6人の夫と巫女になった私が精霊作りにはげむ1年間の話【R18】

象の居る

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第一章 巫女ってなんなんですか

16.少しばかり復活

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 目が覚めたら洗面所から音が聞こえた。
 昨日より怠くないかも。ベッドの上でゴロゴロしてたら、洗面所から出てきたラルフがこっちに来た。

「起きたか。調子は?」
「大丈夫。昨日より怠くない」
「我慢した甲斐があったな。洗ってやるよ」
「自分でする」
「遠慮すんなって」

 楽しそうなラルフにお姫様抱っこで持ち上げられ、びっくりする。ヴェルナーもそうだったけど、なんでこんな軽々できるの。安定感はあるけど、なんとなく怖くて静かにした。
 お湯の張ってある浴槽にゆっくり入れられ、布で優しく擦ってくれる。

「ありがとう」
「サヤカはカワイイからな、特別」

 また冗談を言って笑った。
 ラルフは優しくて気楽に話してくれるから、ホッとする。すごく気を遣ってくれてるのに、それを気にさせない感じがありがたい。こういうトコもモテる理由なんだろうな。

 ラルフが風魔法で乾かしてくれたあと、口を交互に合わせたキスをして自分の部屋に戻っていった。舌の動きが縦横無尽ですごかった。やっぱ人族とは違う。

 昨日から何回も『可愛い』って言われて嬉しい。『そそる』とか『気持ち良い』とかの褒め言葉も。図書室で聞いた妖精族からの私の評価で落ち込んでたけど、ラルフのお陰で気分が上がった。ヴェルナーからも『恋人になってほしい』って言われたし。あれにはびっくりして照れた。精悍な美丈夫が微笑んでそんなこと言うなんて反則でしょ。からかい半分なんだろうけど、本人が言ってた通り親しみを持ってる感じだから全然嫌じゃなかった。
 優しい2人のお陰だ。それなりに気に入ってもらえたようで安心する。

『気に入ってもらえた』だって。顔色を窺ってる自分の考えに情けなくなった。

 今日はサミーの日だけど、何するか聞くのを忘れてた。対応に差が出るのもまずいと思い、ゴロゴロしてた体を起こして予定を聞くために下に降りた。色とりどりのドアのどれがサミーの部屋かわからない。ドアを眺めながら、ラルフの精霊は緑だったなと思い出してなんとなく緑色のドアをノックする。承諾の声が聞こえたのでドアを開けると、ラルフがいた。

「サヤカか。どうした? オレが恋しくなった?」
「ふふ、ラルフの部屋だったんだ」
「なんだ、当てずっぽうか。ドアが属性の色になってんだ。オレは緑」
「サミーは?」
「土属性は黄色。サミーに用か?」
「うん、今日の予定聞いてなかったから」

 ラルフの部屋は10畳くらいの広さで、ベッドと机と椅子と棚だけの簡素な家具があった。椅子に座って剣の手入れをしてるみたい。
 お礼を言って部屋を出て、黄色のドアをノックした。返事を聞いてドアを開けると、サミーが私を見て驚いた顔をした。

「なんだ? 何かあったのか?」
「うん、今日はサミーの日だから、予定を聞こうと思って。何してるの?」
「ああ、これ、土を捏ねてた」
「そういえば焼き物するんだっけ」
「見るか? 入ってこいよ」

 机に置いた板の上に土の塊とコップの形になったもの、色んな道具が乗っている。足元には水の入った桶。

「食器を作るの?」
「ああ。食器とか花瓶なんか作ってた。ここじゃ窯がねぇから、焼けねぇけどやることなくてヒマだからな」
「私もやっていい?」
「いいぞ。やったことあんのか?」

 太い眉とドングリ眼が笑うとへにゃりと垂れた。コミカルで可愛い。

「少しだけ。仕事じゃなくて趣味で。ブローチとか」
「窯も?」
「ううん、オーブン、じゃなくて、えーと、低い温度で焼いても大丈夫な土が個人用に売ってるから、家のカマドで充分なの」
「へぇ、いいな。仕事じゃねぇなら、食器じゃなくてもいいもんな」
「うん。小さい窯ってここに作れないの?」
「作らしてもらえんなら作れっけど、作るにも焼くにも金かかっからなぁ」
「個人で焼いたものって売れないの?」
「どこに売るんだ?」
「ゲルトの家って日用品とか売ってるお店なんでしょ。頼めないかな」
「土を買うのはゲルトに頼んだけど、どうだろうな。それなりのモン作らねぇと。俺、ちっせぇモン作ったことねぇんだよ。ブローチか。どんなのがいいんだ?」

 太い指と分厚い手で土を捏ねながら、思案気な顔で話した。

「お花とか鳥とか動物は? 釉薬かけたり色付けて。ピアスもどうかな。大分小さくしないと重いけど」
「金細工をもっと素朴にした感じか。仕事じゃねぇし色々試してみんのも面白れぇな」

 ニカっと笑うサミーは素朴なおっちゃんで、なんとなく親近感がわいた。

 お昼はみんなで食べて、午後はまたサミーの部屋で粘土を捏ねた。私が花の形に苦労してると、土魔法で厚さを整えてなめらかにしてくれた。

「ありがとう。土魔法って便利だね。形も自由自在?」
「いや、精霊に頼むから細けぇとこまで再現できねぇんだ。捏ねたり平らにしたりは良いんだけどな」

 粘土をいじりながらたまにポツポツ話した。やることがあると話が途切れても気まずくないし、話題に出来るからいい。サミーはヴェルナーみたいにグイグイ迫らないし、ラルフみたいに軽くない、私のことをなんとも思ってなさそうな気のいい素朴なおっちゃんと普通に話す時間は、なんか落ち着いた。
 厚さを整えてもらって、花びらが重なった500円玉くらいの花ができた。

「これはブローチにすんのか? それなら金具を付ける穴を開けねぇと」

 そう言って、後ろに金具を通すトンネルを作った。接着剤じゃないのか。そっか。

「こんだけ薄くすんなら硬ぇほうがいいし、やっぱ高い温度で焼いたほうがいいな。釉薬かけるにも都合いいし」
「そうなんだ」
「可愛い花だな。俺も花にすっか。これじゃあ付けるにしたって重いだろうし」

 自分の作った丸っこいヒヨコみたいな鳥を指でつつきながら話す。

「鳥も可愛いよ」
「ははっ。飾り物なんてわかんねぇからなぁ。どんな細工があるか今度、見に行くか」
「そうだね」

 次のサミーの日に出かける約束をして部屋に戻った。
 ソファに座って、今夜はサミーと寝るのかとため息が出る。サミー自体は嫌じゃない。私の胸あたりまでしか身長ないからか、おっさんなのにやけに可愛らしく思える。
 ただ、普通に話して普通に終われない状況に、なんとも言えない嫌な気持ちになった。


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