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第二章 精霊産みといろいろ
64.名前で呼びたい Side ゲルト ※
しおりを挟むSide ゲルト
2人組になって寝ることが決まった。俺はいつもそうだから変わりない。グジグジする胸の内をため息で吐き出した。
ヴェルナーと組む日がすぐだから俺の日は休んでもらうように言った。巫女が簡単に承諾したことを少し寂しく感じ、我儘な自分に自嘲がもれる。
翌日、昼食後にノックされたドアを開くと巫女がいて、時間があれば散歩に行かないかと誘ってくれた。嬉しくてフワフワした足取りで歩く。夏の花が咲く庭を吹く風に、汗ばんだ巫女の香りが微かに混じって鼓動が落ち着かない。
「いつも部屋で何してるの?」
「色々な地域の歴史、風習や生産物なんかを勉強しています」
「取引先の?」
「取引先のほかに行商人とも付き合いありますし、各地域の特産品を知っておくのも必要なので」
「スゴイねぇ」
「巫女の焼き物も素晴らしいですよ。そんなこと思いつきませんでした」
「私の世界にあったものだから。たまたまそうだっただけだよ」
「巫女の世界にあってこちらにないものは他にもありますか?」
「なんだろう。神殿の中しか知らないからね~。普通の暮らしがわからないとなんとも」
「…………あまり出歩けないから仕方ありませんよね。残念ですけど」
こっちに住むなら俺が、と言いたくなった言葉を捨てて諦めを口にした。
俺が? どんな顔して? 獣化してしまう俺の相手をしてほしいって、そんなふうに思われるのがオチだ。
それなのに、そうだねと笑った返答に胸が痛む。
でも、もし一年が過ぎてもあなたがこっちに残りたいと思ったら今度は俺が助けるから。残りたいと思ってくれたら俺がなんとかするから。
「そうだ、字を教えてくれない? 私とヨアヒムに」
「はい。でも、本を読めるんですよね?」
「うん、私の国の文字に見えるから読めるけど、元の文字がわからないから書けないの」
「不思議ですね」
「うん」
ヨアヒムのために一緒に? それでもいい。自分が少し役に立てると分かって嬉しく、あれこれ頭の中で算段をした。神殿に文房具があればすぐにでも教えられる。
いつの間にか初めて話をしたレイルードの木のそばにきていた。葉が茂って木陰ができている。春から夏に変わる時間を過ごしたんだなと思った。あのときはただ、寝れるということに期待してた。今は?
「あのさ、一年かかっても大丈夫だよ。すぐどうにかなるものじゃないと思うから」
突然の言葉に喉が詰まった。内心の焦りを指摘されて羞恥心が湧いたが、焦らなくていいと言ってくれてるのだろう。俺のどうしようもなさに最後まで付き合うと。目頭がジンとした。
「…………ありがとうございます」
「それだけ。ゲルトから話したいことある?」
「……名前を、呼んでもいいですか?」
「いいよいいよ。敬語も使わなくていいから」
「あ、ありがとうございます」
「みんな呼んでるし気にしなくていいよ」
「はい」
ずっと胸に抱いていた願いはあっさり叶った。ようやく夫の一員になれた気がする。精霊の妻。俺の妻、サヤカ。
痺れるような感覚に身震いをした。触れたい。抱きしめたい。
あなた自身の名前で呼べば『巫女』ではない、あなた自身を慕っているのだと示せるだろうか。『巫女』じゃなくて『サヤカ』だから、だから。
散歩を終え、本を読んでみたいと言った巫女に貸すために俺の部屋に入る。一人用の机と椅子しかないため、ベッドに座った巫女に本を何冊か渡す。パラパラと目を通したあと一冊を選んだ。
「これ借りるね」
「はい、……サ、ヤカさん」
「っ、えっ、さん付けされると逆に照れる」
思い切って名前を呼んでみたら巫女が照れ笑いをした。それを見た俺もなぜか恥ずかしくなる。始めから呼び捨てだと馴れ馴れしいと思ったが、呼ばれ慣れてるほうがいいのか。緊張しながらもう一度口にした。
「あ、え、サヤカ、……」
「はは、なんか私まで緊張するわ」
「すみません」
「いいよいいよ、気にしないで。もう行くね。本、ありがとう」
「あ、はい、あのっ……」
本を持って立ち上がったサヤカを思わず引き留めた。微笑んで俺が話すのを待ってる。真っ直ぐ見つめる黒い瞳を舐めまわしたい。抱きしめたい。口付けを。
「あ、く、口付け、しても」
カッコ悪い。全然スマートじゃない。でも怖がらせるから許可を取らないと。2人きりだからダメかもしれない。もしかして、これがもう怖がらせることなのか?
