6人の夫と巫女になった私が精霊作りにはげむ1年間の話【R18】

象の居る

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第二章 精霊産みといろいろ

95.ひだまりの中 Side リーリエ

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 Side リーリエ

「――――で、精霊王に魂を戻されたと。それ以外は?」
「はい、まだ混乱されてまして詳しくは聞けておりません」
「はっ、まだだと? たいした仕事ぶりだな」
「……申し訳ありません」
「補佐殿、巫女の体調もありますから」
「そうですな。大事に至らずにすんで良かったものの、帝国の警備隊を推薦したのは神殿長でしたか? 警備隊の前評判はよろしかったようですが、―――」

 神殿長補佐が今回の襲撃で失態を演じた帝国警備隊の推薦者や、回復役の責任を追及する声が会議場に響いた。補佐の警備案が不採用になってのことだから、楽しそうに嫌味を言っている。その顔を見て実家を思い出し、胸がむかむかする気持ち悪さを味わった。

 襲撃犯の本格的な尋問はこれからということで一旦会議は終了した。退出の見送りをしている私に神殿長から声が掛かる。

「大変でしたね」
「はい」
「巫女のお加減はどうですか」
「お疲れのようでした。すぐに眠ってしまわれたので」
「大変なことを体験されたのですから、ゆっくり休んでいただくほうがいいでしょうね。あなたも大変でしたが、巫女の手助けをお願いします。期待していますよ」
「はい。ありがとうございます」

 神殿長が退出するとシリルが寄ってきた。

「ルグラン様、巫女が戻って良かったですね」
「はい。ありがとうございます」
「補佐の言うことなんて気にしないほうがいいですよ。神殿長を引きずり降ろしたいから少しのことでも責めるんです」
「……でも、私の失態でもありますから」
「違いますよ!」

 いろいろな人からいろいろな言葉をもらったけれど、ぜんぶ上滑りして消えていった。
 動かない血だらけの巫女と目を覚ました巫女が交互に思い浮かんで、ぜんぶがフワフワして現実味がなかった。夕食時に巫女がこちらの世界に残る方法があると話したときも、夢物語のように聞いていた。

 就寝の準備をした巫女がベッドに横たわる。いつもの光景のようだけれど本当かどうかわからないと思った。確かめるために裸になって抱き付く。
 温かく良い匂いがして柔らかい。でも私の想像ではなくて? 私が欲しかったものを私が想像しているだけなのかもしれない。

 巫女の手が陰茎に触れ、ゾワッと鳥肌の立つ気持ち良さが体に波を起こした。巫女に与えられる快感で、霞みがかった感覚の輪郭があらわになっていく。甘い声が私を呼び覚まして霧が晴れた目に巫女が映った。

 本当に存在していて、本当に生きていて、本当にそばにいる。

 目から涙があふれ出す。巫女に抱き付いて触れる肌のぬくもりを貪った。怖かった、怖かったです。また1人になるのかと、また見捨てられたのかと。
 巫女と抱き合って種を注ぐ。精霊が産まれたら巫女が戻ってきたと証明できるから。巫女が生きてると証明されるから。

 翌朝の精霊は美しく輝いて朝陽に溶けた。その光景でやっと安心する。巫女はちゃんとここにいて私の精霊を産んでくれる。大丈夫。

 警備隊の尋問も進み、巫女から聞いた精霊王の話も報告した。
 魔力を継続して入れれば巫女がこちらに住み続けることが可能だと聞いて、神殿関係者は驚いたようだった。

「巫女はこちらの世界に住み続けることを希望されているのですか?」
「まだはっきりとお決めになってはいません」
「話を聞く限り精霊王に守護されているようです。特別視する方が出てくるでしょうね」
「自由に意思の疎通は図れませんが」
「それでも、です。このことは公にしないほうがいいでしょう。この場限りの話として精霊の父母にもそのように伝えてください」
「はい」

 神殿長が守秘するよう、その場にいた全員に通達した。
 誰かが巫女を望むのだろうか。それとも崇め立てられるのだろうか。それを避けるなら神殿にいたほうがいい。神殿なら巫女を守れる。私がずっとお世話を……。
 淡い期待に胸が疼いた。

 巫女が戻ってきて喜ぶ私たちとは裏腹に、襲撃に遭って暴力を受けた巫女は沈み込んでいた。一人にして欲しいと言い誰の手も望まなかった。私を除いて。私は身の回りのお世話をするから朝晩必ず巫女の部屋へ行く。精霊の卵を排出するために私の手助けを望んでくれた。
 そう、巫女から。
 理由がなんであれ巫女から望まれると、喜びに沸き立つ胸の中で小鳥がはばたいた。

 まぐわいのあとで抱き合ったまま話す静かな時間は、世界に巫女と私しかいないような気持にさせてくれる。

「巫女、精霊王のことを話してください」
「また? えーと、大きい透明の玉だったよ。透明っていっても水のかたまりみたいに見える。でポヨポヨ動く」
「ポヨポヨ動く、とはどういう動きでしょうか?」
「うーん、あ、ほら、おっぱいがこうやって動くみたいな」

 そう言って乳房を両手で囲うように持ち、軽く揺すった。柔らかなかたまりが愛らしく揺れて、乳首が戸惑っているように見える。乳首をクルリと囲む、乳首と同じ色のプツプツした小さな膨らみを指先で撫でた。

「もー説明してるのに。リーリエが聞いたんでしょ」
「すいません。どこで喋るんですか? 口があるのでしょうか?」
「何もない、ただの玉だったよ。どこで喋ってるんだろうね。私も魂だったから耳ないし、直接語りかけたのかも」
「不思議です」

 戸惑ってた乳首を唇に咥えてチュッと吸う。巫女の手は私の頭を優しく撫でる。

「巫女が望むならずっと神殿に住めますよ」
「なんで? もう巫女じゃなくなるのに?」
「本来は望むなら誰でも神官になれるのです。それに巫女は精霊王の加護がありますから歓迎されると思います」
「加護ねぇ……。でも神殿で妖精族しか見ないけど」
「戒律に耐えられなくてすぐいなくなるのです。でも地方ならたまにいますよ」
「厳しそうだね」
「そうでもありません」

 妖精族には簡単な戒律です。巫女には私が手助けします。
 少し硬くなった乳首を舌先で転がしてからまた吸った。やがて巫女の規則正しい寝息が聞こえ始め、温かな匂いに包まれて私もまぶたが重くなる。

 そうして何日も過ごすうちに巫女の気持ちも上向きになり、他の夫とも過ごすようになった。笑い合って今後のこと、結婚の話もし始めた。
 私は落胆する。わかっていたことだ。以前から求婚されていたのだから。

 巫女は変わらずに私に接してくれるが、ヴェルナーから今後は控えるよう通告を受けた。精霊王産みが終わったらもう近寄るなと。
 落胆から続いてる悲しみが体に染み渡った。
 それはそうなのだと、心の底でカシャンと何かが割れた音がした。1年の終わりが見えてきたのだから、巫女と離れる準備をしなければいけない。巫女がいるうちに少しずつ離れていけば慣れるだろう。私は一人だったのだから、また一人に戻るだけだ。

 巫女の暖かい手を憶えておけるように手で包んで頬に当てた。

「どうしたの?」
「もうすぐ一人になるので憶えておけるようにです」
「……リーリエは普通の妖精族になりたいんだもんね」
「はい」
「それで、ずっと神殿にいたい?」
「……はい」

 神殿にいれば妖精族でいられると思って入った。今もそう。神殿の外は怖い。それに、寿命の長い妖精族はどうしてもおいていかれてしまうから。

「ねぇ、精霊って産んだ私たちに似たりするのかな?」
「どうでしょう?」
「リーリエに似たら、きっと優しい精霊になってると思う」
「それは巫女に似てるのだと思います」
「じゃあ2人合わせてすごく優しい」
「ふふ、そうだと嬉しいです」

 巫女が微笑んで私を見つめる、その幸福と切なさで胸がいっぱいになった。巫女と私の精霊が世界中に存在するなんて幸せなんでしょう。巫女と私の精霊王が産まれたら、すべてに優しくあってほしいと願います。
 ああ、だから。だから和合が大切なのですね。

「精霊王産み、頑張りましょう」
「平気?」
「はい。和合が大切ですから」

 冬になり、寒がる巫女に温かな上掛けを用意した。
 上掛けに2人で包まって笑う。朝に目覚めた巫女と口付けを交わす。夜は就寝の挨拶をして口付ける。私の中は甘やかな幸せに満たされて、いつも春の日だまりにいるようだった。


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