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第二章 精霊産みといろいろ
99.精霊王再び
しおりを挟む精霊産みの時間に目が覚めたけど、体の中の感覚がいつもと違う感じがした。体の中がボヨンボヨンしてて、精霊王の揺れてる姿を思い出す。
おはようございますとやってきたリーリエが、みんなを起こした。
いつもは雨だれが逆に降るみたいに胴体のあちこちから小さい玉が光の尾を引いて出てくるのに今日は出てこない。おかしいなと思ってたら、お腹全体に透明の膜が張ってそれが膨らみ始めたように出てきた。輪っかで作る大きいシャボン玉みたい。
もしかして精霊王じゃない? バランスボールみたいな大きさだったと思い出してたら、まさしくそれぐらいの大きさでポコンと産まれ出た。
あっけに取られてるのか誰も何も言わない。
今日は小さいの産まれないのかな~と思ってたら、またでっかい透明が出てきた。もしかして2つ目!?
驚いたら頭がくらくらしてきた。貧血のような眩暈なので目をつぶる。
何か意識が途切れた気がして目を開けたら、たくさんの葉っぱの隙間から木漏れ日が差す、いつかみた場所だった。
「また死んじゃったね」
「えええ」
驚いてガバっと起きると目の前に透明のバランスボールがポヨポヨしていた。
「精霊王が産まれるのに体内魔力使い切っちゃったらしくて。体が止まったから魂も抜けちゃったみたい」
「えー、戻してくれるんですよね」
「うん。君の子供たちが謝ってるよ」
子供? と思ったら精霊王の斜め後ろに一回り小さいバランスボールが5個並んでポヨポヨしてる。
「5玉も産むとは思わなかったよ」
「……私が決めることじゃないので」
「そうだけど。まあ、この中から成長した誰かが次の精霊王になるからよろしくね」
「はい、まあ。……頑張ってね」
生みの親として応援したら、ポヨポヨと私のところにやってきて群がられた。よく分らないけど可愛いのでヨシヨシ撫でておく。
「喜んでるね。まだ小さいから人間と喋れないけど。そういえば魔力貯めておきたいって言ってたよね」
「はい」
「この子たちが石あげるって」
「はい?」
「精霊王の石って魔力入れておけるんだよ。君の体にも使ってるでしょ? この子たちの体の一部を石にして置いてきたから使ってだって」
「え? え?」
「でもこの子たちは産まれたてだから、ちゃんとした石になってないからね。200年くらいしかもたないけど十分だよね?」
「産まれたてなのになんで知ってるんですか?」
「お腹の中に卵でいたんだから聞いてるよ」
「そうなんだ。ありがとう」
また全員をヨシヨシ撫でる。プルプル震えてるのは喜んでるのかな。
「そういえば子供ってできるんですか」
「子供ほしいの? 今のままだとできないよ」
「それはどういう?」
「君の体は精霊王の石を核に生き物の素をまとわせて、魂の記憶通りの形に整えたものだから、体は記憶の通り動いてるけど、動いてるだけで本当のところは機能してないんだ」
「生き物じゃないんですもんね」
「半分ね。生き物が死んでる状態で動いてる、のが一番近いかな。子供ほしいならこの子たちの誰か1玉お腹に入れておきなよ。この子たちがもらった種から子供作るから」
なんかすごいな。精霊王は万能だ。まだ精霊王の素だけど。伸び縮みをしたりポヨポヨ揺れたり自己主張が激しい。
「なんかみんなお腹に入りたいらしいけどどうする? みんな入れておく?」
「多いですよ。それに精霊王に育てなきゃいけないんですよね」
「でも100年くらいでしょ。それぐらい待てるよ」
「いえいえいえっ、100年も子供産みません! その前に、私そんなに生きるんですか!?」
「魔力入れたら変わらずにずっと動くよ」
「えええ……」
「じゃあ、子供は何年ぐらい産むの?」
「えーと、今30だから、せいぜい10年ですよ」
「たったの? そっかー、それなら全員入れておくといいよ。10年たったら戻っておいで」
「あのー子供産むたびに死にませんよね?」
「大丈夫だと思うけどね。心配なら魔力注いでおいたらいいよ。……なんか騒いでるって。そろそろ戻ってあげたら?」
もうちょっと聞きたいことがとか、5玉は多いでしょとか、言う前に気が遠くなった。
***
目を覚ましたら誰かに手を繋がれてた。
体を動かしたらガバっと抱き付かれたのは、ヴェルナーか。背中を撫でて宥める。
「……っなん、で、動かない……っ」
「精霊王を産むのに魔力使い切ったから動かなくなったんだって。また魔力入れてくれたんでしょ? ありがとう」
私に抱き付いて鼻をグスグス言わせながら震えてる。
その震える体を抱きしめてたら、ああ、この人に愛されてるんだなぁと思って、なんだか愛しさに満たされた。
そうか、この人はずっと愛してくれてたんだっけ。私が小さいときからずっと一緒でこれから先も離れることがない。なにせ魂が吸引されてるから。
「フっふふっ」
「……なんだ」
思わず笑ったら頬ずりしながらムスッとした声を出すから、そのギャップにますます笑えた。
「フフっふっ、ヴェルナーってば可愛いなぁ」
「……可愛くはないな。可愛いのはサヤカだ」
周りを見渡すと、泣き笑いのようなホッとした顔が並んでて胸がジンとした。私はこっちに来て大事にされたんだと、今さら実感として分かった。
「ありがとう。精霊王候補が5玉も産まれたね」
笑いかけたら、くしゃくしゃになったヨアヒムとリーリエにも抱きしめられて笑ってしまった。
「ククッ、5玉か。まさしく5玉だな」
ラルフの声も安心したような響きがした。
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