6人の夫と巫女になった私が精霊作りにはげむ1年間の話【R18】

象の居る

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第一章 巫女ってなんなんですか

29.精霊の卵の副作用

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 体が辛くなるとはこういうことか。挿入直前で焦らされてるようにムラムラうずうずする。なんでこんな体にされなきゃいけないわけ? たった3日で欲求不満のメスゴリラみたく部屋をウロウロする羽目になるなんて、なんの呪いだよ。

 リーリエのあとの落ち込みで、あまりにも気分が酷かったのでしばらく休むと断りを入れた。異世界に来て疲れが溜まったみたいだからと、適当なことを言って精霊産みを休んだらこのザマ。

 あー腹が立つ。苛々する。むしゃくしゃする。体の火照りで余計に苛立つ。私に何一つ選択の余地はなかった。目が覚めたら異世界でこっちのことは何一つ知らなくて精霊に呪われずみ。私の体が私のものじゃない。この疼きも儀式も嫌だ。

 冷え切った浴槽に沈んだ。冷たさに体が震えて火照りが治まる。このまま熱が冷えるといい。もう死にたい。どうせ元の体は死んでるし、一年経てば死ぬんだから。この世界のことはこの世界の人たちでどうにかしたらいい。巫女なんて妖精族から選べばいいのに。強制発情させるんだから繁殖期じゃなくたって平気でしょ。

 なんで私がこんな目にあわなきゃいけないの。なんでこんな酷い扱いを受けなきゃいけないの。みじめで仕方ない。胸が痛くて咳が出る。止まらない涙を冷え切った手で拭った。
 ガクガク震えだしたから浴槽から出て体を拭く。布を巻いて部屋の椅子に座った。頭を掻きむしる指に濡れた髪の毛が鬱陶しく絡みつく。涙が滲む目に机の上の裁縫道具が映った。

 糸切ばさみを手に持って髪の毛にあて、刃を閉じる。
 ジャッ
 切れ味の良い刃が濡れた髪を切断した。
 ジャッ、―――― ジャリッジャジャッ

「――っつ」

 勢いの乗った刃先で髪を鷲掴みにしていた指を切った。深めに切れたらしく血が筋になって流れている。傷を口に含み、立ち上がって体にまとわりつく切れた髪の毛を払い落とした。もう一度、冷えた水の中に沈む。

 こんな意味のないこと。ばかばかしい。くだらないことで誤魔化して。私はいつも中途半端だ。
 体と髪に布を巻き、散らばった髪の毛を拾ってゴミ箱へ捨てる。

 ノックの音がしたから、ドアを少し開けるとリーリエがいた。私を見て微笑む。

「体調はいかがですか?」
「……、睡眠薬はある?」
「軽いのお持ちしますね。他に必要なものはありますか?」
「プロレと皮を剥くナイフ」
「はい。用意しますね」

 穏やかなリーリエに答えてドアを閉めた。自分の感じ悪い態度に苛立つ。リーリエの穏やかさに苛立つ。寝るときは目をギュッとつぶって苦痛に耐える酷い態度のくせに普段はとても親切で、それがみじめさを助長させる。
 濡れたままの頭を爪で掻き毟ったらヒリヒリした。苛立ちと疼きがまた内側で暴れ始める。

 再度ノックされたドアを皿が通る幅だけ開けて受け取った。

「ありがとう」
「剥きますよ?」
「いらない。一人にして」

 優しいリーリエの鼻先でドアを閉めた。優しい。けど儀式の心配をしてるから。それしか考えてないから。椅子に座ってナイフを手に取る。リンゴに似たプロレの実は、黄緑の皮がツヤツヤ生き生きしていてうんざりした。ナイフを刺す。貫通した刃先が皿に当たって甲高い音を立てた。うるさい。
 木のテーブルにうつして、もう一度刺す。今度はくぐもった音がした。抜いて刺し抜いて刺し、テーブルには汁と実が散らばり、プロレはガタガタと傷だらけの姿になっていた。私の手にはナイフ。
 湯浴み室の鏡の前に立った。ぐちゃぐちゃの酷い顔。ナイフを持っていてもできることはない。頭を下げて小さくなってやり過ごすしかない。私は何もできない。
 ナイフをおろして、ため息をついた。睡眠薬を飲んで眠ろう。薬を飲んでベッドに潜り込んだ。

 効き目は良かったみたいで目が覚めたら明るかった。すっかり日が昇ってる。布団の中でぼんやりしてたら、昨日からの疼きが強くなって戻って来た。何もしなくても濡れてる気がする。裸のまま眠ったせいで乳首が布団にすれてジンジンした。
 うんざりする。
 ドアが開いた音がしてリーリエがニコニコしながらベッドへ歩いてきた。

「巫女、おはようございます」

 穏やかな声に腹が立ち布団を引き寄せて丸まった。

「巫女っ、傷が」

 見ると、傷口が開いたのか指が血で汚れていた。反射的に隠してリーリエのほうを向くと驚いた顔をしている。バカバカしい。布団を頭からかぶった。

「あっちいって。帰って」
「巫女、回復魔法をかけます」
「いらない、こないで」
「お願いです、私に魔法をかけさせてください」

 いつもと違うトーンの声が苛立ちを煽る。こんなときなのにムズムズする体に怒りがいや増した。こんな体にしたくせに、踏みにじるくせに。

「巫女っ」

 布団がはがされ、焦ったリーリエの手が私の腕を掴んだ。

「触んないでっ!」

 自分の大声で怒りに勢いがつく。

「帰して! やめて、あっちいって!」
「……巫女、どうか。心配なのです」
「儀式の心配なんかするだけ無駄でしょ! もう寝ない、嫌だ!」

 怒鳴ってるのに欲情した体は息を切らしてて、怒りがどうしようもなく膨らむ。あんな惨めなことは嫌だ。二度と嫌だ。悔しくて涙が滲んだ。
 私の腕を掴むリーリエの手が震えてる。すごくショックを受けたみたいに目を見開いているのが癪にさわった。

「巫女、巫女、……どうか、そんなこと、巫女」

 私を惨めにしておいて反論かよ!
 カッと頭に血が昇って視界も思考も顔も歪む。顎を力任せに掴んで口を唇ふさいだ。蹂躙してやりたかった。踏みにじられた仕返しに踏みにじってやりたかった。舌で唇をベロリと舐めて睨みつける。

「妖精族じゃない醜い女と寝なくてすむでしょ。私を苦痛の道具にしないで」

 掴んだ顎を力一杯、横に振り切った。リーリエの体がくずれ、手も離れる。リーリエが動けない間に洗面所に逃げ込んだ。力が抜けてへたり込んだ床に突っ伏して溢れ出す泣き声を押し殺す。怒りの興奮が欲情を促すのか、疼きが酷くて泣けた。こんな体になって惨めで泣けた。

 小さなノックが響く。

「巫女、話をさせてください」
「一人にして」
「どうか、巫女」
「あっちへ行ってっ!」

 話を遮って怒鳴る。少しの沈黙が流れ、足音は遠ざかっていった。


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