ポンコツな私と面倒な夫達 【R18】

３６．気分は揺れる

また森番の家と炭焼きの家を行ったり来たりして過ごす。

穏やかで和やかに過ぎる表面の下で落とし穴が待っているような、よくわからない不安があった。私はこうやって、このままここで過ごして行くのだろうか？この穏やかさは続くのだろうか？現状が優しいと壊れる時が恐ろしく、自分で壊したいような気にもなる。荒んだ気分はPMSだと言い聞かせ丸まってやり過ごした。

働きに出ることは出来なかった。夫が一緒にいないと危ないと。皆は森で仕事をしているから一緒に行けない。
街に出る時に一緒に行きたいと言ったらOKを貰った。宿は安いとこで良いと言うと、安い所は雑魚寝でみんな裸で藁にくるまって寝るらしく、妻をそんな所に寝せる夫はいないと反対された。知らない人と裸で雑魚寝って、どんな悪夢ですか。裸の付き合いですか。宿は高い個室になる。
二人は良いトコ出身だから、習慣でシーツも掛布も使ってるけど、平民は藁だって。ミカちゃんも藁のみだったけど、私の為にシーツと掛布を調達したらしい。
稼げもしないのに金だけかかる、とんだお荷物だな、私。街に行く気持ちが萎んだ。

気晴らしが無かった。正確には、サイコロ遊びも双六も好きじゃないので気晴らしにならなかった。オセロも好きじゃないから作る気がしないし、チェスも将棋も囲碁も名前しか知らない上に興味もない。たぶん、複雑な動きに頭が付いて行かなくて好きじゃないんだと思う。あ、ダイヤモンドゲームは好きだな。あれはぴょんぴょん跳ねるだけだし。

ベルに習って縫い物をした。カバンに入っていた刺繍は櫛入れにした。火傷で寝込んでいる間にアルとベルが櫛を買ってくれたのだ。二人からの贈り物。刺繍糸は残り少なかったので丁寧に刺した。それでも歪になったけど。
ナイフも貰った。森での必須アイテムらしい。ナイフは高いんだろうと思う。そのうちお返しを贈ろう。指輪を売ったお金があるし。
これも使ったらすぐ無くなる。殖やすにはどうしたらいいのか。稼ぎたい。稼いで好きな物買いたい。

そろそろ、この国に関心を持たなくてはいけない。なんといっても結婚してしまったのだし、結婚相手には責任がある。別にいなくなったって、その内忘れるんだろうけど、居る間は義務を果たすくらいしなければいけない。
まあ、流れで結婚するって言ったし、言ったからにはやらなきゃいけないから、多少無理してでも結婚した。流れで義務と責任が発生してしまった。4人分の義務と責任は今までにない重さだ。なんか、変な所で意地になってしまう。無理なのか、じゃあ止めよう、とか出来ない。勝手に期待されてる気になって、応えなきゃいけない気になる。自分で面倒事増やしに行ってるんだよ。バカだから。
そして何が義務かもわからない。わかんないけど、多分、子作り。他は？

取り敢えず、貨幣の種類とか値段を聞く。消耗品が滅茶苦茶高い。布も調味料も鍋も紙も。病が流行った時に物価が軒並み上がって、今はそれでも落ち着いたらしい。
全て手作りだからね。私も糸紡ぎやろうかな。出来るかな？そしたら少しは節約できる。節約のために糸紡ぐとか、次元が違うね。いや、内職か。

面倒で疲れる。好奇心とか無いし、知らないことにワクワクしない。覚えることが多くて面倒なだけだ。セックスに溺れてたいなぁ。その時は何も考えなくて良いから。夫も喜ぶし。Win - Winだ。
こうして考えることから逃げるから、流されちゃうんだろうなぁ。あああ、勤勉なエーミールが羨ましい。