【R18】クマ獣人は紳士でケモノ

象の居る

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35.エピローグ Side ラトキン

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「もしかして、私、閉じ込められてるの?」

 寝る前のお茶を入れたコップを両手で包んだパオラが、不安気な顔で私を見た。

 囲いこめたと思ったら、こうだ。
 パオラに知られたらと不安だったのに、いざ知られても頭は冴え冴えとしている。怯えられることへの痛みが少しだけ。
 違うと言ったら安心しますか? パオラ、そんな顔してもダメです。逃げられません。

「そうですよ」

 私が怖いですか?
 問いかけの言葉は飲み込んだ。

「閉じ込めてます」

 驚きに少し目を見開き、何度か瞬きをした。

「……クマ族だから?」
「ええ」
「私を家に閉じ込めたかったの?」
「もちろん」
「でも閉じ込めなかった」
「仕事をしたいのでしょう? だから店に閉じ込めました。どこへも行かないようにいつもそばにいるんですよ」

 私の答えにパオラは美しく微笑んだ。その意味もわからずに、それを手にしたくて膝をつく。手を握って見上げれば澄んだ目で見返された。

「私は、……エルの宝物になれた?」
「最初から唯一無二の宝物です」

 褐色の肌に透明な涙が流れた。美しい雫もすべて手に入れたくて、パオラを抱きしめ頬を舐める。抱きしめ返された体の柔らかさで、自分が強張ってるとわかった。
 抱きしめ返されたのだから怖がる必要はない。怖がる、ああ、そうか、怖いんだ。与えられていた愛を失うのが。与えられたからこその。

「逃げたいですか?」
「私、エルの宝物になりたかったの」
「え?」

 どういう意味だ?

「だって、私だけなんでしょう? 大事に大事にするんでしょう? ずっと大事にしてくれるの?」

 もちろん。もちろんです、パオラ。

「します。ずっと。死ぬまで」
「ずっと閉じ込める?」
「ええ、ずっと。私はパオラの身も心もほしいんです。愛されていたいんです。ヒトは私たちと違うでしょう? 結婚しても心変わりするでしょう? 嫌なんです。絶対に。だから、ずっとそばにいるんです。家に閉じ込められないから、だから一緒に働けるように店も買いました。私とあなたの店です。あなたは店を捨てられないでしょう? だから一緒にいてくれるでしょう?」

 胸が震えて、何を話しているのかわからない。

「エル」
「あなたを一緒にいるためならなんだって」
「エル」
「宝物です。だから、……っ」

 いきなり両耳を引っ張られて目が開いた。

「エル」

 パオラの強い声。体がビクリとする。

「いーい? 心変わりするつもりないわ。信じられないんでしょうけど。それと、店を買った? それが隠し事? だから店を綺麗にしたのね?」
「……そうしないと、私を雇ってもらえません。騎士団を辞めた私なんて追い出されます。それに、娼館と食堂をわけないと客足も増えません。やるからには利益を上げないと。パオラと一緒に暮らしますから。これは私のためであって、贈り物ではありません」
「あのねぇ、まったく。困ったひと」

 ため息をついて力の抜けたパオラを抱きしめる。顔を上げられない。

「怒ってませんか?」
「呆れて怒る気にもなれないわ。隠し事はこれで全部? まだあるなら言いなさい。言わないと怒るわよ」
「……ヘルガは娼館の店主が一緒に引き取れと言ったので食堂の店員です。パオラが他の男と二人にならないよう、いつも一緒にいるように言い付けました。私に借金があるので」
「ええ? あーもう、だからか。もーまったくダメなクマね」
「すべて言いました。怒らないでください」
「いいわ。ヘルガと一緒にいるようにするから。そうしないと不安なんでしょう?」
「いいんですか!?」

 驚いて顔を上げたら、パオラが大きく笑った。

「アハハハハッ、ふふ、なによ、自分で言ったんじゃないの」
「そうですけど」
「いいの。心変わりされるんじゃないかって不安はわかるから。一緒にいたら安心ね」
「……はい」
「足りない?」
「はい」

 私はとても強欲なので。なので、それでは足りないんです。

「愛してると」
「エルモライ・ルキーチ・ラトキン、愛してる。あなたの宝物になりたい。ずっとずっと一緒にいるって言ってほしいの。エルがいい。エルじゃなきゃダメなの。だから、安心だわ。エルがいつでもそばにいるなら、エルがどこへも行かないように見張れるでしょ?」

 愛しい人は美しく笑う。
 彼女の言葉が少しずつ私に染み込み、それは歓喜の渦になって弾けた。輝く。あなたが、周りが、すべてが輝いて見えた。

「私もあなたを閉じ込めるわ」

 ブワリと毛が膨らんだ。
 何かに突き動かされて抱きしめる。抱きしめて抱きしめても足りない。首筋に鼻を押し付けて匂いを嗅ぐ。私を捕らえた香り。眩い、惹きつけられる香り。今はそれだけじゃない。あなたの言葉、あなたの笑顔、仕事への真摯さ、私を赦す寛大さ、あなたのすべて。それは眩しく輝く太陽のように私を照らす。
 閉じ込められる喜びに胸が震える。言葉がでない。私の頭を優しく撫でる手の温もりに涙がにじむ。

「ねえ、エル」
「はい」
「子供がほしいわね」
「はい」
「子供ができたら閉じ込めるのも大変そう」
「頑張ります」
「ふふっ、なにそれ」
「あなたのためならなんだってできますよ」

 パオラは嬉しそうに私の腕の中で笑った。
 本当に、あなたのためならなんだってできるんです。パオラ、離しません。永遠に。





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これにて完結です。熊の屁理屈とかツッコミどころ作ったのですが、いかがでしたでしょうか? 感想いただけたら嬉しいです。
恋愛小説大賞にエントリーしてます。よろしければ投票で応援お願いいたします。
読了ありがとうございました!
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感想 3

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みんなの感想(3件)

おこ
2025.01.12 おこ

あ〜興奮していて名前間違えてすみません💦💦💦

とにかくまた何回も読みます✨

2025.01.14 象の居る

いえいえ~興奮してもらえて嬉しいので大丈夫です!!
リピ嬉しい…
ありがとうございました!!

解除
おこ
2025.01.12 おこ

めちゃくちゃ楽しく読ませていただきました‼️

パメラとエルのやり取りも
エルと部下とのやり取りも

エルの執着・溺愛も

すべてわたしの好みで
ウキウキしながら一気に完読しました💖

ありがとうございます✨😊✨

2025.01.12 象の居る

読了ありがとうございました!
ちょっとアレな熊をたのしんでいただけて嬉しいです。
エドムントとのやりとりお気に入りなんですよ~嬉しい。
感想ありがとうございました!

解除
淡雪
2025.01.07 淡雪

おもしろいです!エルの姿は、くまさんに服を着せた感じなのでしょうか?更新たのしみにしています

2025.01.12 象の居る

感想ありがとうございます!
そうです、熊に服を着せた感じです。
楽しんでいただけて嬉しいです。

解除

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