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第一章 巫女ってなんなんですか
17.仕切り直しだ Side サミー
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Side サミー
惚れるのはいつも自分より背の高い女だった。
他の種族と比べて背の低い土妖精族の中でも、背の低いほうだから大抵の女は俺より背が高い。同じ土妖精族の女でも俺より高いやつはいるが、惚れるのは頭一つ分以上デカい他種族の女ばっかりだ。それで相手にされるかってーと、まったくされない。背の低い土妖精族は陰で『土の子』って言われてる。緑妖精族とは大違いだ。『緑』妖精族って呼ぶのは俺たち土妖精族ぐらいで、他種族の奴らはただの『妖精族』って呼ぶ。スラっと背が高くて男も女もキレイな顔をしてる。色が白い上に金髪銀髪だから余計にキラキラしてて、光属性魔法を使えるのは奴らだけだから特別だ。だから『妖精族』で、俺たちは付け足しみたいな『土妖精族』。
うらやましいとは思わない。奴らは繫殖期以外はやりたくねぇらしいし、繁殖期でもやんなくて平気らしい。そんなんつまんねぇからな。
顔はなぁ、ちょっといいと思うけど、あんなおキレイな顔が俺の体にくっついても気味悪ぃだけだ。丸っこい俺の顔は、若い頃は子ども扱いされて、年くったら頼りなさそうだと。頭一つ分も背が違うし、しょうがないと諦めちゃいるが、性懲りもなく娼館に通って気に入った女に貢いでる。
可愛らしく笑って優しくされたら舞い上がって、花やリボン、こないだは小さいけど金細工の髪飾りを贈った。
頬を染めて喜ぶ顔を見て、もしかしたら今度こそ上手くいくかもしれねぇな、41なんだから所帯を持っていい年だ、なんて浮かれてたら、ずいぶん遅くまで飲んじまった。道端に並んだベンチは夏も終わりのこの頃、遅くなると冷えるようになった。そろそろ帰るか明日は二日酔いだと思いながらジョッキに残ったエールをあおり、結婚したあとでこんなふうに飲んだらきっと怒られるな、なんて思わずニヤケて咽た。咳き込み疲れて酒が回った頭を机に突っ伏してたら、なじみのある女たちの話し声が耳に入った。
「貢がせた金細工、売っぱらったんでしょ~? いくらんなったの?」
「ぜんぜんよぉ、優しくしてやってんだからもうちょっと良いモンくれたっていいのにさぁ。あんな小っちゃいの。花なんて売れもしないもんから、売れるもんになったって大して変わんないなんてついてないよぉ」
「買ってくれるだけいんじゃない? うらやましいよ~アタシにもなんかくれないかな~」
「くれるたんびに調子んのって、口付けしようとしてくるからメンドーなだけだって。あ~あ、妖精族みたいにイイ男なら、う~んと優しくすんのに、土の子じゃあねぇ」
机に突っ伏した顔を上げられなかったし、握り締めた拳は震えてた。いつもなら怒りに任せて言い返すのに、一言も言えねぇまま隠れてた。
女たちの声が聞こえなくなってから、酒でフラつくのか何なのかわかんねぇ足で家まで帰った。ベッドに寝っ転がると何十年ぶりに涙がにじむ。俺ぁ別に多くは望んでねぇと思ってたけど、違ったのかもしれねぇな。俺が結婚なんて無理なのかも。嫌な女に当たっただけだって自分を慰めたけど、気力もなんもかんもなくなったみてぇだ。
次の日は案の定、二日酔いだった。
それからは最後まで残って仕事するようになった。娼館には行けねぇし、また声が聞こえたらと思うと飲みにも行く気になんねぇ。家に帰ってもやることねぇから、仕事場で土を捏ねて仕事の修練をした。
貢ぐほど娼館に通ってた俺がなんも言わねぇで仕事してっから、仲間もどういうことか察したみてぇで、そっとしといてくれた。
こんな真面目に修練したのは初めてかもしれねぇ。
なんとなく他に目を向けるのが億劫で、秋も冬も同じ様に過ごした。春になってもそのまんまな俺に仲間たちが声をかけてくれた。
