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第一章 巫女ってなんなんですか
39.見かたをかえてみると変わる
しおりを挟むスッキリした気分でヨアヒムに向き合えば、不器用だけど一生懸命な彼の反応を素直に受け止めることができた。まだ慣れなくて戸惑ってるけど、私に気持ちがあるように思える。それはそれで嬉しくてくすぐったいんだけど、本気で好かれても困る問題。終わりのある関係だから期間中は思い切り楽しもうって割り切りが必要なのか。そうなのか?
ラルフとかサミーみたいに友達っぽい関係が理想なんだけど難しいな。頬ずりするヨアヒムは懐いてくる大型動物みたいですごく可愛い。この人は傷付いてほしくないなぁ。まあ、懐いてるだけかもしれないし様子見だな。
しかし、落ち着いて考えてみると私はちょっと被害妄想ぎみだったかもしれない。
ゲルトは行為自体が好きじゃないって言ってたから私とは別問題。自虐的になる必要のない話だ。お互いに大変だよねって思えばそれで済む。
リーリエだって、大丈夫だって言ってる。額面通り受け止めるなら、名誉あるお勤めをこなせることが嬉しいんだから私が気にする必要なくない? リーリエにとって重要なのはお勤めを果たすことで、相手はどうだっていいんだし。
ヴェルナーもラルフもセックスライフを楽しんでるし、サミーは焼き物をする友達みたいで普通だし問題ない。
気分がのらなかったら断ったっていいんだし。
―― そうだった! 断ってもいいんだ! オアズケ!
新しい選択肢に気付いて目の前が明るくなる。
そうだよ、私が気にし過ぎだったんだ。原因は図書室の奴らのせい。許すまじ。解決してくれた警備のお姉さんに、お礼を言いに行こう。
一年の付き合いでその後は会うことも話すことも100%ないんだから、気軽にやればいいんだよ。よっしゃよっしゃ、気軽気軽。もしかして私、無敵の人状態じゃない? これは一種のチートと呼べるのでは?
お、面白くなってきたぞ。そっかー、女王様のように『ひざまずいて足をお舐め』ってやってもいいってことか。母親から注意された、『はしたない』ことも『女の子らしくない』ことも『男の子に嫌われる』ことも、やったって別に関係ないよね。
そう思うとなんだか解放された気がして一人で笑った。あははは。
断ってもいいんだとわかれば、ゲルトとの義務も今回はやってもいいかな仕方ないし、と思うだけで落ち込まずにすんだ。
お休みの日の夕食時に考えたことを実行してみる。
「ヴェルナーとラルフは飛ばすから、明日はサミーでいい?」
「なんでオレらを飛ばすんだよ」
「お手付きしたでしょ」
「そりゃねぇだろ。なぁ、ヴェルナー?」
「飛ばさないでほしい」
「俺は先延ばしでもいいぞ?」
悲しそうなヴェルナーを見たサミーがちょっと困った顔をした。
「ううん、決めたし、先延ばしでもヴェルナーとラルフは休みだよ」
「なんだよ、ずいぶんサッパリしたな」
ラルフが面白そうに私を見る。ちょっと強気でいってみたけど、なかなか楽しいかもしれない。
「明日も焼き物作ろうよ」
「ああ。あれからいくつか作ってみたんだよな。窯もこっちに作ることにした」
「そうなの? 楽しみだね」
「ゲルトに材料頼んだから、届いたら作る」
やることがあると楽しい。
サミーの日は一緒にアクセサリーを作りながら色々お喋りをした。デザインとか釉薬の色とか、ゲルトに商品として見せるのは本焼きしてからに決めて細工師を紹介してもらうのも頼もうとか、話が弾む。夜も少し慣れたようでぎこちなさが薄れた。
気さくなおっちゃんって感じだけど背が小さいから、どことなく可愛らしく思える。本人には言わないけど。背の小さい種族だから住んでる家も家具も小さいのかなと想像したら、ドールハウスにいるサミーを連想してしまい笑った。
気まずいのはリーリエ。私が酷いことをしたんだから自業自得だけど。リーリエは前よりもずっと静かだった。もう一度謝ったけど許してもらえなくても仕方ない。お風呂のお湯や水差しの水は部屋に泊まった人に頼んでリーリエの手を煩わせないようにした。掃除も私がやるといったけど自分の仕事だからと断られたのでお礼を言うにとどめた。
リーリエの日の夜、部屋にきてお茶を入れてくれた。お礼を言って飲む。沈黙を破るようにリーリエが静かな声を出した。
「巫女、あの、巫女が言ったことですが」
「どれのこと?」
「あの、私は妖精族じゃなくても気にしません。私は巫女で良かったと思っています」
「……ありがとう。酷いこと言ってごめんね」
「私は大丈夫です。……あの、苦痛ではありません。ただ、なんていうか――」
「緊張とか?」
「……はい」
「初めてなら緊張するよね。変な誤解してごめん」
「わかっていただければそれで大丈夫です。巫女のお世話は私の仕事ですが、それも嫌ではありません。できれば今まで通りお世話したいのです。巫女はお嫌ですか?」
リーリエが私の意見を聞いた! びっくり!
「嫌じゃないよ」
「そうですか。でしたら、お世話してもいいでしょうか?」
「はい、お願いします」
俯いていたリーリエが顔を上げてホッとしたように笑った
「私のお勤めですから、しっかり果たします」
あ、なんかいつものスイッチ入っちゃった。目を見開いた笑顔って怖い。
リーリエってホント何考えてるかわからない。緊張しているだけという言葉を額面通りに受け取って、謝罪の気持ちでいつものように義務を果たした。お勤めを果たすのが彼の至上の命題なんだからたぶんこれでいいんだろう。
気を取り直してヨアヒムを思い切り可愛がってみたら、無表情のまま少し顔を赤くして『嬉しい』って言った。何この可愛い生き物は!
思うまま可愛がるのはすごく楽しい。喜ばれたのか次の日は久しぶりに菓子パンを差し入れてくれた。部屋に招いて一緒に食べるとモジモジしながら私を見る。挙動不審で何考えてるんだろうと思ってたけど実はモジモジとか、照れてるとかだったと今になってわかった。ただの可愛い生き物だったわ。
モジモジしてるヨアヒムに腕を広げてみせたら、抱き付いて頬ずりしてくる。キスしたら夢中になって舌を絡めてくる。すぐに硬くなるペニスを撫でたら擦りつけてくる。可愛い。可愛がりたくなったけど今日はゲルトの日だからな~、と考えながら手コキをしてたらあっけなくイってしまって、ちょっと笑った。
手を洗ったらちょうどゲルトがやってきたので入れ替わりに帰った。離れ際に指をスリスリするから照れてしまう。可愛いんですけど!
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