【R18】豹獣人の3兄弟~保護してもらうかわりに体を使って頑張ります!

象の居る

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28.新しい縁

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 奴隷が必要な部分の討伐は終わり、ヴィムは森の家を確認するため先に出かけた。兵団は倒した周囲の確認と魔獣の後始末をして次の日に出発し、私たちも後ろについていく。途中で私がへばると、ローガーとヴィリに交代で抱っこされながら進んだ。
 晩ご飯のあとは野宿でやろうとするので抵抗したら、聞こえなきゃいんだろ、と兵団から離れた場所まで連れていかれて結局やられた。でも、匂いでバレるんだよね。なんかいたたまれない。
 一週間の移動で街へつき、私たちは街の手前でヴィムを待った。

 2日遅れて合流したヴィムは、会うなり眠ってしまったので、目が覚めてから街へ入る。真っ直ぐ管理官がいる役所に行って私の住民登録を済ませた。

「あんたは来年から人頭税がかかる」
「え」
「ああ、わかった」

 驚く私に構わず、ローガーが返事をする。

「それより魔獣の雪崩で小屋が荒れてる。どうにかしてくれ」
「自分たちでどうにかしろ」
「ここの管轄だろ」

 ローガーはヴィムが見てきた小屋の惨状を話して交渉し、いつもより多い支給品と、支度金をもらってた。
 ここでの用事が終わったら、フニの毛皮を売ってお金に変える。そのあとは装備を点検に出したり買い物したり。宿代がかかるから夜は街の外で野宿した。
 一週間かけて森へ戻ったら、想像以上に小屋の中がグチャグチャだった。魔獣がエサを探したんだろって言ってたけど、フンとか落ちてるし臭いし最悪。

 みんなで掃除して、洗濯する。壊れた扉とか穴の開いた壁は、村に修理を頼むらしい。今日はとりあえずこのまま。敷物はぜんぶ洗濯したので、野宿に使った敷物を板間に敷いて座った。

「魔獣が荒したから、しばらくは駆除するほどじゃねぇ。そのあいだに遠征して狩りに行く。小屋の修理を村に頼むから、シュロと留守番はヴィムにするか」
「うん、俺が残る」
「オレはシュロに旨いモン獲ってきてやるよ」
「ありがとう」
「ただ、ここいらの獲物も消えたからなぁ。お前ぇらが食うモンねぇよな」
「麦を買ったし、春芽も出てるからしばらくは大丈夫。2人分だから探してみるよ」

 なんかここに戻ってきて、こうして普通に喋ってるのが不思議。私は本当にここに住むんだな。
 3人を眺めてぼんやり思った。

 ローガーとヴィリは遠征に出かけ、ヴィムと私は残った。畑を作り直し、果物を採取し、柴を拾う。ローガーたちが村に寄って依頼してくれたので、しばらくしたら村の人が木の板を持って修理しに来てくれた。夜の移動はできないので泊りがけだ。
 夕食を一緒に囲むと村人の子供の話になった。

「嫁に行くのが決まってね、婚礼品やらなにやら作ってるんだわ」
「おめでとうございます。こちらの婚礼品ってどういったものなんですか?」
「色々と布に刺繍するんだ。婚礼衣装もな。それをずっと晴れ着にする。死ぬときもそれ着て埋められるんだ」
「へー、それは大事ですね」
「ああ。そんでな、人間種は手先が器用だって聞いてるんだが、あんたも刺繍はできるかい?」
「はい、少しは」
「ちょいと手伝ってくれないか? 婚礼衣装の刺繍は祝いだから、たくさんの人の手が入るほうが良いんだ。いつもは親戚が集まって手伝うんだが、今は婚礼が立て込んでるもんだから人手が足らんくて」
「おめでたいけど大変ですねえ。私の刺繍の腕で大丈夫なのかどうか」
「娘の手もなかなかひどいから、まあ大丈夫さ。うちに泊まってもらって世話はするし、手伝い賃はそうだなぁ、こんなんでどうだ?」

 お金を稼ぐ機会を逃したくないのはもちろんだけど、自分にもできそうなことに心が動いた。ちゃんと仕事を見つけたい。
 でも相場も何もわからないのでヴィムを見たら、にっこり笑い返してきた。

「そうですね、期間は一週間くらいですか? じゃあ、俺たちは一日遅れで行くので」
「わかった。ゆっくり来てくれ。仲いいもんなぁ。おかげで、当てられた若い奴らが結婚し出すから大変よぉ、カッカッカ」

 村人に笑われて顔が熱くなる。色々とバレてるのが恥ずかしい。ワシらは早目に寝るから仲良くな、と最後までからかわれた。

 ヴィムと私は村人たちが眠る家を出て、川まで歩いた。あの魔獣のおかげで他の魔獣が激減したので危険は少ない。フニも見当たらない。
 2人で川に入り、体を洗い合った。

「なんで、一日遅れで行くの?」
「村人と一緒だとシュロと色々できないから。一週間も会わないのに」
「でも、行っていいんだね」
「シュロが行きたそうだから。婚礼品の刺繍にオスは近寄らないしね」
「行きたそうなのわかった?」
「わかるよ。嬉しそうだったから。シュロはわかりやすいよ」
「そうかな」

