41 / 119
第一章 巫女ってなんなんですか
41.なんで俺なんだ Side ゲルト
しおりを挟むSide ゲルト
なんで俺なんだ。なんで俺が選ばれるんだよ。
左手の甲に浮かんだ精霊紋を掻き毟った。青い線で描かれた火の属性紋が消えるわけはなく、爪痕の痛みだけが残った。仕事中に光ったせいで、家族、従業員、その場にいたお客にも知られて逃げることもできない。
18になったとき、祝いだと言った従兄に落ち着いた雰囲気のわりと高そうな娼館へ連れていかれた。一晩あるから楽しめと背中を押されて部屋に入った。綺麗な年上の娼婦に手ほどきしてもらい初めてを終えた。興奮が収まらずにもう一度相手をしてもらったとこまでは覚えてる。
その次は水をぶっかけられて意識が戻った。娼婦が叫び、従業員が踏み込み、俺は取り押さえられた。別の部屋にいた従兄と一緒に娼館を追い出されて家に帰り、翌日、娼館から治療費の請求があった。
獣化した俺が娼婦の体に巻き付いて何を言っても離れず噛み付いたうえに、魔法で背中から火を出したらしい。娼婦はちょうど良く水属性だったから、水をぶっかけて俺が正気に戻った。なんでそんなことになったのか、自分でもまったくわからない。覚えてるのは気持ち良くてたまんないことを貪ってたことだけ。
良いトコの娼館は出入り禁止になり、曖昧な記憶に納得のいかない俺はもう少し安い娼館に行って、自分がどうなるか確かめることにした。念のため水属性の娼婦を頼み、ことに挑んだ。結果は同じ。水をぶっかけられて終わった。それでも諦めきれずにもう一度挑戦し、また水を掛けられた。
もし、水属性じゃなかったら? もし、水を掛けても正気が戻らなかったら?
そう考えたら怖ろしくてたまらなくなった。暴走する自分を止められないどころか記憶すら曖昧になるなんて。
それ以来、娼館には行っていない。その娼館どころか、まともな娼館はぜんぶ出入り禁止になったからそもそも行けない。
普通の相手も見つからなかった。ケガをさせることになったら困るから付き合えはしないけど、話すらしてもらえない。広まった噂で怖がられて避けられるのは辛かった。見た目が良かったら世間話くらいしてもらえたかなと思って鏡を見る。ヘビ族の見た目は他種族からあまり好かれないのに、俺は同族からも好かれる要素がない。くすんだ茶色のウロコはそれだけでマイナスなのに、ぼやけた橙色のもようがマダラについている。ツヤのある黒色のウロコ、はっきりした色で規則正しい模様の兄たちが羨ましい。
家族から巫女にケガをさせないように十分注意しろだの、神官に相談しろだのと散々言われ、自分の醜い過去を話してどういう扱いをされるのかと暗澹たる気持ちで神殿に向かった。
神官には結局話せないまま、巫女に伝えれば十分だと自分に言い訳をして巫女召喚の日を迎えた。精霊王の石が形作った裸の女性が目に焼き付く。魔力を流し込むために触れた俺の手は震えていた。
俺は夫で、巫女は一年間の伴侶。煩わしさと卑屈な気持ちは期待に上書きされた。相手にされないから触れ合う機会はなかったし、怖いから自分でも尻込みしていたけど恋人同士や夫婦が羨ましかった。俺も普通の出会いをして普通に付き合ってみたかった。
初めて迎えた俺の日、巫女と話してる間中ドキドキしていた。娼婦に怪我を負わせたときの恐怖を思い出すのに、相手をしてもらえる期待のほうが大きかった。巫女のことはなんとも思わないけど体は騒ぐ。だって寝れるんだろ? あれ以来一人だった俺の欲しくてたまらないものが目の前にぶら下がってる。
正気を保てる短い時間で終わらせるため、行為が好きじゃないと嘘をついた。しないとは言えなかった。怖いのに、どうなるかわからないのに、したくてたまらない欲望に負けた。初めての時は大丈夫だったからと言い訳して、過去の話もせずに。
ほんの少し触れ合うだけでも嬉しかった。それだけで幸せで次の時間が待ち遠しかった。もっと触れたいと思う欲望はしごくことで発散して、もう自分は大丈夫かもしれないと油断していた。
今日も喜びを胸に巫女の部屋へ行き、いつも通りノックした。いつも通り扉が開かれて巫女が顔を出し、部屋に招き入れられたらリヒターがいた。俺と入れ替わりに部屋を出る。巫女と挨拶をかわすとき手を触れ合った。指先の撫で合い。
振り返った巫女の目がいつもと違う。潤ったように揺れる目。その目。家族や友人じゃない、それよりも熱の籠った目。
俺のものに手を出された。
怒りで頭が熱くなった自分に言い聞かす。違う、俺のものじゃない。属性の夫が6人いるんだから。でも今日は俺の日だ。巫女に裏切られた。違う、触れられたくないと言ったのは俺だ。近づかないようにしてるのも俺。巫女は俺のものじゃないからやりたいようにやっていい。
俺はこんなに求めてるのに。でも、それはできない。俺はおかしくなるから。なんで俺だけダメなんだ。やりきれなさに歯噛みする。
ベッドに座って自分に言い聞かせたのに、沸騰した頭はなかなか収まらない。
……今まで問題は起こしていない。少しだけなら。
「……準備してきました」
「すぐするの?」
「はい」
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる