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第一章 巫女ってなんなんですか
27.また明日 Side ヨアヒム
しおりを挟むSide ヨアヒム
神官にパンを焼くために台所のカマドを使いたいと頼んだら、すぐ確認してくれた。産屋棟の予算があるからそれを使って材料も揃えてくれるらしい。
サヤカに食べてもらいたくて焼くけど自分の修行にもなる。ここに住んでるあいだ、精霊棟で食べるパンは俺が焼こうかな。毎日食べる物だからちょうどいい。
食事係に俺がパンを焼くと断りを入れて晩ご飯から担当を変わってもらった。それ以外にサヤカ用のミルクバターパンを焼く。店よりも少ない量で作るから加減が少し変わる。カマドも違うから火の調節も迷った。焼き上がったものは思ったよりできが悪くて気落ちする。夕食のパンは簡素だったから上手くいったけどカマドに慣れないと火加減が難しい。
夕食用のパンはそのまま出し、失敗したミルクバターパンは自分用により分けておいた。
「いつもと違うパンだ」
「ヨアヒムが焼いたんですよ」
「あ、焼いたんだ。美味しいね」
サヤカが気付いて、神官が答えた。美味しいって言ってもらえて嬉しい。俺の話を覚えてくれてて嬉しい。
「甘いパンは明日焼く」
「楽しみ」
笑った。俺を見た。明日また頑張ろう。
部屋で失敗したパンを食べる。生地がいつもより柔らかかったし、カマドの熱が均等にまわらなかった。
それから毎日パンを焼いた。上手く焼けた甘いミルクパンを持ってサヤカの部屋へ行く。ノックしたら開くドア、向けられる笑顔が幸せだった。
俺を見上げるサヤカの頬に手が勝手に伸びて触ろうとするから、いつも慌ててひっこめた。美味しいと言って笑う顔を見るのが幸せで、ずっと眺めてたかった。
「ありがとう。嬉しいんだけど毎日だと太るから、たまにでいいよ」
「あ、……ごめん」
「ううん、ごめんね。私が太らないタイプだったら良かったんだけど」
もっと太っててもいいのに。でもサヤカは嫌なんだろうから。迷惑かけてしまった。嬉しくて調子に乗った。
これでサヤカの部屋にくる理由もなくなる。
黙っていたらサヤカが隣に座って俺の手を握った。慰め? 俺も触りたい。ずっと触りたかった。俺の手に重なった手を握って指で撫でた。小さくて柔らかい手。
抱きしめたい。嫌じゃない? でも手を握ってくれたから許してくれるかも。
サヤカを見ていたら顔を上げて俺を見た。
「どうしたの」
「あ、だき」
顔が火照って恥ずかしくなり、目をギュッとつぶった。せっかく聞いてくれたのに。でも俺が抱きしめていいか聞くなんて気持ち悪くて言えない。
でも離れてほしくなくて手を強く握った。それなのにサヤカが手を引いて俺から離れる。胸に痛みが広がって動けない。サヤカの体が動く気配がして、横から抱きしめられた。びっくりする。
いいの? 抱きしめていい?
手を伸ばしてもサヤカは俺を抱きしめたままで、俺の腕が体にまわったらもっと強く抱き付いた。嬉しくて鳥肌が立った。俺ももっと抱きしめる。見上げてくるサヤカが笑った。
俺に掴まって膝立ちになっても座った俺より小さい。目の前にあるおでこが近づいて俺の首に抱き付いた。小さな体を抱きしめ直して、やっぱりまた鳥肌が立った。気づいたら頬ずりしていて慌てて止めた。でも体がウズウズする。
サヤカの唇が頬にふれた。また、またしてくれるの?
頭を下げたらサヤカの手が俺の頭を撫でて引き寄せる。唇がふれる。ああ、まただ。また触れた。また食べられる。柔らかい。舌もほしいんだ。ちょうだい、サヤカ。
俺の唇を舐める舌に吸い付いた。欲しいんだ。全部。お願い、どうしたらいい?
顔を押し戻されて正気に返る。
「強く吸ったら痛い」
「……ごめん」
嫌なことした。でも
「きらいに、ならないで」
抱き付いてお願いする。治すから嫌いにならないで。お願い。
「ならないよ。知らないことは覚えたらいいんだから」
優しい。どうして優しいの。俺のこと
「きもち、わる、く、ない?」
「ない。『普通』って言ったよ」
「うん」
『普通』って言った。今も普通のまま。俺と寝ても嫌いになってない。抱きしめても、失敗しても嫌われてない。嬉しい。ずっと抱きしめてたい。
「今日はリーリエの番だから、また明日ね」
「うん」
離れるのは寂しいけど頬を優しく撫でられて嬉しい。また明日、って、明日もこうしてくれるってこと? きっとそう。また食べられると思うとドキドキして、なかなか寝付けなかった。
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