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第一章 巫女ってなんなんですか
32.嫉妬まみれ
しおりを挟む返事をどうしようと迷ってる間にドアが開く。
「サヤカもう寝た? 体の調子は?」
そう言いながらヴェルナーがベッドまで真っ直ぐ歩いてきた。慌てて布団を体に掛けたけど、ラルフは裸のまま起き上がってヴェルナーのほうを向いた。
「よお。今、帰ってきたのか?」
「……なんでお前が?」
「精霊産みの副作用だよ」
「何の話だ?」
「精霊産みをサボったらサヤカの体がおかしくなるって聞いただろ? あれは発情するって意味だったんだよ」
「だから?」
「サヤカが発情して種持ちのオレもつられたってこと。鼻が良いから匂いで中てられたんだ」
ヴェルナーが不機嫌をにじませて私を見る。
「私は拒否したのにラルフなら良いのか?」
「……昼間はまだ気持ちの整理がついてなかったの」
「今はついた?」
「うん」
「ラルフだから?」
「違う」
「オレが強引に引っ張ったんだよ。ヤメロ、怖がってんだろ」
「お前には関係ない」
怒気を含んだ低い声に気持ちが強張る。布団にくるまって体を起こしヴェルナーから少し離れた。
私が好き勝手に寝るのはダメなことなのかな。私の勝手でしょとは怖くて言えない。
「……私はヴェルナーに許可をもらわなきゃいけないの?」
「っ、そんなことは言っていない」
「じゃあ何?」
「私に、私には頼らないのか?」
頼られないから怒ってるの? 自分の思い通りにならないから?
「頼らなかったら怒るの?」
「それは」
「私はヴェルナーの言うこと聞かなきゃダメなの?」
「違うっ」
何が違うんだろ。こみ上げる涙を隠すのに顔を布団で覆った。
「はぁ。ったく、嫉妬してんだろ。サヤカがどいつと寝ようがいいじゃねぇか。それぐらい好きにさせろよ」
「私はただ」
「知らねぇトコにいきなり呼び出された上、なんの得にもなんねぇことさせられてんだぜ? 好きに出歩けもしねぇのに寝る相手まで文句付けんのか?」
自分の意志で決めたことじゃないのに、相手も決められて支配されてる気分だったけど、ラルフが言ってくれた言葉で気持ちが軽くなった。私を好きじゃなくたって気持ちを尊重してもらえるほうが嬉しい。味方がいるとわかって俄然心強くなる。
「……すまない」
「何が?」
「怖がらせて」
「嫉妬したの?」
「ああ」
ヴェルナー声が小さく沈んで心配になり布団から顔を出した。俯いて立ち尽くす姿が可哀想になる。でも怖かったしな。
「怖かった」
「すまない」
布団にくるまったまま端まで行き、悲しそうなヴェルナーの手を握った。手を引っ張ってベッドに座ってもらい抱きしめたら、私をギュウギュウ抱き返して小さな声で謝りながらおでこを擦りつける。
謝ってる人に追い打ちはかけづらいけどヴェルナーが望むような約束もできない。何も決められないので今を穏便にすごすことだけ考えた。
「今日は一緒に寝る? 眠るだけだけど」
「……いいのか?」
「そんな簡単に許すと反省しねぇぞ」
「もうしない」
「オマエが嫉妬しねぇわけねぇだろ」
「しても抑える」
「じゃあ今度ヴェルナーが怖くなったらラルフのとこに逃げようかな」
「そりゃイイな」
「……抑えると約束する」
そう言いながら私を強く抱きしめた。ヴェルナーの髪に顔を寄せたら汗と香水の匂いがする。
「お風呂に入ったら?」
「一緒にか?」
「え」
「オレも入るから一緒に入ろうぜ」
「お前はもういいだろ。部屋に戻らないのか?」
「いいじゃねぇか。あからさまに嫌な顔しやがって」
「邪魔だ」
「気にすんなよ。オレは風呂の準備してくっから」
ラルフはそう言って風呂場に行った。ヴェルナーが立ち上がって上着のボタンをはずしている。なんとなくの手伝いで私はシャツのボタンを外した。ヴェルナーが自分で服を脱ぎ、私はそれを眺める。ズボンと下ばきを脱いだら立ち上がったものが目の前に現れた。
「元気だね」
「外してもらったから」
バツの悪そうな顔をしつつ、布団をはいで裸の私を抱きしめた。
「サヤカ、すまなかった」
「うん」
頭の上にキスが降ってくる。そのまま洗面所に行き、布を体に巻いてから湯船に向かった。
「なんでそんなもん巻いてんだよ」
「なんか恥ずかしいし」
「ふはっ、可愛いトコあんな」
「うっさい」
ラルフに笑われて恥ずかしいし腹が立つ。さっさと洗って湯船に入った。
「ラルフは毛だらけだから、洗うの大変だね」
「まあな」
ヴェルナーも湯船に入り、私を太腿の上に抱き寄せ首や肩にキスをいくつもする。ラルフが見てて恥ずかしいのにやめてくれない。反応しないように目をつぶってじっとした。
大きい浴槽でも3人で入るとさすがに狭い。
「オマエって最初っからそんな感じだったよな。一目惚れか?」
「サヤカのことは昔から知ってたから」
「異世界だろ?」
「夢で見ていたんだ。なぜかはわからないが子供の頃から。サヤカは私を知らなかったけれど私は知っていたし会いたかった」
「闇属性と関係あんのかね。でも異世界だしな」
「闇属性の魔法が関係あるの? どんな?」
「闇魔法は精神に作用するんだ。記憶を覗いたり幻覚を見せたり、落ち着かせたり」
「すごいね。夢は?」
「夢は聞いたことがない。相手の体に触れないと発動しない魔法だから」
「私のことは偶然なのかな」
「たぶん」
話をしながら胸を触ろうとする手を押さえた。そこまではちょっと。
「んじゃ、何十年ぶりの恋が実ったってやつか。それじゃあハマっても仕方ねぇのかもなぁ。脅すのはいただけねぇけど」
「脅してはいない」
「怖がらせて問い詰めんのは脅しと同じだろ」
「……そうか。すまなかった、サヤカ」
「もう寝よう。疲れてるんだよ」
「慰めてもらえて良かったな」
またもやおでこを擦りつけてくるのでフォローしたら、ラルフが混ぜっ返した。まあ、これでヴェルナーが反省してくれるならありがたい。
この気まずい雰囲気をどうしようかと考えながら湯船から出たら、ラルフに手首を掴まれた。
「濡れた布がはり付いて、エロい」
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