫の足ちぎって遊ぶ系の人?
「えー、つまり、私は死ぬかもしれない実験台にされたと」
「そうだな。面白いだろう?」
「ええ、本当に。手を離してください」
「ククッ、ああ。で、婚姻の儀式はお互いの魔力が必要だ」
「では、婚姻の儀式は出来ない?」
「方法はある。グラウ、紋を焼き付けてやれよ」
「・・・・・あれは、しない方がいい」
「ハハッ、いいじゃないか。婚姻したいのだろう?グラウの魔法で血を指に焼き付けるんだ。痛むが死にはしない」
「・・・相談します」
アルの方を向くと、蒼白な顔をしていて、手に触れると抱きすくめられた。ベルとミカちゃんも悲痛な顔をしている。アルの小さな声が耳元で聞こえる。
「ユウ、ごめん、ユウ、守れなかった」
「大丈夫、なんともないよ。アルが無事な方が嬉しい。気にしないで」
アルの背中を撫でる。権力者の横暴は世に横行する。お、上手いこと言っちゃった。
「ベルとミカちゃんも気にしないでね。それより、婚姻の儀式はどうする?焼き付けるって言ってるし、火傷くらい痛いのかもしれない。私のせいで、ごめん。私は痛くても良い。皆に痛みをお願いしてもいいかな?」
「・・・俺は良い。ユウは良いのか?」
「うん。良いよ。ベルとミカちゃんは?」
「俺も良いよ。大丈夫」
「俺も、俺も痛くても良い」
「ごめん、ありがとう」
振り返ると、眉間に皺を寄せたグラウ様の隣で、ヘルブラオ様はとても楽しそうに笑っていた。
「グラウはいつでもできるぞ。こっちへ来い」
「・・・痛むぞ」
グラウ様の前に皆で行き説明を受ける。
「一人ずつ焼く。焼き付ける指の紋の部分に血を付ける。名を誓ってから私が紋を焼き付ける」
「わかった。ユウ、俺からだ」
「お願い、アル」
アルにナイフで指を切ってもらい、アルの薬指に血を乗せるとアルが名を誓った。
「アルフレート・ライ・レハールはササハラ・ユウナギの夫となることを誓う」
グラウ様は手袋をした手でアルの手首を掴み、集中するように目を閉じた。反対側からアルを抱きしめ、指を見ていると、付け根から第一関節までの間に血がスルスルと広がりツタ模様を作る。血が皮膚に染み込み始めるとアルは歯を食いしばって私を抱きしめ、しばらくすると力を抜いた。
「次は?」
ベルがアルと交代し、ベルの指に血を乗せた。ベルは口の端を上げて、私の頬を撫でる。
「ベルンハルト・エリー・レハールはササハラ・ユウナギの夫となることを誓う」
また同じように血が動く間、私とベルは抱き合った。
ベルが終わるとミカちゃんと代わる。ミカちゃんの人差し指に血を乗せると、ミカちゃんは私の指に残った血を吸って柔らかく笑った。
「ミヒャエル・クットはササハラ・ユウナギの夫となることを誓う」
ミカちゃんは片手で私を抱きしめて肩に顔を埋めた。ミカちゃんが終わると私の番。
アルがナイフで自分の指を切り私の薬指の第一関節に血を乗せた。私は名を誓う。
「ササハラ・ユウナギはアルフレート・ライ・レハールの妻となることを誓う」
グラウ様は手袋を脱いで私の手を取り、指先で血を塗り広げて、焼き付けていく。
痛みで呻くと、アルがそっと支えてくれた。ジリジリと焼かれ涙が浮かぶ。服の袖を口の中に突っ込み噛み締めて痛みに耐えた。
ベルとミカちゃんとも名を誓い、名前を間違えなかったことにホッとした。三本の指の焼き跡は赤く膨れ上がってジンジン熱を持ち、痛みが頭を支配する。グラウ様は、焼き跡を静かに撫でてから手を離した。
「グラウ様、ありがとうございました」
痛みが明滅する目を向け、お礼を言うと、三人も一緒にお礼を口にし、グラウ様は眉を寄せ、しかつめらしい顔で頷いた。
「婚姻の儀式は終わりだ。さあ、これと指輪を交換しよう」
親指から指輪を外してアルに渡す。ヘルブラオ様はさっき巻上げた儀式の代金に、銀貨をいくつか追加してアルに渡し、指輪を受け取った。
「私は良い買い物をしたから機嫌が良いんだ。ササハラの傷を楽にしてやろう」
嬉しそうに指輪を眺めながら話して、私の焼け跡を握った。握られた個所がヒンヤリして痛みを軽くする。
「・・・冷えた」
「そうだろう。面白いからな、礼だ。魔法を見たがってたろう?」
「ありがとう。夫にもしてもらえますか?」
「夫はグラウが治したのだろう?ササハラは魔力がないから治せないみたいだな」
「そうなんだ。グラウ様、治療ありがとうございました」
「まあ、このくらいだろう。早く、指輪を眺めたいから帰る」
「・・・ありがとうございました」
「あ、ヘルブラオ様、いえ、おかしなことをしでかすので、儀式を断ろうと思いまして」
「おかしなこと?なんだ?」
「・・・魔力紋が浮かばず・・祝福されない双子の所為でしょう」
「そっちの子でも誓ったのか?」
「・・・はい。そちらも浮かんではおりませんが、女がおかしいのでしょう。この国の人間ではない顔をしています」
顔面差別かよ。そうかよ。確かに平たい顔族は見かけないわ。水色はヘルブラオ様だってさー、様付き。偉い人なんか。フードとったら濃顔だな。しっかし、言いたい放題だな、神官。婚姻の儀式台無し感ハンパない。
「そうか。では、私達が対応しよう。お前は退室しなさい」
「しかしっ」
「このことは黙っておいてやろう。私達が儀式を行い、代金も受け取る。お前は何も知らない。ほら、これ以外の代金を持って行け」
「・・・承知致しました」
わーオウリョウチャクフクだー。権力の横暴だー。
ヘルブラオ様は悪い笑顔で神官を追い出し、もう一人の魔法使いを部屋へ連れてきた。もう一人の魔法使いもフードを外していて、顔が見え、そして、私は息を飲んだ。
思わず両手で口塞ぐ。灰色の魔法使いから目が離せない。
!!!っtぅっえお、ぅぅぅぅ!!!
某俳優に激似の人がいた。
え、待って待って待って、え、待って、まさかまさか、いやいやいやいやあわわわ、ええええ?
口を押さえて魔法使いを凝視し、動悸息切れに耐えていたら、ヘルブラオ様から声が掛かる。
「どうした?グラウのことを知っているのか?」
「ググ、グ、ラグラ、グラウ様?あの、ええと、」
某俳優の名前で本人確認してみると否定された。迷惑そうに。
「私はそんな名ではない」
「なんだ?前の夫の名か?」
「いえいえいえ、まさかまさかまさか。ええと、私の国でも有名な人で、みんな名を知っています。えーと、お芝居をやっていて有名なんですが、その方に似ていたので、ええ、驚きまして、はい、すみません」
「名を大勢に知られて大丈夫なのか?」
「あー、私の国では名を隠すことはあんまりないですね」
ですよねー違いますよねーそうですよねー。魔法使い役やったからって、違いますよねー、まず髪が違うし、白くないし、声も違うし。・・・・でもでもでも、激似なのっ!だって、DVD買っちゃったし!映画館だって行ったし!
