ポンコツな私と面倒な夫達 【R18】

象の居る

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25.筆頭魔法使い

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ベルがドアの前に行き、声を掛ける。

「誰?」
「ヘルブラオだ。見舞いに来た」
「・・・見舞いは必要ありません」
「妻の痛みを気に掛けないのか?それに、妻の身を守る話も持ってきたぞ」
「何か危ないことが?」
「そうだ。詳しい話は中でする」
「・・・少しお待ちを」

ベルがアルの方まで来て小声で相談する。

「どうする?」
「ユウの危険は見過ごせない。話を聞こう」

急いで体を拭い服を着る。
ドアを開けると、ヘルブラオ様とグラウ様が部屋に入って来た。ヘルブラオ様はさっさと椅子に座り、グラウ様はその側に立つ。

「まずはササハラの傷を冷やそう。こちらへ寄越せ」

ヘルブラオ様はにこやかな顔でアルに言った。
う、胡散臭い、胡散臭過ぎる笑顔。なんか、怖い。でも正直、冷やしてもらえるのはありがたい。アルにどうするか聞かれ、冷やしてもらうと答えた。

「布は外せ。ササハラは魔力無しだから直接触らないといけない」

アルに布を外してもらいヘルブラオ様の側へ行くと、手を握られ親指に指輪をはめ込まれた。

「っ何を!」

アルがいきり立って近寄り私の肩を掴んだ。手を引こうしたら両手で強く握られ手の甲にキスをされた。

「私からの求婚は受けた方がいいぞ。魔法使い連中がササハラを狙うだろうから」
「・・・なぜ、狙うんだ?」
「血に魔力がなく、魔力も通らないだろう?血は魔力除けの素材になるし、どうやったら魔力が通るのか実験台に丁度いい。あの神官に口止めしたがどうせ喋るさ。ああいう手合いは自己弁護に忙しい」

おいいいいいい、血を抜くのかよ、私じゃなくて牛の血抜けよ。あの神官の血を抜けよ。実験台って何されんのよ。人権無いやん。思いやりを持てよ、私に。

「・・求婚については?」
「ササハラは面白いからな、妻にして楽しむ。それに、私は筆頭魔法使いだ。私の妻になれば実験台にしたい連中を抑えられるぞ?夫は三人だけで、お前は薬指だろう?親指じゃない。ササハラの国の指輪で、お前が同意して売ったんだ。婚約者もいない。早めに婚姻するべきだ」
「・・・・・お前は実験台にしないと言えるのか?」
「しないさ。するならこうして話さない。私は嘘は言わないんだ」
「・・・ユウ、ユウはこの魔法使いを夫に迎えるか?」
「うー、断りたいけど、実験台は嫌だ。絶対。・・・迎えるなら条件があるんだけど。いい?」
「なんだ?言ってみろ」
「私は森に住む、他の夫も守って欲しい・・・できる?」
「わかった。森に住んでいる方が目を避けやすいだろうしな。夫の守りには魔法除けの石を渡そう。これでいいか?私の求婚を受けるだろう?」
「はい。求婚を受けます」

サックサク進むな。揚げビスケットか。魔法除け石は助かります。ありがとう。話しながら指も冷やしてくれるし、なかなか良いトコあるじゃん。

「じゃあ、婚姻をしよう」
「え?」
「その為にグラウを連れて来た。さあ、血を私にくれ」
「急過ぎる。婚約期間を置いてくれ」
「ダメだ。いつ連中に嗅ぎつけられるかわからん。それに、私は欲しいものはすぐに欲しいんだ」

あれですよね、後半の理由が9割ですよね。9.9割ですよね。なんで、この人と。グラウ様じゃない。格好良い。イヤイヤ、違う。今はヘルブラオ様だ。変人の。
ヘルブラオ様はササっと私の指を切って血を自分の親指に乗せた。

「エーミール・レオン・ヘルブラオはササハラ・ユウナギの夫となることを誓う」

グラウ様の手袋を履いた手が手首に乗り、あっという間に魔力紋が焼き付いた。

「さあ、ササハラも誓ってくれ」

あれよあれよと進むのに流されて、アルと顔を見合わせる。アルは困り顔でため息をつき、頷いた。親指の指輪を外して血を受ける。

「ササハラ・ユウナギはエーミール・レオン・ヘルブラオの妻となることを誓う」
「私の為の痛みだ。私が受け止めよう」

ヘルブラオ様に抱きしめられ、俯いたままグラウ様に手を差し出した。グラウ様はそっと、私の手を取り、指先で柔らかく撫でていく。グラウ様の優しい動作に体が震え、吐息は焼き付ける痛みの呻きと重なった。グラウ様の柔らかな手と痛みが交差して背中を這い上る。ヘルブラオ様が指で背骨をそっとなぞるので、私は腰が動かないよう必死でしがみ付いた。
焼き付けが終わるとグラウ様の手は離れ、ヘルブラオ様は私の指を冷やしながら頭のてっぺんにキスをした。

「さあ、これで私は夫だ。このまま性交しよう」
「・・・私は帰る」
「ああ、助かった」

グラウ様はさっさと部屋を出て行き、気まずい沈黙が部屋に満ちた。
なに言っとんじゃ、このおっさん。なんで、会ったばっかりのおっさんと性交しなきゃいけないんじゃ。それは、私がこの人と婚姻したから。なんでかなぁ、なんでこんなことに。

「性交しません」
「なぜだ?三人の夫とはしたのだろう?」
「三人の夫としたので、もう疲れました」
「問題ない。私は上手いからササハラは寝てるだけでいいぞ」
「いいえ、結構です。お断りです」
「では、いつ性交するんだ?」
「・・・まあ、そのうち」
「そうか。仕方ない。私は良い夫だから妻の意見を尊重しよう。私のことはエーミールと呼べ。そう言えば、なぜ他の夫は『ユウ』と呼ぶんだ?名はササハラだろう?」
「ササハラは家族名で、ユウナギが名なので。って、何、結婚前に勝手に名を呼んでんの?」
「すぐに婚姻すると決めたからな。私は面白いことが好きなんだ。さあ、ベッドに寝て。性交はしないが横に寝るぐらいは良いだろう?」
「・・・何もしないなら。・・ユウナギ呼びはやめて。ユウって呼んで」
「指を冷やすだけだ。他の夫は別のベッドで寝るといい」
「・・薬指はアルです。ベルもミカもちゃんと、尊重して」
「私に触れると他の夫は死んでしまうぞ。私は構わないが、ユウナギは嫌だろう?」
「構って!そこは構って!あーもう・・・・ごめんね、三人は大きいほうのベッドで寝て」

私の指を握っていたエーミールの指を離し、三人と順番に抱き合いキスをする。おやすみを言ってロウソクを消し、服を脱いでベッドに潜り込んだ。エーミールは裸で私の下着を脱がそうとする。
「性交しないって言ったでしょ」
「しないのだから裸になったっていいだろう。夫が譲ったのだから妻も譲ってくれ」

仕方なく下着を脱ぐとエーミールが身を寄せてくる。

「ああ、いいな。ユウナギも婚姻できて嬉しいだろう?私は色男だからな」
「だから、ユウナギ呼びは止めてって。・・・色男なの?うーん、世間一般ではそう、なの、かもね。色気はあるし。じゃあ、なんで、婚姻してないの?いい歳なんでしょ」
「ククッ、いい歳って。まあ、40だからな。ベッドの中ではユウナギと呼ぶ。いいだろう、夫なんだ。他の夫だって、私が色男だから気になるんだ。私が好みじゃないならユウナギの好みはなんだ?」
「え、そうだったの。よくわからないし、気にしなくていいのに。私の好み・・・強いて言うなら、食事の仕方が綺麗な人がいいなあ」
「フフッ、ユウはいつもそれだね」
「だってねぇ、ご飯は快適に食べたいし」

ベルがおかしそうに言う。そうか、話、聞こえるよね。変なこと言えないな。エーミールが余計な事言わなきゃいいけど。

「それなら、私もユウナギの好みに入るぞ。・・・婚姻しなかったのは、妻もその夫達も私と寝たがるんだ、面倒だろう?私は色男だから好かれるんだ。男も女も私を好きになる。それで筆頭魔法使いにもなった」
「わーお、まさかの体で出世。体張ってるね。好かれ過ぎるのも面倒だよね」
「ああ、面倒なんだ。私の言うことに全て従われるのはつまらないだろう?」
「信者か。それは面倒」
「ユウナギは面白い。双子と婚姻するし、平民なのに私を怖がらない。裕福そうなのに私に媚びない。それに、虫も好きだろう?」
「双子は関係ないし。エーミールだって気にしないでしょ?エーミールが他人の事を気にするとは思えない。
虫は別に好きじゃないよ。デザイン性に魅かれるけど、畑と人体に有害な虫は嫌だ。飛び跳ねるのも。もそもそ歩くだけならいいかな」
「ハハハッ、私のことをわかってるな。好みも同じだ。ユウナギは私が好きじゃない所が良いんだ」
「うわあ、モテ男のセリフ。珍獣扱いか。好きじゃないというか、禄でもないことされそうで」
「フフッ、ユウナギ、いいな。私を愛さないでくれ」
「それは、約束できかねる。感情はいつだって変わるから」
「ハハッ、ユウナギは変なのに話が通じる。教育は受けているのか?」
「うん、私の国は6歳から15まで親が教育の義務を負う。親に依って教育の質は異なるけど。大抵の子供は18まで教育を受けるし、22から24まで教育を受けるのも珍しくないよ」
「随分教育に力を入れているな。国が裕福なのか?」
「まあ、そんな感じ。裕福な国は貧富の差が激しいし、制度はあっても取りこぼしは多いよ。富を得る為に何してるかはお察しでしょ」
「ハハハハッ、ユウナギ、面白い。ユウナギ」

いきなり深いキスをされて、息継ぎに焦る。エーミールの硬くしこったものが太腿に当てられ、グリグリ押し付けられた。

「エーミール、ダメって言ったけど」
「ああ。我慢する。私が我慢したことを覚えていてくれ」
「・・・エーミールは交渉上手だね」
「ふふっ、それで、筆頭までのし上がったからな」
「顔だけじゃないじゃん。その政治力は他で使って。小娘なんだから、手加減してよ」
「フフッ、そうだな。ユウナギ、早く、私の家に泊まりに来てくれ」
「・・そのうちね」

エーミールが私を強く抱きしめながら、首にスリスリと顔を擦り付けた。私はなんだかとても疲れて、エーミールの胸にもたれ、目を閉じたらそのまま意識を失った。


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