114 / 119
番外編 実家への挨拶回りと結婚式
9.結婚式 後編 Side リーリエ
しおりを挟むSide リーリエ
眠ってしまった巫女に寄り添っていると、ドアをノックしてヴェルナーとラルフがやってきた。
「サヤカ、……眠ってしまったか」
「まあ、疲れるよな」
私が静かにベッドから降りたら、裸なのを見咎められた。
「妊娠してるんだぞ」
「サヤカが望んだんです。度を越さなければ大丈夫ですよ」
「それでも心配なんだよ。リーリエは回復使えるからいいけどよ」
サヤカが眠っているからとみんなで下に降りた。
「お疲れ様でした。片付けありがとうございました」
「ああ、リーリエも。いやー好きなだけ飲み食いしてもいいけどよ、酔っ払いの長話はまいるな」
「あのオッサンなぁ。話し終わんねぇからムリに終わらせたって」
「お疲れ様でした。家の事情に付き合わせてしまいすいません」
「全員のことだろう? どのみち必要なのだから、準備も手配してもらえてかえって助かった」
ゲルトが詫びるので、気にする必要ないとヴェルナーがお礼を言った。一段落したところで、サヤカに相談した内容を告げる。
「ヴェルナー、私はもう警備隊に行きません」
「なぜだ? いきなり」
「絡んでくる女性がいるのです。赤毛で髪を編み込んでる」
「あー、あいつだろ、第四隊の。ちょっかいかけられてるとは思ってたけど、なんかあったのか?」
「他に夫がいるからたいして好かれていない、だから遊ばないかと誘われました。断っているのにしつこくて気持ち悪いのでもう嫌です」
「ハッキリ断ってもダメか? 他種族と結婚してる妖精族だから、これからもこういことはあるぞ。慣れて対処できるようになっておいたほうがいい」
「はい、対処してもう警備隊に行かないことにします。サヤカも賛成してくれました」
サヤカに心配かけてしまった。でも不安で仕方がなかったから。
かすかにドアが開く音が聞こえて、走って行ったヴェルナーがサヤカを抱きかかえて戻ってきた。
「みんなお帰り、お疲れ様でした」
床に降りると近くにいたヨアヒムから額に口付けをして、最後に私へ微笑んでふれる。
「警備隊に行かない話をしていました」
「それね。そうだよ、嫌な奴に関わらなくていいって言ったの。臨時なんだから」
「サヤカ、リーリエは今後そういう誘いが増えるだろうから、私たちみたいに対処できるようになっておいたほうがいいんだ」
「……ヴェルナーもラルフもちょっかい掛けられてんの?」
「そういう奴はどこでもいんだよ。オレにくんのは軽いヤツばっかだからテキトーにかわせるけど」
「私も迷惑だと断っている」
「ずいぶんとモテますね」
「ヤキモチ焼くなよ、カワイイな。断ってる話だろ?」
ラルフの膝の上に抱き上げられた不満顔のサヤカは、子供みたいで可愛らしい。
「しばらく断ってりゃ向こうだって気が済むさ。リーリエもハッキリ断りゃいいだろ」
「サヤカに好かれていないと言われたのが許せません」
「では、私が一緒にいって今後誘うなと断ってやる」
「それだとリーリエが余計に舐められんだろ」
「その暴言は私も許せない」
「止めとけよ。そんなふうに腹立ててたら弱み晒してんのと同じじゃねぇか」
「どうしろと」
「まず、そいつと二人きりになんねぇこと。お互い誰かがそばにいる状態で、ハッキリ断る。他人の前で恥かかせりゃそんな近づいてこねぇから。それでもダメなら、嫌がらせになるから上司の出番だろ」
顔も見たくないけれど、やり返すのは良さそうだ。私はサヤカに大事にされていると堂々と反論もできる。
「リーリエが嫌なら行かなくてもいいよ」
「いえ、ハッキリ言い返します。サヤカには私が必要だし、とても愛されてると」
「え、……、そうだね。まあ、それもいいんじゃない」
「はい。大丈夫、私はサヤカとずっと一緒です」
「うん、ありがとう」