俯いてモダモダしてたら、強く手を握られて、びっくりして見上げたら、心配そうなアルと目が合った。
「大丈夫か?」
「・・・大丈夫」
スーハースーハー深呼吸する。よし、アルだけ見よう。あの人は関係ない人だ。そう、まったく、全然関係ない。手を握り返して、笑いかけた。あーアルに抱きしめられたい。スリスリしたい。もうすっかり、甘やかされに慣れてしまった。アルの肩で額をグリグリすると、握る手にいっそう力が入った。
「婚姻の儀式が失敗したんだな?どうやったんだ?」
アルが簡潔に説明する。
「儀式は問題ないな。命名の紋はあるか?」
「命名の紋?」
「子供の名を決めたら、神殿で名を足裏に刻む」
「へー、私はない。皆は?あ、あるんだ。それが問題?」
「命名の紋があれば婚姻の儀式はし易くなるが、神官の魔力が足りていれば無くても問題ない。あいつは問題無いほうの神官だ」
ヘルブラオ様が丁寧に説明してくれる。
「婚姻の儀式は、要は魔力交換なんだ。血は魔力の源で、名を誓うのは相手の魔力を受け入れる為。受け入れた相手の魔力を指に固定することにも魔力が必要で、そこを神官が補う。
相手の指に魔力紋が浮かばないのは、血に魔力が含まれない為、自分の指に魔力紋が浮かばないのは、魔力の受け入れができない、と考えられる。見たことも聞いたこともないがな。これは仮説だ。検証してみよう」
私の目の前まで来ると、ヘルブラオ様が手袋を外して私の指先に触れ、すぐ離した。
「ヘルブラオっ!」
グラウ様が叫び、慌ててヘルブラオ様の腕を掴んだ。ヘルブラオ様は構わず、にこやかに聞いてくる。
「どうだ?痛みはあるか?」
「何も?」
「ッハ、ハハハッ、ハハハハ、見ろ、グラウ、何ともないぞ。ハハハッ」
笑いながら私の手首を掴んで自分の頬に当てた。
「ほら、グラウ、全然平気だ、ハハハハ、おもしろい、面白いな」
え、何、怖い。何なの。いきなりマッドサイエンティストっぽくなってんですけど。
戸惑っていると、掴んだままの私の手を動かしグラウ様の頬に付けた。グラウ様はギョッとして跳び退る。
「何ともないだろう。グラウ、触れただろう?でも何ともない。ハハハハッハハッ」
振り回されている私に、アルが手を伸ばそうとしたら、グラウ様の大音声が響いた。
「触るなっ!死ぬぞ!」
ビクッとしてアルの手が止まる。
「魔力量が違い過ぎると、触れただけで血の通り道が壊れるんだ」
ヘルブラオ様が爽やかな笑顔で教えてくれた。
えっ、つまり、私は、死の危険がある実験台にされたんですか。ヘルブラオ様、まさにマッド。名前にもヘル。この人何、サイコパスかなんか?虫の足ちぎって遊ぶ系の人?
