6人の夫と巫女になった私が精霊作りにはげむ1年間の話【R18】

象の居る

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番外編 実家への挨拶回りと結婚式

9.結婚式 後編 Side リーリエ

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 Side リーリエ

 眠ってしまった巫女に寄り添っていると、ドアをノックしてヴェルナーとラルフがやってきた。

「サヤカ、……眠ってしまったか」
「まあ、疲れるよな」

 私が静かにベッドから降りたら、裸なのを見咎められた。

「妊娠してるんだぞ」
「サヤカが望んだんです。度を越さなければ大丈夫ですよ」
「それでも心配なんだよ。リーリエは回復使えるからいいけどよ」

 サヤカが眠っているからとみんなで下に降りた。

「お疲れ様でした。片付けありがとうございました」
「ああ、リーリエも。いやー好きなだけ飲み食いしてもいいけどよ、酔っ払いの長話はまいるな」
「あのオッサンなぁ。話し終わんねぇからムリに終わらせたって」
「お疲れ様でした。家の事情に付き合わせてしまいすいません」
「全員のことだろう? どのみち必要なのだから、準備も手配してもらえてかえって助かった」

 ゲルトが詫びるので、気にする必要ないとヴェルナーがお礼を言った。一段落したところで、サヤカに相談した内容を告げる。

「ヴェルナー、私はもう警備隊に行きません」
「なぜだ? いきなり」
「絡んでくる女性がいるのです。赤毛で髪を編み込んでる」
「あー、あいつだろ、第四隊の。ちょっかいかけられてるとは思ってたけど、なんかあったのか?」
「他に夫がいるからたいして好かれていない、だから遊ばないかと誘われました。断っているのにしつこくて気持ち悪いのでもう嫌です」
「ハッキリ断ってもダメか? 他種族と結婚してる妖精族だから、これからもこういことはあるぞ。慣れて対処できるようになっておいたほうがいい」
「はい、対処してもう警備隊に行かないことにします。サヤカも賛成してくれました」

 サヤカに心配かけてしまった。でも不安で仕方がなかったから。

 かすかにドアが開く音が聞こえて、走って行ったヴェルナーがサヤカを抱きかかえて戻ってきた。

「みんなお帰り、お疲れ様でした」

 床に降りると近くにいたヨアヒムから額に口付けをして、最後に私へ微笑んでふれる。

「警備隊に行かない話をしていました」
「それね。そうだよ、嫌な奴に関わらなくていいって言ったの。臨時なんだから」
「サヤカ、リーリエは今後そういう誘いが増えるだろうから、私たちみたいに対処できるようになっておいたほうがいいんだ」
「……ヴェルナーもラルフもちょっかい掛けられてんの?」
「そういう奴はどこでもいんだよ。オレにくんのは軽いヤツばっかだからテキトーにかわせるけど」
「私も迷惑だと断っている」
「ずいぶんとモテますね」
「ヤキモチ焼くなよ、カワイイな。断ってる話だろ?」

 ラルフの膝の上に抱き上げられた不満顔のサヤカは、子供みたいで可愛らしい。

「しばらく断ってりゃ向こうだって気が済むさ。リーリエもハッキリ断りゃいいだろ」
「サヤカに好かれていないと言われたのが許せません」
「では、私が一緒にいって今後誘うなと断ってやる」
「それだとリーリエが余計に舐められんだろ」
「その暴言は私も許せない」
「止めとけよ。そんなふうに腹立ててたら弱み晒してんのと同じじゃねぇか」
「どうしろと」
「まず、そいつと二人きりになんねぇこと。お互い誰かがそばにいる状態で、ハッキリ断る。他人の前で恥かかせりゃそんな近づいてこねぇから。それでもダメなら、嫌がらせになるから上司の出番だろ」

 顔も見たくないけれど、やり返すのは良さそうだ。私はサヤカに大事にされていると堂々と反論もできる。

「リーリエが嫌なら行かなくてもいいよ」
「いえ、ハッキリ言い返します。サヤカには私が必要だし、とても愛されてると」
「え、……、そうだね。まあ、それもいいんじゃない」
「はい。大丈夫、私はサヤカとずっと一緒です」
「うん、ありがとう」
「オレの膝の上で抱き合うなよ。あっちいけ、リーリエ」

