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2章 ファナエル=???
【ファナエルSIDE】 狂気=好奇心
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アキラが教室に居ない。
そんな違和感を覚えたのはあの奇妙な一時間目が終わった直後の事だった。
アキラと一緒に登校して教室に入ったあの時、クラスメイト達が作る雰囲気がおかしくなっているのを見た私は、いつぞや耳にした超能力組織が何かを仕組んでいると予測していた。
私はアキラが寝込んでいた時に聞こえてきた心の声を一人でひっそりと思いだす。
『シンガン』という組織の目的が私とアキラの関係を終わらせる事……もっと具体的に言えばアキラの身体を変質させようとしている私を止める事である。
彼女等が私の正体を知っていたとしても、知らなかったとしても、要注意人物である私への何かしらのアクションがあるはず……だからこの奇妙な一時間目は私を捕まえる罠だと考えて授業に臨んでいた。
だからこそ、私は悪魔文字や神と言う存在の事を得意げに話してた霊府琴音と言うきな臭い教師に意識を大きく向けていた。
そして、アキラが何者かに攫われる可能性を失念していた……いや、「そんなことはないだろう」とその可能性を考えることすら面倒だと怠惰な考えをしていたのかも知れない。
「やぁ、ファナエル君。一時間目が終わったばかりの所すまないが君と話したいことがあるんだ。その様子だと、君も私に聞きたいことがあるのだろう?」
霊府琴音は不敵な笑みをしたまま私を見つめる。
その表情を見て、私はまんまとハメられたのだと確信した。
「……アキラは無事なの?」
「私達が牛草秋良に被害を与えることはないだろう……まぁ、彼をいたって健康的なただの人間にするための荒療治はするかもしれないがね」
ニヒヒと笑いながら放たれたその含みのある発言は、私の目的を知っているぞと牽制しているようなものだった。
『………オマエノ、チカラ、タイサク、ズミ、………』
心の声を聞こうとすればこれだ。
彼女の声が聞えないどころか低音のうめき声で私を煽る言葉しか聞こえない。
私が本気を出せばこんな奴を倒すのは赤子の手をひねるぐらいに簡単だけれど、こんな教室のど真ん中で最大出力の力を使えるわけがない。
力を使いすぎるとはずみで本当の姿に戻ってしまうからだ。
結局の所、今の私に出来ることは大人しく霊府琴音の提案に乗る事だけであった。
◇
数分後、彼女に連れてこられたのは誰にも使われていない一つの教室だった。
辺りを確認し、ここなら誰にも盗み聞きされないだろうと一言添えた彼女は一つ咳ばらいをして本題に入った。
「さて、まず君に伝えておきたいことがあるが……私が超能力組織『シンガン』に所属している霊府琴音としてではなく、あくまで神学者の霊府琴音として君をここに呼んだ事を念頭において欲しい」
「……ということは、その『シンガン』って組織のターゲットは最初から私じゃなくてアキラの方だったのね」
「そうさ、私の仕事はあの一時間目を終えた時点でもう終わっている。今頃、牛草秋良は体の変質がどれだけのリスクを負うか教えられているのではないかな?」
心臓が凍ってしまったかのような気持ち悪さが胸を支配する。
どうやって私がアキラの身体を変質させている事を知ったんだろう……いや、あのクッキーを使った告白の噂から私の事を嗅ぎつけるのはそう難しいことじゃない。
もし、今頃アキラが私の正体を教えられていたとしたら?
私と同じ存在にしようとしていたことをばらされていたら?
次私が彼と出会った時、彼は一体何を言うだろう?
『ファナエル###だったのか?ヒ、ヒィィィ!!近づかないでくれ!!』
落ち着け、落ち付け、落ち付け、落ち着け、落ち付け、落ち付け!!
アキラがそんなことを言う人間じゃないことは……私が一番分かってるはずでしょ?
私は反射的に、右耳近くの髪の毛を触る。
そこにあるのは一か所だけ不自然に短くなっている髪の毛。
彼が私の髪の毛を食べてくれた、私を愛してくれた証拠がちゃんとここにある。
そこまでしてくれたアキラが私の事を嫌うはずがない、捨てるはずがない、逃げだすはずがない。
それに、まだ私が醜い###だとバレたとは限らない。
私はスゥっと呼吸を整えて、目の前の霊府琴音に一つの質問を投げかける。
「『シンガン』は私の事を何だと思ってるの?」
「うちのリーダー達は君の事を人の心を読む超能力者だと考えているみたいだが……それはどうも違うと私は考えている」
「人の心を読むなんて、超能力でも持ってない限りありえないんじゃないの?」
「いいや……超能力を持たない一般人が人知を超えた力を扱うことは可能だ、現に私がその一人」
彼女はそう言うと、ポケットの中から緑色の物体を取り出した。
その物体の大きさはちょうど手のひらに収まるぐらい……物体の形が正方形である事も相まって、さしずめ目のついていないサイコロの様だった。
「私はこの物体を介してとある悪魔と契約している。あれは数年前の事だったか、所属していた大学で研究していたある日、神のお告げによってこいつを託されたんだ。こんなに素晴らしいことがほかにあると思うかい??」
歓喜にあふれた彼女の声が教室一体に響き渡る。
「私はこの世の不可思議を全て網羅したいんだよ。だから悪魔とも契約するし、超能力を扱う人間達と行動を共にするし、神の存在に近づくために研究する……なぁ君も人知を超えた何かと深いつながりがある人間なんだろう、私の好奇心を満たしてくれる存在であるんだろう、ファナエル・ユピテル」
サイコロほどの大きさしかないその小さな箱を、その視線の先に映っている私を、恍惚とした顔で見つめる彼女の姿は狂人そのものだった。
そんな違和感を覚えたのはあの奇妙な一時間目が終わった直後の事だった。
アキラと一緒に登校して教室に入ったあの時、クラスメイト達が作る雰囲気がおかしくなっているのを見た私は、いつぞや耳にした超能力組織が何かを仕組んでいると予測していた。
私はアキラが寝込んでいた時に聞こえてきた心の声を一人でひっそりと思いだす。
『シンガン』という組織の目的が私とアキラの関係を終わらせる事……もっと具体的に言えばアキラの身体を変質させようとしている私を止める事である。
彼女等が私の正体を知っていたとしても、知らなかったとしても、要注意人物である私への何かしらのアクションがあるはず……だからこの奇妙な一時間目は私を捕まえる罠だと考えて授業に臨んでいた。
だからこそ、私は悪魔文字や神と言う存在の事を得意げに話してた霊府琴音と言うきな臭い教師に意識を大きく向けていた。
そして、アキラが何者かに攫われる可能性を失念していた……いや、「そんなことはないだろう」とその可能性を考えることすら面倒だと怠惰な考えをしていたのかも知れない。
「やぁ、ファナエル君。一時間目が終わったばかりの所すまないが君と話したいことがあるんだ。その様子だと、君も私に聞きたいことがあるのだろう?」
霊府琴音は不敵な笑みをしたまま私を見つめる。
その表情を見て、私はまんまとハメられたのだと確信した。
「……アキラは無事なの?」
「私達が牛草秋良に被害を与えることはないだろう……まぁ、彼をいたって健康的なただの人間にするための荒療治はするかもしれないがね」
ニヒヒと笑いながら放たれたその含みのある発言は、私の目的を知っているぞと牽制しているようなものだった。
『………オマエノ、チカラ、タイサク、ズミ、………』
心の声を聞こうとすればこれだ。
彼女の声が聞えないどころか低音のうめき声で私を煽る言葉しか聞こえない。
私が本気を出せばこんな奴を倒すのは赤子の手をひねるぐらいに簡単だけれど、こんな教室のど真ん中で最大出力の力を使えるわけがない。
力を使いすぎるとはずみで本当の姿に戻ってしまうからだ。
結局の所、今の私に出来ることは大人しく霊府琴音の提案に乗る事だけであった。
◇
数分後、彼女に連れてこられたのは誰にも使われていない一つの教室だった。
辺りを確認し、ここなら誰にも盗み聞きされないだろうと一言添えた彼女は一つ咳ばらいをして本題に入った。
「さて、まず君に伝えておきたいことがあるが……私が超能力組織『シンガン』に所属している霊府琴音としてではなく、あくまで神学者の霊府琴音として君をここに呼んだ事を念頭において欲しい」
「……ということは、その『シンガン』って組織のターゲットは最初から私じゃなくてアキラの方だったのね」
「そうさ、私の仕事はあの一時間目を終えた時点でもう終わっている。今頃、牛草秋良は体の変質がどれだけのリスクを負うか教えられているのではないかな?」
心臓が凍ってしまったかのような気持ち悪さが胸を支配する。
どうやって私がアキラの身体を変質させている事を知ったんだろう……いや、あのクッキーを使った告白の噂から私の事を嗅ぎつけるのはそう難しいことじゃない。
もし、今頃アキラが私の正体を教えられていたとしたら?
私と同じ存在にしようとしていたことをばらされていたら?
次私が彼と出会った時、彼は一体何を言うだろう?
『ファナエル###だったのか?ヒ、ヒィィィ!!近づかないでくれ!!』
落ち着け、落ち付け、落ち付け、落ち着け、落ち付け、落ち付け!!
アキラがそんなことを言う人間じゃないことは……私が一番分かってるはずでしょ?
私は反射的に、右耳近くの髪の毛を触る。
そこにあるのは一か所だけ不自然に短くなっている髪の毛。
彼が私の髪の毛を食べてくれた、私を愛してくれた証拠がちゃんとここにある。
そこまでしてくれたアキラが私の事を嫌うはずがない、捨てるはずがない、逃げだすはずがない。
それに、まだ私が醜い###だとバレたとは限らない。
私はスゥっと呼吸を整えて、目の前の霊府琴音に一つの質問を投げかける。
「『シンガン』は私の事を何だと思ってるの?」
「うちのリーダー達は君の事を人の心を読む超能力者だと考えているみたいだが……それはどうも違うと私は考えている」
「人の心を読むなんて、超能力でも持ってない限りありえないんじゃないの?」
「いいや……超能力を持たない一般人が人知を超えた力を扱うことは可能だ、現に私がその一人」
彼女はそう言うと、ポケットの中から緑色の物体を取り出した。
その物体の大きさはちょうど手のひらに収まるぐらい……物体の形が正方形である事も相まって、さしずめ目のついていないサイコロの様だった。
「私はこの物体を介してとある悪魔と契約している。あれは数年前の事だったか、所属していた大学で研究していたある日、神のお告げによってこいつを託されたんだ。こんなに素晴らしいことがほかにあると思うかい??」
歓喜にあふれた彼女の声が教室一体に響き渡る。
「私はこの世の不可思議を全て網羅したいんだよ。だから悪魔とも契約するし、超能力を扱う人間達と行動を共にするし、神の存在に近づくために研究する……なぁ君も人知を超えた何かと深いつながりがある人間なんだろう、私の好奇心を満たしてくれる存在であるんだろう、ファナエル・ユピテル」
サイコロほどの大きさしかないその小さな箱を、その視線の先に映っている私を、恍惚とした顔で見つめる彼女の姿は狂人そのものだった。
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