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番外編 実家への挨拶回りと結婚式
10.ヴェルナーの実家 前編
しおりを挟むヴェルナーとリーリエと私でヴェルナーの実家にでかけた。
貴族から除籍する手続きに家族のサインをもらうついでに、挨拶する予定。父親とはあまり仲が良くないと、向う馬車の中で聞く。寄り親である伯爵の娘との縁談を断って以来だそうだ。
「よく断れたね」
「帝国警備隊に勤めてたから、上司の侯爵に頼んで断りを入れてもらった」
「部下のことで動いてくれるんだ」
「結婚して伯爵領に住むという話だったからな。闇魔法を手放したくなくて動いてくれた。上の相手から頭ごなしに断られておもしろくないんだろう。それ以来、没交渉だ」
「なかなか大変だね」
「昔から仲は良くないからそんなに変わらない」
「お母さんは? 除籍するの気にしてるんじゃない?」
「母はまあ、少し」
やっぱり気にしてる。うーん、私ってイヤな嫁なんじゃない? 息子から貴族籍奪ううえに他にも夫がいるし。
「父と他の夫人には会わないから気にしなくていい」
ヴェルナーのお父さんは妻が3人いる。ヴェルナーのお母さんは第二夫人で長女・長男・三男ヴェルナー、第三夫人は次男と次女、正妻の末娘と兄弟も多い。
「サヤカと一緒に行くと手紙を出したが、母とはもしかしたら会えないかもしれない。兄は大丈夫だと思う。すまない」
「いいよ。自分の子供が連れていかれるみたいで複雑なんでしょ。仕方がないよ。時間ができたら伯爵領を案内して」
「わかった。色々見に行こう」
何を見に行くか盛り上がってたら御者をしているラルフが振り返った。
「香水が有名だよな」
「ああ。ジャスミンだ」
「ゲルトの家のお土産に買おうかな」
「サヤカはつけないでくださいね」
「なんで?」
「サヤカの匂いが好きなので」
リーリエがニコニコ笑って首元に鼻を埋めて匂いを嗅ぐ。そんなに臭う? 気になるんだけど。
二週間の旅を終えて伯爵領に着き、宿を取った。今日は手続きのためヴェルナーだけ実家に行き、明日は挨拶の予定。私たちは早目に夕食を取って早目に眠ることにした。
布団が動くので目を覚ますと、ヴェルナーが帰ってきていた。
「おかえりなさい」
「ただいま」
「無事に終わった?」
「ああ。明日の昼は母と兄と兄の奥方で食事をしよう」
「うん」
疲れた顔を見せないけど疲れてると思うヴェルナーを抱きしめて眠った。
この日のために仕立てた、きちんとした服に着替えてヴェルナーが予約をした良いレストランに向かう。遅れないように少し早めに出た。
個室に通されて、しばらくしてからお義母さんたちが来た。お義母さんは可愛い系の顔で、お義兄さんも同じ系統。ヴェルナーはお義父さん似なのかな。
「サヤカ、母だ。こっちが兄と兄の奥方、末の妹だ」
「初めまして」
お辞儀をするとそれぞれ挨拶を返してくれた。末の妹さんは飛び入り参加なので、新しく席を作る。
「なんでお前までくるんだ。関係ないだろう」
「いいじゃないの、一応兄妹なんだから。兄さんの結婚相手に会ってみたくて」
末の妹さんはお母さんが違うんだっけ。
「もう、お腹大きいの? 平民は繁殖力あるわね」
ニコニコと毒を吐くのでびっくりする。
「お前は口を閉じろ」
「失礼な妹ですまない」
「なによ、本当のことでしょ。それよりこちらの方たちは」
「夫です」
「……二人とも?」
「はい」
「どういうこと?」
他に夫がいるって話してなかったの? ヴェルナーを見るとため息をついた。
「母と兄には話してある。お前には関係ないだろう」
「結婚を嫌がる兄さんがお相手に嫌がらせしたせいで、迷惑こうむったんだから関係あります」
「……まあ、それはすまなかった」
「なのに、見た目もパッとしないし平民だし他にも夫がいるし、あの人のほうがずっとましでしょ! どういうことよ」
妹さんが早口でまくし立てるので口を挟む暇がない。この勢いに気圧されて静まり返った空間にヴェルナーの咳払いが響いた。
「サヤカと私は魂で繋がっているんだ」
突然の電波発言に目をむく妹さん、その他の全員。真面目な顔だから余計に意味不明。
「クッ、ククッ、ヴェルナーお前、頭イカレてんな」
「本当のことだ」
笑い出したラルフに平然と言い返すヴェルナーのやり取りで、なんとか空気が和む。
「……兄さんて頭おかしかったのね」
「まともだ」
「もしかして、随分前に言ってた夢に出てくる女の子か?」
「そんなこと話したか?」
「酔っ払ったお前を部屋まで運んだ時に言っていたよ」
「そうか。そう、その子だ」
お義兄さんがニコニコと私に笑いかけてきた。お義母さんがなんの話かと聞いてくるので、お義兄さんが説明しヴェルナーが補足した。
ヴェルナーの電波発言がなんとなく納得されたところで料理が運ばれてきた。コース料理を食べながら話は続く。
