16 / 119
第一章 巫女ってなんなんですか
16.少しばかり復活
しおりを挟む目が覚めたら洗面所から音が聞こえた。
昨日より怠くないかも。ベッドの上でゴロゴロしてたら、洗面所から出てきたラルフがこっちに来た。
「起きたか。調子は?」
「大丈夫。昨日より怠くない」
「我慢した甲斐があったな。洗ってやるよ」
「自分でする」
「遠慮すんなって」
楽しそうなラルフにお姫様抱っこで持ち上げられ、びっくりする。ヴェルナーもそうだったけど、なんでこんな軽々できるの。安定感はあるけど、なんとなく怖くて静かにした。
お湯の張ってある浴槽にゆっくり入れられ、布で優しく擦ってくれる。
「ありがとう」
「サヤカはカワイイからな、特別」
また冗談を言って笑った。
ラルフは優しくて気楽に話してくれるから、ホッとする。すごく気を遣ってくれてるのに、それを気にさせない感じがありがたい。こういうトコもモテる理由なんだろうな。
ラルフが風魔法で乾かしてくれたあと、口を交互に合わせたキスをして自分の部屋に戻っていった。舌の動きが縦横無尽ですごかった。やっぱ人族とは違う。
昨日から何回も『可愛い』って言われて嬉しい。『そそる』とか『気持ち良い』とかの褒め言葉も。図書室で聞いた妖精族からの私の評価で落ち込んでたけど、ラルフのお陰で気分が上がった。ヴェルナーからも『恋人になってほしい』って言われたし。あれにはびっくりして照れた。精悍な美丈夫が微笑んでそんなこと言うなんて反則でしょ。からかい半分なんだろうけど、本人が言ってた通り親しみを持ってる感じだから全然嫌じゃなかった。
優しい2人のお陰だ。それなりに気に入ってもらえたようで安心する。
『気に入ってもらえた』だって。顔色を窺ってる自分の考えに情けなくなった。
今日はサミーの日だけど、何するか聞くのを忘れてた。対応に差が出るのもまずいと思い、ゴロゴロしてた体を起こして予定を聞くために下に降りた。色とりどりのドアのどれがサミーの部屋かわからない。ドアを眺めながら、ラルフの精霊は緑だったなと思い出してなんとなく緑色のドアをノックする。承諾の声が聞こえたのでドアを開けると、ラルフがいた。
「サヤカか。どうした? オレが恋しくなった?」
「ふふ、ラルフの部屋だったんだ」
「なんだ、当てずっぽうか。ドアが属性の色になってんだ。オレは緑」
「サミーは?」
「土属性は黄色。サミーに用か?」
「うん、今日の予定聞いてなかったから」
ラルフの部屋は10畳くらいの広さで、ベッドと机と椅子と棚だけの簡素な家具があった。椅子に座って剣の手入れをしてるみたい。
お礼を言って部屋を出て、黄色のドアをノックした。返事を聞いてドアを開けると、サミーが私を見て驚いた顔をした。
「なんだ? 何かあったのか?」
「うん、今日はサミーの日だから、予定を聞こうと思って。何してるの?」
「ああ、これ、土を捏ねてた」
「そういえば焼き物するんだっけ」
「見るか? 入ってこいよ」
机に置いた板の上に土の塊とコップの形になったもの、色んな道具が乗っている。足元には水の入った桶。
「食器を作るの?」
「ああ。食器とか花瓶なんか作ってた。ここじゃ窯がねぇから、焼けねぇけどやることなくてヒマだからな」
「私もやっていい?」
「いいぞ。やったことあんのか?」
太い眉とドングリ眼が笑うとへにゃりと垂れた。コミカルで可愛い。
「少しだけ。仕事じゃなくて趣味で。ブローチとか」
「窯も?」
「ううん、オーブン、じゃなくて、えーと、低い温度で焼いても大丈夫な土が個人用に売ってるから、家のカマドで充分なの」
「へぇ、いいな。仕事じゃねぇなら、食器じゃなくてもいいもんな」
「うん。小さい窯ってここに作れないの?」
「作らしてもらえんなら作れっけど、作るにも焼くにも金かかっからなぁ」
「個人で焼いたものって売れないの?」
「どこに売るんだ?」
「ゲルトの家って日用品とか売ってるお店なんでしょ。頼めないかな」
「土を買うのはゲルトに頼んだけど、どうだろうな。それなりのモン作らねぇと。俺、ちっせぇモン作ったことねぇんだよ。ブローチか。どんなのがいいんだ?」
太い指と分厚い手で土を捏ねながら、思案気な顔で話した。
「お花とか鳥とか動物は? 釉薬かけたり色付けて。ピアスもどうかな。大分小さくしないと重いけど」
「金細工をもっと素朴にした感じか。仕事じゃねぇし色々試してみんのも面白れぇな」
ニカっと笑うサミーは素朴なおっちゃんで、なんとなく親近感がわいた。
お昼はみんなで食べて、午後はまたサミーの部屋で粘土を捏ねた。私が花の形に苦労してると、土魔法で厚さを整えてなめらかにしてくれた。
「ありがとう。土魔法って便利だね。形も自由自在?」
「いや、精霊に頼むから細けぇとこまで再現できねぇんだ。捏ねたり平らにしたりは良いんだけどな」
粘土をいじりながらたまにポツポツ話した。やることがあると話が途切れても気まずくないし、話題に出来るからいい。サミーはヴェルナーみたいにグイグイ迫らないし、ラルフみたいに軽くない、私のことをなんとも思ってなさそうな気のいい素朴なおっちゃんと普通に話す時間は、なんか落ち着いた。
厚さを整えてもらって、花びらが重なった500円玉くらいの花ができた。
「これはブローチにすんのか? それなら金具を付ける穴を開けねぇと」
そう言って、後ろに金具を通すトンネルを作った。接着剤じゃないのか。そっか。
「こんだけ薄くすんなら硬ぇほうがいいし、やっぱ高い温度で焼いたほうがいいな。釉薬かけるにも都合いいし」
「そうなんだ」
「可愛い花だな。俺も花にすっか。これじゃあ付けるにしたって重いだろうし」
自分の作った丸っこいヒヨコみたいな鳥を指でつつきながら話す。
「鳥も可愛いよ」
「ははっ。飾り物なんてわかんねぇからなぁ。どんな細工があるか今度、見に行くか」
「そうだね」
次のサミーの日に出かける約束をして部屋に戻った。
ソファに座って、今夜はサミーと寝るのかとため息が出る。サミー自体は嫌じゃない。私の胸あたりまでしか身長ないからか、おっさんなのにやけに可愛らしく思える。
ただ、普通に話して普通に終われない状況に、なんとも言えない嫌な気持ちになった。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる