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1章 出会い
ヘタレな俺の最初の告白
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「え……っと、ファナエルさんはその……元気?」
「うん、元気だよ」
そう答えた彼女は座っていた椅子を軽く動かし、俺の体と対象になる向きになるように座り直す。
真正面に向き合っている彼女の緑眼が、じぃっと俺の事を見つめている。
「アキラ君、私に伝えたいことがあるんでしょ?」
こっちの心など当に見透かされているのだろう。
ファナエルさんはそう言いながらいたずらに笑い、手に持っている食べかけの白いクッキーを右へ左へゆらゆらと揺らす。
「えっと……その……」
今どんな言葉を彼女に言えば俺が抱えているこの気持ちに決着をつけられると分かっている。
それに、彼女が今までどんな人間にその言葉を言われても拒絶しなかったことも知っている。
「……」
でも……、もしファナエルさんが俺だけを拒絶したら?
俺の見た目だけが受け入れられなと彼女から言われてしまったら?
俺だけがクッキーを食べる価値もないと思われていたんだとしたら……
彼女が前に居るこんな状況でネガティブな考えだけが頭を回ってゆく。
それに連なるように、俺の呼吸も段々と荒くなっていた。
そう言えば『人間ってのは恋心を宿したら行動せずにはいられないんだよ』と始は得意げに言っていたな。
実際問題、俺もファナエルさんに恋をしていると自覚してしまった瞬間に自然と体が動……いや、動かずには居られなくなって、その結果この状況を作っている。
俺が彼女に告白する勇気もないヘタレだって自分で一番分かっているはずなのに。
「あ、あのッ!!」
からからに乾く喉と口を必死に動かしながら、俺はなんとか声を出す。
ファナエルさんは挙動不審な今の俺を見て引いてはいないだろうか?
彼女の顔が呆れや嫌悪にまみれてはいないだろうか?
頭に浮かぶそれらの言葉が俺の心を締め付ける
段々ファナエルさんの顔を見るのが怖くなる。
そんな事を考えている間に俺は自然と視線を落としていたらしく、木目のついたタイルが隣り合っている教室の床を見ていた。
俺はここまで来て今更何をためらっているんだ。
『あなたの事が好きです』とその一言を口に出すだけで解決することだ。
その後にフラれようがどんな展開が待っていようが、この気持ちを抱えたまま過ごすよりはマシだしスッキリするはずなんだ。
そのことが分かっているはずなのに……どうしても声が上手く出せない。
彼女に拒絶されるのが怖い。
「え……お、俺……は……そ、……その…………」
「ねぇ、こっち見て」
やけに優しい声色が耳に入ったその瞬間、俺の頬に冷たい何かがそっと触れる感触があった。
ハッとして前を向いた俺は、自分の頬に添えられたのがファナエルさんの手だということにやっと気づいた。
「まずはすっと深呼吸して、それを20秒続けるの」
その言葉を聞いた俺は半ば無意識に彼女の指示に従い深呼吸を始めていた。
一面青の夏空が映る窓を背にして座っているファナエルさんの周りに、ふと白くて淡い光がまとわりついているような幻覚も何故か見え始めている。
。
きっと緊張のし過ぎで太陽の光りを見間違えたんだな。
もしくは熱中症か何かになって俺の思考回路がおかしくなったのかもしれない。
「そう、その調子。きっとすぐに異常な喉の渇きも、うるさい心臓の音も収まっていくよ」
一瞬変なことを考えていたからだろうか、俺の心の中にさっきまであった不安が少しだけ小さくなったような気がする。
「大丈夫、ゆっくりでいいから。君の言葉で聞かせて」
ファナエルさんはひどく甘い声色で俺にそう言った。
ふわりとあざとく傾けた頭とそれに連なるように揺れる銀色の髪の毛が、不安を次々と駆り立てている俺の理性をジワリジワリと崩壊させてゆく。
「お、俺……ファナエルさんの……ことが」
「うん」
さっきまでどうやっても出なかった声が、少しづつ少しづつ出るようになってくる。
「最初に見た時から……その、気になっ……てて」
「うん」
普通だったら言えないような言葉……不安になって、恥ずかしくなって言えない様な言葉が俺の口から出てきている。
それを聞くファナエルさんは、真剣な顔をして頷きながら、どこか母性や安心感を覚えるような声で相槌を打ってくれている。
今なら言える。
さっきまではひとかけらも存在しなかったそんな気持ちが心の中で芽生え始める。
その気持ちに身を任せ、俺はスィッと音を立てながら大きく息を吸った。
大丈夫、ファナエルさんは最初に恋人を探していると言っていたんだ。
ここで告白してもドン引きなんてされやしない。
もし、結果恋人になれなかったとしても気持ちは晴れやかになるはずだ。
ついさっき男子トイレで聞いた始の言葉とあの顔を脳内でリフレインさせろ。
自分自身を奮い立たせるように数々の言葉を脳内で並べ上げる。
俺はじっとファナエルさんの顔を見つめ、意を決して震える口を開けー
「お付き合いを前提に友達から始めさせてください!!」
最後の最後にひよって意味の分からない滅茶苦茶な言葉を口から吐いてしまった。
「うん、元気だよ」
そう答えた彼女は座っていた椅子を軽く動かし、俺の体と対象になる向きになるように座り直す。
真正面に向き合っている彼女の緑眼が、じぃっと俺の事を見つめている。
「アキラ君、私に伝えたいことがあるんでしょ?」
こっちの心など当に見透かされているのだろう。
ファナエルさんはそう言いながらいたずらに笑い、手に持っている食べかけの白いクッキーを右へ左へゆらゆらと揺らす。
「えっと……その……」
今どんな言葉を彼女に言えば俺が抱えているこの気持ちに決着をつけられると分かっている。
それに、彼女が今までどんな人間にその言葉を言われても拒絶しなかったことも知っている。
「……」
でも……、もしファナエルさんが俺だけを拒絶したら?
俺の見た目だけが受け入れられなと彼女から言われてしまったら?
俺だけがクッキーを食べる価値もないと思われていたんだとしたら……
彼女が前に居るこんな状況でネガティブな考えだけが頭を回ってゆく。
それに連なるように、俺の呼吸も段々と荒くなっていた。
そう言えば『人間ってのは恋心を宿したら行動せずにはいられないんだよ』と始は得意げに言っていたな。
実際問題、俺もファナエルさんに恋をしていると自覚してしまった瞬間に自然と体が動……いや、動かずには居られなくなって、その結果この状況を作っている。
俺が彼女に告白する勇気もないヘタレだって自分で一番分かっているはずなのに。
「あ、あのッ!!」
からからに乾く喉と口を必死に動かしながら、俺はなんとか声を出す。
ファナエルさんは挙動不審な今の俺を見て引いてはいないだろうか?
彼女の顔が呆れや嫌悪にまみれてはいないだろうか?
頭に浮かぶそれらの言葉が俺の心を締め付ける
段々ファナエルさんの顔を見るのが怖くなる。
そんな事を考えている間に俺は自然と視線を落としていたらしく、木目のついたタイルが隣り合っている教室の床を見ていた。
俺はここまで来て今更何をためらっているんだ。
『あなたの事が好きです』とその一言を口に出すだけで解決することだ。
その後にフラれようがどんな展開が待っていようが、この気持ちを抱えたまま過ごすよりはマシだしスッキリするはずなんだ。
そのことが分かっているはずなのに……どうしても声が上手く出せない。
彼女に拒絶されるのが怖い。
「え……お、俺……は……そ、……その…………」
「ねぇ、こっち見て」
やけに優しい声色が耳に入ったその瞬間、俺の頬に冷たい何かがそっと触れる感触があった。
ハッとして前を向いた俺は、自分の頬に添えられたのがファナエルさんの手だということにやっと気づいた。
「まずはすっと深呼吸して、それを20秒続けるの」
その言葉を聞いた俺は半ば無意識に彼女の指示に従い深呼吸を始めていた。
一面青の夏空が映る窓を背にして座っているファナエルさんの周りに、ふと白くて淡い光がまとわりついているような幻覚も何故か見え始めている。
。
きっと緊張のし過ぎで太陽の光りを見間違えたんだな。
もしくは熱中症か何かになって俺の思考回路がおかしくなったのかもしれない。
「そう、その調子。きっとすぐに異常な喉の渇きも、うるさい心臓の音も収まっていくよ」
一瞬変なことを考えていたからだろうか、俺の心の中にさっきまであった不安が少しだけ小さくなったような気がする。
「大丈夫、ゆっくりでいいから。君の言葉で聞かせて」
ファナエルさんはひどく甘い声色で俺にそう言った。
ふわりとあざとく傾けた頭とそれに連なるように揺れる銀色の髪の毛が、不安を次々と駆り立てている俺の理性をジワリジワリと崩壊させてゆく。
「お、俺……ファナエルさんの……ことが」
「うん」
さっきまでどうやっても出なかった声が、少しづつ少しづつ出るようになってくる。
「最初に見た時から……その、気になっ……てて」
「うん」
普通だったら言えないような言葉……不安になって、恥ずかしくなって言えない様な言葉が俺の口から出てきている。
それを聞くファナエルさんは、真剣な顔をして頷きながら、どこか母性や安心感を覚えるような声で相槌を打ってくれている。
今なら言える。
さっきまではひとかけらも存在しなかったそんな気持ちが心の中で芽生え始める。
その気持ちに身を任せ、俺はスィッと音を立てながら大きく息を吸った。
大丈夫、ファナエルさんは最初に恋人を探していると言っていたんだ。
ここで告白してもドン引きなんてされやしない。
もし、結果恋人になれなかったとしても気持ちは晴れやかになるはずだ。
ついさっき男子トイレで聞いた始の言葉とあの顔を脳内でリフレインさせろ。
自分自身を奮い立たせるように数々の言葉を脳内で並べ上げる。
俺はじっとファナエルさんの顔を見つめ、意を決して震える口を開けー
「お付き合いを前提に友達から始めさせてください!!」
最後の最後にひよって意味の分からない滅茶苦茶な言葉を口から吐いてしまった。
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