ふと思いいたり背筋がヒヤリとした。謝って撤回しようと顔を上げたら、頬に手がふれた。柔らかな手。口の合わせ目にフワリとふれる唇。
「いいよ」
「抱き、しめても、いいですか?」
「うん」
喜びに胸が高鳴る。背中に腕を回しギュッと抱きしめたら、本を持っていない片方の手で抱きしめ返してくれた。首筋に顔を埋めるとサヤカの香りが鼻をくすぐる。深呼吸して体いっぱいに吸い込めば体の中で花びらが舞った。
「ふふ、息がくすぐったい」
「すみません」
顔を上げてサヤカを見る。微笑んでいるサヤカも俺を見てる。吸い寄せられるように口付けた。口を開けて深く合わせる。口の中の窪み隅々まで舐めまわして舌に絡みつけた。
サヤカ、サヤカ。
サヤカがこぼした吐息を飲み込んだら体の火が燃え上がった。俺に絡みつかれて唾液を溢れさせるサヤカの腰を抱き寄せる。もうどちらの息か分からない。
ふと、頬に手を添えられ口が離れた。
「お終い。これ以上進むと困るから」
「あ、……はい」
「見張り頼む?」
「……いえ、ゆっくり休んでください」
サヤカの目が少し潤んでいて、俺で感じたんだとわかり頭に血がのぼった。でも、『休んでほしい』は自分で言ったことだから、今さら見張りを頼むなんてできない。見張りを頼まなくてもいい性質だったなら。どうにもできないもどかしさに牙を擦り合わせた。
サヤカが部屋を出たあと治まらない熱を吐き出すためにしごいた。香りを、唾液に濡れる舌を、潤んだ目を、獣化した二又のペニスをしごく手を思い出しゾクゾクしながら射精する。射精で尻に力が入った拍子に弄られた快感が蘇り、穴がすぼまった。穴から頭まで駆け抜けるあの快感。指がそこに伸びそうになり慌てて止める。もう一度しごいて吐き出し、気持ちを静めた。
2日休んだあとの夜、俺とヴェルナーでサヤカの部屋に訪れた。ヴェルナーが剣を持ってベッドのそばに立つ。
サヤカから今日は違うやり方でやってみようと言われ頷いた。最初から獣化してと言われ獣化する。長くなった尾を丸めて座る俺にサヤカが足を差し出した。
「舐めて」
悪戯っぽく笑って俺を見る黒い目に光が瞬き、フラフラと吸い寄せられる。シーツにあごをつけて差し出された足の指を口に咥えた。小さな指に舌を巻き付けるように一本ずつ舐めまわす。可愛らしい丸い指先も薄い爪の感触もぜんぶ知りたい。指のあいだの微かな脂の匂いに体の奥が反応した。チリチリと欲望に炙られるまま、足の半分までを咥え込み舌を伸ばしてくるぶしを舐めた。
「っふ、あぁ、……っぁぁ」
サヤカの途切れる声が血を沸き立たせ、揺れた腰から香るたまらない匂いだけが頭を占領する。
「……ッグ、……ッァア、ッガ」
いきなり舌が掴まれ指でしごかれた。サヤカがくれるゾワゾワする刺激に喉を伸ばしてシーツに擦り付ける。力が抜けてだらしなくベッドの上でのびてしまう。
いつもの愛撫。サヤカがくれる快感。このあとに行われるいつもの行為を期待して体が疼き、穴がキュウっと収縮した。
「今日も弄ってほしい?」
「ッァ、……ゥ」
からかう口調に羞恥心が湧き上がる。あんなところを弄られたいなんて、そんな恥ずかしいこと。それなのに見透かされた期待が膨れ、ウズウズと尻尾が捻じれた。
