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第一章 巫女ってなんなんですか
11.約束したい Side ヴェルナー
しおりを挟むSide ヴェルナー
食事の席で自己紹介をする私を彼女が見た。いつも一方的に私だけが彼女を見ていたのに、初めて目が合い頭に血が昇る。彼女が動いていることで最後の夢は間違いだとわかり安堵した。
彼女とラルフの会話で一方的に呼び出されたのだと知る。
異世界から突然呼ばれて精霊も知らず魔法も使えないのに、精霊産みの責任を負わされるなど納得できるものではないだろう。一年間とはいえ、知らない男と夫婦として過ごさなくてはいけないのだから。貴族同士の結婚でさえ婚約期間があるのに、顔を合わせていきなり婚姻とは気の毒だ。
私は嬉しいけれど。
ワタナベサヤカ。彼女の名前。ラルフがサヤカと呼び、悔しさがこみ上げた。彼女の名前を私より先に呼ぶなんて。話しかけることができなかった自分に歯噛みをした。
昼食を食べ終わり、早々と部屋に戻った彼女を目で追う。この世界で彼女が体験するすべての初めては私がいい。すべてが叶わなくても、初めて抱くのだけは譲れない。
「巫女への最初の訪いだが、……私に譲ってほしい」
周りを見渡して尋ねると静まり返った。
「んじゃ、オレはその次にするかな」
沈黙を破るようにラルフが笑いながら言った。彼女を、サヤカを誘っていたから心配していたが、譲ってくれてホッとする。
「ラルフの次は俺でいいか?」
土妖精のサミーが見渡して言い、ヘビ族のゲルト・ハースが頷いて静かに答えた。
「私は最後で結構です」
ゲルトはあまり関心がないのかもしれない。冷めた表情は何を考えているかわからない。
「あ、お、俺は、ハースの前で、いいです」
私と同じ人族のヨアヒム・リヒターは大きな体を縮ませて、小さな声で答えた。
「では、私は4番目ですね。属性の夫として、これから一年よろしくお願いします」
神官はニコニコと話した。一年間。神官の言葉が胸に引っ掛かる。一年間、一緒にいたらどうなるのだろうか。この、希求する気持ちは。
夕食時のサヤカは静かだった。突然のことだし色々思うこともあるだろう。
「サヤカ、明日の昼食は私と庭で食べないか? お互いに話をして知り合ったほうがいいと思うんだ。どうだろう?」
「うん、そうだね。そうしようか」
私の提案にサヤカが頷いた。2人きりの約束に胸が躍る。
一緒に過ごしたい。話をしたい。2人きりで。庭園に咲き乱れるレイルードの花の影に、彼女と2人で隠れたい。白い花に縁どられるあなたを見てみたい。
翌日も良く晴れた。暖かい日差しが窓の向こうの庭園を照らしている。2人分の昼食を外で食べられるよう神官に頼んだ。
昨日は湯浴みをしたし今朝はヒゲを丁寧に剃った。服は神殿用の服だからどうにもできないが、軽く香水をつける。ソワソワと落ち着かない。花を持って迎えに行きたいが神殿の庭園の花を切って持っていくのもおかしい。こんなことなら贈り物を準備しておけば良かった。しかし、彼女の好みに合ったものを探すのなら彼女に聞かなくてはいけない。一年間とはいえ夫婦なのだから装身具を贈ろうか。昨日は銀細工の髪飾りをつけていた。耳には小さな石のピアス。指輪はしていなかったから、指輪でもいいかもしれない。彼女は何を好むのだろう。
昼食までの長い待ち時間、2人で過ごすのに丁度いい木陰を探して歩いた。
神官からバスケットを受け取って彼女の部屋へ迎えに行く。ノックをすると、ややあって扉が開いた。私を見た彼女が微笑む。
手を差し出すと戸惑ったあとで手を乗せてくれた。私より小さな手を握る。触れた。消えてしまわないようにしっかり握り、歩く。他の夫たちに挨拶をする彼女を抱えて走り出したいのを我慢する。今は私の手の中だ。
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