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第一章 巫女ってなんなんですか
50.手を見せるだけなら Side リーリエ
しおりを挟むSide リーリエ
ある日、ゲルトとのまぐわいに回復役のため待機してほしいと頼まれた。ラルフが見張りをするけれど、と遠慮がちに言われたが二つ返事で引き受けた。少しの心配と巫女のまぐわいを見たいという大きな欲望が私を突き動かす。
3人はベッドに行き、私は離れたソファに座った。近くで見ていたら表面上も取り繕える気がしなかったから。
裸になって縛られたゲルトが巫女の足を舐める淫靡な光景に喉がなった。羨ましい。私も巫女に触れたい。巫女に触れられるなら縛られてもいい。
目を離せない私の前でラルフがベッドに座り、巫女を裸にした。あんな無造作に脱がすことを許しているなんて。
ラルフの手が巫女の上で動き回ると巫女が切ない声を上げて体をくねらせる。そこには私の知らない巫女がいた。常にない表情と声。裸をさらけ出して抱き合う2人。
いつもこんなことを? これが相手を受け入れるということ? だから精霊が沢山産まれるのだろうか?
また私だけが知らない。
焦燥と欲望が体中を駆け回る。苦しみが胸を焼くのに巫女のまぐわいで血に騒いだ。
縄を解かれたゲルトと巫女がベッドの上に並んだ。暗い部屋、天窓からさす月明かりに2人の体が浮かぶ。口付けを交わし裸で抱き合う2人。どちらの手足か分からないくらい絡めている。私とはすぐ終わってしまうまぐわいは、終わらないように思えた。声が、吐息が、肉を打つ音が聞こえる。目をつぶっても胸を握り潰されるようだった。疼く腰は熱を帯び、乱れる息を必死で押し殺した。
叫びと大きな咽る声に我に返る。ベッドには獣化したゲルトと巫女。話していた通り暴れそうになったのだろう。私は呼ばれないから怪我はしていないようだ。優しくなぐさめる巫女の声に自分との差を感じてひどく悲しい。巫女を傷付けようとしたゲルトは受け入れられるのに。
それでも目が離せず凝視していると巫女がゲルトに覆い被さり何かをし始めた。ゲルトが切ない声を上げて悶え、尻尾をくねらせている。
巫女、なぜゲルトにはそんなことをするのですか? なぜ私とはすぐ終わるのですか?
その答えは知っている。私が妖精族だからまぐわいが好きじゃないと思われているせい。触れ合いすらしてくれないのも、そのせいですか? よそよそしい態度もそのせい?
苦しい。
静かになった部屋に響いた巫女に甘える声、それに応える巫女の優しさがいっそう私の胸を抉る。
私は取り残されて孤独だった。巫女に振り向いてもらえない、できそこないの夫。
巫女にお礼を言われ私だけ自室へ戻った。このあとはラルフともまぐわうのに私はそこに入れない。
服を脱いでベッドに座る。下着の中はドロドロだった。腰の熱は去らず、張りつめた陰茎をさわる快感は私の不出来を証明するようで、不愉快なだけなのにやめられない。惨めでたまらないのに、快感につられて射精してしまう自分に涙がこぼれた。
翌朝産まれた火の精霊の光は美しく、私により一層の孤独を感じさせた。
私の日はいつもと同じように淡々と終わり、あの2人との落差に悲しみが募った。6人の夫とのお勤めを一巡したら一日休む。そう決めた巫女のお休みの日、関係性をどうにかしたくて部屋を訪った。
ノックしてドアを開けると、巫女とヨアヒムがベッドの上にいた。
布団から覗く肩が裸なのに気付き、我慢できずに飛び出して巫女とヨアヒムを責めた。
お勤めは子種を注ぐだけでいいはずなのに、触る必要なんて、裸になる必要なんてないはずなのに。一度注げば終わりなのでしょう? 私とはそうなのに、それでいつも終わるのに。私はふれられないのに、見ることもできないのに。私とは寝る時間になってから会うのに、今日はヨアヒムの日じゃないのに会うなんて。
「今日はお休みの日でしょう? 体を休めなくて大丈夫なのですか」
「大丈夫。部屋から出てってくれる?」
「お勤めの日じゃないのになぜですか? 子種を注ぐだけでいいのに、なぜ裸に?」
「リーリエ、部屋から出てほしい」
巫女は体を隠し、私は部屋から追い出された。
翌朝、美しく光る精霊の奔流を本殿から見る私に神官たちが慰めの言葉をくれた。
「巫女は妖精族ではありませんから、ルグラン様もお辛いでしょう」
「繁殖期ではないのですから仕方がありませんよ」
繫殖期になっても精霊が増えなかったら? 私が巫女に避けられる『できそこないの夫』だと神官たちに知られてしまったら?
