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第二章 精霊産みといろいろ
58.『精霊王産み』があるらしい
しおりを挟むもうすっかり夏になった。といっても湿度もそんなにないし日本の真夏日みたいな暑さもない。寒い地方なのかと思って聞いたらそうでもないらしい。
夏服は生地が薄くなっただけで形は変わらない。妖精族は外気温にあまり左右されないので、服装もそう変わらないのだと聞いた。ラルフは夏毛になって上半身裸で過ごしている。オオカミ族の冬毛は庶民の冬用布団の材料に売れるそうで、ラルフも春の終わりころに大きいクシで梳かして集めていた。梳かすのを手伝ったら売ったお金で屋台のお菓子を買ってきてくれた。
焼き物は今のところ順調に進んでる。ゲルトから、以前の委託品は全部売れたと報告された。アクセサリーは宝石か金属の細工ものがほとんど、木を使ってるのは皮ひもネックレスぐらいのなか、焼き物は珍しくて目をひいたそうだ。釉薬で彩色した可愛らしさがウケたらしい。サミーと一緒にキャッキャッ喜んだ。
「それでなんですけど、これからもアクセサリーの制作をするなら継続してにウチに委託しませんか? お客様の反応など調べることもできますし」
「お、いいのか? 結構作ってんだよ」
「こないだより数増やしてもらえるの?」
「はい」
3人でワイワイと委託する作品を選んだ。デザインと値段の幅をもう少し広げてみようかとか、季節ごとのデザインの参考に今度はもっといろいろな店を見て回る話もする。サミーはすごく楽しそうで、私もこうして何かを作り出す作業をするのは楽しい。
それとは別にヴェルナーとサミーへ贈り物のお礼を作ってる。ハンカチにそれぞれの精霊紋とイニシャルを刺繍してるんだけど、全員に作った方がいいか迷う。ラルフにはいつもお世話になってるし、ヨアヒムからはパンをもらうし、4人にあげたら残りの2人にもあげないと差別してるみたいで気まずい。
今のところは全員と仲良くやれている、と思う。
ゲルトはまだ見張りがいるし、ヴェルナーは相変わらず嫉妬深くて、リーリエは2日に一度くらい罰を欲しがるけど。
私は自分の気持にフタをするため、ゲルトの様子見名目でいつもラルフとゲルトのペアで会うようにしている。欲求不満を解消するなら回数をこなしたほうがいいと考えたのもホントだけど、二人きりにならないのは気が楽だから。ラルフの前でゲルトとセックスするのは自分に言い聞かせるためにちょうどいい。これで、ヴェルナーが拗ねなきゃもっといいと思う。
「ゲルトの日にラルフもいるんだろう? 私は?」
「獣化しちゃうからそういうの慣れてる人についてもらってるの。人数増えても緊張するだろうから今のままでいいよ」
「ラルフとゲルトだけ2回会う機会がある」
「仕方ないでしょ」
「おもしろくない」
端正な顔はぶすくれても端正だなぁと眺める。鼻先を撫でた私の手を取ってキスをした。どうにもできないよヴェルナー。口を閉じてただ笑った。
この人の執着は母を思い出す。自分の思い通りならないとぶすくれるところが特に。執着されたい私だけど嬉しくない。私はなんともワガママだ。
「私、ヴェルナーが思ってるような人間じゃないと思う」
「なぜそんなことを?」
「自分勝手だし、酷いこともするよ」
「私もだから気にしなくていい」
「夢の中の私と現実の私は違うでしょ?」
「違うけど違わない。現実のサヤカを知り始めたのだからそれでいい」
「幻滅しないの?」
「何をどんなふうに話すのか知りたかった。毎日新しいことを知って嬉しい」
なんでこんなに夢の中の人に執着できるんだろう。刷り込みか? ヒヨコちゃんなのか?
ヴェルナーのことがたいして好きじゃない、って言ったら悲しい顔するのかな。見てみたい気がする。我ながら性格悪い。八つ当たりかもしれない。
「サヤカにも私のことを知ってほしい」
「ワガママなとこ? すぐ拗ねるとか?」
「……そういうところも確かにある。でも他にもあるだろう?」
「うーん?」
「……好いところが、無い?」
「えーと、ハッキリしてるところ。誤魔化したりしないね」
「ああ。やっと会えたのに時間を無駄にしたくない」
抱きしめられて頬ずりされた。
それとも追いかけてるから盛り上がってるとか。私が振り向いたら満足して冷めるかもね。これはありそう。うーん、でもわかんない。いくら想像したところで二股されても気づかない私にわかるわけない。考えるのやーめた。
そんなこんなで日々は過ぎる。ある夏の夜、リーリエから全員に今後の精霊産みについて説明があった。
「今年の精霊祭には私たちも出ます。本神殿の舞台に登壇して『精霊映し』をしますので心づもりしておいてください」
一年に一度、夏の終わりに精霊に祈りを捧げる精霊祭があるそうだ。神殿の最大行事で、信徒全員でお祈りをしてその日だけ回復魔法を無料で施すらしい。『精霊映し』は精霊産みのある年だけ行うイベントで、巫女と夫達が壇上に並び普段は見ることができない精霊を光魔法で光らせて見せるのだと、楽しそうに説明してくれた。
「光魔法を使えるならいつでも精霊を見れるんじゃないの?」
「精霊は姿を見せることを嫌うのでこの魔法を使っても普段は見えません。ですが、精霊の父母だけは例外です。私たちから産まれた精霊は私たちを慕って特別に願いを叶えて姿を見せてくれるのですよ」
「でも産まれた精霊は外に消えてどっかにいっちゃうでしょ?」
「産まれてから一年ほどは父母の近くにいるそうです」
精霊にも巣立ちの時期があるわけか。感心していると他にも大事な話があると言う。
「精霊産みにもだいぶ慣れたと思いますので最終目標である『精霊王産み』について説明します。異世界の巫女がいらっしゃる年は精霊王の産み年になります。精霊王産みは精霊産みと少々異なり、巫女の負担が増します」
「どう違うの?」
「精霊王はすべての属性を司る存在です。精霊は属性ごとに産まれますが、精霊王はすべての属性を備えて産まれます。つまり夫6人全員の種が必要になるのです」
「……一晩で6人分?」
「そうです」
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