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47.事件
しおりを挟む今日も森まで送ってもらい、またもや外でグラウ様のお迎えを待っていると、何やら揉めてる男女状態でやってきた。
「あいつがっヘルブラオ様のっ相手なの!?」
「やめろっ!」
あ、エーミールさんの痴情のもつれ関係ですか。良かった~グラウ様関係かと思ってかなり動揺したわ。えっと、助けは。
「くっ、うるさいっ!」
バシンッ、と軽い衝撃が来たが何ともない。
「魔法を使うな!」
「うるさいっ!石ももらいやがってっ!」
グラウ様が彼女の腕を掴んでいる。あ、素手だから。もがく女はギラギラした目で呆けた私を睨んでる。灰色だ。グラウ様と同じ。そんで二人でシュンシュン消えたり現れたり。コマ撮りアニメかよ。二人とも飛べるとこうなるわけか。
と、また現れると、女が金切り声を上げ、グラウ様の体が硬直して震え出す。目に入る光景が理解できると、私は思いっきりグラウ様にドロップキックをした。
「ぐぁっ」
「ぎゃっ」
二人は離れて転がる。女はあっち、グラウ様は私の下。すぐよける。
「大丈夫?」
「なんなのっ!」
「何すんのっ!バカアホ!この人にっ!保護する!!夫の部下だ!」
「何が『夫』よっ!あんたなんかぁぁっ」
掴みかかられて滅茶苦茶引っ掻かれる。やりかえす、ぜってーヤリカエス。なんとか喉元を殴って咽たところを、目を見開いてグーで思いっきり顔を殴った。咽てバランスを崩してたのか、彼女は倒れてせき込んでいる。
グラウ様の手を握って立たせる。
「エーミールのところに連れてって」
グラウ様は驚き顔のまま頷き、彼女を連れて飛んだ。私はアドレナリンがドバドバで脳内パニックで、頭を掻きむしって、よくわかんない呻き声なんか出している。
おおおおお、なんんんなんんなんだ。おおおお。殴ってしまった、殴って、思いっきり・・・。
いやいや、先に手を出したのはあっち。そう、絶対他人のせいにするマン!相手を滅茶苦茶責めるべき!よし!無茶苦茶理論だろうが絶対非は認めない。ワタシ、ワルクナイ。
まず、一般人に魔法で攻撃をした。グラウ様の仕事を邪魔した。グラウ様に通電した。私に暴力を加えた。エーミールの妻だから?これ、全部エーミールのせいじゃね?下手やったんだ。もっと上手くあしらっとけよな。
ゴリラのようにウロウロしているとグラウ様が現れた。私を見て何とも言えない複雑な顔をしている。蹴り飛ばして、殴りつけて、命令するんだもんな。そりゃあね。
「さっきごめんなさい。でも、感電のときはああするしかなくて。体痛くない?」
「ああ、私は自分で治せる。・・・あなたは治せない、すまない」
「ヘーキヘーキ。薬付けるし」
「手を。・・・左を」
「?はい」
なぜか左手指定。手を取られて、エーミールの部屋に飛んだ。目の前にはエーミールとブスくれてる女。私を見てあっけに取られるエーミール。初めて見る顔だな。
「ユウナギっ!こんな、傷を、ああ、薬を今ぬってやる」
「そんなに傷ある?」
「なによっ、グラウが治せばいいじゃないっ!」
「治せないんだよ、ミア。魔力が無いから治癒が効かない」
「無能ね」
えー、ミアさんてか、反省の色ナッシング。おったまげーですよ。好きな人の前では大人しいとかはないのね。本性全開ですか。てか、治療済みかよ。もっとボコボコにしても良かったんや。くそ。
エーミールが丁寧に顔を拭って薬を付けてくれる。興奮が収まるにつれ、ヒリヒリした痛みと、殴った手のジンジンした痛みが膨らんできた。
頬全体に布を張りつけ包帯を巻いた。
「エーミール、手を冷やして欲しい」
「わかった」
頬の傷の手当てをし、エーミールが私の手を握ったのを見たミアさんがイライラと声を出す。
「だから、何?私、何もしてないわよ」
