ポンコツな私と面倒な夫達 【R18】

象の居る

文字の大きさ
112 / 139

111.お似合いじゃない?

しおりを挟む
2話投稿 2/2


_____________

いつのまにか眠りに落ち、目が覚めるとベッドの中だった。当て布もしてある。ひえー介護か。こっちのほうがよっぽど恥ずかしいわ。
温かい体が両隣にある。アルのほうを向いたら、抱き込まれた。まぶたが開き、私を見て幸せそうに優しく微笑む。何かが違ってた。霧が晴れたみたいな、そんな感じ。

「体は?大丈夫か?」
「うん、大丈夫みたい」

額に触れるだけの優しいキスをして、私を抱き寄せ静かに息を吐く。耳に頭にいくつもキスが降ってきた。

「ユウ、愛している。俺の妻、俺のユウ」

『俺のユウ』って言った。あのことがあってから初めて聞いた。一緒に住んでたときはいつも言ってた。私を抱くたびに何度も囁いた。鼻の奥がツンとして涙が出る。アルにそう言われるのが好きだった。いつも嬉しそうに言うから。ちゃんと受け止められてなかったけど、私の帰れる、私を受け入れてくれる場所があるみたいで嬉しかった。胸が痛い。

涙が止まらない。

「・・アルが・・捨てた」
「・・・ユウ」

自分のせいだって分かってる。でも拒絶されるのは悲しかった。居場所を失くしてしまったのが悲しかった。一人きりになったのが悲しかった。ずっと悲しかったの、アル。

ただ泣いて、涙はずっと止まらなかった。アルは静かに私を抱きしめてた。

鼻水まみれで顔が気持ち悪くなり、布を探すとアルが渡してくれた。顔を拭いて鼻をかんでサッパリする。顔を上げてアルを見ると辛そうな顔をしてた。ごめん。ああ、でも、これで私は本当に前を向けた気がする。泣いてようやくスッキリしたみたい。アルに抱き付くと、強く抱きしめ返された。

「大事にして。ずっと死ぬまで、大事にして」
「・・する。死ぬまでずっと大事にする。ユウ、俺の妻」

ぎゅうぎゅう抱きしめて、顔を擦り付けるので苦しい。背中をトントン叩いて苦しいと言うと緩めてくれた。この人達はいつまでたっても力加減を覚えないな。まったく困った人達で、なんか笑ってしまう。

「そろそろ力加減覚えてよ」

笑いながら言うと、アルもくしゃりと笑った。
背中にベルがくっついてきた。こっちもぎゅうぎゅう抱き付いてる。わざとか?わざとなのか?

「もーベルまで」

ベルのほうを向き、眉を下げてるベルを笑いながら抱きしめる。

「大事にしてね、ベル」
「うん、する。ユウ、大事にするよ。俺の妻だもの」

二人に挟まれて抱き合う。満たされて幸せな朝だ。
このまま幸せに微睡みたいけど、血が漏れたら困るので交換せねば。あーあ、ロマンチックはほんの一瞬だからロマンチックなんじゃない? 

「ねえ、ユウ、体は平気?昨日、アルに酷いことされてなかった?」
「平気だし、されてないけど。私、途中で寝ちゃったけど、寝たあとでなんかしたの?」
「・・いいや」
「だって、血塗れだったよ」
「生理だからね」
「あんなに血が出るの?」
「うん、人によるけど私は多い方」
「ユウ、可哀想。俺、あんまり血が多いのは苦手なんだ。アルは解体好きだけど」
「獲物を手に入れたって満足感があるんだ」
「・・・私は獲物にされたの?」
「・・そう。・・ははっ、獲物にした。ユウは俺の獲物なんだ」

よく分かんないけど、そういう趣味なんか。だから血まみれで大満足か。それで喜ぶならいいけどさ。二人して、なんと見事な性癖でしょうか。さすが双子よ。

「どうしようベル、獲物にされた」
「でも、俺はユウに食べられる獲物だから。ユウは俺を食べるでしょ」
「まあねえ。それならいいのかな?」

私達は喋りながら起き上がって身支度をする。水汲みに行ったり、葉っぱ摘みに行ったり、必要なことをする。こうして生活して生きて行く。良いことも悪いこともあって、それでも帰る場所があって、抱き合う人がいて、ずっと一緒に過ごしていく。冬ごもりの支度で忙しくなるし、放っておくと着替えしないで臭くなるし、困った夫達に面倒臭いと思いながら付き合ったり、私だって雑だったり、無神経なところあるし、失敗したり我儘言って面倒をかける。

夫達を好きで、好きな人から好かれて大事にされて、私は幸せなんじゃないだろうか。甘いだけじゃ済まないし、挫けたりもするな、きっと。結婚生活って言うし、生活なんだから、こんな感じでやってくんじゃないかな。まあ、たまに文句言いつつ、笑って過ごしていければいい。ポンコツな私と面倒な夫達なら、お似合いってもんでしょ。



__________________


最終回は明日になりました。
エピローグ追加です。
しおりを挟む
感想 83

あなたにおすすめの小説

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...