 ヴィムが私を抱きしめて唇を舐める。

「2人っきりだから毎日楽しもうと思ってたんだけどな。明日だけで我慢する」
「えー」

 笑い合ってキスをする。なんだか穏やかな夜だと思った。

 予定通り一日遅れで出発して2日歩いて村に着いた。手伝いする家まで私を送り、挨拶してからヴィムは帰っていった。

「来てくれてありがとう! もー焦っちゃって。従妹のほうに子供できちゃったから急いで結婚することになって、みんなあっちにかかりきりなの」
「そうなんですね。お役に立てればいいんですが」
「もーかたいかたい。気楽にして。こういう針仕事はさー、もー喋ってやらないとうんざりして」
「ふっ、ふふ。そうですね。じゃあ、よろしく」
「そうそう、こっちこっち。用意してるから」

 娘さんに案内された部屋は色んな布と刺繍糸があった。刺繍は線を描くストレートステッチと、面を埋めるサテンステッチでできている。他のステッチは知らないというので、私が覚えてるステッチをいくつか見せたら喜んで、デザインとか色とか考えだした。
 しばらくしたら、お母さんと妹さんもやってきてみんなでお喋りしながら刺繍をする。結び目を作るステッチは指先の太い虎には難しいらしく、人間種はやっぱり器用ね~なんて話になったり、こっちの婚礼事情を聞いたり、私と3兄弟の出会いを聞かれたりした。
 虎だけど、女同士で喋りながら手を動かすって学校行事を思い出す。懐かしくて楽しい。私程度の刺繍の腕で大丈夫だったのも安心材料の一つ。それでも、死ぬ時にも着ると聞いてたので丁寧に刺した。

 刺繍を『趣味』にするために頑張ったっけ。周りが流行りの可愛い服を着てるなかで、私はどっからか貰ったお下がりの洋服や靴下を着てた。穴が開いててももったいないから着ろと親に言われ、仕方なく穴を繕うのが惨めだった。
 穴を塞いで着てるって知られるのが嫌で刺繍を覚えた。刺繍なら穴の塞ぎ目を誤魔化せると思って。刺繍が趣味なら色んなとこに刺繍しててもおかしくないと思って。
 家庭科の授業は私にとって、とても大事だった。母親は面倒がって怒り出すから何も聞けず、図書館で裁縫の本を借りて色々覚えた。必要だからって言わずにすむように趣味にしないといけなかったから。何も買ってもらえないなんて、自分から言えるはずなかった。

 あの頃があったから今があるわけだけど、親に感謝なんかするわけない。頑張ったのは私だ。私は私に頑張ったねって、やっと言える。ずっと自分をバカにしてたけど、まあ実際に賢くはないけどバカなりに頑張ってた。

 娘さん達とお母さんが仲良く喋りながら手仕事をする光景を羨ましく思い、ああ、3人に会いたいなと思った。私を守ってくれる安心できる腕の中で眠りたいと思った。
 それで、私はみんなに何を返せるだろうとも思う。


 一週間経った日、ローガーとヴィリが迎えに来た。
 帰る前に私のステッチを見た他の娘さんに手伝いを頼まれ、また一週間後にくると約束して2人と帰った。

「急いで帰ったらシュロがいねーんだもん。つまんねー」
「うん。でも、私にも仕事できたから喜んでよ」
「シュロはフニだって仕事だろ」
「今は見つからないでしょ」
「シュロも婚礼あげるか?」
「ううん、大変だし、お金かかるし、見せる人もいないし、面倒」
「オレらんとこの婚礼なんて集まって飲んで食うだけだろ」
「婚礼品作らないんだ」
「食えるだけで上等な生活だからな。そんな良いモン作れねぇよ」
「へー大変だったんだね。ねぇ、私、刺繍の手伝い仕事、頼まれたら続けたいな」
「おう、そうだな。シュロもやることあったほうがいいだろ」

 ローガーが穏やかに賛成してくれる。

「村にいたいってコトかよ」

 ヴィリがムスッとしたので抱き付いた。すぐに拗ねるこの子に昔の自分を思い出す。好きだ会いたい大事だ、そんな言葉をいつでも欲しがってたあの頃。面倒だけれど、そのぶん可愛い。

「でも、会えないのは寂しい」
「そうだよなっ」

 ご機嫌になっていきなり抱き上げられたからビックリする。丸い目で嬉しそうに笑って抱きしめるヴィリを見ると、何かで胸いっぱいになって涙が滲んだ。

 こんなに純粋に、こんなに単純に、私に会うことを喜ばれるのは初めてかもしれない。私も、いつかの私たちも、自分が愛されることばかり考えてた。なんであんなに斜に構えてたんだろ。自分のほうが愛されてるって思いたくて思われたかった。ただ単純に喜ぶだけで、こんなに幸せなのにね。

 ヴィリの頭を抱きしめてクシャクシャに撫でる。

「ヴィリ、大好き」
「俺もっ、アハハハッ」
「ぐぇっ、ちょっと、ヴィリっ、やめっ」

 私を抱っこしたまま飛んだりグルグル回ったりするから、すごく怖い思いをした。耳を引っ張って止める。

「もーいきなり跳ねるの止めてよ」
「シュロが嬉しいこと言うからだろ」
「じゃあ、もう言わない」
「ヤダっ、なぁ、シュロ、また言って」
「……ヴィリ、大好き」
「へへへっ、跳ねるっ」
「ぎゃっちょっ、ヴィリっ」
「ククッ。お前ぇらホント、アホだな」

 ローガーが楽しそうに笑い、ヴィリも嬉しそうにしてる。つられた私もすごく楽しくなってみんなで笑った。


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