「ミア、私の妻に傷を付けただろう。グラウの仕事を邪魔した」
「あれは、こいつが蹴るから反撃しただけよ。グラウの仕事ぶりを見せてもらっただけだし」
「ユウナギ、蹴ったって?」
「あれは、感電したときの正しい救出方法だから。電気関係なら常識だから」
「かんでん?蹴り飛ばすのが?」
「そう。まず、カミナリ魔法はカミナリを出しますが、カミナリは電気です。電気の一形態ですが、知っている名称のほうがいいので、カミナリで説明します。カミナリというのは物体の中を通り抜けます。これが前提です。いい?」
「ああ」
ふむふむと質問モードの顔をして聞いている。感電して動けなくなる理由を説明する。
「なので、地面に足を付かない状態で、グラウ様をミアさんと切り離すには、つまり、飛び蹴りです。グラウ様を飛び蹴りしたのは、純粋に救出のためです」
「蹴ったのはグラウか。ミアではない」
「そうです。ミアさんと反対に行くよう蹴ったので、角度的に見間違いもあり得ません」
「ミア、聞いているか?」
「何よ。グラウが蹴られた勢いで私も倒れたんだから、驚いたのよ」
「ミアさんは、グラウ様と揉み合って『ヘルブラオ様の相手』を見に来ました。そして、私に向けて魔法を放ちました。そのあと、止めるグラウ様にカミナリを流しました。私がグラウ様を助けると、私に掴みかかり暴力を振るいました。私はその暴力から逃れるため抵抗しました」
「私の顔を殴ったじゃないっ!」
「掴みかかられましたので、急いで逃れるためです。暴力への抵抗は、ときに加減が難しいものです」
「なんなのっあんた!」
くるりとエーミールの顔を見る。エーミールは片眉を上げて見返す。
「私的な理由による業務妨害、グラウ様に対する暴力、私に対する暴力、一般人への必要ない魔法行使、これらについて処分を求めます。筆頭魔法使いヘルブラオ様の裁可をお願いできますか?」
「ああ。こちらでも相応の追及をする予定だ。処分はまかせてほしい」
「はい。ヘルブラオ様に従います」
「ミア、部屋で謹慎するように。連絡をするまで、外出禁止だ」
「っ!待って、私はっ違うっ!」
「私の妻が嘘を?」
「それは、理由がっ!」
「詳しい理由はあとで聞きに行こう。それまで謹慎だ。これ以上私を怒らせるな」
憤怒の顔で勢い良く立ち上がったミアさんは消えた。美人の般若顔は迫力ありますわ。
「すまない、ユウナギ、私のせいで」
「何が罪になるかわからないから思いつくもの言ったけど大丈夫だった?」
「上出来だ。側にいたいがこのことで調整が必要になった。忙しくなる。森に送ろう」
「お願いします。終わったら教えてね」
「ああ、グラウ頼む」
エーミールが悲し気な顔で私の頬を撫でたあと、グラウ様は私の左手を握り飛んだ。森に着くとすっかり暗く、家から光が漏れていて、アルとベルは帰っているみたいだった。
グラウ様は私の手を離さずに少し強く握った。
「・・・ありがとう、助けてくれて」
迷子みたいな顔したグラウ様は、私が返事をする前に消えた。
なんだか、なんだか胸が締めつけられる。私、私、嫌われてないよね?蹴ったけど。あれは、緊急事態だからってわかってもらえたんだよね?助けたって認識された。された。手を手を、手を、こう、キュッてした。
・・・おおおおおお、おお、おいおいおい、憤死。憤死ぬ。助けて!どうにかして!
ひとしきり悶えて、深呼吸を滅茶苦茶して、落ち着くために、ごんぎつねを思い出したら、逆に悲しくなり過ぎた。
ため息をついて、ドアをノックし驚かれつつ開けてもらうと、滅茶苦茶驚かれた。ケガしたの忘れてましたわ。
話を聞いたアルとベルはひとしきり憤慨し、ご飯を食べてから、私に気を遣って静かに眠った。
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