「えー、つまり、私は死ぬかもしれない実験台にされたと」
「そうだな。面白いだろう?」
「ええ、本当に。手を離してください」
「ククッ、ああ。で、婚姻の儀式はお互いの魔力が必要だ」
「では、婚姻の儀式は出来ない?」
「方法はある。グラウ、紋を焼き付けてやれよ」
「・・・・・あれは、しない方がいい」
「ハハッ、いいじゃないか。婚姻したいのだろう?グラウの魔法で血を指に焼き付けるんだ。痛むが死にはしない」
「・・・相談します」
アルの方を向くと、蒼白な顔をしていて、手に触れると抱きすくめられた。ベルとミカちゃんも悲痛な顔をしている。アルの小さな声が耳元で聞こえる。
「ユウ、ごめん、ユウ、守れなかった」
「大丈夫、なんともないよ。アルが無事な方が嬉しい。気にしないで」
アルの背中を撫でる。権力者の横暴は世に横行する。お、上手いこと言っちゃった。
「ベルとミカちゃんも気にしないでね。それより、婚姻の儀式はどうする?焼き付けるって言ってるし、火傷くらい痛いのかもしれない。私のせいで、ごめん。私は痛くても良い。皆に痛みをお願いしてもいいかな?」
「・・・俺は良い。ユウは良いのか?」
「うん。良いよ。ベルとミカちゃんは?」
「俺も良いよ。大丈夫」
「俺も、俺も痛くても良い」
「ごめん、ありがとう」
振り返ると、眉間に皺を寄せたグラウ様の隣で、ヘルブラオ様はとても楽しそうに笑っていた。
「グラウはいつでもできるぞ。こっちへ来い」
「・・・痛むぞ」
グラウ様の前に皆で行き説明を受ける。
「一人ずつ焼く。焼き付ける指の紋の部分に血を付ける。名を誓ってから私が紋を焼き付ける」
「わかった。ユウ、俺からだ」
「お願い、アル」
アルにナイフで指を切ってもらい、アルの薬指に血を乗せるとアルが名を誓った。
「アルフレート・ライ・レハールはササハラ・ユウナギの夫となることを誓う」
グラウ様は手袋をした手でアルの手首を掴み、集中するように目を閉じた。反対側からアルを抱きしめ、指を見ていると、付け根から第一関節までの間に血がスルスルと広がりツタ模様を作る。血が皮膚に染み込み始めるとアルは歯を食いしばって私を抱きしめ、しばらくすると力を抜いた。
「次は?」
ベルがアルと交代し、ベルの指に血を乗せた。ベルは口の端を上げて、私の頬を撫でる。
「ベルンハルト・エリー・レハールはササハラ・ユウナギの夫となることを誓う」
また同じように血が動く間、私とベルは抱き合った。
ベルが終わるとミカちゃんと代わる。ミカちゃんの人差し指に血を乗せると、ミカちゃんは私の指に残った血を吸って柔らかく笑った。
「ミヒャエル・クットはササハラ・ユウナギの夫となることを誓う」
ミカちゃんは片手で私を抱きしめて肩に顔を埋めた。ミカちゃんが終わると私の番。
アルがナイフで自分の指を切り私の薬指の第一関節に血を乗せた。私は名を誓う。
「ササハラ・ユウナギはアルフレート・ライ・レハールの妻となることを誓う」
グラウ様は手袋を脱いで私の手を取り、指先で血を塗り広げて、焼き付けていく。
痛みで呻くと、アルがそっと支えてくれた。ジリジリと焼かれ涙が浮かぶ。服の袖を口の中に突っ込み噛み締めて痛みに耐えた。
ベルとミカちゃんとも名を誓い、名前を間違えなかったことにホッとした。三本の指の焼き跡は赤く膨れ上がってジンジン熱を持ち、痛みが頭を支配する。グラウ様は、焼き跡を静かに撫でてから手を離した。
「グラウ様、ありがとうございました」
痛みが明滅する目を向け、お礼を言うと、三人も一緒にお礼を口にし、グラウ様は眉を寄せ、しかつめらしい顔で頷いた。
「婚姻の儀式は終わりだ。さあ、これと指輪を交換しよう」
親指から指輪を外してアルに渡す。ヘルブラオ様はさっき巻上げた儀式の代金に、銀貨をいくつか追加してアルに渡し、指輪を受け取った。
「私は良い買い物をしたから機嫌が良いんだ。ササハラの傷を楽にしてやろう」
嬉しそうに指輪を眺めながら話して、私の焼け跡を握った。握られた個所がヒンヤリして痛みを軽くする。
「・・・冷えた」
「そうだろう。面白いからな、礼だ。魔法を見たがってたろう?」
「ありがとう。夫にもしてもらえますか?」
「夫はグラウが治したのだろう?ササハラは魔力がないから治せないみたいだな」
「そうなんだ。グラウ様、治療ありがとうございました」
「まあ、このくらいだろう。早く、指輪を眺めたいから帰る」
「・・・ありがとうございました」
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