 ラルフがサヤカを抱えこむから仕方なく離れる。

「ゲルトお願い、もう一回お風呂あっためてもらってもいい?」
「はい、私も入りますから」
「サヤカはこれから風呂か? それとも、いいコトしたのか?」

 ニヤニヤからかうラルフが、サヤカに耳を引っ張られている。賑やかな家族のやり取りに笑みが浮かんだ。ヴェルナーが一緒に言い返すと言ってくれ、ラルフも助言してくれた。サヤカも好きだけれど、この家族の一員になれて幸せだ。

「モテる奴は大変だなぁ」
「モテて楽しいのは遊びたいときだけだな。あとは面倒でしかねぇ。オレはサヤカ一筋なのに」
「まったくだ」
「そういえば俺、パン屋の同僚に嫁さんの友達紹介してくれって言われたよ」
「友達いないけど。あ、リザなら」
「……止めておいたほうがいい」
「そうだね。先輩と付き合ってるって言ってたし」
「付き合ってるっつうか下僕だな、あれは。本人は喜んでっけど」
「先輩……なかなか仕上がってるみたいだね」

 ワイワイ喋りながら寝る支度をして、全員でベッドに入った。
 ラルフは獣化してサヤカのまくら代わりになり、ゲルトも獣化して足に絡んで丸まった。ヨアヒムとヴェルナーが並び、ヴェルナーはサヤカを背中から抱きしめている。サミーは私の後ろ、私だけはサヤカの腕の中で胸に顔を埋めている。乳房に口付けする私の頭を撫でる優しい手に安心して目を閉じた。


 式のあとは長期休暇を取ったヴェルナーとラルフ、サヤカと私でヴェルナーの実家へ向かった。私は回復役だからいつも一緒にいられる。魔力操作ができず悩んだ子供の頃は、属性のせいにして恨んだこともあったが今は感謝している。属性のお陰で夫に選ばれ、結婚してからもずっと一緒にいられるのだから。


 長い休暇が終わり、日常生活に戻った。また警備隊へ通うようになってしばらく、反論する機会がやってきた。
 遠征の打ち合わせのため、赤毛の隊員が同僚と一緒に医局へ訪れた。話が終わったあと嫌な笑顔を向けられたので寒気がし、耐えられずに言ってしまった。

「あの、以前お誘いいただきましたが、今までもこれからも受けることはないので、二度と誘っていただかなくてけっこうです。妻と私は愛し合っていますし、実を言うと妻以外からのそういった誘いは気持ち悪く感じるのです」

 反論しようと意気込んでいたせいか、思いのほか声が大きくなり周りからの注目を集めてしまった。でも、間違ったことは言っていないので気にすることはない。

「……結婚されたんですから、誘いませんわ」
「ありがとうございます」

 良かった。肩の荷が降りた。
 はりつけた笑顔を怒りで赤くした隊員が医局から出て行くのを、にこやかに見送った。

「随分と怒っていましたわねぇ」
「はい。これでもう誘われないと思うとスッキリしました」
「しつこいとうんざりしますものねぇ。私も夫がいるのに声を掛けられるとイライラします。妖精族でもないのに図々しいったら。……あ、すいません」

 医局で回復役を務めている妖精族が、慌てて口を閉じた。

「いいえ。私の妻は特別な人ですから気にしていません。外で働くのは大変ですね」

 特別な私の巫女。そう、私にとって特別な人。私と巫女の繋がりには誰も入れないし、誰が何を言おうと関係ない。そんな当たり前のことを忘れていた。

「あら、以前はどこに?」
「神殿にいました」
「ああ、それなら大変かもしれませんねぇ。ここは人族が多いですから」

 医局職員の妖精族は、妖精族の私に親しくしてくれる。欲のない妖精族が気楽だと思えるようになったのも、ここで働き始めてからだ。以前の私なら考えられない。
 サヤカと出会って世界が広がった。愉快なことばかりではないけれど、昔よりずっと楽しい。


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