「だからって迷惑かけたことはナシになんてならないわよ」
「だから謝っただろう」
「謝ってないわ! 闇魔法であんたの秘密を暴いて吹聴してやる、なんてえげつない脅しして! みんなに怖がられたお陰で私の結婚が遅くなったのよ! 兄さんは社交しないからなんともなかったでしょうけど!」
「……悪かった」
妹さんの剣幕にヴェルナーもおとなしく謝っている。でもえげつない脅しだよね、実際。
「お前って昔からえげつねぇんだな。そんなこと言ってたら、サヤカのことなくたって社交出来ねぇだろ」
「する気もなかったからな。なんというか自棄だったんだ」
ヴェルナーに教わったマナーで食べるコース料理も順調に食べ進み、食後のお茶が出て給仕さんが全員さがったところでお義母さんが話しかけてきた。
「異世界の巫女と聞いたのだけど」
「はい。ヴェルナーとは儀式で出会いました」
「本当なのね」
「……ちょっと! 兄さん、聞いてないわよ!」
「話していないからな。父に知られると面倒だ」
「あぁ、まあ、そうよね。で、異世界の巫女って何ができるの? 全属性が使えるとか?」
「逆です。全部使えません。魔力もありません」
「え?」
「精霊王を産むためには魔力が邪魔になるのです。そのために魔力のない世界の巫女が必要なんですよ。私たちのためにきていただけて、ありがたいですよね」
驚いている妹さんにリーリエが、丁寧に、かつ若干頭おかしい説明をした。
「こいつ神官だったから」
ラルフのフォローが頼もしい。
「……あなた、こんな頭おかしい人たちと結婚して大丈夫なの?」
「普段はまともなので大丈夫です」
フォローは空振りだったらしい。あんな剣幕だったのに最後には心配までされてしまった。
ため息をついたラルフがリーリエをつっついて何かを話し、リーリエが頷いてから口を開いた。
「もしよろしければ回復魔法を掛けましょうか? ヴェルナーが迷惑かけたお詫びです。みなさん全員」
「ええっ!? いいの? 嬉しい。肌荒れしてたのよ」
「私たちも? ありがたいな」
リーリエの申し出にみんな嬉しそうな顔をして、やっぱり健康食品動画みたいな感想を言っていた。
別れ際にお義母さんがヴェルナーとハグをする。
「あなたが決めたことだから何も言わないけど、何を言っても無駄だから言わないけど、応援してるわ」
なんか色々と諦めているらしい。
「この子、頑固だから話を聞かないことがあるけど、……昔よりは丸くなったから大丈夫だと思うわ。よろしくね」
「はい」
私にも諦め顔でお願いされた。お義兄さんからもよろしくお願いされて、妹さんからは励まされた。
帰りはお土産を見て回る。
「ヴェルナーの妹さん元気だったね」
「昔からうるさいんだ」
「兄妹仲がいいっていいことでしょ。お義兄さんも優しそうだし」
「兄は私より性格が悪い。愛想よく笑って裏工作する。兄だったら脅しじゃなく、相手に誰かを言い寄らせてるところを目撃させて、噂に尾ひれをつけて広める」
「……具体的だね」
「提案された。面倒だから断ったが。だから近寄らないほうがいい」
「接点ないから大丈夫だよ」
怖い怖い。
お土産を買って宿に帰り、ひと心地つく。やっぱり緊張するし。
「疲れただろう。妹が失礼なことを言ってすまなかった」
「うん、まあ、最後には心配してくれたし、大丈夫。ヴェルナーは問題児だったんだね」
「……そうだな」
「でも心配してくれるし仲いいし、いい家族だね」
「ああ。これからはサヤカと私が家族だから、私がサヤカを守ろう」
「脅しちゃダメだよ」
「善処する」
「えー」
笑い合ってキスをする。笑って啄んで、笑って深く口を合わせた。
「……今でもたまに夢のような気がする。私の見ている夢」
「んー、そういうときは言って。齧るから」
耳たぶを齧ると甘い喘ぎをこぼした。ギリギリ歯を立てると、もどかし気に私の腰をなでる。
「サヤカ、サヤカ。どれだけ私が求めていたと思う?」
「わからないから教えて」
目の奥に炎を燃やして私を見ている。前は求められる違和感が大きかったけど、今は嬉しく思う。
啄むキスをしながら服を脱がし合うのは楽しい。
ベッドに寝転び、腕を広げてヴェルナーを呼んだ。
「愛してる、ヴェルナー」
「……愛している、サヤカ」
手を取って親指を齧る。奥歯で噛み締めて指の股を舐めた。
「夢じゃないでしょ」
「ああ、サヤカ、本当に」
ふと、なんとなしに思ったので聞いてみた。
「私に闇魔法使ったことある?」
「…………、一度だけ」
「いつ?」
「……眠っているときに。夢は支離滅裂なことが多いから普段は使わない。本当だ。一度だけ」
焦ったヴェルナーが弁明する。眠ってるあいだに覗かれたら気分の良いものじゃないからな~。でも能力あるなら覗いてみたくなるかも。携帯覗いちゃう系の衝動かな。
「どんな夢だった?」
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