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第一章 巫女ってなんなんですか
3.こいつはイカレとんちきだ
しおりを挟む「改めまして、巫女のお世話を務めさせていただくリーリエ・ルグランです。リーリエとお呼びください」
左手を胸に当てて軽くお辞儀をするリーリエの髪がサラサラと揺れた。
「夫はどうやって決まったの?」
「夫となる者の左手の甲に属性の紋が浮き出るのです。私の光属性はこうなっています」
嬉しそうに見せてくれた左手の甲には、蔦のような縁取りがついた丸の中に星の輝きみたいな模様があった。
「巫女の手にも紋が付いてますよ。6属性がすべて刻まれています」
言われてみれば私の左手の甲にも模様がついてる。6つの模様のうち1つがリーリエと同じだ。
「巫女が夫に興味をもってくださって嬉しいです。私は巫女付きの神官ですが夫でもありますから、何でも遠慮なくおっしゃってください。巫女に尽くします」
「……巫女になりたくないんだけど」
「でも私達が精霊を産まないと自然が乱れます。巫女が必要なのです。私はこのお勤めで役に立つことが嬉しいのです」
「また来年、新しい巫女がくるんでしょ?」
「いいえ! 精霊産みは200年に一度ですし、異世界の巫女は1000年ぶりです! 巫女にお勤めしていただかないと、これからどんどん精霊が減って災害が増えてしまいます。巫女、お願いです、私達をこの世界を手助けしてください」
必死な物言いなんだけど上滑りしてる気がするのはどうしてだろう。目を見開いてる顔が怪しさMAXのせいかな。美形の頭おかしい顔って迫力あるわ。
あと聞かなきゃいけないことってなんだ? うーん、パニックなせいで思いつかない。
座ったまま考え事をしているとリーリエが声を掛けてきた。
「巫女はこの部屋に滞在していただくことになります。異世界とは違うかもしれませんのでお部屋の案内をしますね。どうぞこちらに」
ニコニコそう言って手を差し伸べられたけど、さっき握られたときの力強さがちょっと怖くて見ないフリをした。
「こちらの扉が洗面所です」
扉を開けると目の前に洗面台と棚があり、椅子見たいな形のたぶん便器、大きなタイル床の洗い場と湯船があった。蛇口はないからどうするのか聞いたら、浴槽のふちにはめ込まれている大きめの精霊石に魔力を通して水を出すと教えてくれた。
「青い石が水属性、赤い石が火属性です。両方に体内魔力を通すとお湯になります。お試しください」
「たいないまりょく、って何?」
「……異世界には魔力がないのですか? こうして手をかざしてみてください」
リーリエが見本でかざすと湯気の立つお湯が石の周りから溢れ出す。私も同じ様に二つの石に手をかざしたけど無反応だった。異世界に来ても魔法は使えないってか。つまんねぇな。
「では巫女の湯浴みは私がお手伝いしますね。お手洗いも精霊石を使いますので、そちらも」
「無理無理無理。お湯をためるときだけお願いする。お手洗いは自力で水を流すから水を入れた桶を準備してもらっていい?」
「それだとお手洗いの清浄ができません」
「どういうこと?」
なんかウォシュレットみたく水を出して洗ったあと風を吹き付けて乾かすらしい。紙で拭くと言ったら不思議がられた。仕方がないので毎回水洗いをして布で拭くことにする。水を出せない水洗トイレって中途半端だな。私だけ断水状態とは。
でも魔法か~。夢が広がる。いいなぁ。
「リーリエはどんな魔法を使えるの?」
「私は光属性なので回復や浄化ができます」
「光属性って光属性の魔法しか使えないの?」
「そうですね、基本的に自分の属性と同じ精霊しか助けてくれません。ただ精霊石を通せば自分の属性じゃない精霊とも通信できますから、先程のようにお湯を出せます」
「精霊が助けてくれる? どうやって?」
「体内の魔力を外に放出すると同じ属性の精霊が魔法を具現化してくれるのです」
「光属性の精霊石は何色?」
「光属性の精霊石はありません。光属性は生き物の内部に働きかけるので精霊が石になるまでの年月を経ることがないのです。闇属性もそうです」
魔法も色々と決まりがあるのね。私には使えないみたいだし、覚えなくてもいいかな。
こうして説明してくれるリーリエは穏やかで落ち着いた美形だ。頭おかしいスイッチがどっかにあるんだろうな。お勤めお勤め言ってたから仕事のことだと発動するのか?
「昼食時に他の属性の夫と顔合わせをします。大変かもしれませんが大事なお役目ですから頑張りましょうね。私は巫女付きの神官ですのでお力添えできるように努力します」
「え」
「緊張なさらなくても大丈夫ですよ。私がついています」
聞いてないし、了承してないし、どういうことさ。あんたの中で私はお役目をすることに決定済みになってない?
「やるって言ってないけど」
「大丈夫です、心配ありません。私がお手伝いしますから」
話が通じないっっ。大丈夫、じゃねーよ。イカレスイッチONしてんじゃないよ、まったく。
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