「サミーそろそろ元気出せよ。レイルードが咲き始めたからよ、花見酒でも飲もうぜ」
「そうだなぁ」
そうだよなぁ、惚れっぽくて、すぐにフラれちゃヤケ酒して、またすぐ女を探してた俺がいつまでもウジウジしてんのはなぁ。今回は本気の本気だったのかもしれねぇな。考えたくなかったけどよ。
上の空で返事をしてたら左手がいきなり光った。周りの奴らも驚いて俺んとこに集まってくる。光の収まった左手の甲に精霊紋が浮かんでた。
「っおい、サミー、お前『土の夫』に選ばれたんだよ!」
「……なんだそれ?」
「……お前が神殿行くわきゃねえわな。今年は精霊産みの年なんだと。属性の夫と巫女が選ばれるっちゅう話だったわな」
「俺が土属性の夫ってことか」
「おいおいおい、スゲエじゃねぇか! よしっ! 祝いで飲むぞ!」
「その前に神殿に行っとよ、サミー。紋が浮かんだらすぐ知らせろっちゅう話だったわな」
仕事場から追い出されて神殿に行ったら、細かい注意を受けて周りに知られないように手袋をはめられた。仕事場の奴らが今頃大声でしゃべり回ってるだろうってことは黙っといた。
大神殿に行かなきゃなんねぇらしく、明日にでも出発するってことだった。こんな片田舎からじゃ日数かかるから仕方ねぇ。それに、ここを離れるって聞いて俺は少しホッとした。仲間は気の良い奴らばっかりだが、あんなフラれ方してこの街にいるのが、ちょっとばかしキツかったんだよな。デカい街に行って仕切り直すのもいいだろ。
借りてた部屋の片づけを仲間の奴らに手伝ってもらって、着替えと仕事道具以外はぜんぶ捨てるか分けるかした。その後はみんなでしこたま飲んで騒いだ。一年後に戻ってきても良いって言葉だけありがたく受け取って、ほんの少しだけ涙ぐんだ。
次の日は久しぶりに二日酔いで、神殿の馬車で吐かれちゃたまんねぇってんで神官が回復魔法をかけてくれた。
そして出発する。田舎から出てきてずっと住んでた、たぶんもう戻らない街にお別れを言って。
新しい街で新しくやるさ。巫女はデカい女だといいな。
惚れるのはいつも自分より背の高い女だった。
他の種族と比べて背の低い土妖精族の中でも、背の低いほうだから大抵の女は俺より背が高い。同じ土妖精族の女でも俺より高いやつはいるが、惚れるのは頭一つ分以上デカい他種族の女ばっかりだ。それで相手にされるかってーと、まったくされない。背の低い土妖精族は陰で『土の子』って言われてる。緑妖精族とは大違いだ。『緑』妖精族って呼ぶのは俺たち土妖精族ぐらいで、他種族の奴らはただの『妖精族』って呼ぶ。スラっと背が高くて男も女もキレイな顔をしてる。色が白い上に金髪銀髪だから余計にキラキラしてて、光属性魔法を使えるのは奴らだけだから特別だ。だから『妖精族』で、俺たちは付け足しみたいな『土妖精族』。
うらやましいとは思わない。奴らは繫殖期以外はやりたくねぇらしいし、繁殖期でもやんなくて平気らしい。そんなんつまんねぇからな。
顔はなぁ、ちょっといいと思うけど、あんなおキレイな顔が俺の体にくっついても気味悪ぃだけだ。丸っこい俺の顔は、若い頃は子ども扱いされて、年くったら頼りなさそうだと。頭一つ分も背が違うし、しょうがないと諦めちゃいるが、性懲りもなく娼館に通って気に入った女に貢いでる。
可愛らしく笑って優しくされたら舞い上がって、花やリボン、こないだは小さいけど金細工の髪飾りを贈った。
頬を染めて喜ぶ顔を見て、もしかしたら今度こそ上手くいくかもしれねぇな、41なんだから所帯を持っていい年だ、なんて浮かれてたら、ずいぶん遅くまで飲んじまった。道端に並んだベンチは夏も終わりのこの頃、遅くなると冷えるようになった。そろそろ帰るか明日は二日酔いだと思いながらジョッキに残ったエールをあおり、結婚したあとでこんなふうに飲んだらきっと怒られるな、なんて思わずニヤケて咽た。咳き込み疲れて酒が回った頭を机に突っ伏してたら、なじみのある女たちの話し声が耳に入った。