怖ろしくて一人で震えた。お勤めもできない、できそこないだと知られるのがどうしようもなく怖ろしい一方で、巫女とゲルトのまぐわいが頭から離れない。巫女の声が、体があの光景が私の欲を膨れ上がらせて苛んだ。自分をムチでいくら打ち付けても巫女の顔を見るたび思い出す。
巫女に縋ってもすげなくされる私はどうしたらいいのだろう。
できそこない、おかしい、憐れみ、醜い
いいや、精霊産みは巫女の精神にも影響されるのだから、巫女が今のままの私を受け入れてくれれば変わるはず。私は巫女を欲しているのだから。巫女さえ受け入れてくれれば精霊も沢山産まれるはずだ。
微かな可能性に縋って巫女に訴えた。
「巫女、私もゲルトやヨアヒムのように精霊をたくさん産みたいのです。お勤めをしっかり果たして役に立ちたいのです。ヨアヒムのように受け入れていただくことはできませんか?」
「……難しいかな」
「どうしたら巫女の望むようにできますか? 私も『光の夫』としてしっかりお勤めしたいのです。……巫女は私のことがお嫌いでしょうか」
「……リーリエはまぐわいたくないんでしょ?」
「大丈夫です。お役目ですからしっかり果たします」
まぐわいたいなんて言えるわけがなかった。自分が頭のおかしい妖精族のできそこないなんて口にできるわけがない。
「リーリエは妖精族だから、繁殖期以外はしたくないんでしょ? 繁殖期になるまで無理しないで」
繁殖期になるまでずっと神官たちから心配の目で見られ続ける? 他の夫は溢れるように精霊を産むのに私だけが取り残される? 繁殖期になるまでゲルトとの光景を耐え続ける? 繫殖期になっても巫女が受け入れてくれなかったら?
そんなこと耐えられない。
「無理ではありません。私は神官としてできるだけのことを」
「神官の勤めで相手されるのが嫌なの。リーリエは神官だから真面目にお勤めしようしてるみたいだけど、仕事としてまぐわうのは好きじゃない」
「神官の勤めがお嫌いなのですか?」
「そう。リーリエは神官だから、お勤めでも仕方ないと思ってる。けど、ヨアヒムはお勤めでまぐわってるわけじゃない。したくてしてるの。神官のお勤めとは同じにはならないよ」
「……神官ではない、まぐわいがしたい私なら、いかがでしょう?」
「……わかんないけど、それなら少しは良いかな」
とめどなく欲が湧く私。できそこないの醜い私。
隠してきたのに、隠したから神殿でうまくやってこれたのに、巫女には受け入れてもらえない。
知られたら軽蔑されるだけだ。でも見せないと、神官じゃない私を見せて、本当はまぐわいたいのだと言わなければ好きになってもらえない。そうしないと『できそこない』のまま。
隠していた私を見せたら、ゲルトのようにヨアヒムのように私とまぐわってくれますか。
悩んで、なかなか寝付けない夜が続き、私の日になった。恐怖と不安で一杯の頭で決断する。手だけ、手だけみせて、それで確かめよう。
それで、それでダメだったら? 巫女が背を向けたら? でも、今も背を向けられたままで、変わらない。手だけだから。巫女に誰にも言わないでほしいと言えば大丈夫。神官の私を好きではないと言われたけれど、酷いことをされたことはない。だから、大丈夫。でもどうか、どうか巫女、私を。
極度の緊張で冷や汗を流しながら、巫女の部屋に向かった。
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