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第二章 精霊産みといろいろ
63.笑ったら笑う Side ヨアヒム
しおりを挟むSide ヨアヒム
今日はサヤカと一緒にビスケットを作ってる。ナッツやドライフルーツなんかを混ぜてどれが合うかいろいろ試した。
「こっちの木の実が合う。この果物はいまいちかな~。ヨアヒムはどれが好き?」
「俺もこれと、あとこっち」
「これも美味しいよね」
ビスケットはみんなが食べたがるから、一階の食卓テーブルに置いて好きにつまめるようにしてる。このあともパンを焼く俺を置いて産屋棟へ戻るサヤカを見送り、ため息をついた。
精霊王産みは失敗する。俺のせいで。わかってるけど考えないようにしてたのに、なんで全員でサヤカと……。俺だけじゃないって知ってるけど、でも嫌だ。サヤカの中から俺が消えそうで怖い。俺といるよりずっと楽しそうだったら、嬉しそうだったら、気持ちよさそうだったら……。嫌だ嫌だ嫌だ。胸が苦しい。
俺を見てほしい。属性の夫じゃない、ただの俺を。
パンを焼き終わって夕食までの短い時間、散歩に誘った。日が長くなってほんの少し黄みがかった空を見ながらゆっくり歩く。サヤカが小さいから俺は下を向いて、サヤカは上を向いて話す。
「俺、夕方が好きなんだ。光が弱くなって優しくなるから」
「夕方の優しさって落ち着くよね」
「うん。夕飯にパンを買って帰る人を見ると嬉しいし、子供の頃は家族が家に帰ってくるのも待ち遠しかった」
「仲が良いんだね」
「苛められてる俺を兄さんたちが助けてくれてたんだ」
「いいお兄さん達だね」
俺の手の中にすっぽり入るサヤカの小さい手を握って歩く。属性の夫じゃない俺を知ってほしくて小さい頃の話、仕事の話をした。サヤカは静かに笑って俺の話に付き合ってくれる。
夕食を運んできた神官と行き会って産屋棟へ戻った。
夜、ランプの灯りを消した暗い部屋でサヤカと向き合う。黒髪から暗闇の中に消えてしまいそうで抱きしめて髪を撫でた。サヤカが俺のことを心配そうにする。心配かけて悪いと思うけど平気なフリもできない。不安で胸がつぶれそうだから。
サヤカの気持ち良いところを探して、触って舐めて吸ってみる。サヤカの柔らかい体を抱きしめてあちこち確かめた。
「……、どうしたの?」
「気持ち良いところ知りたいんだ」
「……ヨアヒムも一緒に気持ち良くならないと見つからないよ」
「でも、ほかの……、……サヤカを喜ばせたい」
「いつものヨアヒムで喜んでるけど。わからなかった?」
「あ、えと、嬉しそう、に見えた」
「当たり。嬉しい。嬉しいから休みの日にもヨアヒムのとこ遊びに行ったのに」
「……うん、あの、嬉しかった」
「やっと笑った」
サヤカが嬉しそうに笑った。
俺が嬉しいと嬉しいの? 俺が笑うと笑うの?
……俺も同じだ。そう思ったら急にすごく嬉しくなった。サヤカを抱きしめて頬ずりをたくさんしたら、サヤカが声を立てて笑った。2人で笑って抱き合う。
ねぇ、俺、サヤカのこと好きなんだ。すごく。なんでかわかんないけど。今すごく好きだってわかった。
「俺のこと忘れないで」
「忘れない。忘れないよ」
「サヤカ」
「ヨアヒム」
抱きしめて口付けをする。今はドキドキする気持ちでいっぱいだ。今度はサヤカと一緒に気持ち良くなる。だって同じだから。俺が気持ち良いとサヤカも嬉しいってわかったから。2人の気持ち良いことを探して2人で喜ぶんだ。
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