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第二章 精霊産みといろいろ
88.精霊王の話
しおりを挟むサミーが焦ってるなーと思いながら目をつぶったんだよね。そのあとは眠った気がするんだけど、ここはどこ?
葉っぱが重なり合う天井から木漏れ日がキラキラ漏れて清々しい。起き上がって周りを見渡しても木の枝と葉っぱで囲まれた不思議な空間にいた。
「気が付いたね」
ぎょっとして声のする方を振り向いたら大きい透明の球体が虹色の光を瞬かせながら浮いていた。
「……どちら様ですか」
「君たちが言うところの精霊王だよ」
えー!? おいおいおいおい、この玉が? 精霊も玉だから、玉でいいんだろうけどバランスボールぐらいあるぞ。デカい。……こいつかよ。こいつのせいで苦労を。なにが『精霊王だよ♪』だ。バーカバーカ。
「体が壊れて魂が離れちゃったから捕まえたんだ。体が治ったら戻してあげるね」
「……いろいろ聞きたいことあるんですけど」
「何かな?」
ポヨポヨ揺れながら軽いノリで話すから、無性にムカつく。
「なんで私だったんですか」
「えー、そんなこと? ちょうど良かったから」
「へ?」
「魂じゃないとこっちに連れてこれないんだよね。魂の記憶に合わせた体を作るから、体の記憶が薄れてない離れたばっかりで、子供を産める年齢の魂を探してたんだ。そしたら丁度よく、離れたての魂を見つけたわけ」
「……それだけ?」
「まあ、それだけじゃないけどね。なんでか知らないけど、こっちの世界の匂いがするな~って探しに行った場所で、匂いの元である君の魂を見つけたんだから」
ヴェルナーか、ヴェルナーのせいか。
「闇の夫が夢を見てたって言ってましたけど、よくあるんですか?」
「知らないなぁ。昔からたま~に魂のやり取りしてるから、波長が合うとかそういうんじゃない? 僕にもわからないことあるよ。そうそう、闇の夫に選んであげた彼、喜んでるでしょ。もうなんていうか、魂から君に吸引されてるっていうか。アハハハ。なんだろうね~魂の関りがあったのかな?」
……あの執着に太鼓判押された感じがする。
立て続けに衝撃の事実を伝えられると驚き過ぎて気が抜けた。ポヨポヨ揺れて笑ってる精霊王がプルプルしてる葛餅みたいで触ってみたくなる。
「あー、そういえば、質問なんですけど、私、春になったら消えるんですよね?」
「正確に言うとね、君の体は生物じゃないから動かすための力がいるんだよね。それが6人の夫の魔力。で、その魔力は1年で消えるから体が動かなくなるんだ。動かないと体を保つ栄養が摂れなくて体が崩れちゃう。体が崩れると魂が抜けちゃうから消えるってこと」
「と、いうことは魔力を入れ続けたらずっと生きてるってことですか?」
「そうだよ。但し、同じ魔力をね。あの体の石は6人の魔力痕が付いちゃったから他の魔力じゃ合わないんだ。精霊産みは1年で終わるけど、もっと生きてたいならそのまま体使ってもいいよ~。魔力入れれば動くし。協力してくれたお礼かな」
うわー、軽い。ヴェルナーの悲壮な顔が可哀想になるくらい軽い。
あまりにも簡単に言われて肩透かしをくらう。なんか、私、生きていける感じっぽい。そうなのか。こうも軽いと生きないことを選ぶってハードル高いよね? 生きていける方法か簡単明瞭すぎて、生きない方向に舵を切るに切れなくなったわ。
早く終わんないかな~って思ってたけど、そっちにいったら自殺っぽくてそれにはちょっと度胸が足りない。
「でも1年で魔力が消えるから、1年に1回は魔力入れるの忘れないでね」
「面倒ですね。魔力を貯めておける何かはないんですか」
「ワガママだなぁ。夫たちから求婚されてるんだから支障ないよね?」
「なんで知ってるんですか!?」
「精霊が教えてくれるんだよ。お喋りな子もいるからね」
「全員に求婚されてるわけじゃありません」
「じゃあ、君から求婚したら?」
「なんでですか!」
「いいじゃない。気に入らないの? 君と相性が良い魂を選んだんだから合うはずなんだけど。生きて行くのに魔力が必要だから結婚してくれって言えばいいよ」
「そんな、命で脅すようなこと……」
「生命維持に強欲なのは生物の本能でしょ? 問題ないと思うけど」
えええええーーーー。文明開化してない! 蛮族だ! 道徳はないのか!!
まあ、別の理があるのかもしれないけどさ。うーん、言われてみたらそうかもしれない。誰でも自分の命は可愛いものだから。毎年一回、お金払って魔力もらう契約するとか?
「あ、体が治ったって。戻してあげるね」
「もうちょっと話をっ」
「泣いてるから戻ってあげなよ。気が向いたら、またね~」
***
というやり取りから体を維持する部分をかいつまんで話した。
「……魔力を入れれば動く、と」
「そういうことらしいよ」
私を後ろから抱きしめているヴェルナーが安堵のため息をついた。首筋に顔を埋めてグリグリしてる。
「こっちにいてくれ。いたくなくても魔力を入れる。そうすれば魂は離れないのだから」
「サヤカの考えを聞いてねぇだろ」
「二度と会えなくていいと言うのか!? 私は離さない!」
ヴェルナーに苦しいほど抱きしめられて腕を叩いた。ラルフの気遣いは嬉しいけど寂しい。でも仕方がないんだよね、先に相手の意志を考えてくれるひとだから。
「2人ともありがとう。考えるから」
「考える必要はないっ!」
「あー、……オレ、ってかオオカミ族の寿命知ってるだろ?」
「えーと、だいたい65くらいだっけ? 長くて80」
「そう。今29だから、あと35年くらいって思ってる。……サヤカよりだいぶ短いんだ」
「うん」
「もちろん協力するけどこっちに残ったら、……オレに合わせて早く死んじまうだろうから、考えたほうがいいんじゃねぇかと思う」
ラルフは歯切れ悪く話して頭を掻いた。
「お前っ! 帰れとでも言うのかっ!?」
「考えろって言っただけだろ。オマエにはわかんねぇよ。同じくらいの長さなんだから」
「やめてよ。自分で決めるから。それも考えに入れるから。ありがとうラルフ」
「……悪い。帰れって意味じゃねぇから」
「うん、大丈夫」
早死にが自分のせいだと思うと気分悪いよね。わかるわかる。だから私がいようがいまいが変わりないってことには、気づかないフリをしておこう。
ラルフには1年に1回、魔力をもらいにいく契約にしようかな。でもちょっと泣きたいからもう寝よう。
「今日は迷惑かけてごめんなさい。疲れたから早目に寝ます。みんなもゆっくり休んで。おやすみなさい」
ヴェルナーの膝の上から降りて2階の部屋へ戻る。リーリエも後ろをついてきた。私が歯磨きをしてるあいだに黙々と水を用意したりしてくれる。リーリエにお礼を言ってからベッドに潜り込んだ。
「巫女」
「なに?」
「一緒に眠ってもいいですか?」
「いいよ。歯磨きしておいで」
「はい」
歯磨きのあと、なぜか裸のリーリエが布団に入り込んで私のパジャマを脱がせようとする。死んだからまだ不安なのだろうと思い、裸で抱き合った。
「巫女、妖精族はとても長生きなのです」
「そうだね」
「……他の種族との婚姻が少ない理由がわかりました」
「そっか」
それはとても寂しい理由な気がして何も聞かずにおいた。ラルフも言いたくないこと言ったんだろうな。私のために。
シクシクと胸が痛む。リーリエが顔を埋めてキスをする部分だけは痛みが薄れた。
いつものようにチュッチュ吸われて、少しだけ濡れる。足を絡めて手を伸ばしたら、ペニスが硬くなってたので触る。指先で軽く包みユルユルしごくとリーリエの腰が揺れ出した。吸うだけだった口の中で舌がチロチロ動き出し、また少し濡れた。
リーリエの体を仰向けにしてゆっくり飲み込む。
「っぁ、……ふ、みこ」
抱き合って静かにゆっくり動く。ここにいてくっついてることを確かめる交わり。私にしがみ付いて顔をこすりつけてる。
「リーリエ」
囁きはひそやかに。動きはゆっくり。でも少しずつ上がる熱。
「リーリエ、好きだよ」
「みこ、みこっみこ、こわくて、こわかった、みこ」
目尻から涙をあふれさせてギュッと抱き付いた。首に頬に鼻先にキスをして、涙を舐めとった。
「もう大丈夫。春までいるよ」
「みこ、本当に? みこ」
「体が治ったら魂を戻してもらえるから。リーリエが治してくれるでしょ?」
「はい。なおします。みこはわたしが」
「ね、ちょうだい。精霊が産まれたらちゃんと治ってるってわかるから」
「みこ、あぁ、産んでください。わたしとみこの精霊を。みこ、っあぁあっ、あ」
リーリエは夢中になって下から突き上げる。私も、動きに合わせて揺れた。
私は生きててこれからも生きていける。この世界なら居場所はある。居場所になってくれる人が腕を広げて待ってる。私はそれを望むのだろうか。
リーリエが熱を吐き出して震えた。
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