「貢がせた金細工、売っぱらったんでしょ~? いくらんなったの?」
「ぜんぜんよぉ、優しくしてやってんだからもうちょっと良いモンくれたっていいのにさぁ。あんな小っちゃいの。花なんて売れもしないもんから、売れるもんになったって大して変わんないなんてついてないよぉ」
「買ってくれるだけいんじゃない? うらやましいよ~アタシにもなんかくれないかな~」
「くれるたんびに調子んのって、口付けしようとしてくるからメンドーなだけだって。あ~あ、妖精族みたいにイイ男なら、う~んと優しくすんのに、土の子じゃあねぇ」
机に突っ伏した顔を上げられなかったし、握り締めた拳は震えてた。いつもなら怒りに任せて言い返すのに、一言も言えねぇまま隠れてた。
女たちの声が聞こえなくなってから、酒でフラつくのか何なのかわかんねぇ足で家まで帰った。ベッドに寝っ転がると何十年ぶりに涙がにじむ。俺ぁ別に多くは望んでねぇと思ってたけど、違ったのかもしれねぇな。俺が結婚なんて無理なのかも。嫌な女に当たっただけだって自分を慰めたけど、気力もなんもかんもなくなったみてぇだ。
次の日は案の定、二日酔いだった。
それからは最後まで残って仕事するようになった。娼館には行けねぇし、また声が聞こえたらと思うと飲みにも行く気になんねぇ。家に帰ってもやることねぇから、仕事場で土を捏ねて仕事の修練をした。
貢ぐほど娼館に通ってた俺がなんも言わねぇで仕事してっから、仲間もどういうことか察したみてぇで、そっとしといてくれた。
こんな真面目に修練したのは初めてかもしれねぇ。
なんとなく他に目を向けるのが億劫で、秋も冬も同じ様に過ごした。春になってもそのまんまな俺に仲間たちが声をかけてくれた。
「サミーそろそろ元気出せよ。レイルードが咲き始めたからよ、花見酒でも飲もうぜ」
「そうだなぁ」
そうだよなぁ、惚れっぽくて、すぐにフラれちゃヤケ酒して、またすぐ女を探してた俺がいつまでもウジウジしてんのはなぁ。今回は本気の本気だったのかもしれねぇな。考えたくなかったけどよ。
上の空で返事をしてたら左手がいきなり光った。周りの奴らも驚いて俺んとこに集まってくる。光の収まった左手の甲に精霊紋が浮かんでた。
「っおい、サミー、お前『土の夫』に選ばれたんだよ!」
「……なんだそれ?」
「……お前が神殿行くわきゃねえわな。今年は精霊産みの年なんだと。属性の夫と巫女が選ばれるっちゅう話だったわな」
「俺が土属性の夫ってことか」
「おいおいおい、スゲエじゃねぇか! よしっ! 祝いで飲むぞ!」
「その前に神殿に行っとよ、サミー。紋が浮かんだらすぐ知らせろっちゅう話だったわな」
仕事場から追い出されて神殿に行ったら、細かい注意を受けて周りに知られないように手袋をはめられた。仕事場の奴らが今頃大声でしゃべり回ってるだろうってことは黙っといた。
大神殿に行かなきゃなんねぇらしく、明日にでも出発するってことだった。こんな片田舎からじゃ日数かかるから仕方ねぇ。それに、ここを離れるって聞いて俺は少しホッとした。仲間は気の良い奴らばっかりだが、あんなフラれ方してこの街にいるのが、ちょっとばかしキツかったんだよな。デカい街に行って仕切り直すのもいいだろ。
借りてた部屋の片づけを仲間の奴らに手伝ってもらって、着替えと仕事道具以外はぜんぶ捨てるか分けるかした。その後はみんなでしこたま飲んで騒いだ。一年後に戻ってきても良いって言葉だけありがたく受け取って、ほんの少しだけ涙ぐんだ。
次の日は久しぶりに二日酔いで、神殿の馬車で吐かれちゃたまんねぇってんで神官が回復魔法をかけてくれた。
そして出発する。田舎から出てきてずっと住んでた、たぶんもう戻らない街にお別れを言って。
新しい街で新しくやるさ。巫女はデカい女だといいな。
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