舌から手を離したサヤカが俺のあご下を指先でくすぐる。
「言ってごらん」
「……ホシィ、イ」
飛び出た二又のペニスも、落ち着きなくシーツに擦り付けてる尻尾もあからさまで、誤魔化すことなんか出来やしない。分泌される精液がペニスとヒクつく穴をドロドロと汚している。
サヤカに喉の横を齧られ、鼻から空気が出た。軽い痛みが甘やかな痺れになって体を震わせる。長くなった胴体に齧りつかれ、ウロコの上を滑っていた手にペニスを握られた。指がふにゃふやと柔らかく揉む。
サヤカ、サヤカ。
穴のそばを齧られ、痛みと期待で体がのたうった。飛びそうになった意識が戻り、穴の周囲を優しくほぐされてまた消えかかる。
「ゲルトはココが好きだね」
「ッア」
頭がカッとして意識がハッキリする。
「中が好きなの?」
サヤカの指が探るように穴の浅い部分を掻きまわした。恥ずかしさでこれ以上ないくらい理性が戻ったのに、なぜかジンジンと快感が増幅される。
「ゲルトの中も動くの知ってた?」
「――ッ」
言葉で嬲られる羞恥で穴がヒクつき、サヤカの指へ吸い付いた。
「ほら動いた」
俺を見下ろすサヤカが妖しく笑って指先で内壁を押す。俺の中がもっとほしいとズクズク疼く。おかしくなりそうなほど恥ずかしいのに、見下ろす目になにかを期待してしまう。
指がゆっくり奥に入ってくる。
「グァッア、ァガッゥ」
背中を波立たせて身を捩った。ゆるゆる動く指がもどかしくて、もっとほしくて、でもそんなこと言ったらあの妖しい目で見られ、恥ずかしさでいたたまれなくなるのだと身震いした。意識は途切れず体の底が切なく震えて快感を待っている。あの目を、言葉を、指を。
涙が滲む目でサヤカを見上げ、尻尾の先で足首を撫でて懇願した。
「もっとほしい? 言ってごらん」
頭に血がのぼって胸が震える。穴がヒクつくせいで指の存在感が生々しく、自分がこんなとこで感じてる事実に体中がざわざわと騒いだ。
「……モットゥ、……シィ」
目をギュッとつぶって恥ずかしさに耐えながら口に出した。ああ、言葉にしてしまうとどうしようもなく待ち遠しい。身悶えしてのたうち回りそうな興奮を、力を入れないように力を入れて抑える。
「可愛いねゲルト。恥ずかしがって」
からかって笑う声に体の中が燃え上がり、過敏になった感覚が指の刺激を鋭く伝える。ギュッと奥まで押し込まれた指が内壁を押し撫でて痺れる波を起こした。
「アッガッァ、……グッ、シュッァ」
「気持ち良いの?」
飛びそうな意識がまた戻る。意識がはっきりしたまま羞恥と快感にまみれるなんて、興奮で下腹が焼けそうだ。恥ずかしい、恥ずかしいのに、サヤカ、気持ち良い。ゾクゾクしてたまらない。もっと俺を。
「ゲルトはいつもここでイクもんね」
そう言って指を増やしてグニュグニュ擦り始めた。指が、指が、そんなことをしたら、サヤカ、ヤダヤダ、きつくてこすれる、サヤカ、ヤダ、くるしいのにこすれるから、ヤダ、やめないで、もうすこし、もっと。
体に力が入らないのに真っ白に弾けて跳ねた。指を咥え込んで脈打ってる自分がわかる。動けないままだんだん力が抜けて、サヤカの指もゆっくり引き抜かれた。
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