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第一章 巫女ってなんなんですか
14.もどかしい距離 Side ラルフ
しおりを挟むSide ラルフ
オレの日、昼メシを誘いに行こうとしたらサヤカが降りてきた。
「今日は遅いな。ヴェルナーのせいか?」
「そんなとこ」
ヴェルナーがいないのをいいことにからかって笑った。
「外でメシ食うって言ってたけど大丈夫か?」
「寝てばっかりも良くないから少し動くよ」
「まあ、それがいいかもな」
今日は薄曇り。陽射しがきつくないから丁度いい。サヤカに合わせてゆっくり歩き、レイルードの木陰に敷布をしいた。並んで座り、パンに齧りつく。サヤカは疲れてるのかぼんやりしている。
「疲れてんな」
「ごめん、寝起きでぼーっとしてた」
「いや、いいんだ。精霊産みってどんなんだ?」
「光の玉が体から出てくるんだけど、体力も持ってかれて」
「体に負担あんだな。毎日じゃなく、休み休みしたほうがいいんじゃねぇの? 今日も休んで大丈夫だぞ」
「ありがとう。夜になったら復活すると思うけど。ラルフはしたい?」
「してぇけど無理しなくていい。それともそんなにオレと寝たい?」
「ふふ、毛皮は触ってみたいかな」
「あー、見たことねぇんだよな、オオカミ族。食い終わったら好きなだけ触れよ」
オレの冗談を流して軽く笑った。身構えながら少しずつ近付こうとする距離感がもどかしい。こういう微妙なやりとりは懐かしいむず痒さがある。サヤカはオレと違って慎重なんだろう。
先に食べ終わって横になった。午後の日差しが暖かく、腹も膨らんで眠くなる。
ようやく食べ終わったサヤカの腕を引っ張って寝かせ、背中から抱きしめた。前に回した手をサヤカの指と絡めた。
「触るか?」
「うん」
サヤカがオレの袖をまくり、腕の外側の毛を撫でてから内側の毛をフワフワ優しく触る。ホントに確かめるみたいに触るから可笑しくて笑いがもれた。
「くすぐってぇ」
「フワフワしてて気持ち良い」
「気に入ったか?」
「うん」
抱きしめているサヤカの温かな甘酸っぱい匂いが、レイルードの香りに混じって周りに漂っている。オレの腕を撫でるサヤカの首元に鼻先を押し付けて匂いを嗅ぐと、安心するような切ないような何かが胸を満たした。
「臭い?」
そう言って離れようとする体を抱き寄せて、髪からのぞく首元に鼻先を擦りつけた。
「イイ匂い。オオカミ族は匂いに反応すんだよ。オレが選ばれたのはサヤカと相性が良いからだな、たぶん」
「匂いの相性?」
「ああ。気に入った」
「臭い嗅がれるの嫌なんだけど」
「良い匂いだから気にすんなよ。あー、嗅いでたら興奮してきた」
そう言った途端、体を強張らせた。緊張した様子にサヤカの繊細さが見えて可哀想になる。まったく知らねぇ男と寝るんだもんなぁ。
「なんもしねぇよ。昼寝するだけ」
「寝るの?」
「疲れてんだから休んだ方がいいだろ。一緒に昼寝するほうが気分もほぐれるって」
指を撫でながらそう言うと、小さく返事をして体から力を抜いた。しばらくすると寝息が聞こえて、疲れてるんだなと思った。
腕も体も触った感じ柔らかいし、体力もないんだろう。すぐわかることなのに気付きもしないヴェルナーに腹が立った。覚えたてのガキでもあるまいし、なんも見てねぇのか。
眠ってるサヤカのうなじに、そっと鼻先をつけて匂いを嗅ぐ。胸の中があたたかさでいっぱいになり、目を閉じた。気持ち良く眠れそうだ。
サヤカのくしゃみで目が覚めた。毛が無いから地面の上じゃ冷えるな。失敗した。体を起こして、縮まってるサヤカを膝の上に抱き上げてあっためるように抱きしめる。
「冷えたか?」
「少し」
「すまねぇ。毛が無いの忘れてた」
「ふふっ、毛が無い、っふふ、そうだね」
「おかしいトコあったか?」
「使ったことない言いまわしだから。ふふっ、ラルフは温かいね」
「夏は暑いけどな」
小さく笑って体を揺らすサヤカの頬を撫でた。少しでも笑えるなら良かった。
帰り道は手を繋いでゆっくり歩く。無理して喋らなくていいと言えば、安心したように笑った。
サヤカを部屋まで送ってから、外で剣を振って体を動かした。
晩メシのときは昼間より元気になったようだった。湯浴みのあとで行くと話しをしてサヤカが部屋に戻ったあと、ヴェルナーに注意した。
「サヤカ、怠そうだったぞ。やり過ぎんなよ」
「あ、ああ」
「ハッキリ言えねぇんだから、お前が気ィつかってやれよ」
「……そうだな」
「そんな良かったのか?」
「まあ、な」
からかったら、口を手で隠して照れた。バカ正直な反応に笑いが込み上げる。
オレとはどうなのかと思うと、夜が楽しみになった。
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