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第一章 巫女ってなんなんですか
4.自己紹介
しおりを挟む昼食まで一人にしてほしいと言ってリーリエを部屋から追い出し、6人くらいは寝れそうなやたらとデカいベッドに寝そべった。
精霊を産まないと体の負担があるって言ってたけど、どんな負担なんだろ。無理強いしないって言ってたし私が断固拒否すれば寝なくて済むんだろうけど、そうしたら災害の被害が甚大になるんだよね……。あの夫の人たちも役目を果たせず虚しく日々を過ごすわけだ。断固拒否しても、たぶんリーリエが毎日切々と訴えてきそう。
拒否とか無理じゃない? 私そこまで意志強くないし。泣き落としに負ける未来が見えるわ。なんだよこれ。どうしてこうなった踊りを踊りたい。泣きそう。
私この場所に来る前って何してたっけ? 仕事? は確か人員整理で首になったっけ。ここに来る直前のことを思い出そうとしても頭痛がして何も出てこない。
もしかして死んでるとか? 異世界転移にありがちなトラック跳ねられ? そうなら、一年後に戻ったとしても死んでるよね。いや道を曲がったら知らない場所だったみたいなオカルトかもしれない。ああ、頭が痛い。一年は帰れないって本当かな。帰る方法って調べれる? 文献文献言ってたし神殿にある本を調べるのが良いかもしれない。
取り敢えずの基本方針を決めよう。体の負担が何かわからないけど、しばらくは拒否の方向で。文献を調べる。以上!
でも人間関係でギスギスしたくないから私の気持ちが落ち着くまで待ってほしいってちゃんとお願いした方がいいかも。頷いてくれる人たちであってくれ!
もうすぐ昼食だからとリーリエが服を持ってやってきた。私、裸にマント一枚の恰好だったわ。酷過ぎる。夫だから着るのを手伝う遠慮するなという謎理論をかわして渡された衣装の着方を教えてもらう。
かぼちゃパンツみたいなパンツとキャミソールが下着らしい。おっぱい垂れちゃう。スタンドカラーのゆったりした白の長袖ロングワンピースを着て上半身のボタンをとめた。その上に水色の袖なしチュニックを着てサッシュベルトみたいな太めの紐を腰に結ぶ。ズボンをはいてるリーリエの女性用ってとこかな。布の袋みたいな靴下は落ちてこないようにひざ下でリボンを結ぶ。バブーシュみたいな革靴を履いて完成。
どうしてもと言うリーリエに妥協して髪を結ってもらう。前下がりボブの前髪を編み込んでから小さな石が散りばめられた銀細工の髪飾りを付けてくれた。植物からできた白粉を薄くはたいて赤い口紅を軽くのせる。あとはまゆ墨で終わり。遠い昔の成人式を思い出したけど衣装的に学芸会のほうが合ってるかも。
リーリエについて部屋を出る。足首丈のスカートをつまんで裾を踏まないように長い階段を降りた。窓が少なくても壁や床の白い石に光が反射して明るい。一階の中央にある大きなテーブルに昼食が並べてあり、水色の服を着た5人が席に着いて待っていた。
「すみません、遅くなりました」
「オレたちも座ったばっかだから大丈夫」
「……ありがとう」
私が謝るとオオカミっぽい人が喋った。鼻づらが犬みたいに長くてもちゃんと喋れることに驚きつつ、お礼を言った。やっぱり異世界だ。
空いてる席に座るとリーリエがお祈りの言葉を言った。
「今日の糧を与えてくださる精霊に感謝します」
フォカッチャみたいなパンとチーズとサラダと焼いたお肉。オイルと塩のシンプルな味付けで美味しい。
食べながら一人ずつ見まわした。
やたらデカいラスプーチン似と、逆にやたらと小柄でドワーフみたいのと、そしてオオカミらしき、人、と言っていいのか? 見つめ過ぎたらしく目が合って微笑まれてしまった。社会人として笑い返したけど、たぶん引き攣ってる。そのとなりは……ヘビかトカゲ? ウロコ? ヘビとも目が合った気がするけど表情がわからない。普通の人間もいた。イケメンだけど黒髪だからリーリエみたいに浮世離れした感じがなくて安心する。それに、犬とヘビのあとに見たらどんな美形でも普通の人間って思うわ。
「食事しながら自己紹介しましょうか。巫女、ここに座っているのが属性の夫です。巫女の名前を教えていただけますか?」
「渡辺さやか、です。さやかが名前です。よろしくお願いします」」
そう言って頭を下げた。
「次は私から挨拶しますね。私は『光の夫』、リーリエ・ルグランです」
キラキラと眩しい笑顔でリーリエが胸に手を当ててお辞儀をした。3回くらい聞いた気がする。もう覚えたよ。
「私は『闇の夫』、人族の31歳。ヴェルナー・フォン・スピラ、だ。ヴェルナーと」
「よろしくお願いします、ヴェルナー」
黒髪の美丈夫も胸に手を当てている。神殿の挨拶じゃなくて、こっちの挨拶なのか。体鍛えてそうながっしり体型の男に真顔で見つめられてちょっと怖い。
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