「オレの膝の上で抱き合うなよ。あっちいけ、リーリエ」
ラルフがサヤカを抱えこむから仕方なく離れる。
「ゲルトお願い、もう一回お風呂あっためてもらってもいい?」
「はい、私も入りますから」
「サヤカはこれから風呂か? それとも、いいコトしたのか?」
ニヤニヤからかうラルフが、サヤカに耳を引っ張られている。賑やかな家族のやり取りに笑みが浮かんだ。ヴェルナーが一緒に言い返すと言ってくれ、ラルフも助言してくれた。サヤカも好きだけれど、この家族の一員になれて幸せだ。
「モテる奴は大変だなぁ」
「モテて楽しいのは遊びたいときだけだな。あとは面倒でしかねぇ。オレはサヤカ一筋なのに」
「まったくだ」
「そういえば俺、パン屋の同僚に嫁さんの友達紹介してくれって言われたよ」
「友達いないけど。あ、リザなら」
「……止めておいたほうがいい」
「そうだね。先輩と付き合ってるって言ってたし」
「付き合ってるっつうか下僕だな、あれは。本人は喜んでっけど」
「先輩……なかなか仕上がってるみたいだね」
ワイワイ喋りながら寝る支度をして、全員でベッドに入った。
ラルフは獣化してサヤカのまくら代わりになり、ゲルトも獣化して足に絡んで丸まった。ヨアヒムとヴェルナーが並び、ヴェルナーはサヤカを背中から抱きしめている。サミーは私の後ろ、私だけはサヤカの腕の中で胸に顔を埋めている。乳房に口付けする私の頭を撫でる優しい手に安心して目を閉じた。
式のあとは長期休暇を取ったヴェルナーとラルフ、サヤカと私でヴェルナーの実家へ向かった。私は回復役だからいつも一緒にいられる。魔力操作ができず悩んだ子供の頃は、属性のせいにして恨んだこともあったが今は感謝している。属性のお陰で夫に選ばれ、結婚してからもずっと一緒にいられるのだから。
長い休暇が終わり、日常生活に戻った。また警備隊へ通うようになってしばらく、反論する機会がやってきた。
遠征の打ち合わせのため、赤毛の隊員が同僚と一緒に医局へ訪れた。話が終わったあと嫌な笑顔を向けられたので寒気がし、耐えられずに言ってしまった。
「あの、以前お誘いいただきましたが、今までもこれからも受けることはないので、二度と誘っていただかなくてけっこうです。妻と私は愛し合っていますし、実を言うと妻以外からのそういった誘いは気持ち悪く感じるのです」
反論しようと意気込んでいたせいか、思いのほか声が大きくなり周りからの注目を集めてしまった。でも、間違ったことは言っていないので気にすることはない。
「……結婚されたんですから、誘いませんわ」
「ありがとうございます」
良かった。肩の荷が降りた。
はりつけた笑顔を怒りで赤くした隊員が医局から出て行くのを、にこやかに見送った。
「随分と怒っていましたわねぇ」
「はい。これでもう誘われないと思うとスッキリしました」
「しつこいとうんざりしますものねぇ。私も夫がいるのに声を掛けられるとイライラします。妖精族でもないのに図々しいったら。……あ、すいません」
医局で回復役を務めている妖精族が、慌てて口を閉じた。
「いいえ。私の妻は特別な人ですから気にしていません。外で働くのは大変ですね」
特別な私の巫女。そう、私にとって特別な人。私と巫女の繋がりには誰も入れないし、誰が何を言おうと関係ない。そんな当たり前のことを忘れていた。
「あら、以前はどこに?」
「神殿にいました」
「ああ、それなら大変かもしれませんねぇ。ここは人族が多いですから」
医局職員の妖精族は、妖精族の私に親しくしてくれる。欲のない妖精族が気楽だと思えるようになったのも、ここで働き始めてからだ。以前の私なら考えられない。
サヤカと出会って世界が広がった。愉快なことばかりではないけれど、昔よりずっと楽しい。
11
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる